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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第138話「前世の因縁」

 
前書き
原作がリリなのなのに主人公や別キャラばかりが活躍している…。
クロノやユーノは見せ場を作りやすいんですが、なのは達主人公格が何故か活躍させられない……。一応、なのはは大活躍できる素質は既に出揃っているんですけどね。
 

 






       =out side=







   ―――ヒョォォォォ……!



「っ、また……!」

「おい!鳴き声が気になるのは分かるが、目の前に集中しろ!」

 手当たり次第に妖を殲滅しながら、帝が神夜に言う。
 性格で相性の悪い二人だが、戦力的には二人でも十分だとみなされたため、現在は二人で手を組み、街中の妖を倒して回っていた。

「だが、あれを見過ごす訳には…!」

「だからこっちを見捨てろって言うのか?変に悩むのも時間の無駄だ。さっさと手を動かせ!少しでも被害を減らすぞ!」

 手を割く余裕がないと、帝はきっぱりと言う。
 しかし、それでも神夜は見捨てられないと渋った。

「だったら、お前がここを請け負って、俺が助けに行く!そうすれば両方助けられるだろ?」

「クロノに言われた事を忘れたか!人手が足りなくても、一つ一つの安全性を高めるために俺達魔導師は複数人でいるように言われただろうが!」

「俺なら大丈夫だ!お前も、雑魚程度なら問題ないだろう!」

「敵がどれだけいるのかもわからないのに、迂闊な真似は……おい!!」

 帝の制止を振り切り、神夜は駆け出した。
 神夜にとって、それは正しい事だと思っていた。少々の危険を冒してでも、助けられる人は助けるべきだと。
 ……しかし、現状ではそれは愚策でしかない。
 敵の戦力、状況が把握できていない。相性もいい訳じゃない。
 そんな状況下で霊術も扱えない神夜が単独行動するのは危険でしかない。
 第一に、鳴き声の主が民間人を襲っているとも限らない。
 妖の生態を知らないのに突っ走っているだけなのだ。
 帝はそれがわかっていたから止めようとしたのだ。

「くそ、馬鹿野郎が……!っ、邪魔だ!」

 置いて行かれた帝は、追いかけようにも他の妖を相手にしなければならない。
 殲滅しながらなため、追いつくのは随分先になってしまうだろう。

「(普段なら良く思い切ったと言える行動だけど、よくよく考えりゃ、ただ敵の事も考えずに突っ走っている馬鹿なだけじゃねぇか……!)」

 今まで先陣を切っていた神夜。
 しかし、それは原作知識が当てにできたから上手く立ち回れただけの事。
 今回はそれが通用しないため、本当に愚策でしかなかった。















「…………」

 何とか那美の窮地を救った鈴は、目の前の鵺を睨み続ける。
 すると、頭の中に声が響く。悪路王の声である。

『……鵺、か。手助けはいらぬな?』

「……当然よ」

『では、吾は引き下がっておこう』

 鈴の返答に、悪路王は引き下がる。
 返答した鈴の目が、明らかに普通ではない感情が宿っていたからだ。

「……鈴ちゃん?」

「鵺……なるほど、通りで那美と久遠でもやられる訳ね……」

「っ!この妖を知ってるの!?しかも、鵺って…!」

 努めて冷静を保ちながら、鈴は現状を分析する。
 鵺の名に驚く那美も、その様子に押し黙る。

「そうだ、気を付けて!この妖、言霊みたいなので私達を……!」

「……ええ―――」



   ―――“届かなかった”



 那美の言葉に頷いた鈴の不意を打つように、鵺の精神攻撃が迫る。

「―――知っているわ」

「っ、これって……」

「精神干渉を防ぐ障壁。まぁ、普段の障壁を応用しただけよ」

 それを、鈴は片手を翳して張った障壁であっさりと防いだ。

「え……でも、そう言うのってどういった精神攻撃かよくわからないと無理なんじゃ……」

「……ええ。だから、()()()()()と言ったのよ」

「えっ……?」

 精神攻撃が防がれたからと、鵺は直接襲い掛かってくる。
 それに対し、鈴は斧を御札から取り出し、身体強化をして正面から受け止めた。

「…こいつの攻撃は、私が一番良く知っているわ!」

     ギィイイン!!

「那美!久遠!援護をお願い」

「え、あ、うん!」

「っ……!やっ…!」

 攻撃を逸らし、鈴は一喝するように指示を出す。
 請け負った那美は後方に下がっていつでも術が使えるようにし、久遠も雷を放って距離を取るようにした。

「っ、はっ!」

 振るわれる爪をひらりと避け、振り下ろした腕を斬りつける。
 さらに鈴は、その勢いのまま懐へ入り込み、腹を斬る。

「(浅い……やっぱり、霊力を纏わせた程度じゃ、厳しいか……)」

 しかし、その傷は浅いに留まり、飛び退いた鵺の霊術でその場を退かされる。

「くぅ!」

   ―――“雷”

「そこ!」

   ―――“神槍”

 すかさず久遠が雷を放ち、それを避けた所へ那美が霊術を放つ。
 どちらも躱されたが……。

「捕らえた!久遠!今だよ!」

「燃えて…!」

   ―――“紅焔”

 事前に那美が仕掛けておいた拘束術に引っかかり、動きが止まる。
 そこへ、久遠は間髪入れずに強力な炎を叩き込んだ。

「ォォオオオオオオオオオオン!!」

「っ、あれを耐えるの!?」

 しかし、鵺は大きな咆哮を上げ、その際に放出した霊力で炎を吹き飛ばす。
 久遠の霊術を耐えられた事に、那美は驚愕を隠せない。

「っ……!」

「鈴ちゃん!?そんないきなり突っ込んだら……!」

 黙って突貫する鈴に、那美は思わず声を上げる。

「……馬鹿みたいに声を上げる程、余裕を失くしたのね。どう?久遠の霊術は、お前の体を見事に焼いたでしょう?安心しなさい、トドメは私よ」

「ッッ……!」

 目の前に飛び上がり、刀を振りかぶりつつ鈴は鵺に言う。
 “生意気な”と鵺は思ったのか、それを飛び退いて躱し、鈴を睨んだ。

「鈴ちゃん……っ!」

「………」

 協力しようとしている時に、前に出ている鈴に那美は声を掛けようとする。
 だが、鈴は手で制した。“決着は自分が付ける”と言わんばかりに。

「……睨みたいのはこっちよ。……私の顔を見忘れたとは言わせないわよ!!鵺!!」

 復讐するかのような、それでいて黒くない感情で鈴は鵺を睨み返す。
 それは、一度負けた相手に、力を付けて再び倒そうとするような眼だった。

「その嘆きも、苦しみも、全て私が味わったものよ。我が物顔で使わないでちょうだい!」

「ッ!?」

 瞬間、鈴の足元が爆ぜる。
 否、厳密には爆ぜたように見える程、鈴は一気に駆け出したのだ。

「はぁっ!」

 駆け、刀を振るう。
 刃が鵺の皮膚を切り裂き、鵺は爪を振るってそれを振り払う。
 だが、鵺の攻撃は素早く飛び回り、躱される。

「は、はやっ……!?」

「くぅ……!」

 攻撃は悉く躱し、確実に反撃を繰り出す様を見て、那美は驚く。
 今まで、那美も鈴の全力を見た事がなかった故の驚愕だ。

     ギィイン!

「っ…!」

「ォオオオオオオオオン!!」

 しかし、全ての攻撃が躱せる訳ではない。
 爪の一撃を躱しきれずに、刀で受けて鈴は後退する。
 間髪入れずに鵺は咆哮を上げ、霊力による雷の雨を降らす。

「甘い!」

   ―――“速鳥”

 それに対して鈴は術で自らの脚を強化し、一気に肉迫する。
 ジグザクに飛び回る事で雷を次々と躱し、再び刀を振るう。
 まさに気焔万丈、獅子奮迅、疾風怒濤の如き勢い。
 何を彼女をそこまで駆り立てるのか、那美達にはわからなかった。

「っ、ぐぅっ!?」

「っ、鈴ちゃん!」

 だが、鵺もただでは終わらない。
 蛇の頭を持つ尻尾を生やし、手数を増やす事で鈴の体を捉えたのだ。

「くっ…!」

 吹き飛ばされた鈴だが、すぐに体勢を立て直して着地、即座に駆け出した。
 この時点で、那美にも久遠にも割り込む隙はなかった。
 完全に鈴と鵺だけで戦闘の空間が形成されていた。

「ぁああっ!!」

     ザンッ!!

 一際強力な斬撃を浴びせ、鈴は一度間合いを取った。

   ―――“東の方角を見ている”

「何を……」

「………」

 傷だらけになった鵺は、唐突に東の方角を見つめだす。
 いきなりのその行動に、那美は困惑する。
 ……そして。



   ―――“帰りたかった”



 嘆きの呪いが、その言霊によって振り撒かれた。









「―――いい加減にしなさい」

「っ……鈴、ちゃん……?」

「くぅ……」

 またあの言霊が来ると思って、身構えていた那美はふと気が付く。
 いつまでも来ない言霊の力に。そして、鈴が障壁を張っていた事に。

「その嘆きは、私のものよ。勝手に振り撒くんじゃない!」

   ―――刻剣“聖紋印(せいもんいん)

 そして、鈴は聖属性の霊力を刀に纏わせ、再び駆け出した。
 爪、尾の攻撃を体を捻る事で紙一重で躱し、そのまま脚の腱を斬った。

「……八重、技を借りるわよ」

   ―――“刀技・斬桜(ざんおう)

 体勢を崩した鵺の首元へと鈴は跳躍する。
 そして、桜が舞い散るように動き、連続で斬撃を浴びせる。

「……どうかしら?一度殺した相手に全てを上回られて負ける気持ちは?……って、もう聞こえていないし、聞こえていても理解できないか」

 “チンッ”と刀を収めた鈴は、首の落ちた鵺に問いかけるように呟いた。
 その顔は、どこか満足そうだった。

「鈴ちゃん!」

「那美、油断しちゃダメよ、全く…。私が気づいて来なかったら、鵺の言霊に呑まれていたわよ?」

「う……ごめん……」

「……まぁ、私もかつては同じような手口で殺されたのだけどね」

 そういって鈴が思い出すのは、前世での自身の死因。

「さて、とりあえず門を封じてから……移動しながら、情報を共有するわよ」

「う、うん」

 互いに、現状をどれほど知っているか知るために、情報を共有する。





「……完全に成り行きで戦ってたのね……」

「うん…。知り合いから、幽世の門が何かは少し聞いてたから、放置もできないし…」

「(……幽世の門を知っている知り合い?門について知っているのは、余程大きい退魔士の家系……それも上層部しか知らないんじゃ……?)」

 那美が言った知り合いの存在に、鈴は引っかかった。
 ちなみに、鈴は前世の記憶があるから知っているだけで、幽世の門について、現代の退魔士のどの層の人達が知っているのかは知らなかったりする。飽くまで予想の範疇だ。

「……那美、その知り合いって、何者?本来、幽世の門については余程の伝手がないと知りえないはずよ?」

「え……?幽世の門って、そんな機密情報だったの!?それに、鈴ちゃんって幽世の門について知ってたんだ!?」

 聞き返してみると、驚いた返事が返ってきたため、ますます鈴は混乱する。

「…まぁ、私には事情があるから……それより、質問に答えてないのだけど…」

「あっ、ごめん…。えっと、式神に似た存在である、式姫の子から教えてもらったのだけど…」

「っ、式姫がいるの!?」

「わぁっ!?」

「あ、ごめんなさい……」

 まさかのワードに今度は鈴が驚いてしまう。

「式姫の事も知ってるんだ……」

「……那美が成り行きとは言え戦い続けている理由がなんとなくわかったわ。事情をある程度知っていたのね…。いいわ、次は私の番ね」

 なぜここまで知っているのか、那美も疑問に思った。
 それを悟ってか、鈴は経緯を話すついでに身の上の事も話す事にした。

「さて、那美は何が聞きたいかしら?そこから答えていくわ」

「えっと……じゃあ、鵺との戦闘で気になったんだけど……鈴ちゃんは鵺と会った事があるの?あんなに感情を露わにするなんて、見た事がないよ…?」

「……そこからね。まぁ、話しやすくなるから助かるわ」

 中途半端な部分からだと、中途半端な部分から話す羽目になるため、最初から話し出せるであろうその質問は鈴にとって都合が良かった。

「さて、いきなり根幹の話になるけど、まずは一つ。霊力が劇的に増える場合は、どんな時だと思う?」

「え、ええ?いきなり問題?……えっと……」

「答えは“死”を経験する事。例えば臨死体験をしたりね。だから、幽霊は軒並み霊力を持っていて力を振るってくるの。……そして、それが私を強くしている理由」

「え、と、つまり……?」

 遠回しな言い方だったため、那美は頭に疑問符を浮かべる。
 ちなみに、久遠は話について行けないと早々に諦めて周囲の警戒にあたっている。

「……私は、一度死んだ身なの。厳密には、一度死に、幽霊となり、そして生まれ変わったのよ」

「え、ええ……?」

「前世の名は草柳(くさなぎ)鈴。江戸時代、陰陽師をやっていたわ。ちなみに、容姿もあんまり変わらないわよ?」

「ちょ、ちょっと待って!いきなりすぎて整理が…!」

 あまりの情報量に那美は混乱する。

「要は江戸時代の陰陽師の生まれ変わりなのよ。前世の記憶を持ったままの…ね」

「……そんな事、本当にあったんだ……」

「まぁね。私もどうしてこうなったのかは分からないけど。これが私の力の源って訳ね。前世での経験と、生まれ変わったという事実が、私をここまで強く見せてるの」

「なるほどぉ……」

 合点がいったような、いかないような。
 整理しきれていない頭で那美は漠然と理解した。

「…話を戻すわ。私が鵺と会った事があるかって話だけど……もちろん、会った事があるわ。それも、今回と同じく門の守護者としてね」

「じゃあ、さっき言ってた“その嘆きは私のもの”って言うのは……」

「……鵺はね、ある一人の陰陽師を殺し、その力を取り込む事に成功したの。その陰陽師は殺された時、痛みも、苦しみも、嘆きも味わされたの。…でも、泣く事さえ、許されなかった」

「え……?」

「思念だけが鵺の中に残されて、ずっと皆がいる場所に帰りたがってた。……終ぞその願いは叶わなかったけどね」

 どこか遠くの出来事を思い出すように、鈴は語る。

「陰陽師の力を取り込んだ鵺は、さらに脅威を増したわ。何せ、取り込まれた陰陽師にとって“死をもたらした妖”そのものだもの。その事実もあって、並の陰陽師では絶対敵わなくなったわ。……それが、さっきのあの言霊」

「あれが……あの、悲しい、“声”が……」

「……まぁ、その後一人の陰陽師と、その陰陽師が従えた式姫によって倒されたのだけどね」

 そういって鈴が思い出すのは、一人の妹弟子。
 それと、彼女が従えていた、素直じゃない優しい草の神と、彼女をお嬢様と呼び慕う天狗、薔薇の名を冠する吸血姫、慈愛の力を扱う姫と言った式姫を想起する。

「……もしかして、その、取り込まれた陰陽師が……」

「……そう。それが私。それ以来は、幽霊として留まっていたのだけどね」

「だから、鵺に対してあそこまで……」

「別に、もう気にする必要はないわよ。私としても、あの時の報いを与えられて満足しているし」

「……そう、なんだ」

 本人が気にしていないなら、いいのかなと、那美は自己完結する。

「簡潔に纏めれば、私が幽世の門とか式姫について知っているのは、元々当時の人間だったからって言うのに限るわね。だから、色々知っているの」

「だから私が知らない霊術とか、私の知り合いが使ってる霊術とかも使えたんだね」

「そう言う事」

 ずっと謎だった鈴の生い立ちが判って、那美はどこか腑に落ちた気持ちだった。

「……って、そうだ。忘れてた。鈴ちゃんの生い立ちが分かったのは良いけど、幽世の門が開いてからどうしてたの?一瞬で私の所に来てたけど……」

「あー、そうね…。妖の情報については、夜中の時点で出てたのは知ってるわね?」

「うん」

「その時点で至急の指令が私に下されてね。青森の方まで行ってたの。そこにあった門の守護者の大鬼を倒して門を封じて、次に岩手県まで下って……悪路王って言う妖に協力を持ち掛けたの」

「悪路王……?」

 “さすがに現代ではあまり知られてないか”と思い、鈴が説明しようとして…。

「……ふん、陰陽師も弱くなったものだな」

「っ……!?」

「くぅ…!」

 その場に悪路王が顕現した。

「……貴方、態と驚くように出たでしょ?」

「肝が据わっていれば大した事はないはずだ」

「……実は、名前が知られてなくて何か思ったりした?」

「………そんな事はない」

 若干間があった事に、何か思ったりはしたのだろうと鈴は結論付ける。

「那美、久遠、あまり警戒しなくてもいいわ。彼がその悪路王。私が戦って勝ったから、その見返りとして協力してもらっているの」

「………」

「く、久遠、そこまで警戒……怯え?なくても……」

 体を若干震わせながらも悪路王を見る久遠に、那美は何とか宥めようと声を掛ける。

「悪路王。今は以前程魑魅魍魎が跋扈している訳じゃないの。使う機会が減った力を、いつまでも保てると思わないで」

「……ふん。まぁ、吾には関係ない事だな。しかし、これでは門に対抗する力が不足しているのではないか?そこの妖狐を除いてな」

「…だから貴方に協力を求めたのよ」

 溜め息を吐きながら鈴はそういった。

「……鈴ちゃんが色々やってたのは分かったけど、ここまでどうやって…?岩手県にいたんだよね……?」

「那美に以前渡した御札があるでしょう?それが那美の居場所を知らせる役割を持っていてね。そのおかげで伝心もできるし、いざとなれば転移もできるの」

「これが……」

 懐から一枚の御札を取り出す那美。
 これで、ようやくお互いの情報が共有できた。

「……情報の共有はできたようだな。では、吾はまた憑かせて……む!」

「はぁああっ!!」

     ギィイイイン!!

 再び鈴の右目に憑こうとした悪路王に誰かが斬りかかってくる。
 咄嗟に悪路王は刀でそれを防ぐが予想外の力に若干後退した。

「っ、今度は何!?」

「……どうやら、早とちりされたようだな」

「…あー、妖には変わりないからね。仕方ないと言えば仕方ない……かな?」

 驚く那美と、冷静に分析する悪路王。そして納得して呆れる鈴。
 三者三様の反応を示し、斬りかかって来た人物……神夜を見る。
 ちなみに、久遠も那美を守るために動いて警戒していた。

「三人から離れろ悪路王!!」

「……ふん、吾を知っていて攻撃してきたようだが……粋がるな小僧」

「っ!」

     ギィイイン!!

 鍔迫り合いから、悪路王は一気に押し返す。
 鬼と人間では、当然の如く鬼の方が力が強いため、神夜は大きく後ろに下がった。

「ん……?」

 その時、ふと神夜の目を見た鈴は違和感に襲われる。
 どう言う事かと首を傾げていると、マーリンから声が掛かった。

〈っ……!気を付けて、鈴〉

「…?マーリン?」

〈あの少年、精神干渉……魅了を無自覚で使っている。ボクは精神干渉ができる存在を基にした人格だから大丈夫だけど、鈴や彼女達は……〉

「……あぁ、さっきの違和感はそう言う事」

 そういって、鈴は胸に手を当てて何かを確かめる。

「……大丈夫よ。これでも私、生前の経験から精神干渉に耐性が出来てるし、念のために体に埋め込んでおいた術式が干渉を弾いていたみたいだし」

〈……そうか。でも、彼女達は……〉

「見た感じだと、平気そうだけど……」

 神夜からの攻撃をいなし続けている悪路王を横目に、鈴は那美と久遠を見る。
 困惑している様子だったが、魅了を受けている節はなかった。
 ……当然である。二人はとっくに司の魔法で魅了を受け付けなくなっていたのだから。

「ちょ、な、なんでこんな事に!?」

「那美、那美」

「す、鈴ちゃん、この戦いを止められないの!?」

「…あー、止めようと思えば止めれるけど……」

 鈴からすれば、神夜がどんな存在かわからない。
 ましてや、魅了を無自覚と言えど使ってくる相手だ。信用できない。
 一応、勘違いとは言え助けるために襲ってきたのだから、味方か敵か判断しかねているのだ。

「……一応、聞くけど。那美、襲ってきた方って誰か知ってる?」

「…うん、一応……だけど。魔導師って言って、以前私がちょっとした事件に巻き込まれた時に、偶々知り合ったの」

「……そう」

 ダメ元で聞いたとは言え、まさか知っているとは思わなかった鈴。
 しかし、知り合いであれば、止められるだろうと判断した。

「(尤も、魅了を使うという時点で信用できないのだけどね。……それに、魔導師か…。あー、転生者を連想するなぁ…)」

 だが、憂いがなくなった訳ではなく、なんとなく気が進まなかった。
 その間にも、悪路王と神夜の攻防は続く。

「くそっ、これでどうだ!」

「むっ…!」

 武器での斬り合いでは埒が明かないと判断した神夜は、砲撃魔法を使う。
 霊術ではないその攻撃に一瞬驚く悪路王だったが、即座に刀に霊力を込め、両断する。

「……阿呆か」

「っ、なんだと!?」

 いきなり罵倒され、強く言い返す神夜。

「お前は助けに来たつもりで吾を襲ったのではないのか?」

「当たり前だ!」

「ならば、なぜ吾の後ろにいる二人と一匹を巻き込むような技を使った」

「っ……!」

 その言葉に、神夜は動揺する。
 …そう。今の砲撃魔法は、悪路王が斬らなければ鈴たちにも被害が出ていた。

「……ふん、正義と偽善を履き違えた愚者でしかなかったか」

「ぐ……!」

 巻き込みかねない攻撃をしたのは事実だ。
 だからこそ、神夜は何も言い返せなかった。

「く、くそぉおおおお!!」

「早とちりはともかく、巻き添えを顧みず、破れかぶれになるなんてね」

     ギィイイン!!

「なっ…!?」

「……悪いわね悪路王。無駄な戦いを避けるためにも、介入させてもらったわ」

「好きにしろ。吾とて、好き好んで戦っていた訳でもない」

 やけくそになったのか、再び斬りかかろうとする神夜。
 そこへ、鈴が割り込んでその攻撃を防ぐ。

     キィン!

「……ふぅ、魔導師と言うのは、こうも血の気が多いのかしら?まったく…」

「な、なんで庇ったりなんか……」

「味方を庇うのは当然でしょう。悪路王、今度こそ戻ってていいわよ」

「そうか」

 今度こそ悪路王は再び鈴の右目に憑いた。
 それを見て、神夜はさらに驚く。

「さて、私達からすればいきなり勘違いして斬りかかってきた事になるんだけど……そこの所、どう説明するのかしら?那美との知り合いらしき人?」

「っ……あ、あいつは妖だ。今日本を脅かしている妖の一人なんだ!だから、倒そうとするのは当然だろ!?」

「それが早とちりだって言うのよ。まったく……那美、魔導師はこんな奴ばっかりなの?」

「えっ!?え、えっと……あまり詳しくはないけど、そんな事ないと思うよ?退魔士と同じで一長一短だと思うけど……」

「あー、なるほどね……」

 那美の言葉を聞いて、再度溜め息を吐く鈴。
 とりあえず、どうこの場を収めていこうか思考するのだった。











 
 

 
後書き
気焔万丈、獅子奮迅、疾風怒濤…どれもかくりよの門にて特性(ステータス変化系スキル)として存在する。詳しい効果はwiki参照。

鵺の記憶…前回紹介していなかった妖。とある陰陽師(鈴)の力を取り込んだ妖で、技名が全てどこか物悲しい名前になっている。なお、鈴にとってそれらの感情は全て自分のものなので色々許せなかった模様。

聖紋印…聖属性を付与し、強化するスキル。本編では、基本的に呪い系の相手に良く効くようになる。所謂浄化系バフ。

刀技・斬桜…斬属性依存の全体技。敵対象が少ない程威力が上がる。桜が舞い散るような動きで連続で切り裂く技。

八重…鈴(前世)の同期。かくりよの門では武士(盾キャラ)なので刀での戦闘が強い。割と食い意地が張っているらしい。

鈴が思い出した式姫…内三人は本編or閑話で登場している。なお、作者が実際にプレイしていた際のパーティーとは無関係。


鈴の苗字はオリジナルです。かくりよの門では名前しか出ていないので。
ちなみに、鈴は色々詳しいですが、設定としては幽霊だった時に主人公から色々聞かされています。主人公がいなくなった後は、主人公の知り合いや式姫が訪れて、いなくなった事などを伝えられたため、詳しいという設定です。主人公以外は碌に鈴の姿も見えないので一方的な言伝でしたけど。 
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