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真剣で納豆な松永兄妹

作者:葛根
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第十九章 努力、智略、勝利



川神百代にとって、松永久秀は友人であり、遊び相手であり、唯一己の拳を受け止められる同世代の異性である。
それが、牙をむいてきた。
それも、嫌な方法で。

「私と仲良くなったのも、川神院の稽古を申し込んだのも、私の動作を研究するためか……」
「そうでもしないと百代に勝てないんだよ」

悪役の顔というものがどういったものか分からないが、俺は露骨に口元を緩ませた。
お前など、敵じゃないと言わんばかりに。

「なんだよ……。せっかく、一緒にはしゃげる友達だと思ったのに!」
「ソレを利用させてもらったから戦況が俺の有利になってるんだよ」
「なんなんだよ! 久秀! 川神流、人間爆弾!」

川神流人間爆弾。
自身を中心に爆発を起こす自爆技だ。
川神百代の場合は瞬間回復を習得しているので、自爆のち回復が可能である。
一方、松永久秀は爆発を喰らえばダメージを受けるのだが。

「松永流、人間爆死!」

松永久秀は文献上、日本初の爆死という方法で自害した人物である。
過去の偉人である松永久秀もまた、武闘家であった。
脈々と受け継がれる秘伝の中で松永久秀が残した爆死方法は、味方も欺くモノであった。
爆死という方法で自害した松永久秀は実は生きており、歴史の裏で陰謀めいた事をしていたと言う一説もある。
つまりは、川神流人間爆弾とは違い、爆発を意図的に操作して自爆に見せかける事が出来る秘伝であった。

「これはド派手だ! 両者爆発したー!」

川神百代は己の自爆が手応え無いものだと気付いた。

「私の人間爆弾を相殺したのか?」
「素直に答えるわけないだろう」

川神百代の予想は、松永久秀が爆発を操り己の起こした爆発を相殺したというものだ。
その予想は概ね正解であった。
松永流の人間爆死はある程度任意の箇所で爆発を行える。
松永久秀が行ったのは掌の先3センチで気を爆発させ、川神百代の爆死を相殺した。
本来、爆発は爆発物を中心に円状に爆発が広がるのだが、松永久秀は気を操り爆発に指向性をもたせたのだ。
つまりは、爆発全体を川神百代に向けて行ったので、松永久秀はノーダメージであり、川神百代は充分にダメージを受けたのだ。
ただし、川神百代には瞬間回復がある。

「ちっ。まあ、私は回復できるから問題ないけどな」
「それを待つほど俺はお人好しじゃない!」

拳と拳が交錯する。
攻防の熾烈さは増すばかりである。観客達にとっては、武の饗宴であり、多くの者は感嘆の息をもらしていた。
だが一方的に攻めているのが、松永久秀であり、防戦一方なのが川神百代であった。
川神百代は一発逆転で大技を出す。

「これはどうだ? かわかみ波ーーー!」

対して松永久秀は大技を冷静に捌く。
両手を角度を付けて前に出して受け流す。
川神百代から放たれたビームはその軌道を上にそらされ、天に登り、消えた。

「受け流したか……」
「はぁ、はぁ。だいぶ気を使ったけどな」

言葉通り、川神百代は松永久秀の消費を感じ取っていた。

「少しずつ久秀の底が見えてきたぞ」
「はっ! 阿呆が!」

松永久秀の言葉を川神百代は挑発と取った。
実際、気の消費は激しいものであり、川神百代に勝利を確信させるには充分なものであった。

「従来通り、少しずつ久秀を嬲って仕留めてやろう」

川神百代は、孤独である。
強過ぎるのだ。
彼女に対戦を申し込む相手は殆どが瞬殺される。
その為、少し強い相手に対して川神百代は戦闘を長引かせて楽しむ癖がある。
強過ぎるがゆえ、力の調整をしてしまう悪癖である。
それを理解している松永久秀は、心の中で嗤う。
川神百代の攻撃は勝利を確信して荒っぽくなっている。
確実に仕留める為の攻撃ではなく、相手の気力、体力を削ぐ攻撃だった。
だからこそ、隙が出来る。
荒くなった攻撃。
いつもの通り、川神百代は松永久秀を吹き飛ばすつもりで放った拳を松永久秀は躱す。
そして、掌に電撃を乗せた一撃を腹の急所に寸分たがわず的確に打ち込む。

「ぐあっ……、痛いな。だが、まだまだ瞬間回復が……、回……復……!? 回復しないだと!!」
「電撃ダメージは身体に蓄積される。それは、百代の身体の回復機能を麻痺させるんだよ」

ようやく、ようやく効いてきた。
拳を重ねること数十回。
川神百代の瞬間回復を麻痺させることに成功した。
さらに、瞬間回復しない驚きと、電撃ダメージが残っている川神百代は動けない。
最大のチャンスであり、それを見逃す松永久秀ではなかった。

「はぁああっ!」

瞬間的に気を引き出す。
闘気、勇気、殺気――。
ありったけの気を掘り起こして打つ。
腹部急所、蹴り。
胸部急所、掌打。
頭部急所、打撃。
攻撃は、刹那に三回。
それを見切れた者は会場にいた数人であった。

「それまで! 勝者、松永久秀――!!」



――武神・川神百代、敗北。
この事実は即日、全世界に報道されることとなった。
各国の首相は世界の動きに注意しつつ、武神に敗北を与えた人物を知る事になる。
TV、インターネットで放映されたヒーローインタビューで全世界は松永を知る。
インタビューでちゃっかり、松永納豆を宣伝した松永久秀は、公式戦無敗の記録と共に松永家の名と松永納豆を各地、各国に広めた事になる。
もう一度川神百代と戦ったら勝てるかという問いに、松永久秀は無理だと答えていたが、日本人特有の謙虚な姿勢と多くの世界は捉えていた。
そして、様々な人に衝撃を与えたタッグマッチトーナメントは終了となった。



成長、決着。
配点:(底力)



 
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