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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第11話 丘に聳り立つ

 
前書き
 去年の5月ごろに考え付いた後付け設定ですが、今迄になった士郎の新たな強さの秘密です。
 その秘密が釈迦堂さん家の刑部君を遠慮容赦なくディスります。 

 
 衛宮士郎が夢を見る場合、契約したサーヴァントの生前の記憶(例外)を除けば主に二種類。
 一つは、一部分に黒いモザイクか欠落した真の生まれ故郷の世界で生きてきた時の記憶。
 そしてもう一つが――――。

 「――――()で此処に来るのも随分久しぶりだな」

 今自分のがどの様な状況で剣の丘に来たのかをすぐに把握できる士郎。
 当然だ。
 この世界は士郎の心象風景であり、唯一の魔術だからだ。
 だが何故このタイミングで此処に来たのかは不明だった。

 「だが丁度いい。折角だし礼を言わないとな」

 決心した士郎は剣の丘と地平を征く。
 歩くも歩くも足を進める大地は赤銅の丘に突き刺さる贋作の剣だけ。
 空を見上げても矢張り何時も黄昏時であり、巨大で無骨な歯車が音を鳴らしながら回るのみ。
 その光景が延々と続いて行くだけかと思いきや、少し先の丘に剣槍矢斧弓などの贋作の矛とは全く違う異質な存在があった。
 それに臆する事も無く歩み進めて行くと、途中で士郎の存在に気が付いたようで状態を回転させて幾つもの〇〇の〇を見開いてきた。
 そうして士郎がすぐ近くまで行くと、

 「こうして向かい合うのは久しぶりだな」
 『向かい合うだけならばな。意識がある時(起動時)でも意思疎通を図る事は可能なのだから、無理して向かい合う必要も無いだろう』
 「それはそうだろうけど、やっぱり会話すると言うのは向かい合う事が大切だと思うぞ?」
 『それは人同士の営みと在り方であろう。だが、まるで人間論の様に聞こえるが、少しは人らしく成れたのか?』
 「それは・・・・・・どう、何だろうな・・・」

 突き付けられて言葉に詰まる士郎。
 その自覚が持てる自信があるかと言われれば、曖昧な返事になる。
 ――――全てを救う正義の味方になる。
 その夢は当時と同じく間違ってはいなかった筈だが、その果てに終焉を向かい駆けて助けられた身としては、もうそれを目指す訳にはいかないと自戒している。
 だがせめて、手の届く者達だけでも救いたいと言う欲があるが――――自分を顧みずに誰かを救わずに見捨てることが出来るかと問われれば、何も言えなくなるのが士郎の本音である。
 その苦悩は今も正しく続いているのが読まれたのか、士郎の目の前の存在は淡々と言霊を紡ぐ。

 『考えると言う事は大切だと思う。思考を放棄するよりは遥かにな。そう言う意味では人間らしさを取り戻しているのではないか?』
 「そう・・・かな。そうだと良いんだが――――それにしてもお前の方こそ変わったんじゃないか?」
 『む?』
 「初めて話した時は喋り方が何処か事務的だったのに、今は流調で人間みたいだ」
 『それは皮肉か?』
 「まさか。褒めてるに決まってるだろ?」

 一切の裏も含みもない士郎からの言葉に、対する存在は何も言えなくなった。
 人間では無い自分が人間らしいと言われて何を思えばいいのかと、分からずに体裁を維持するのがやっとなのが本音である。
 その為にも話題を逸らす事を図った。

 『そんな世間話をしに私の所(此処)まで来たのか?暫く留まっていれば目覚めた(戻れた)ろうに』
 「いや、礼を言いにな。昨日は義経達(後輩)達の危機を知らせてくれて助かった」
 『その程度で礼を言われてもな。アレは影の女王の結界を勝手に密かに利用して気づいただけに過ぎない。それにな、そろそろ私に宿代を払わさせろ』
 「宿代?」

 士郎に心当たりはない様だが、その存在にとっては大問題の様だ。

 『こうして今もお前と言う宿主に寄生している宿代だ。争いを肯定している訳ではないが、このままでは借りが膨れ上がるばかりだ』
 「別に気にする必要なんて無いんだがな・・・」
 『私には有る!話は少しずれるが、お前の記憶障害は私が寄生した事の方が十分な原因だと考えている。何しろ平行世界の移動中で心身ともにボロボロの時のお前に、知らなかったとはいえ、私も傷を癒す為にお前に寄生したのだからな』
 「それこそお前の推測だろ?」
 『“お前の方も”であろう?その上で借りが膨れ上がり続けるなど、断じて容認できない』
 「だから気にする必要は・・・」
 『お前に無くとも私には有る。私は断じて“釈迦堂刑部(ひも)”では無いからな!』
 「ひも?」

 何の話だと、士郎の頭上にクエスチョンマークが現れる様に首をひねる。

 『そう、私はひもでは無い。ニートでは無い、寄生虫では無い、自宅警備員では無い、まして釈迦堂刑部などでは断じて無いッッ!!』

 如何やら目の前の存在は、釈迦堂刑部を更生を促す為の士郎の言葉を覚えている様だ。
 しかも何故か自分の今の状況と照らし合わせて。

 「・・・・・・」

 確かにそれらのキーワードを口にしたのは自分だが、それらと釈迦堂さんを同列――――いや、それ以上のモノに貶めるのは流石に如何かと思う士郎の様だが、本人は収まるどころかさらに興奮している。

 『釈迦堂刑部、何なのだあの穀潰しは!溢れる才能を腐らせて怠惰に浸るなど、正気の沙汰では無いッ!これがもし、努力し続けたが大きな壁に幾度も阻まれたともなれば同情しよう。大切な誰かを失った果てなら憐れみを籠めて慰めよう。だが釈迦堂刑部(あのひも)は挫折の淵で膝を屈したわけでもないと言うのに、堕落の徒に好き好んで成り下がった!――――いや、これが自らだけの責任で収まるならそれも見過ごそう。だが、だがあの男、釈迦d、自宅警備員は!――――』

 もう釈迦堂刑部にいっそ、親の仇以上に憎んでいるんじゃないかと疑われてもおかしくない位の憤激に駆られている勢いだ。
 その興奮具合に士郎は引きながら黙っていたのだが、沈黙と士郎の視線に誤解したのか、被害妄想から攻めたてる。

 『そんな目で私を見るなぁああああぁああ!!私は自た、寄せ、ニー、ひ――――釈迦堂刑部では無いッッ!!』

 最早釈迦堂刑部とは、無職を罵倒する造語の中でも最上位の位置にあるらしい。少なくとも、彼の存在の中だけでは。

 『私には労働意欲がある。私には求められるならば、能力を十全に発揮する用意がある。故に私は釈迦堂刑部の同類扱いされる謂れは無い筈だッッ!!!』

 もう手が付けられない。
 そんな時、士郎の意識がこの剣の丘から離れようとする現象が起きる。
 それを目聡く感じ取った彼の存在が、怒涛の勢いのまま士郎に詰め寄って来る。

 『ま、まままさか、お前、貴様、え、衛宮士郎!私をまた放っておいて、堕落の徒(釈迦堂刑部)に堕ちろと言うのか!?何故だ何故だ何故だ!私がお前に何か残忍極まる事を押し付けたとでもいうのか!?これからもまた私に恥辱に耐え続けろと言うのか!?私には労働意欲があり、何時何時(いつなんどき)でも借りを返す気があると言うのに、私を見捨てるのかぁああああぁああ!!?答えろ衛宮士郎ォオオオオオオ!!』
 「す、まな・・・ぃ・・・・・・」

 しかし士郎が意識的に戻ろうとしている訳では無いので、謝罪しか送れない。
 だが勿論、彼の存在は許容できない様だ。

 『酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷いィイイイイイイ!!いやだぁああああ!釈迦堂刑部になど為りたくないィイイイイイイ!!?待てまて待てまてっ、私の話はまだ終わっていないッ!それとも逃げるのか、この衛宮士――――色情魔がぁあああああぁああああああ!!!』

 「誰が色情魔だっ!」と、言い返したい様だが、生憎士郎の剣の丘に滞在できる時間は終わりを迎えてしまった。


 -Interlude-


 目覚めは最悪だった。色んな意味で。

 「ふにゅ~♪」
 「・・・・・・」

 リザは相変わらず忍び込んで士郎に抱き付いている。
 しかもリザが抱き付いている士郎の左上半身の浴衣は、すっかりはだけており、完成にはまだ至っていないが、中々の肉体美を誇っていると言っても過言では無いだろう。
 その状態からリザが僅かに離れた隙をついて抜け出し、そのままお姫様抱っこで彼女を持ち上げてから廊下に出て、少し歩いてから本人に宛がった部屋の襖を開けてから放り入れて襖を閉めた。

 「で?そこで何してる?」
 「やっぱり気付かれました?」

 廊下の角に居たのは、ハンディカムのビデオカメラを撮影中のまま手に持ったレオである。

 「あのままリザさんを押し倒すんじゃないかと期待して回してたんですけど、気付かれてたらそれは押し倒したりしませんよね?」
 「気づいてもしない。俺は色情魔なんかじゃ無いんだからなッ!」
 「はい?」

 声音を落として怒鳴ると言う与一の技を士郎も出来る様だ。

 「ごほん。こっちの話だ。――――それより改まってになるが、如何して下宿先が家なんだ?西欧財閥の次期当主と言う肩書きなら、それこそもっと豪華なホテルの最上級スイートルームでもおかしくないし、日本家屋に興味があったなら、そっちの最高級の旅館でも良かった筈だ。なのに如何して衛宮邸(うち)なんだ?」
 「最大に理由は今はまだ答えられません。ですが一つの理由として――――士郎さんに興味があったからです」
 「俺に?」
 「そう、貴方にです」

 レオに指名された士郎は少し逡巡する様に考えてから、

 「――――それはレオが転生者だからと関係してるのか?」
 「当たらずとも遠からずと、言った所でしょうか。ですがご安心ください。ボクは断じて衛宮邸及び藤村組を害そうと企んでいる訳ではありませんので」
 「取りあえず、今はその言葉を信じさせてもらう」

 一区切りついたので何故こんな早朝から活動していたのか聞こうとすると、

 「それにしてもこれから波乱ですね」

 こんな事を言ってきた。
 恐らく波乱とは昨夕起きたテロでは無い。
 いや、全く関係が無い訳では無い。寧ろその件で浮上した問題だ。

 「藤村組の事だな?」
 「矢張り気付いていましたか?」
 「当然だ。あの(・・)雷画の爺さんが今回の事件、如何して事前に察知して気づけなかった事についてだろ?」

 藤村雷画はこと関東圏の企み、特に自分達が被害を受ける或いは巻き込まれそうな事件について事前に察知して、悪巧みを暴く超常現象の様な事を幾重も積み上げて来た。
 その当たりもあって、ある種の裏取引的に警察庁の幹部や大物政治家も藤村雷画を頼っている。
 だが藤村雷画のそれは超常的な力故では無い。
 本部支部問わず、組員たちが入手した重要な情報から些細な事まで、日々雷画に集まって行き、そこから情報を精査して何かおかしな企みが起きてないかを判断しているだけだ。
 さながら安楽椅子に座ったまま、幾つもの情報をもとに推理から真実へと導く名探偵
 しかし、今回は情報が不足していた。
 事件後の昨晩までの時点では、何所からの情報が途絶えたのか判明していないのだ。
 正直気のせいでは済ませられない案件である。
 最悪、一枚岩と言われて来た藤村組が内紛勃発か内部分裂にまで発展しかねないのだから。

 「件の被害者は九鬼財閥だし、政府と協力して情報規制を敷いたから今回の事で藤村組が責を問われる事は無いだろうが楽観視も出来ない」
 「そうでしょうね。ちなみに西欧財閥としては動く気はありませんのでご安心を」
 「良いのか?」
 「別に善意ではありませんよ?今の此処周辺はどの様な形で手を出すにしても、情報不足もあってリスクが大きすぎますから」

 なるほどと呟いて、一応の納得を見せる士郎。

 「それで今回の事は置いとくとして、レオはどうしてこんな朝っぱらから?」
 「士郎さんにお願いがありまして」
 「頼みって事か?」
 「はい。今までは周囲の目を盗んで1人でやっていた事なんですけど、此処に来たからには本格的にやりたいのですが、立場上1人で勝手にやるわけにはいかないんです」

 レオの言葉は何を指示しているのかと暫く考えてから、

 「鍛錬か?」
 「はい。走り込みなどを含めると、1人で行うにはリスクが高い事ぐらい自覚しています」
 「成程、百代が暫く空くからその隙を狙ったな」
 「結果的にそうなっただけですよ。少しの間士郎さん達の鍛錬を観察していましたし、頼もうとはほんの少し前から考えていた事です。勿論報酬は出させて頂きます」

 ――――つまりこれは魔術師としての等価交換かと、士郎は察した。

 「それはいいんだが、レオなら気付いている筈だろ?」
 「接近戦の才能が無いと言う事なら問題ありません。そちらについてはスカサハさんに頼んだ独自のメニューを組んでもらいましたので」

 スカサハから組んでもらった鍛錬メニュー票をレオから受け取る。

 「・・・・・・随分本格的の様だが、完全に確信犯じゃないか」
 「いやぁ・・・」
 「褒めてないぞ」

 それでも照れるポーズを解かないレオに、感心を通り越して呆れる士郎。

 「・・・・・・師匠が絡んでいるんじゃ受けない訳にはいかないが、名目上護衛しながらと言う事か」
 「話が早くて助かります」
 「ならリザも一緒か」
 「その通り!」

 まるで当然の様にレオの横――――では無く、士郎の横に現れる。

 「そこは普通レオの横じゃないのかって、腕を絡めようとするな!雇い主の前だろ!」
 「ボクは気にしませんよ?」
 「そこは気にしろよ!」

 全く疲れる主従だと深い溜息を吐く。

 「兎に角、リザも一緒にでいいんだな?」
 「ええ。それにずっとボクの護衛ではリザさん自身の鍛錬が疎かになるんで、丁度いいかと思いまして」
 「そうか」

 最早何も言うまいと突っ込みするのも放棄する士郎。
 諦めてまずは走り込みからと出発するのだった。




 「って、何故余を連れてゆかぬ!」
 「「「え?」」」

 入り口から出て行ってから10メートルも離れていない距離でシーマに呼び止められる3人――――と言うか士郎。

 「昨夕襲撃事件が起きたばかりだと言うのに危機感が無いのか!レオとリザ(2人)を守るのは士郎になるのであろうが、ならば士郎は誰に守ってもらう?――――余であろうが!なのにサーヴァントを連れて歩かぬなど正気の沙汰とは到底思えぬ!そもそもお主は以前から――――」

 3人に追いつき、走りながら士郎に説教を始めるシーマ。
 だがしかし、興奮していると言うのに声音を押さえながら怒鳴れるとは、如何やらある一定の強さを越えたもの等にはそれらの器用さが許される様だ。


 -Interlude-


 「そんな!もう動くなんて!」

 此処は九鬼財閥の会議室。
 叫んでいるのは義経であり、その懇願に近い悲鳴を受けているのは昨夕襲撃者たちからの凶刃により重傷を負ったはずのクラウディオである。

 「ご安心ください。見た目ほど深い傷ではありませんでしたし、マープルの施術が思いのほか効き目がよかったものですから、すぐに復帰できたのですよ」
 「・・・・・・」

 しれっと言ってのける同僚に、口では何も言わないが内心呆れているマープル。
 確かに特製の治癒(魔術)を施したのは自分ではあるが、何も次の日から復帰せずともと、いざとなったら一番無茶をする幼馴染に対して、呆れを通り越して諦めている。

 「でも本当に大丈夫なのクラウ爺?」
 「ご心配お掛けしてしまって本当に申し訳ありません。ですがご覧の通り万全です」
 「ヤレヤレ、アンタって奴は」

 その時、勢いよくドアが開け放たれたと思いきや、急速で入って来たのは紋白だった。

 「クラウディオ!もう動いてよいのか!?」
 「はい。おかげさまでこの通りでございます」

 だがしかし、紋白はクラウディオが意外と無理をする方だと知っているので、自分自身で確かめようと体のいたるところを触りまわる。
 それを放置して、マープルが訪ねる。

 「それで今日は如何するんだい?」

 如何するとは勿論川神学園への登校についてだ。

 「・・・・・・義経は登校したいと思う」
 「良いのかい?武士道プランの総責任者としては助かるが、いくら私でも昨夕あんな襲撃受けたんだから、登校を強制する気は無いよ?」
 「うん。でもよく考えた結果だから」

 正直、今回ばかりは自責の念を感じるマープル。
 義経の決断は責任感が強いと言えば聞こえはいいが、強迫観念によるところが大きいと見ている。
 しかも昨日の自分を不甲斐無く感じている所も上乗せされているんだろう。
 だからもう一度聞く。

 「本当に良いのかい?今日くらい休みを取っても私は責めやしないよ?」
 「大丈夫。義経は筆頭としての責務があるから」
 「義経・・・」

 弁慶の心配もよそに、目を逸らさない義経。
 一切の淀みなく、自分の目に合わせて真っすぐ見て来る瞳。
 何が義経を此処まで強く奮い立たせるのか、少々興味があるが此処は素直に感謝し

 「そんなにシーマに会いたいんだ?」
 「違う!」

 一瞬で顔を真っ赤にして否定する義経に弁慶は笑う。

 「そんな無理に強く否定しなくても」
 「無理なんてしてない!」

 突然の事態の変化についていけなくなるマープル。
 だが2人のやり取りで、まさかと考える。

 「けど会いたくないっていうのも失礼な話だよね?私達4人ともを助けてくれたのは他ならぬシーマだっていうのに。あっ、あの矢の雨は衛宮先輩だったっけ」
 「うぐっ!?」
 「だから別に(異性としての)好意を抱いても、なにも不思議はないはずでしょ?」
 「そ、それはそうだけど、弁慶の言い方は上手く言い表せないけど・・・・・・なんというか違うんじゃないか?」
 「へ?」

 弁慶が間抜けな声を出した。
 マープルも先ほどまさかと考えていたが、別の意味でまさかと疑いが生じた。
 義経はなぜか憧れている感情を恥だととらえているのか否定しながら、それ以上の好意をシーマに対して抱いている自覚がない様だ。
 複雑すぎていろいろ困ったものだ。
 特に困ったのは矢張り義経が無意識ながら、シーマに異性として行為を持っていること。
 これが人格的に大したものな人間なら“恋”と言う経験によって、義経をさらに高みに押し上げるとして期待できるものだが、確定情報ではないとはいえ相手は英霊。悲恋となる結果は見えている。
 だからと言って教えるわけにもいかない。
 今の義経の精神的支柱の一番の核がシーマである事と、サーヴァント関連の事はまだ義経達に教えるべきではないという結果になったことだ。
 本当に頭を痛ましてくれる問題だが、改めて今は義経が登校すると決断してくれたことに感謝しようと自分を慰めた。

 『・・・・・・』

 その光景を霊体化のままで微笑ましく見ているジャンヌと、その一方で明らかに不満そうな与一が入り口近くにいた。

 (組織の尖兵(アイツ等)を処分しないなんて九鬼財閥全体を味方として信用するのはやばいかもな)

 そこで自分のサーヴァントであるジャンヌももしかすればと一瞬だけ疑ったところで、びくっと体を震わしてその疑問を直ぐに消去した。

 (ソンナハズハナイ、ジャンヌガテキダナンテアリエルワケガナイ)

 与一の瞳が怖いくらいに虚ろな目をしていた。
 どうやら昨晩のあの後もジャンヌとの話し合いをしたようだが、どうやら調教されたようだ。
 これを指摘してやればジャンヌは断固として否定してくるだろうが。
 そんな朝の一幕だった。 
 

 
後書き
 ですが釈迦堂さん家の刑部君は今日から働くのでした。 
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