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ソードアート・オンライン~剣と槍のファンタジア~

作者:白泉
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ソードアート・オンライン~剣の世界~
1章 すべての始まり
  8話 暗闇に光る紅き怪物

 
前書き
どうも、白泉です!何とか今年度中にアップ出来てほっとしております!

 それにしても、一年あっという間でした。最近は時が過ぎるのは本当に早いなぁなんて思っていますw

さてさて、今回はいよいよボス戦!リアとツカサが入り、どうなるのか!?

では、さっそく本編をどうぞ! 

 
12月4日。いよいよ第1層ボス攻略決行の日である。午前10時にこの間の攻略会議があった広場に集合し、そこからボス部屋まで、メンバー全員で移動することになっている。

 あの日、結局ボスの情報をキリトから聞きそびれたリアとツカサは、鍛冶屋で無料配布されていた「アルゴの攻略本・第1層ボス編」に書かれている重要なところを抜き出し、暗記してある。これで攻略会議に参加していた人たちと情報量は変わらなくなっただろう。

 確かに、リアとツカサは元βテスターである。だが、彼らがβテストで基本行っていたのはクエストのほうであり、ボス攻略は今回が初めてなゆえ、わずかに緊張した面持ちだ。

 5分前に広間に到着したときには、すでにキリトは到着していた。キリトは、リアたちに気づくと、笑顔を浮かべ、軽く挨拶を交わす。

「そういえば、攻略会議に出てなかったけどボスについての情報は大丈夫なのか?」
「攻略本は読んできたから大丈夫だと思う」
「ならよかった」

 その時だった。

「おい」

 リアたちの背後から、友好的とはいいがたい棘のある声がかけられる。3人が同時に振り返ると、そこにはトゲトゲ頭のプレイヤー…キバオウだった。げっと言いたげに、キリトが若干体をのけぞらす。この間の攻略会議で、元βテスターに対する敵意を向けられたのだから、当たり前の反応か。

 

「ええか、今日はずっと後ろに引っ込んどれよ。ジブンらはわいのパーティーのサポ役なんやからな」

 キバオウは、低い声でそう言った。まったく状況がつかめないリアとツカサは沈黙し、キリトも驚いた、意外そうな顔をして沈黙している。そんな3人に、キバオウは畳みかける。

「新しく加わったジブンらも含めておとなしく、わいらが借り漏らした雑魚コボルトの相手だけしとれや」

 今度はフードを深くかぶったリアとツカサもにらみつけ、追い打ちにと仮想世界の唾を地面にたたきつけてから、3人のもとを去っていった。

「キバオウとあれから何かあったの?」
「…ああ。実はそのことで相談があるんだ」

 キリトがそう切り出した時だった。

いつの間にか3人の周りには多くのプレイヤーが集まり、そして、中央の噴水の淵に立っていたあの青髪のプレイヤーが美声を張り上げた。

「みんな、突然だけどありがとう!たった今、全パーティー45人が一人もかけずに集まった!」

 途端に、歓声と拍手が広間を揺らす。キリトはほかのプレイヤーとともに手を少したたくが、リアとツカサは冷めた目で彼を見返すばかりだ。

「今だから言うけど、一人でも掛けたら、この作戦は中止しようかと思ってた。だけど、そんなこと思ってたのはみんなへの侮辱だったな!オレ、すげーうれしいよ!…まあ、ちょっとレイドの人数には足りないけどさ!」

 再びの歓声と拍手の嵐。

「…やっぱり、あの人苦手だなぁ…」

 キリトの耳に、ふとリアの漏らした声が入った。驚いて、リアの顔を(実際顔は見えないので、フードの横顔を)まじまじと見てしまう。

 あのルックスに美声、そして、リーダーシップがあれば、ほとんどの女性は彼にあこがれるとばかり思っていたキリトだったので、リアの反応が意外だったのだろう。

 キリトの視線を感じたからか、キリトのほうを見やり、そしてまたディアベルに視線を戻した。

「あの人、なんて言うか…こう、変な感じ」
「変な感じ?」


 キリトはもう一度ディアベルを見るが、そういわれても、何も感じない。

 リアがが感じているのはいったいどんなものだろうか。だが、その思考はディアベルの掛け声でかき消されてしまう。

「オレが言うことはただ一つ…勝とうぜ!」

 ディアベルが長剣を音高く抜き放った。



 


 ぞろぞろと、まるで蟻の隊列のように、ボス部屋まで迷宮区をタワーを歩く。時折ポップするモンスターも、他の隊が競い合うように前に出て戦闘するため、リアたちは何もせずにすんでいる。

「…で?相談っていうのは?」

 先ほど中断されていた話をリアが蒸し返すと、キリトはそうだった、と言って、説明を始めた。どうやら、この前から、キリトの”アニールブレード+6”を買い取りたいというプレイヤーがいたそうだ。かなりの高値で持ち掛けたらしいが、当然ここまで強化したアニールブレードをキリトが売るはずもない。アルゴを通じての交渉だったため、依頼主がわからなかったらしい。だが、昨日、アルゴが来て、4万コルで買い取るといってきたときに、キリトがコルを積み、ようやく分かった依頼主というのは…

「キバオウだったってことか…」

 ツカサがそういうと、キリトは小さくうなずいた。その隣で、リアが腕組みをして小さくうなった。

「でも、不自然な点が一つあるね」
「ああ…4万コルという大金があっても、キバオウは装備を何一つ変えていない。これから死ぬかもしれないのに、ストレージにそんな大金を残しておくのは不自然だ」

 キリトの隣でツカサも賛同するようにうなずく。

「可能性としては二つだな。一つ目は、このボス戦に必ず生きて帰ってこれると自信があって、これからのために貯金しているのか。もう一つは、誰かに依頼されたかだ」
「依頼?…ああ、そうか…」

 ツカサの言葉に、キリトは納得した声を出した。確かに、二つ目の可能性は、辻褄が合う。もし誰かに依頼されたのだとしたら、買取の金は、キバオウに依頼したプレイヤーの物。キバオウはその金は使えないため、装備の新調もできなかった。


「だが、その可能性を考えると、また2つの疑問が出てくる。一つは、誰がキバオウに依頼したのか、そして、なぜそんな行動に出たのか」

 ツカサの指摘に、キリトはむむむ、とうなった。そう。その可能性を考えると、そこがわからないのだ。

「でも、一つだけわかることがあるよ」
「え?何?」
「その依頼主は、恐らくただのアニールブレードじゃなくて、“キリトの”アニールブレードを欲してる。ユニーク品でもないアニールブレードに+6まで強化されているとはいえ、4万コルという大金を払うだなんて、どう考えてもおかしい。このレイドの中にもアニールブレードを持ってる人は数人いるんだから」

「確かに、言われてみればそうだよな…うーん…」

 腕を組んで悩むキリトに、リアはふっと笑った。

「今はそんなに気にする必要はないと思う。どうせいずれ嫌でもわかってくるよ」
「そっか、それもそうだな」

 キリトはリアに微笑み返した。

 


 …それにしても、とリアは思う。これから死地の戦いに行くというのに、はしゃぎすぎではないか?絶えないお喋り、かなりの頻度で沸き起こる爆笑。緊張を和らげようとした無理な笑いではなく、心の底から楽しんでいる。その姿は、リアの遠い昔に行った、小学校の遠足を思い起こさせる。

 まったく、こんなことでよいのやら、とリアは首を振った。が、その時なぜか急に彼らの声がやんだ。前を見やると、彼らの目の前には、巨大な二枚扉がそびえたっていた。リアも初めて見る光景である。

 ツカサとリアが扉に彫り込まれたレリーフを見ていると、キリトがささやいてきた。

「リア姉、ツカサさん。攻略本を読んだならわかると思うけど、取り巻きのセンチネルは、体中を鎧で覆っていて、貫けるのは…」
「首の一点だけ、だね」
「そうだ。だから、俺がセンチネルのボールアックスをソードスキルで跳ね上げるから、すかさずスイッチで飛び込んでくれ」
「いや、それは俺がやるよ」

 割り込んできたのは、驚いたことにツカサだった。

「俺の主武器は長物だし、耐久値もアニールブレードより高いから」
「…分かりました、お願いします」

 役割分担が決まったところで、ディアベルの「行くぞ!」という短い掛け声とともに、レイドメンバーはボス部屋へとなだれ込んだ。


 



 初めて入るボス部屋。それは、リアの予想よりもかなり広いものであった。部屋の壁には、松明が赤々と燃え、ボスの姿を不気味に浮き上がらせる。

 2メートル以上あるだろうと思われる巨大な体躯。その肌は、血のように赤い。右には巨大な斧を、左には革を張って作られた盾を持っている。

 これこそが、第1層フロアボス、獣人の王“インファング・ザ・コボルトロード”。それが、A隊に斧を振りおろし、その攻撃をヒーターシールドで甲高い音を立てた瞬間、それが合図のように、一斉に戦闘が始まった。




 E隊、G隊が借り漏らしたセンチネルの攻撃を、ツカサが両手槍薙ぎ払い技“ストライクテイル”で、センチネルのハルバートをタイミングよく跳ね上げる。すると、センチネルが激しくのけぞった。これが、この世界の“パリィ”と呼ばれるものである。タイミングよく、相手の攻撃にソードスキルをあてると、大きな隙を作り出すことができるが、なにしろそのタイミングが難しく、慣れるまでには相当の時間がかかる。しかし、難無くこなしているツカサの戦闘センスがうかがえる。

 ツカサのスイッチ!という掛け声とともに、十分な助走をとったリアが走り込んできて、その体を宙に浮かす。弓なりになった体を一気に解き放ち、そして、センチネルのがら空きののど元へ、片手剣下段突進技“アステュート”を撃ち込むと、センチネルの体はポリゴンとして爆散した。

 この2人には、正直勝てる気がしない、とキリトは思った。戦闘センスの高さ、技術、そして基礎能力は、卓越したものがある。コンビネーションも完璧で、さすがとしか言いようがない。


 

 戦闘は、実に順調だった。コボルトロードのほうも、平均8割ほどのHPを保ちながら攻撃をしている。センチネルも、リアとツカサが驚く程のハイスピードで倒していくので、暇ができるほどであった。

 センチネルは、ここでしか湧かないレアモンスターであるので、多くの経験値を落とす。パーティーメンバーにそれは平等に振り分けられるのだが、言うほど戦闘をしていないキリトにも、大量の経験値が入っていく。と、その時…

「アテが外れたやろ。ええ気味や」
「なんだって?」

 後ろからキバオウの声がこそっと響き、キリトは言葉の意味が分からずに振り返った。

「ヘタな芝居すなや。こっちはもう知っとんのや、ジブンがこのボス攻略部隊にもぐりこんだ動機っちゅうやつをな」
「動機、だと?ボスを倒す以外に何かあるのか?」

 キバオウは、あまり大きくない目で、キリトをにらみ、吐き捨てた。

「わいは知っとんのや。ちゃーんと聞かされとんやで。…あんたが昔、汚い立ち回りでボスのLAをとりまくってたことをな!」

 確かに、以前はそうだった。キリトは、HPがギリギリになったところで、最大威力のソードスキルを叩き込み、LAをとることを得意としていた。だが、それはβテストの時の話である。

 キバオウは、キリトが元βテスターということおろか、昔のプレイスタイルまで知っているらしい。だが、キバオウは“聞いている”といった。つまり…

 キリトの頭に電流が走り、今まで不思議だったことがすべて合致した。ツカサの言う通り、キバオウは交渉を依頼されたのだ。だからこそ、キリトのアニールブレードを買い取ろうとした人物はほかにいる。そいつの目的は、強力な武器を得ることではなく、キリトがLAをとれないように戦力を欠こうとしたのだ。

「……キバオウ、そのことをあんたに話した奴は、どうやってβテストの時の情報を手に入れたんだ?」
「決まっとるやろ。えろう大金積んで、“鼠”からβ時代の情報を買ったんだわ。攻略部隊に紛れ込むハイエナを洗い出すためにな」

 その時、キバオウの後ろで、おお!という歓声が上がる。ボスのHPがいよいよラスト一本に突入したのだ。コボルトロードが長い雄たけびを上げ、それによってセンチネルが3体ポップする。

「雑魚コボ、いったいくれたるわ。あんじょうLAとりや」

 憎々しげにキバオウはキリトを一瞥すると、パーティーメンバーのほうへと去っていく。途中で、フードを深くかぶったリアとツカサも一緒に睨みつけながら。





「これでいろいろと謎が解けたね」

 おそらく、今の会話を聞き、キリトと同じところに行きついたのだろう、リアがキリトの隣に来る。

「ああ…あと一つの疑問は、誰がキバオウに依頼したかだ」

 そう。最後の謎はそれだ。いったい誰がキリトの戦力を欠き、LAをとろうとしているのか。

 そこで、キリトは一つのことに気が付いた。つまり…。
「LAを取りに行こうとしたプレイヤーが、そいつってことか…?」
「…あ、待って、やっぱり…」

 キリトのつぶやきが終わったと同時に、リアが声を上げた。彼女は真相にたどり着いたのだろうか。

 その時、頭にピピッという警告音が響く。センチネルにロックされたのだ。

「話はあとにして、まずはこいつを倒そう」
「わかった」

 ツカサが先ほどと同じように、センチネルのハルバートを跳ね上げ、リアがアステュートを叩き込み、続いてキリトがスラントを撃つ。クールダウンの時に、キリトがちらりと20メートルほど先にいるボスを見やると、そこには、最初にタゲをとった青髪のナイトが、初撃を迎え撃とうとしている。そこで、キリトの頭に、リアがあの広場で口に出した言葉が響く。彼女はディアベルに対し、「変な感じがする」といった。彼女は正しかったのだ。ディアベルは、元βテスターだということを隠してパーティーメンバーを引き連れているということになる。つまり、彼はメンバーたちに嘘をついていたことになる…。

 が、そんな思考のなかで、キリトは何かの違和感に気づく。それは、ボスの右手にある武器。それは、β時代のタルワールに実によく似ているが、それよりも少し細い。あれは、10層で戦ったモンスターの武器にそっくりで…

 その瞬間、キリトは叫んでいた。

「だめだ!下がれ!全力で後ろに飛べ―――!!

 だが、キリトの必死の叫びは、ボスを囲んでいるプレイヤーの誰一人の耳にも届かなかった。


 コボルトロードは、その巨体に似合わぬほどの速さで、垂直にとんだ。そして、その着地地点に、竜巻のようなものを巻き起こした。カタナ重範囲攻撃“施車”。それは、C隊全員のHPをイエローまでもっていく。だが、それで終わりではない。

 彼らの頭の上には、回転する黄色い光がある…スタンしているのだ。その効果は10秒ほどだが、即時のため、仲間が飛び込むしか対処方法はない。だが、誰も動けないでいた。そして、そのままコボルトロードは、次のスキルを展開させた。野太刀を地面すれすれの軌道から放ったのは“浮舟”。

 その名の通りに、ディアベルの体が宙に浮く。あの技を知っているキリトは、ああなったらどうしようもなく、体を丸め、防御に徹するしかないということを知っている。だが、そんなことを初見でやるのは無理だ。ディアベルは、空中で長剣を振りかぶり、ソードスキルを発動させようとするが、空中での不安定な動作のため、反応しない。

 ニヤリ、とコボルトロードは口をゆがめて笑い、スキルコンボ技を繰り出そうとする。







 その瞬間、キリトのコートを一陣の風がはためかせた。一瞬遅れて見やると、そこには、フードを深くかぶったプレイヤーが、キリトと同じアニールブレードを片手に、ボスに向かって疾駆していた。リアだ。


 上、下と、ディアベルは連撃を受ける。そして、最後の突きを放とうと、コボルトロードが腕を引くのと、リアが地面をけるのとほぼ同時。リアのアニールブレードが黄緑色に光り、弾丸のようなスピードで、宙に残像を残しながら迫る。あれは片手剣突進技“ソニックリープ”だ。射程はやや短いが、上に射程を向けられる。



 いける。キリトはそう思った。いや、ここにいる全員がそう思っただろう。






 …だが、無情にも、コボルトロードの突きまで、あとこぶし一つ分ほどの距離が足りなかった。それはディアベルにクリティカルヒットし、20メートルほど吹っ飛んで、センチネルと対峙していたキリトのそばの壁にぶち当たり、ずるずると落下する。

 キリトは、ツカサが跳ね上げたセンチネルに渾身の一撃を振るうと、爆散エフェクトが響くのを待たずに、ディアベルに向き直った。

 ディアベルは、一瞬顔をゆがめた後、わずかに唇を動かした。

「…あとは頼む、キリトさん。ボスを倒」

 言い終わることなく、その体はポリゴンのかけらとなった。





 
 
 

 
後書き
 はい、いかがでしたか?

 今回はかなり原作沿いでしたね…。

 ちなみに、設定として、この話の最後でリアの剣があとちょっと足りなくて、ディアベルを救えなかったじゃないですか。そのことが意識せずとリアの足かせになり、長剣を好むようになったというものがあります。


 そんなこんなで、次回はいよいよボス戦ラストです!お楽しみに! 
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