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ハルケギニアの電気工事

作者:東風
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第15話:領内改革!(その2-1)

 
前書き
領内の改革について第一歩です。
それにしても「かくかくしかじか」とは、便利な呪文ですね。 

 
 おはようございます。アルバートです。

 4日ぶりに屋敷に帰ってきて、自分の部屋でぐっすり眠る事が出来ました。
 昨日は到着後、母上のハグを受けてから、荷物を一度『改革推進部』の一室に運びました。それからウイリアムさんとキスリングさんに留守番のお礼をして、少しですが、お土産に魚の干物を分けました。

 屋敷に戻ってから、残りのお土産を広げて、母上とメアリーに干した果物|(ドライフルーツと呼びましょう。)をあげました。アルメリアさんに貰ったドライフルーツですが、6種類位あって、それぞれが分けられて袋に入っています。一袋1㎏位有って結構な量になりますから2人に1/4ずつ分けました。残りは製法や保存方法など商品になるか研究するために取っておきます。
 他に持ってきたゲルマニアでは見た事のない種類の魚や干物や干し肉などは、それぞれ10㎏位有るのでこちらも1/3位残して厨房の方に廻します。魚の干物は一応焼き方や煮ものなどの調理方法を教えておきました。真っ白な砂糖は母上も厨房の料理長も大喜びでした。こんな真っ白な砂糖は『ヴィンドボナ』でも滅多に見る事がないのです。

 今回の調査結果については、父上が明日帰ってくるという事なので、父上がいるところで報告する事になりました。お土産が珍しい加工品ばかりだったので、どこから手に入れたのか母上が知りたがっていましたが、何とか我慢して貰います。同じ事を2回も話すのは面倒ですからね。
 この日はこれで終了となり、後は自室でゆっくり休養を取る事にしました。

 一晩経った翌朝、朝食後に一度『改革推進部』に行って、留守中の報告を受けました。
 局員募集では迷惑を掛けてしまったようですね。まさかそんなに応募が来るとは思いませんでした。適切な対処をしてくれた事に感謝です。面接用の書類もすっかり出来ていますので、後でじっくり読んでおきましょう。
 トイレと消臭剤の報告書も貰いました。トイレは大幅な改造とかはないようですね。ちょっとした修正程度ですからすぐに設置できる事になります。消臭剤も結果を見れば完璧のようですから、いつでも使う事が出来ますね。
 後は局員を面接して採用者を決める前に、局員の家を確保しなければなりません。独身寮はアパートのような型式で良いと思いますが、妻帯者用の寮は1戸建てにしたほうが良いと思います。屋敷の周囲に纏めて作っておきたいですね。
 一度集めて教育してから班分けをします。今のところ考えているのは、トイレ設置班4人と屎尿収集班4人に消毒班2人の3班10人になりますが、面接次第で増やす事も考えておきましょう。

 一通り、二人からの報告を受けました。今度は僕の方からの報告です。
 まず、持ってきた荷物の中から椰子の実とゴムの樹液の入った瓶を出します。

「こちらが椰子の実です。殻の表面はつるつるですが、非常に固い繊維で出来ています。鉈や斧などで割る事が出来ますよ。」

 試しに鉈で少し割って見せます。

「中にはジュースが入っているので、いきなり二つに割ってしまうと零れてしまいもったいないですから、零さないように少しだけ割る事が大事です。

 コップを用意して中のジュースをコップに移します。

「このジュースは結構美味しいし、量も入っているので、南方の暑いところでは水分補給の為にも重要になります。ジュースを出し切ったら、完全に二つに割ります。」

 今度は鉈で実を二つに割りました。

「中のこの白っぽい部分が果肉で、とても美味しく食べられます。食後のデザートにも良いですよ。」

 こちらはお皿に取り分けます。

「まあ、ちょっと味わってみて下さい。」

 そう言って、二人に勧めます。二人ともおっかなびっくり口に運んでいましたが、結構いける味だと判ると、綺麗に食べてしまいました。

「このように、椰子の実は南方では非常に有効利用できるので大事にされています。もっとも、この使い道は今回の調査目的からはおまけの存在なのですけどね。調査目的として重要なのは残った殻の方です。堅い繊維質の殻を蒸し焼きにして炭の状態にすると、椰子殻活性炭という物が出来ます。これは臭いの吸収性能に優れていて、屎尿収集班と消毒班用の防毒マスクにつかう吸収缶の主要材料になります。」

「この殻が材料になるのですか。確かに凄く堅いからですね。切り口を見ると堅い繊維で出来ているのが良く解ります。」

 キスリングさんが割った片方の殻を手に持ってじっくりと調べています。ウイリアムさんももう片方の殻を持って見ていますね。

「この殻一つで、どれくらいの活性炭が出来るのでしょうか。」

「まだ、どれくらい出来るか迄は解りません。練金で木を使って炭を作る実験をして、上手くできる方法を見つけないといけません。木の成分を炭素に変換するだけですから簡単だとは思うのですが。吸収缶の大きさや構造も考えないといけませんから、これからやる事も多いと思います。」

 二人とも、大体感じがつかめたようですね。それでは次に行きましょう。

「次に、こっちの瓶の方です。中身はゴムの樹液です。これはゴムの木の幹に傷を付けて、出てきた樹液を集めた物です。今回の調査で11本のゴムの木を見つける事が出来ました。」

「これがゴムの樹液という物ですか。何というかネバ~とした感じですね。」

「そうですね。これを加工してゴムを作ります。非常に伸縮性に富んで防水性にも優れていますから使い道はたくさんあるでしょう。」

「この樹液をどう加工するのですか?」

「そうですね、まず樹液を良く練ります。この段階を素練りと言います。素練りはゴムの分子を細かくして加工しやすくします。後で作ってみようと思いますが、ミキサーという練るための機械があると楽に出来ると思いますが、ゴーレムにやらせるという手もありますね。」

 キスリングさんがメモを取りながら真剣に聞いています。ウイリアムさんはキスリングさんの書いているメモを覗き込んでいます。しっかり聞いて、理解して下さいよ。

「次は混練りと言う工程です。混練りは素練りしたゴムにカーボンブラックという非常に細かくした炭素の粉や硫黄などを混ぜ込んで、製造前段階のゴムにします。」

 この辺になってくると良く覚えていないので、だんだん怪しくなってきます。

「この後、例えば長靴を作るのなら布などで膝下位の長さがある靴を作り、外側にゴムを適当な厚さに均等に塗りつけて整形します。最後に全体に均等になるように熱を加えて、含まれている硫黄を反応させて弾性のある強力なゴムにします。」

 大体こんな感じで良いはずですね。後は練金を使って調整していけば何とかなるでしょう。

「あと、靴は履く人の足の大きさに合わせて作りますが、滑りにくいように靴底も作らないといけません。下になる面に刻み目を入れた靴の大きさの型を作って、ここに少し堅めに混練りしたゴムを流し込んで整形します。これを加熱してしっかりとしたゴムにしてから、さっき作った長靴の下に強力な接着剤でくっつければゴム長靴の出来上がりです。」

 メモし終わったキスリングさんが顔を上げます。

「ずいぶん工程が複雑で多いですね。必要な数を作るのが大変だ。1人1人採寸からやらなければならないのも面倒ですね。」

「ぴったりとあった物を提供しようと思うとこうなってしまいます。もっと大雑把に0.5サント刻みで大きさを決めて作っておけば、自分の足に一番合いそうな長靴を履けばいい事になりますから、手間は省けるようになると思いますよ。同じような要領で手袋や前掛けも作ります。これで必要な装備が出来る訳です。大変だと思いますが、大切な装備ですから頑張って下さい。」

「「解りました。」」

 2人とも納得してくれたようです。

「それでは、そろそろ父上が戻られる頃でしょうから、僕は屋敷の方に行きます。後をよろしくお願いします。」

 そう言って、残った荷物からアルメリアさんに貰ったお酒を取り出して屋敷に行きます。屋敷の中に入ってみると、もう父上は帰ってきているようなので居間に行ってみます。
 居間に入ってみると父上と母上がいました。メアリーはいませんね。

「父上、お帰りなさい。」

「ああ。アルバートも無事に帰ったそうだな。安心したぞ。」

「御心配をおかけしました。申し訳ありません。それで今回の調査について報告したいのですが、母上も一緒に執務室の方に移動できませんか。」

「他に聞かれてはまずい事があったのか?解った。移動しよう。」

 父上の執務室に移動します。母上も入って貰って、しっかりと鍵を掛けてから父上にお願いします。

「父上、サイレントを掛けて下さい。」

 父上も母上も少し驚いたようですが、すぐにサイレントを掛けてくれました。

「これでもう大丈夫だ。こんなに用心しなくてはならないような事があったのか?」

「はい、父上。まず、これをお受け取り下さい。」

 そう言ってお土産を渡します。

「これは酒か?見た事のないラベルと文字だが、これがそんなに大変な物なのか?」

「はい。これはエルフの友人に貰ったお酒です。」

「なに?エルフだと?エルフに会ったというのか?」

 母上も蒼白になっています。やっぱりエルフは恐怖の対象なんですね。

「調査の目的地で偶然出会いました。その時の状況はこのような物です。」

 ………かくかくしかじか………。

 アルメリアさんにあった時の状況を詳しく説明しました。

「そして、翌日エルフの集落に連れて行って貰ったのです。」

 ………かくかくしかじか………。

「と言う訳で、エルフの代表から自由に集落に出入りする許可を頂けました。」

「何というか、とんでもない話だな。間違えてもロマリアなどに知られる訳にはいかないぞ。」

「そうです。でも今回持って帰りましたお土産は、全てエルフの村にて頂いた物です。魚の干物や干し肉にドライフルーツなど、ハルケギニアではほとんど見る事のない食材ばかりです。それに真っ白な砂糖。どれも我が領で独占して通商することができればどれだけの利益を上げる事が出来るか、測り知る事が出来ません。」

「確かに、そうなるだろう。しかし、他人に入手経路が解らないように通商が出来るのか?」

「実際に通商を行うには、まだまだ準備が必要だと思います。しかし、『ヴァルファーレ』のように高空を高速で移動できるような手段は、今のゲルマニアどころかハルケギニア中を探しても見つからないでしょう。そうなれば尾行して入手先を見つけることは不可能ですし、詳しいことは私達家族だけの秘密にしておけば家臣達から漏れることもありません。ましてや、エルフから漏れることなどあり得ないのですから大丈夫でしょう。」

 原作ではガリアの狂王がエルフのビダーシャルを使っていましたが、まだ当分出てこないでしょうし、それまでにエルフとの付き合いを強固にしておけば悪いことにはならないでしょう。

「それから、この度の調査で改革に必要な資源の確保の目処が付きました。」

 ………かくかくしかじか………。

「これで『保険衛生局』の立ち上げが出来ます。資源の方もいつでも取りに行ける許可を貰っていますから、何も問題ありません。あと、エルフの村で同じくらいの子供達と仲良くなりました。時々遊びに行く約束もしていますからよろしくお願いします。」

「本当に友好的に迎えられたようだな。一歩間違えば生きては帰れなかったかもしれないが、結果的には良かったのだろう。場所が場所だけに大人数で行くことも難しいと思う。くれぐれも無理な行動はしないように頑張りなさい。」

「私も一度、アルメリアさんという方にお会いしたいわ。アルバートに良くしてくれた人なのだからお友達としてお呼びできないかしら?」

 母上、そんな無茶は言わないでください。父上も引きつっていますよ。

「今はまだエルフを呼ぶのには無理があるだろう。誰かに見られたらバンガード家にエルフが出入りしているなどと言われ、ロマリアから司教当たりが飛んでくるぞ。」

「それでは、今度アルバートがエルフの集落に行くときに一緒に行こうかしら?」

「母上、まだ出入りの許可を貰っているのは私だけですのでお連れするのは無理です。大体そんな遠方まで母上と二人乗りで行くなんて無茶すぎます。」

 母上はあからさまにがっかりしています。慰めるのは父上のお仕事ですよ。

「ところで、この次第は皇城にお知らせする必要があると思いますか?」

「皇帝閣下にはお知らせした方が良いと思うが、よほど注意しないとどこから漏れるか解らないからないからな。どうするか。」

「それでは、今度私が皇城に行ったときに、皇帝閣下に内密にお話ししてきます。皇帝閣下から話が漏れることはないでしょうから。」

「やはり、その方が良いか。それもおまえに任せよう。上手くやれよ。」

 ちょうど明日が虚無の日ですから、皇城に行って皇帝にも話を通してきましょう。悪いようにはしないと思います。
 両親に今回の調査での問題点や、領地改革の進捗状況を説明できたので次の段階にはいることが出来るでしょう。

「ところで父上。そのお酒ですが、一緒に持ってきた魚の干物を焼いて、摘みにするととっても合うと言うことですよ。母上と一緒にお飲み下さいね。」

 これには、父上も母上も嬉しそうでした。二人ともお酒大好き人間ですからね。

 さて、この二人は放っておいて、僕は残りの時間で面接用の書類を確認しましょう。来週初めは面接ですから大変です。 
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