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NARUTO日向ネジ短篇

作者:風亜
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【繋ぐ意味を求めて】

 
前書き
 ボルト視点。 

 
 ──・・・母ちゃんのオレを見る目が、時々違う人を見てるんじゃないかって思う時がある。


「……ボルト」


 名前を呼んでくれる時も、オレじゃない人を呼んでいるような気がする時もある。

それが、母ちゃんの従兄の、オレにとっては“いとこ伯父”のネジおじさんだって気づいたのは、オレの名前が……そのおじさんから由来するって、火影になるちょっと前の父ちゃんから聞かされてたからかな。


『──ボルト、お前の名前はな……母ちゃんのイトコの兄ちゃんから来てるんだぜ。ボルトにとってはおじさんで、俺にとってネジは義兄(にい)ちゃんなんだ』

『オレの名前がネジのおじさんから“きてる”って、何でだってばさ?』

『ネジには、二つのものを繋ぐって意味がある。ネジが命懸けで守ってくれた俺とヒナタの命を未来に繋いでくれたから、ボルトは生まれたんだ。そしてヒマワリもな』


 ネジのおじさんといえば、小さい頃からオレにとっては灰色の墓のイメージだった。いつの間にか分かるようになったおじさんの命日や誕生日……。その日じゃなくても、母ちゃんと父ちゃんはオレと妹のヒマワリを連れて度々おじさんの墓を訪れてたし、どうして死んじゃったかも小さい頃から聞かされてた。

はじめのうちはよく分かってなかった。でも今なら大体理解できる。……納得しきれないことも、あるけど。


 ネジのおじさんは父ちゃんと母ちゃんの一期上で、下忍から飛び級で上忍になったらしくて、とても強くて優秀な忍だったそうだけど、じゃあ何で母ちゃんと父ちゃんを守った時死ぬ必要あったんだろう。

相手の攻撃が速すぎて、術で守ろうにも間に合わず身体を張って守るしかなくて、その時父ちゃんの傍に居た母ちゃんが咄嗟にそうしたらしいけど、そこをネジのおじさんが母ちゃんと父ちゃんを庇いに出て致命傷負ったって──それでも何か、納得いかない。

しかもおじさんが二人を守って死んだからって、どうして母ちゃんと父ちゃんが繋がったって言えるんだってばさ。オレの名前にも繋がるって言われても……何か、疑問が尽きない。


 ──父ちゃんが火影になって家に居る時間が減る一方で、母ちゃんは寧ろおじさんの墓に向かう回数が増えたと思う。アカデミーに入学したってのもあって、オレは逆に付き合う回数は減ったけど。


「ネジ兄さん」


 日向ネジ、と刻まれた灰色の墓石に向けて呼びかけ、語りかけている母ちゃんは何ていうか……すごく、他人に見えた。

それもそうだ、オレの知らない時代の人に話しかけてるんだもんな。


『ボルトには、色んな人達と繋がっていってほしいの』


 母ちゃんにいつもそう言われるんだ、オレを見ているようで見ていない優しそうな眼をしながら。

……それってさ、オレっていうよりか、オレを通してネジのおじさんに繋げてほしいってことじゃねぇの?

オレは、母ちゃんの兄ちゃんの代わりじゃないってばさ。




「──・・・母ちゃんは本当に、父ちゃんのことが好きで結婚したのかよ」

「……え?」

 夜中に目が覚めて、その時母ちゃんがまだリビングで起きてたみたいだから淡い明かりが灯る中、疑問に思っていたことを口にした。

「もちろんよ、何を言い出すのボルト」

 母ちゃんの月白の眼が、オレを真っ直ぐ見ていないのが分かる。笑顔を見せようとして、失敗して困ったような顔になってる。

「オレの名前……ネジのおじさんに由来して“繋ぐ”って意味なんだよな。母ちゃんは、ほんとにおじさんが繋いでくれたから父ちゃんと一緒になったのか?」

「・・・───」

 母ちゃんは、ふとオレから視線を逸らして、少し間を置いたあと呟くように言った。

「ネジ兄さんが、私とナルト君を命懸けで守って命を繋いでくれたから、一緒になったわけではないの。本当は、私が……私自身が、繋ぎ留めたかったから。私の中の、ネジ兄さんの存在を」

 母ちゃんは、リビングに飾ってある写真立てに目を向けた。……そこには、上忍だったおじさんとツーショットではにかんでいる笑顔の母ちゃんが写ってる。ネジのおじさんの写ってる写真は大体仏頂面が多いけど、母ちゃんと二人で写ってる数少ない写真では、微かに優しそうに笑ってるように見える。

「母ちゃん……やっぱほんとは、父ちゃんよりイトコの兄ちゃんの方が───」

「ボルト、私はね……火影になるナルト君と繋がる事で、亡くなったネジ兄さんに報いたくて、私の中にも確かに流れているネジ兄さんの血を、次世代に繋ぎたかったのよ」

「それが……オレとヒマワリだって言いてえの? ──それってさ、母ちゃんがネジの兄ちゃんのために父ちゃんを利用したってことにならねえ?」

「ナルト君も、承知の上なの。私の気持ちを、汲んでくれたのよ。ネジ兄さんが私とナルト君を仲間として命懸けで守ってくれたのなら……私とナルト君がネジ兄さんを介して繋がる事で、ネジ兄さんの生きた証も伴って未来に残していけるものがあるって──」

「それで……オレの名前がネジのおじさんに由来してボルトだってのか。だから母ちゃん、オレっていうか……やっぱオレの名前に、ネジのおじさんのこと見てるんだよな」


「それは……」

「──オレってば、母ちゃんの兄ちゃんの代わりにはなれねえよ」

「分かっているわ、ボルトとネジ兄さんは違う」

「分かってないってばさ。オレを呼ぶ度に、ほんとはネジのおじさんのこと思い出してるんだろ。オレの方は、見てないんだ。おじさんが生きてたら、オレなんて……ッ」

「ボルト…!」

 母ちゃんが強く抱きしめてくる。……それが今は、たまらなくうっとおしくて、オレは両手で突き放した。

その拍子に、母ちゃんはテーブルの角に片手を強くぶつけたらしくて、少し痛そうに顔を歪めた。

「あ、ご……ごめん、母ちゃん」

「ううん、いいのよ。私の方こそ……ごめんなさいボルト」

 その哀しそうに微笑を浮かべてオレを見つめる表情は……ほんとにオレのことを見てくれてるんだろうか。


「──どおしたのぉ、お兄ちゃん、お母ちゃん……」

 ヒマワリがオレと母ちゃんの話し声やさっきのぶつかるような音を聞きつけたのか、眠たそうに片目を擦りながら、二階から降りて来た。

「あ……ごめんなヒマワリ、起こしちゃったか?」

「ボルト……、ヒマワリを寝かしつけてあげて。私は、もう少しだけ起きてるから」

 母ちゃんにそう言われて、オレはそれ以上何も言えずヒマワリを連れて二階に上がるしかなかった。



「なぁヒマワリ……オレの名前、どう思う?」

「お兄ちゃんの名前……? かっこいいよ、ボルトお兄ちゃん」

「そっか……ありがとな、ヒマワリ。──おじさんもオレも、部品なんかじゃないよな」

「え? なぁにお兄ちゃん、よく聞こえなかった」

「あ、いや、何でもないってばさ。……ヒマワリのことは、兄ちゃんが絶対守るから、安心して眠れってばさ」

「うん、ありがと……。ヒマだって、お兄ちゃんのこと守れるようになるからね……」

 ヒマワリはかわいくにこっとしてそう言ってくれたあと、すやすやと眠りに落ちた。


守る、か……。オレはこの先、何を守っていけるんだろう。──いや、さっきヒマワリを守るって言ったばっかだし……

命を、懸けて……ネジの、おじさんみたいに……?

それがいつか、出来るんだろうかオレに。


──出来れば生きて、守り続けていきたい。


死んじまったら、それ以上守れなくなるから。

 ネジのおじさんだってほんとは──・・・生きて、守り続けたかったことがたくさんあったはずだ。

オレはおじさんの代わりじゃないけど、ネジおじさんが繋いでくれたこの命と名前、もっと先に繋げて行くくらいなら出来るはずだから……

オレにとって大切なものを守り続けていけるように、強くなるってばさ。



《終》


 
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