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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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復活

「天王寺監督!!優勝おめでとうございます!!」
「ひとことお願いします!!」

整列、校歌斉唱、表彰式を終えた彼らを待っていたのはたくさんの報道陣。たくさんのカメラのフラッシュに目をしばしばさせながら答える。

「選手たちがよく頑張ってくれました。彼女たちが勝ちたいと思ったからこそ、できた結果だと思います」

高校時代の破天荒な少年から出てきた大人なコメントに記者たちは面白くないような、成長を感慨深いと思ったような、そんな様々な感情が押し寄せていた。

「いやぁ、まさか入ると思わなくてビックリしました~」

きちんと対応している指揮官の横で小学生並のコメントをしている主将に思わず頬が引き吊る。なおも子供らしいコメントを続ける穂乃果をキッと睨み付けると、彼女は背筋を伸ばし真面目にコメントし始めた。

「ナイスピッチングでしたね」
「最終回のホームランも鳥肌が立ちましたよ」

彼らのそばでインタビューを受けているのは準優勝に終わった春の覇者、UTXのエースと監督。報道陣はエースに称賛の言葉を投げ掛けるが、監督には厳しいコメントが待っていた。

「なぜ最終回に小泉さんを敬遠したんですか?」
「あそこで勝負していたら結果も変わっていたのでは?」

話題の中心は花陽を歩かせ穂乃果と勝負するという行為について。うまく決まれば称賛に値したが、失敗すれば戦犯となる。野球とはそういうものだ。

「高坂は当たってませんでしたからね。ツバサとの相性も良かったし、確率的にそちらでの勝負を選びました」

無難なコメントになおもマスコミたちは厳しいコメントを寄せる。これには剛も内心イライラしており、改めて報道陣の無神経さに腹立だしく思っている。

「はい、そろそろ時間です。次で最後にしてください」

見かねた大会本部が強制的に質問を打ち切る。最後となる質問を全員が投げ掛けるが、そのマスコミの後ろから律儀に手を上げている人物がおり、西村は彼に質問を委ねた。

「あとから批判ばかりのこの報道陣に対して何か一言ありませんか?」

この発言にマスコミ全員が振り向いた。普段槍玉に上がらない彼らからすればそれは聞き逃すわけにはいかないほど失礼なものだった。

「はっきり言ってうざいですね。まぁ、口が裂けてもいいませんが」
「監督、思いきり言ってますよ」

近くで同様にインタビューを受けていたこの日の主役たちも思わず失笑した。それに激怒したマスコミの1人が帽子をま深く被っている青年に掴みかかった。

「お前!!何言ってだ!!」
「言いますよ、嘘情報ばっかり流しておいて何キレてんだか」

この発言でますますヒートアップしたマスコミが青年の帽子を凪ぎ払った。飛んでいく帽子、そこから現れた顔を見て、全員が目を見開いた。

「お前たちは頑張ってきた選手や監督を批判するほど何かを頑張ってるのか?」

そこにいたのはこの場にいるはずのない部外者、佐藤孔明だった。

「孔明!!久しぶりだな!!」
「久しぶり、健太郎」

マスコミを掻き分けかつてのライバルの元に駆けてくる西村。彼がここにどうやって入ってきたのかよりも音信不通、生死不明の相手の姿にそんなものは全部ぶっ飛んだ。

「孔明・・・」

騒ぎ立つマスコミの中、剛は孔明と西村が楽しそうに会話している姿に唖然としている。

「剛、ちょっと面貸せ」
「はぁ?」

何がなんだかわからないまま手を引かれどこかに連れていかれる剛。呆然とする報道陣と選手たち。その中でいち早く何かを察したにこと花陽が走り出し、音ノ木坂、UTXの野球部員がそれに続いた。
















「いやぁ、いい試合だったねぇ」
「最後なんか興奮して立ち上がっちゃったよ」

スタンドでは試合の余韻に浸っている観客たちがなかなか帰路に着かずにいた。

「お嬢ちゃんたちはまだ帰らないのかい?」
「はい。これからいいものが見れますので」
「「「いいもの?」」」

席から一切動かずにいまだに球場を眺めている亜里沙と雪穂に声をかけたおじさんたちだったが、金髪の少女の言葉に何が始まるのかといった風にグラウンドを見つめる。

「亜里沙!!来たみたい!!」
「わぁ!!ホントだ!!」

嬉しそうな笑顔で立ち上がり最前列へと駆けていく。ようやく帰路に着こうとした観客たちもその声でグラウンドに視線を向けると、先程まで少女たちを指揮していた男とジャージ姿の男が現れる。

「なんだなんだ?」
「誰々?」
「え?なんで西村が防具着けてるの?」

穂乃果がホームランを放ったバットをスイングしながら整備が終わった打席の前に立つ。ジャージの男はマウンドに立ち、見慣れない防具を着けている西村とキャッチボールする。

「孔明さん!!頑張ってください!!」
「おぉ、ありがと」
「剛さんも頑張って!!」
「あぁ、サンキュー」

バックネットにしがみついている少女たちの声で観客たちは大騒ぎし始める。さらには現れたμ's、A-RISE、UTX野球部員たちがベンチに姿を見せ、同様のことを叫びだしたことで確信を持った。

「あのピッチャー佐藤孔明!?」
「ウソだろ!?俺あいつのファンなんだよ!!」
「消息不明じゃなかったのか!?」

すでにその場から立ち去っていた者たちすらこの騒ぎに帰ってくる。大勢の人が見守る中、西村が声を出す。

「一打席勝負でいいんだな?」
「あぁ」
「そうらしい」

かつてのバッテリーが一打席限りの勝負を決行するらしく、選手たちはレジェンド同士の対決に目を輝かせている。

「サインは?」
「いらない。ストレートだけだ」

打者が間にいるのに球種を言ってしまうあたり孔明のアホさ加減が伝わり失笑が漏れる。そもそも、ケガをしてリタイアした2人の対決がどんな勝負になるのかと考えると、見ていられる戦いになるのか不安になってきた。

「始めるぞ」

西村が座り勝負が開始される。セットポジションから、何度も見てきた、変わらない投球モーションに入る孔明。その手から放たれた白球を見て、捕手の西村が目を見開いた。

「うお!!」

思わず役割を放棄して横っ飛びした西村。そのスピードボールはホームベースの上を通過し、一直線にバックネットに直撃した。

「・・・は?」

何が起きたのかわからない剛は、あまりの威力にネットにめり込んでいるボールを見て目を見開いていた。

「どうした、これくらい高校の時から投げてただろ?」
「あぁ・・・そうだな」

問題なのはそこじゃない。なぜ肩をケガしたはずの孔明が、これほどのスピードボールを放れるのか、疑問だった。

「頑張ったんだよ、リハビリ。お前がケガして野球やめたって聞いてな」
「そうなのか?」
「そうだ。俺もケガして絶望した。でも、ここまで元通りに投げれるようになったんだって、お前も諦めるなって伝えたくてリハビリをこなしてきたんだよ」

嬉しそうに語るその姿に剛は思わずにやけた。まさかそんなことのためにここまで投げれるように戻して、自分の前に現れたのだと知ると、うれしいよりも気恥ずかしさが先行する。

「悪いけど、俺は諦めたわけじゃないぞ」
「だったらちょっとでも練習してたのか?プロに行くために」

そういって投球に入る孔明。またしても150kmを悠に越えるストレート。剛はそれを打ちに出ると、バックネットへのファールとなった。

「すごい・・・」
「タイミングがバッチリでしたね」
「これならもしかしたら・・・」

打てるかもしれない。そう思ったμ'sの一同。だが、マウンドにいる孔明はまるで慌てた様子はなく、踏み出した足場を慣らす。

「ったく、ファールチップだけはやめてくれよ」
「安心しろ。スタンドに叩き込んでやる」

嬉しくて堪らない。笑顔が止まらない剛は次の孔明の投球を待ち構える。

「打てるもんなら打ってみろ」
「絶対カチ込んでやるぜ」

2人の男の真剣勝負。もしスピードガンがあれば160kmを計測していたかもしれない豪速球。コースはど真ん中の甘い球。剛のバットはこれを捉えた。

カキーンッ

高々とドームに舞い上がった打球。全員がその打球を見上げ、ゆっくりと落下してきたそれは、孔明のグローブに納まった。

「俺の勝ちだぜ、剛」
「マジかよ・・・」

完全に捉えたと思った。だがそれはボールの下を叩いており、ポップフライに終わってしまったのだ。

「剛。俺は決めたぜ」
「何を?」
「この秋、プロの試験を受ける」

衝撃告白。これにはこの場にいた全員が衝撃を受けた。それに気付いているのかいないのか、孔明は話を続ける。

「お前はどうする?剛」
「俺?」
「まだ諦めてないって言ったよな?」

それはその場のノリというもの。本当はとうに野球をすることなど諦めていた。それが偶然この少女たちに出会い、また野球をやることができた。ただ、それだけ。

「お前もプロに来いよ!!剛!!」
「いや・・・それは・・・」
「みんなが待ってる!!俺も光も!!日本中が待ってるんだ!!今この球界に足りないのは他の何でもない、お前なんだ!!」

世界一なら遠ざかっている日本。なぜ勝てないのか理由は様々ある。もし全盛期の自分が入っていれば確かに勝てたかもしれないが、今のこの足では・・・

「穂乃果も見たいです!!剛さん!!」
「私も、今のバッティングを見たら行けると思います」

何も答えられない剛に対して穂乃果とツバサがそう言った。それに続くように、他のメンバーやスタンドの少女たちも声を出した。

「花陽も!!花陽も見たいです!!」
「にこも!!剛さんのキャッチャー姿見たい!!」
「同じ捕手として、是非あなたのプレーをテレビで見たい」
「亜里沙も!!剛さんに受けてもらいたいです!!」

全員が揃って剛を勇気づける言葉を送る。それを聞いた剛は、ようやく沈黙を打ち破った。

「来年だ。それまでにケガを治してお前を倒せるレベルにいってやる」
「あぁ。待ってるよ」

互いに手を出し固い握手を交わす球友。後に日本球界を揺るがすことになる2人の約束が、今ここで交わされた。


 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
これにて本編は無事終了です。あとはエピローグをやって、当小説は終了します。
4ヶ月間、ありがとうございましたm(__)m 
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