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才能

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第二章

「むしろこのジュニアハイスクールよりもいいジュニアハイスクールに通って」
「母親と離れてな」
「はい、そうあるべきです」
「では全寮制のか」
 母親と引き離すのならとだ、キンメルも言った。
「立派なジュニアハイスクールに転校させて」
「そのうえで、です」
「母親と引き離すべきか」
「将来もです」
 ジュニアハイスクールだけでなく、というのだ。
「ハイスクールもカレッジも」
「そうすればだな」
「彼は必ず大成します」
「フットボーラーか学者か」
「どちらかに、では」
「よし、では牧師さん達とも話してな」
 そうしてとだ、キンメルも校長としてヒュンケルに応えた。
「彼のことを何とかしよう」
「それでは」
「君の言う通り彼は才能の塊だ」
「その才能をあの様な母親に潰させてはなりません」
「世の為人の為にな」
「何よりも彼の為に」
 こうしてだ、二人はホーリックの為に動きだし彼全寮制のハイスクールまで一貫教育で様々な設備が整った名門ジュニアハイスクールの転入を勧めた。その際問題の母親は児童虐待やら牧師の説得やらを出して何とか認めさせた。このことには実は二人も関わった者もかなり苦労したが。
 その苦労が実ってホーリックはそのジュニアハイスクールへの転入が決まった。彼は寮で暮らしそこで学業に励むことになったが。
 これまでとは一変してだ、その生活はというと。
 様子を見に来たヒュンケルにだ、明るい笑顔で話した。
「ここの生活は最高です」
「そんなにいいのかい」
「だって部屋に窓があって僕を罵る人もいないんですよ」
 こう彼に言うのだった。
「食事も普通で皆公平で」
「だからなのかい」
「こんないい生活ははじめてです」 
 それこそというのだ。
「本当に」
「のびのびしているかい」
「この国は自由の国っていいますね」
 アメリカのことに他ならない。
「そのことが実際にです」
「実感出来てるのかい」
「生まれてはじめて」
「そうか、そこまでかい」
「授業とクラブで楽しんで寮に帰ったらもうそこには優しい寮の人達やフレンズが待っているんです」
 それが彼の今の生活だというのだ。
「こんないい生活はないですよ」
「成績はトップでフットボールでもレギュラーらしいね」
「はい、そうです」
「本当にいい生活をしてるんだね」
「このままハイスクールまで、休みの時もいます」
 もう家には帰らないというのだ。
「それでやがては」
「カレッジにだね」
「進みたいですね」
「カレッジでは何を学ぶのかな」
「そこまではまだ決めてないですが」
 それでもとだ、ホーリックはヒュンケルに話した。かつては暗く沈んだ顔ばかりだったが今は太陽の様に明るい。
「ただカレッジでもです」
「学業に励んでだね」
「フットボールもしたいですね」
「そうか、じゃあ頑張ってね」
「そうしていきます」
 屈託のない笑顔でだ、ホーリックはヒュンケルに答えた、日差しが差し込む木陰のベンチで並んで座って話していた彼は前に会った時よりも大きくなっていた。
 彼はジュニアハイスクールでもハイスクールでも優秀な成績であった、そしてカレッジでもだ。
「医学の道にかい」
「進んで、です」
「そこでもか」
「将来を期待されています」
 ヒュンケルは今も勤務しているジュニアハイスクールにもう引退していて今は彼の話を聞きに来たキンメルに話した。 
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