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真剣で納豆な松永兄妹

作者:葛根
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第八章 武装と言うより装備



「ついに完成だ。久秀君専用の機械――『九十九髪茄子《つくもなす》』が完成した。早速久秀君に渡さないとね」

松永久信は間違いなく天才である。
武芸者としては一般人と殆ど変わらない実力だが、技術者としては一流だ。
人体に存在する気と科学の結晶である機械を組み合わせられる世界でも稀な技術者である。
だからこそ、九鬼財閥は彼を技術屋としても雇うのだ。
勿論、本来の目的は別にあるのだが。

九十九髪茄子。
松永久秀の為に作られた鍛錬用装備である。
短期間でパワー、スピード、スタミナなどの全身体能力を引き上げる装備だ。
黒のインナースーツの腰には某ライダーが変身時に付けているようなベルトがある。
たったそれだけのシンプルな作りであるが、実は物騒な装備だ。
インナースーツには極小の機械が張り巡らされており、太い物は回路の様に浮き出ている。
ベルトを中心にその回路が蜘蛛の巣の様に描かれており、一見するとスパイダーマンの服装にも見える。
さて、肝心の機能はと言うとこれもまたシンプルである。
名にある文字通り、99%の気を常に使用して身体に負荷を掛けるシロモノである。
インナーに描かれた回路が全身から気をベルトに一旦吸収し、集めた気をベルトが重力負荷、加圧負荷などに転換させて回路に送る。
それが循環することにより、常に気が消費され、その消費された気が負荷となって返ってくるのだ。
分かりやすく例えるなら、某野球漫画に出てきた養成ギブスである。
気を使って戦う武芸者に例えるなら、全力全開で決闘して立っているのがやっとの状態が気の残量1%の体感だろう。
つまり、この九十九髪茄子を装備すると全力全開で戦った後の疲労感、気の消費を強いられる事になると言うことだ。

「一般人で言うとフルマラソンを合計50キロの重り付けて走れって感じかな?」
「ぐおっ! それ以上だぞ……これ。体感的に言えば100キロの男を背負ってる感じだし、殆ど気が出ない」
「それは、久秀君の気を使って重力負荷とかに転換してるからねー。ソレに慣れていつもと同じ動きができるようになれば……」
「間違いなく、慣れた後にコレを外したら総合的に伸びている、けど。しんどいぞ。男の子的に言うとオナニー4回した後くらいしんどい」
「燕ちゃんいないとオープンだね。寝る時とお風呂入る時以外に勝手に外しちゃだめだよ」

筋力トレーニングでも鍛えて休ませることによって超回復をさせる事で筋力が上がる。
効率良く鍛えるならこの装備を付けては外しての日々を送ったほうがいいのだ。

「今の状態だと、少し強い程度の武闘家にも負けるぞ……」
「3日もアレば慣れるよ。たぶん。日常生活くらいなら今日中じゃない? たぶん」
「たぶんかい! てか、燕ちゃんにはこの事は秘密か?」
「うん。そうだね。普通に鍛えるとは言えないからね。正直言って久秀君のデータ入力されてるから他の人がつけると死んじゃうかも」

急激な気の消費に身体への負担。
鍛えていない一般人ならたしかに押しつぶされて死ぬかもな。
いや、気の総量が多くなきゃ負荷も少ないから大丈夫かもしれない。

「死にかけて強くなるって、戦闘民族じゃないぞ……」
「漫画の話だね、懐かしいねー。でも発想的にはそれに近いよ。身体を限界ギリギリまで苛め抜いて回復して強くなる。人体の不可思議だね」
「せめて成長とか進化とか言え。この九十九髪茄子に慣れるまで川神院の稽古は休もうかな」
「怪しまれるから普段通りにしてよね」

家長命令ならば仕方ない。
今日が水上体育祭後の日曜で良かった。川神院の稽古も休みだし、何より水上体育祭でこんなもの付けていたら足手まといだったはずだ。
今日中にこの九十九髪茄子を身体に馴染ませよう。

「おっと、伝え忘れてた。緊急時にはベルトのスイッチ押せば一時的に機能停止するからね」
「ポチッとな。お、マジだ」
「いきなり押す?!」
「機能が正常に動くかの確認だ」

きっちり10分後に機能は復活した。



日曜午後。
九十九髪茄子を付けて散策しようと思う。
しかし、今の状態だと非常にまずい。
気の状態を探れる相手だと何かしら言われるに違いない。
要注意人物は川神百代か。
家はまずい。燕ちゃんがいつ帰ってくるかわからないからな。

誰かと遊ぶ約束をしよう。
候補は
・黛由紀江
・葉桜清楚
・源義経
・武蔵坊弁慶

燕ちゃんはどっかに出かけているので遊べない。
遊ぶ相手は俺に内緒だと言われたが相手は女の子らしい。
よって、あまり食いついてもさらに冷たくされるので敢えてあっさり引いておいた。
期末考査が近いが勉強の方は問題ないはず。
うむ。ここは運任せでブラブラと川神市を練り歩いてみるか。



家を出て数分して気がつく。
以前なら川神百代や燕ちゃんの気を探れば大体の位置を掴めたのだが、今はそれができなかった。

「身体が重い。気は出ない。好調とは程遠いが……」

歩く。
一歩、一歩、大切に。
精神修行のように。
初めて歩くように。

「とりあえず、腹が減った。どこかで飯にしよう。お? あの制服姿は――」

ポニーテールの後ろ姿。
源義経に声をかけた。



機械の力。
気と機械の融合
配点:(九十九髪茄子)

 
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