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東方仮面疾走

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4.Nの疾走/究極の巫女さんドリフト

 あの事件の調査を始めたのが既に昨日となった。
 いつもなら寝ているところだが私は寝ていなかった。
「何でこんなことに」
 今私は魔理沙の横に乗っている。真夜中のドライブなどという洒落たものでは断じてない。そもそもドライブをするのにスキール音は普通鳴らない。
「まあ、いいじゃねーかよ。たまにはつき合えよ、霊夢」
 私は魔理沙の走り屋チーム『博麗スピードスターズ』の集まりに召集されていた。何でこんなことに。
「てか、全然怖がらねーだな。霊夢」
「怖がるって、そりゃ何回もあんたの横に乗せられれば怖さも吹っ飛ぶわよ」
 それもそうか、と笑い飛ばすが勘弁してほしい。昔よりはましにはなっている。上りならば自然体なのだが、下りの魔理沙の横だけは死んでも乗りたくない。
「こんなことなら、翔太郎の横の方が何倍もましよ」ボソッ






「お、霊夢じゃん。ちっす!」
「ん?ああ、魔理沙のチームの健二だっけ?相変わらずね」
「あ、ほんとだ霊夢さん!また無理矢理横に?」
「そうよ、まったく。あんたらのリーダーなんだから何とか言ってよね。夜うるさいのはともかく、連れ出されるのは勘弁してほしいわ。私朝早いんだから」
「まあ、そういってやるなよ。魔理沙は霊夢のことが好きなんだから」
「おう!霊夢を横に乗っけるのは楽しいんだ!」
 まったく、ほんっっっっとうに勘弁してほしいわ。
 見て、というより読んでの通り私はすでに『博麗スピードスターズ』のメンバーとはすでに顔なじみとなってしまっている。魔理沙に通わされているせいだ。
「でも、さっきも言ったけど霊夢。お前本当に叫ばなくなったよな。私の運転で。昔はあんなにギャーギャー絶叫してたのに。はっきり言って今の方がクレイジーに攻めてると思うぜ?」
「‥‥‥なんて言えばいいのかしらね、あんたに言ってもわからないわよ。あの怖さは」
「?意味わかんないんだぜ」












 その頃、黒井探偵事務所では。
 翔太郎はある人物に電話を掛けていた。今回そして今までの事件、そしてとある『計画』の経過報告のために。
「つーわけだ、事件が増えすぎだ。未だにガイアメモリ流出先がわからないのか?紫」
『無茶言わないで。私だって手一杯なのよ?』
 相手は八雲紫。この幻想郷の賢者にして最強の妖怪だ。そして、霊夢の保護者?でもある。
『それにしても霊夢がねぇ。今日はあの子大変ね。明日も早いのに』
 翔太郎は事件のことと魔理沙のこと、どっちのことを言っているのかわからなかった。
「よく言うぜ。相変わらず朝っぱらだけは元気に牛乳配達してる奴が」








 再び博麗山 頂上。
 エキゾースト音がだんだん近づいて来ていた。しかもかなりの数だ。
「ん?この音は」
 どうやら魔理沙は知っている音らしい。
 魔理沙の独り言に続いて、道路を挟んだ対面の休憩所の駐車スペースへ車がぞろぞろ雪崩込んできた。その中には知っている車が一台。そして、見知った顔が三人いた。
「霊夢に魔理沙。ひさしぶりね」
「ヤッホー!二人とも!」
「あら、レミリアにフラン。何?吸血鬼が二人そろって真夜中ドライブ?従者もそんなに連れて」
「ふふふ。残念だけど咲夜以外は従者ではないわ。それに、うちの家事全般がつとまるのは咲夜しかいないわ」
「ありがたきお言葉です。お嬢様」
 霧の湖の奥に佇む紅い洋館『紅魔館』の当主レミリア・スカーレットにその妹のフランドール・スカーレット。従者の十六夜咲夜がいた。彼女たちは紅霧異変を起こしたりと何かとしてくれやがったのだが、今ではこの走り屋ライフを充実しているご様子だ。しかもこんなに人間を引き連れて。これは阿求の幻想縁起も訂正ものね。
「さて、雑談もしたことだし本題に入らせてもらうわ」
 レミリアが霊夢との会話を中断させて目を細めると、魔理沙以外はその迫力に一歩退いてしまう。これから弾幕ごっこしようなんてわけじゃあるまいし。
「不躾で悪いけれど。この山で最速のチームまたは走り屋を知らないかしら?」
「おっと、レミリア。それは野暮な質問ってもんだぜ?私たち『博麗スピードスターズ』こそがこの博麗山最速って自負があるぜ」
「なるほどね。なら話は早いわ」
 レミリアの要件を要約するとこうだ。
 お互いのチームに刺激を与えるため交流戦をしよう。タイムアタックで、同時にスタートして先にぶっちぎった方の勝ち。勝負は下りと上り一本ずつ。言いたいことはわかるけど、これってつまり。
「‥‥‥いいぜ。受けて立つぜ」
「じゃあ、勝負は来週の土曜の夜明け。今日は私たちもしっかり走り込ませてもらうわ。大丈夫よしっかりマナーは守るわ」
 そう言い、レミリアのチームの連中は車に乗り込んで再び下っていった。
「あんなのに臆されるどうりはねぇぜ!」
「そうだそうだ!紅魔のレベル見せてもらおうじゃねぇか!」
「地元の意地見せてやるぜ!ケツつついてやれ!」
 魔理沙のチームはそう鼓舞し自分たちもと車へ乗り込み、後を追いかけていった。
「で?どうするよの?あれってようは挑戦状じゃない」
「あいつら、特にレミリアとフランは速いんだよ。天狗の新聞にも載ったことがあるしな。人呼んで『ロータリーのスカーレット姉妹』」
 元異変の元凶が雑誌に乗るってのもまた複雑な気分ね。世の中何があるかわからないわ。
 魔理沙は顔を顰めっ面をし、爪を噛んでいた。息詰まったようだ。様子からするにおそらく魔理沙以外は相手するのは難しいようね。
「うーん。ん?あれ?健二。どうした?追いかけてたんじゃないのか?」
「いや、あんなん無理だぜ。レベルが違いすぎる。足まわりにも金かけてるしパワーも出てる。魔理沙はともかくよぉ、俺らじゃあどうしようもねぇよ」
「んー。しょうがない。あいつに当たってみるか」
「あいつって、まさか!翔太郎さ」
「んなわけないだろ。あいつがどこかに汲みしないことを知っているのは他でもない私たちなんだぜ?」
「‥‥じゃあ誰なんだよ」
「名実ともに博麗下り最速のドライバーさ」
「翔太郎さんじゃなくてかぁ?でも、そんなのがいるのならとっくに噂になってるはずだぜ?」
「私も翔太郎から聞いた話だからなぁ、なんでもこの博麗下り最速は牛乳屋のハチロクらしい」
「ぎゅ、牛乳屋のハチロクゥ!?何じゃそりゃ!?フカされたんじゃねぇんだろうな!」
「私へBRZのSTIフルチューンを賭けてきたからな。しかもタダ」
「まじかよ」












『牛乳配達ねぇ。懐かしいわ』
 八雲紫。かつて幻想郷の最速のドライバーの一角とまで数えられたドライバーでこの幻想郷に車ブームを巻き起こした張本人であり共犯者だ。
「懐かしいじゃあねぇよ。この前すれ違ったぞ。おまえのAE86(ハチロク)と。バリバリ無視しやがって」
『あー。それ私じゃないのよ』
「いやいや、間違いなくお前だよ。このご時世に旧式というか旧車のハチロクで、あんな運転してるのはお前ぐらいだ」
『確かにそれは私のハチロクだけど。今『レイクサイドホテル』に牛乳配達してるのは霊夢に任せてるのよ』
 幻想郷の車ブームの幕開けにより様々な事業が展開されることになった。能力を持っていない人間も移動手段得たために。行けるようになった場所が増えたからだ。
 だが、それ以前に翔太郎はある言葉に耳を疑った。
「なんだとーお!いつからだ!?」
『四年前よ!』
「毎日か!?」
『毎日よ!』
 えっへん!と胸を張っているのが電話越しにも翔太郎へ伝わっていた。この自称十八歳は霊夢を溺愛しているのを知っているからだ。だが、問題はそこじゃない。
「あいつ今十八歳だろうがぁ!四年前ってと中学二年から運転させてるのかぁ!?無免許バレたらどうするつもりだったんだ!?」
 こんな何でもありげな幻想郷だが免許取得可能は十八歳からだ。もちろんバレたらしょっぴかれ、閻魔様のどえらく長い説教だ。
『バレやしないわよ。朝早いしこう言っちゃ何だけど田舎だもの。たまにヒヤヒヤする事もあったけれど‥‥‥。今はもう免許取らせたから時効よ。閻魔にも何もいわせないわ』
「ばぁかやろ」









 また再び、博麗山 頂上。
 あの話から数時間後。
「で?どうだったんだぜ?お前ら」
 レミリアたちの後を追っていった、他の奴らも帰って来た。その顔は顔を青くしたりとまあ何があったかは予想できる。
「根本的に何かが違う。テクニック盗もうとしてケツにつくんだけどついていけないんだ」
「走り慣れてるホームグラウンドでよそ者にちぎられるなんてすげーショック‥‥」
「レッドムーンズに張り合おうなんて無理だよぉ」
 すでに負けムードだ。テンションだだ下がりね。
「でも、地元が逃げるわけにも行かないんだぜ。上りは私が出る。下りの方は私にあてがある。任せてほしい。今日はもう遅いし明日またどっかに集まって打ち合わせしよう」
 そう魔理沙が閉めると他の奴は次々に散っていった。
「乗れよ霊夢。送ってくぜ」




「走り屋って負けず嫌いな奴が多いんだよ」
 帰り道、魔理沙が突然口を開いた。
「そんなのこの幻想郷にはあふれてるでしょ」
「確かにな。でもそれは私や霊夢みたいに能力がある奴らぐらいだ。車が世に出て走り屋ブームと共にそれが能力も何もない奴にも伝染したんだ」
 そう言われればその傾向はあるかもしれない。今まで人里の中でじっとしてることしかなかった人間が車と言うもので真に妖怪とも対等に戦えるようになった。走りでだが。
「だからか、自分のことは相当速いと思いこんでるんだ。私も含めてみんな。能力持ち以外はこれしか取り柄もないしな。走りになるとムキになっちまうんだよ。普段走り慣れてる(やま)でよそ者に負けるなんてめったにないからさ、地元ってのは絶対よそ者に負けちゃいけないんだ。それは走り屋たちの掟みたいなもんなんだぜ」
 掟、ね。ずいぶんたいそうに言うけど、それってメンツの問題よね。大変なもんね。
「まあ、霊夢も走り始めればわかるようになるさ。おっと、ついたぜ」
 博麗神社の裏口へ止まった。博麗山は双子山で、山の途中で別れて二つの頂上がある。片方は私の神社の博麗神社のある方。もう片方は魔理沙たちの走ってるお隣の山だ。
「じゃあまた、ごめんな霊夢。あんなごたごたに遭わせちまって」
「謝るならもうこれっきりにしてほしいわ」
「それは無理なんだぜ。じゃあな!」
 そういうと魔理沙は帰って行った。やっと寝れるわ。
「って、もう二時じゃない。まあ少しはは寝れるわね」
 そう思い、神社へ戻り布団を敷き私は仮眠に入った。












 さらに数時間後の博麗山 頂上。
 フランはひとりで来週の交流戦のことを思い出していた。
(めんどくさい。何で私が。まあ、お姉様の考えもわかるけど)








『どう思う?お姉様』
『魔理沙には悪いけどカスぞろいね。魔理沙以外だったらうちのチームの二軍でも楽に勝てるわ。わざわざベストメンバーをそろえる必要すらないわ。私はパスするわ。でもフランあなたは走りなさい』
『ええ!何で!』
『魔理沙がいるのよ。それに何年かかっても破られないくらいのコースレコードを作らないと紅魔レッドムーンズとスカーレット姉妹の名前が伝説にならないでしょ。手始めに紅魔館周辺の走りスポットのコースレコードを全部私たちで塗り替える。そしていずれは冥界・地底・迷いの竹林・妖怪の山を総ナメにして幻想郷全域にレコードを残す伝説の走り屋になってから引退する。それが紅魔レッドムーンズの─────────幻想郷最速プロジェクトよ!』








(まあ、魔理沙が走るからいいんだけどね。今回こそ決着をつけるわ)
 魔理沙もまた名の通った走り屋だった。博麗山というマイナーな山で走ってるだけにあまり話はあがらないが噂以上の実力があるのは確かだ。フランと魔理沙は何回かよその山で遭い、そのたびに勝負をしようとするが何かと邪魔が入り決着が付かずじまいだった。
「フランさん。レミリアさんのFCは?」
「お姉様ならもうとっく帰ったよ。残ってるのは私たちだけ。ずいぶん走り込んだわね。今何時?」
「もうすぐ四時ですよ」
「ヤバッ、切り上げなきゃ!」
 そう、吸血鬼と言う関係上日が昇る前に家にいなきゃならない。いなければ灰になる。だって吸血鬼だもの。







 ギャァァァァァ!ギョワワワァァァン!!
 フランは命の危険が迫っているのもあるが。その日最後のプラクティスと言うこともあり下り全開アタックをしていた。そんな中メンバーのことを思い出しバックミラーをのぞくと後ろには誰も見えなかった。
(本気でとばすとついてこれないかー。まだまだね。アクセルゆるめて追いついてくるを待つか)
 フランがアクセルをゆるめて直ぐ。バックミラーに一つのヘッドライトが映った。
(やっと来た。ん?いや、うちのチームじゃない。MR2?1(ワン)8(エイ)0(ティ)?でかい車じゃない)
 その車はフランのFDにテールトゥノーズでピッタリとくっついた。
「上等じゃない!コーナー二つも抜ければバックミラーから消してやるわ!」
 フランはアクセルを床まで踏み込む。
 コーナーに差し掛かると即座に速度を落とす。ブレーキペダルを踏み抜きリアの荷重をぬきドリフトへ移行した。しかし、後ろの車に差が付けるどころか詰め寄られる。バックミラーで後続車の正体を確かめる。
AE86(ハチロク)!?ふざけてるの!」
 コーナーを抜け、再びアクセルをオン!馬力が勝るFDが立ち上がりで突き放すもハチロクが追随する。
 二つ目のコーナーへ差し掛かる。ついにFDのバックファイヤーが火を噴いた。
 ストレートで遠のいていたハチロクのヘッドライトがコーナーで再び近づいている。
「旧式のハチロクごときを、このFDがちぎれないなんて。悪い夢でも見てるって言うの!?私は紅魔レッドムーンズのナンバー2よ!」
 そして再びコーナー。次は緩い右コーナー。減速体勢に入ったFDをインからパスしグリップでつっこんでいく。
「なっ!こいつ先を知らないの?この緩い右の後にきつい左よ。減速しないと谷底に真っ逆様よ!」
 減速なして右コーナーを抜けてったハチロクは次の左コーナー手前でリアがブレイクした。
「いわんこっちゃないわ!スピードが乗りすぎてる!立て直して減速するスペースはもうない!」
 次の瞬間、スピンし谷底へ落ちていくハチロクの姿が脳裏をかすめた。
 しかし、現実では目の前のハチロクはアクセルを全戻しし、巻き込みで左に流れていたリアは右に振られる。そして四輪ドリフトへ。
「な、なに!?─────────慣性ドリフト!」
 ハチロクはクリアしてしまった。
 ギャァァァァァ!とFDからスキール音が鳴る。スピンしその場で止まった。





(信じられない‥‥‥‥私はこの峠で死んだ走り屋の幽霊でも見たの?一つ目の右カウンターは次の左の姿勢づくりのフェイントだった。この博麗の峠を知り尽くした、腹の立つくらいのスーパードリフトじゃない!)
 フランが悔恨の念にかられていると、後ろからメンバーが追いついてきた。
「フランさん、見ました?今のハチロク!」
「うん。見たわ」
(私のプライドはズタズタよ峠仕様の最新型のFDで旧式のぼろハチロクに負けるなんて‥‥‥‥‥あのハチロク、何者なの?)
 そのハチロクのドライバーがさっきまで会っていた意外な人物だと言うことをフランが知るのはまだ先の話である。

 これが伝説の胎動である。 
 

 
後書き
 この作品では作者の意向によりAE86を『ハチロク』、現行FT86を『86』と表記していきます。 
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