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最低で最高なクズ

作者:偏食者X
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ウィザード・トーナメント編 前編
  「11」 その2

俺は重大なミスに気付いた。
せっかく事件現場に寄ったであろう副会長に事件現場を聞き逃したのだ。
副会長と別れて一息ついてから気が付いた。
完全にやらかしてしまった。

ターゲットを尾行することも考えたが、まだターゲットの特徴を理解できていない。
それに闇雲な尾行は二次被害を起こしかねない。
俺にはパートナーがいて、暮斗にもパートナーがいる。どちらかが重傷を負えば1つのチームが棄権しなければならなくなる。
それは最悪の事態だ。


「事件が起きるのを待つしかないのか。」


その日はそれ以上の捜索はせず、悔しながら事件の発生を待つことにした。
俺は何となく俺の中で組み立てられている事件の樹形図をそこらの紙に適当に書き出していた。


「洗脳系統の魔法....じゃあ、術式はどこで....そもそも相手が連続犯っつう根拠もねぇ。」


俺が相手を連続犯だと考えるのはジャック・ザ・リッパーの実際の事件の死者が数名いたからだ。
だから思い込みもある。
たが被害者が一人だけで終わる気がしない。
その時、俺の頭でピンと来る瞬間にたどり着く。
空港での殺気だ。
あの時俺以外にも辺りを見回す人は数名いた。
もしあの殺気と魔法に関係があれば......俺は急に寒気がして部屋の鏡の前に立つと服を脱いで目に見えない場所をくまなく調べた。
その後、暮斗たちにも俺の体を調べてもらったが、術式に関する紋様などは一切見つからなかった。

洗脳系統の魔法を掛けられると一般的には何かの紋様が体のどこかに出るらしい。
いわゆるマーキングみたいなものだ。
もっとも、俺は使える魔法じゃないから魔法に関する資料を見て知った話だがな。


「やっぱり史実通りに女性しか狙ってないのか。」


当時のジャック・ザ・リッパーは娼婦を殺して、その死体をバラバラに解体する狂気じみた奴だった。
空港で殺気を感じて戸惑っていた生徒は数名いた。
その生徒が全員女子だったのかは覚えていない。
ましてや顔なんて覚えられるはずもない。
せめて一人でもターゲットが絞れれば、ジャック・ザ・リッパーにたどり着けるのだが。


「クソッ!これじゃあ相手に踊らされてるみたいだ。」


















その夜。
マーリン学園の制服を着た一人の少女はユラユラとロンドンの街中を彷徨うように歩いていた。
その挙動はゾンビのようで、不気味さを強調している。
少女はブツブツと何かを呟きながらどこかに向かっているようだった。


「行かなきゃ.....行かなきゃ.....行かなきゃ................。」


少女の(うなじ)辺りにはタトゥーでも入れられたかのように『11』の刻印が浮かび上がっていた。
時々声を掛けられたりしたが、少女は反応しない。
やがて人気のない場所に着くと、1人の青年がいた。
その手には一本ずつナイフが握られ、右手に持つナイフを弄びながら彼は彼女の到着を待っていた。


「やっと来たんだ。ちょっと遅かったかな。」


青年がパチンと指を鳴らすと項に浮かび上がっていたタトゥーが消滅し、少女の意識が戻る。
意識が覚醒した少女は、目の前の状況を整理できずに戸惑っている。
青年はそんな少女に近付き、薄気味悪い笑顔を見せた。


「だ......誰.....来ないで!来ちゃ嫌!」


怯えて足が竦む少女に青年はジリジリと迫る。
青年は構えることなく、ナイフを持ったままフラフラと歩く。


「んじゃまぁ、サクッと終わらせるかぁ。」














翌朝のことだ。
俺たちは再び点呼と共に例の情報を聞かされる。
そう、昨晩も例の事件が発生したのだ。
しかも今回は厳重な警備態勢を整えたのにも関わらず、昨晩ホテルを出ようとする彼女を捉えられなかった。
幸い今回の被害者も負傷したが、致命傷を負ってはいないらしい。

やっぱり現場を確かめに行くしかないと俺は思った。
恐らく今回もマーリン学園長が千里眼によって最低限現場の特定は済ませてくれているはずだ。
ならきっとそこに安洛寺先輩が向かう。
あの人はそれなりに頭の働く人だと一目で理解した。
俺が最初の被害者を事件の直前に目撃した目撃者だと告げれば、捜査に協力させてくれるかも知れない。

その日の朝。
俺は安洛寺先輩を見つけ出し例のことを話した。
安洛寺先輩はとくに俺の発言を疑うわけでもなく、一通り俺に話させた。


「洗脳系統の魔法か.....だが、一番の問題は被害者は事件の前後と犯人に関する記憶を持ってないことだ。」

「突然発動して意識を失ったりしたら他の人に目撃されていてもおかしくないですよね。」

「となれば、発動するトリガーの1つは睡眠か。」


こんな具合で先輩と話を進めていった。
その結果と言っては何だが、先輩の副会長の権限もあって俺は捜査メンバーの1人になることが許された。
ついでに暮斗もメンバーに入った。
あとで聞かされた話だが、捜査メンバーには各学年の主席と次席が強制参加させられており、俺のように自主的にメンバーに入ろうとする生徒はかなり珍しいらしい。


「とにかく本人に事件について聞いてみるか。」


百聞は一見にしかずというやつだ。
頼れる先輩からの情報提供とは言え、やっぱり俺は自分の足で直接聞きに行くほうが良いと思っている。
そして病室に着くと、そこにはなぜか第一学年序列2位のエリナ・ルビーエヴァンズがいた。


「お前は何してる。」

「ハッ!ごしゅっ.....ゴホンゴホンッ.....造偽誠。アナタこそ何をしに来たのかしら?」

「事情聴取だ。もしかしたら何か思い出してるかも知れないからな。」

「私はお見舞いよ。この子は私の派閥の子ですから。」

(なるほどな。自分の派閥のメンバーだからこそ、自分の目で安全を確かめたかったわけか。ってか次席なんだから俺にご主人様って言うの本気でやめてくれ。)

「とりあえず昨晩のことを聞かせてくれれば俺はすぐに帰る。まぁ手ぶらもどうかと思ったから少しくらい見舞の品を買ってきた。お前もいるか?リンゴくらいなら剥いてやらんこともない。」

「あら、気が利くのですね。では頂きましょうか。」


俺はリンゴの皮を剥きながら二人の様子を見ていた。
エリナは派閥のヘッドに相応しい堂々とした態度で彼女と向き合いながらも、言葉一つ一つには姉が妹を気遣うような優しさがあった。
それでこそ派閥のヘッドだ。
俺の前では.........はぁ.....。
考えたくもなかった。

その後、質問役はエリナに任せて俺はメモを取った。
ここは俺が聞くよりエリナに任せたほうが話しやすいだろうと思ったからだ。
だが結果は同じ。
僅かな進展もなかった。


「協力感謝するよ。じゃあ俺は帰るから、お大事に。」

「私はもう少し残ります。」


俺は病室を出た。
ホテルに戻ると安洛寺先輩から呼び出され、2つの事件の現場の確認を見に行った。
俺は現場で誰かの妙な視線を感じた。
しかし、振り返るとそこには誰もいなかった。


「やっと動き出したか....まぁ次はヒントでも....。」


その晩も3度目の事件が発生する。
そこに残されたヒントから俺は犯人を追い詰めることになる。
 
 

 
後書き
今回はここまでです。
シナリオ構成としてウィザード・トーナメント本番に至るまでの前編はあと2話ほどで終了する予定です。 
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