| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真剣で納豆な松永兄妹

作者:葛根
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十六章 悪役もこなす



「いちっ、にいっ、さんっ、しっ。さあ行くわよ!」
「おう。せいぜい一子の邪魔にならない程度には戦う」

試合開始直前。
しかし、俺は1つ提案する。
当初の作戦では、源忠勝は葵冬馬が銃火器で牽制しつつ川神一子を俺が倒すものであったが、俺の調子を測る為に川神一子とサシで勝負してみたかったのだ。
それに、彼女を痛めつければ川神百代は相当怒るだろう。
嫌われるなら徹底に嫌われれば良い。

「ちょっと待て。1つ、良いか?」
「何だ?」
「簡単な提案だよ。俺が君を狙えば速攻で試合が決まる」

ムッとした表情になるが、事実だ。

「だから、川神一子。俺とサシで戦わないか? これなら相方を気にしなくて済む。どうだ?」
「え? どうしよう、タッちゃん?」
「……やりたいようにやればいい。ただし、そっちの野郎が妙な動きをしたら速攻でこちらも動くからな」
「大丈夫ですよ。下手に動いたら私は瞬殺ですからね」

こうして、葵冬馬と源忠勝はリング端に移動した。

「おおっと。どうやら、1対1の戦いになるようです。これは顔見知りだからできる方法だ!」
「ワン子と久秀がサシで戦うのか。姉を差し置いて先に戦うとは……。頑張れ、ワン子」
「それでは、試合開始!」



開始と同時に薙刀の連続斬撃が向かってきた。

「とりゃぁああ」

連続斬撃を躱して蹴りを胴部に入れる。

「っつぅ~ッッ!」

更に、拳で攻撃を追加。
それを薙刀で川神一子が防ぐ。

「重い! それに早いわ!」

俺が繰り出すのは手刀、掌打、蹴り、足刀――。
――回避、防御、受け、殴打と川神一子が動く。

「ぐっ、ううっ」

蹴り上げ。
避けられる。
そのまま、脚を川神一子の頭部に向けて落とす。

「危なっ!」

パラパラと、川神一子の髪が落ちる。
回し蹴りを肩に当てる。
横殴りで、川神一子の身体が飛ぶ。
それに並列するように走り追いつき、さらに拳を当てる。
左拳のストレートを胴体に、右の掌打を顎に。
川神一子の身体が横移動から、縦に。そして、顎を打ち上げられたところで、がら空きになった胴体に左肘打ちをみぞおちに決める。

「うげっ、ごほっ。がほっ」
「これは、素晴らしい連撃! 松永久秀に対して川神一子は打つ手なしか~?」
「久秀……遊んでいるのか?」

川神百代の声が聞こえた。
遊んでいるとは失礼な。
川神一子といい勝負出来る程度に力を抑えているだけだ。
それに、俺の調子をみる為の準備運動には丁度良い。
痛めつけたが、それなりに加減はしていある。
当然、川神一子は立つ。

「川神流、蛇屠り!」

試合中に交わす言葉は無い。
薙刀が俺の足元めがけて、蛇が獲物に喰らいつく様に来た。
それを、

「おおーっと! コレは凄い! 松永久秀選手、放たれた薙刀の刀身に乗った!」

刀身から、走る。
その先にある顔にめがけてサッカーのPKでボールを蹴るように、川神一子の顎から顔を蹴り上げた。
そのまま川神一子は勢い良く場外へ飛んでいき、壁に当たる直前で、ルー師範代が彼女を抱きかかえて壁との激突を防いだ。

「よく戦ったネ」

気を失っている川神一子に声をかけていた。

「テメェ……」

源忠勝が俺を睨んできたが、コレは試合とはいえ、真剣勝負の場だ。

「加減はしてある。彼女なら30分もしない内に目を覚ますだろう」
「勝者! 智謀チーム!」

源忠勝は、俺から視線をすぐに外して川神一子の元に走りだして行った。

「勝ったのはいいのですが、もう少しスマートに勝てませんでしたか? 彼女は英雄の想い人なのです。ああも傷めつける必要があったのですか?」
「彼女には悪いが、これも川神百代に勝つためだ」

離れていても川神百代の気の乱れが分かる。
視線も殺気が入った強烈なのが俺に向けられている。
それを俺は無視して控え室に戻った。



この大会には多くの実力者がいる。
その実力者達は見ていた。松永久秀が最後、川神一子の顔を蹴り上げる時に嗤っていたのを。
それも、蔑むような目で。
勿論、川神百代も確かにソレをその瞳で捉えていた。
大切な妹の顔を。その辺の空き缶を蹴るように。
大切な妹の努力を。馬鹿にされた。
それも、手加減されて。
それが、川神百代が感じたモノであった。
しかし、観客や、その他大勢は松永久秀の魅せる技と実力に歓声と、歓喜を送っていた。
松永久秀に対して、瞬殺では無かった川神一子は気が付いた時に多くの知り合いから善戦したと褒められていた。
川神一子が一番慕っている川神百代は何も言わなかったが。
様々な想いが交錯するが、試合は進む。

2回戦第1試合、知性チーム対KKインパルス。
大胆にも、榊原小雪に直江大和君をぶつけていた。
まあ、彼女の蹴りを彼が1回躱している間に燕ちゃんが不死川心を倒したが。

2回戦第2試合、桜ブロッサム対デス・ミッショネルズ。
この試合では、葉桜清楚が終始オロオロしていた。
那須与一がかわいそうな試合だった。
デス・ミッショネルズの勝利だったが、燕ちゃんなら攻略できる相手だろう。

2回戦第3試合、源氏紅蓮隊対ファイヤーストーム。
風間翔一と椎名京は幼い頃からの知り合いのはずだが、椎名京は少しも遠慮がなかった。
結局、ファイヤーストームの特攻を冷静に対処して源氏紅蓮隊が勝利した。

2回戦第4試合は俺達の不戦勝。
準決勝へとスムーズに進んだ。

しかし、松永久秀はこの時、知らない事があった。
それは、椎名京はしっかりと松永久秀が川神百代に向けて見せた川神一子に行った悪行を見ていた事だ。
彼女は友である川神一子の仇を取るため、静かに怒りを燃やしていた。



演出が思わぬ敵を呼ぶ
配点:(弓兵)

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧