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ソードフィッシュ

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第一章

               ソードフィッシュ
 ドイツ海軍の将兵達はイギリス海軍の艦載機を見て歯噛みしてこう言った。
「艦載機があるのか」
「もう空母を実用化しているか」
「嫌な相手だな」
「空を抑えられると辛いぞ」
 こう言って歯噛みするのだった。ヒトラーもイギリス海軍の空母と艦載機を見て海軍長官であるレーダーにこう言った。
「我が国も空母を持てないのか」
「今開発中です」
 レーダーはすぐにその髭だらけの顔で答えた。顔の下半分を覆っているその顔は如何にも海の男といった感じだ。
「もう少しお待ち下さい」
「グラーフ=ツェッペリンだな」
 ヒトラーはその艦艇の名前を言った。
「そうだな」
「はい、そうです」
「ゲーリングは艦載機を回しているか」
「いえ」
 レーダーはヒトラーのその問いに否定で答えた。
「航空相はどうも」
「パイロットもだな」
「はい、回してくれません」
「そうか。しかしイギリスは」
「空軍が何とか回した様です」
「それであるのだな」
「その通りです」
 レーダーは厳しい顔でヒトラーに述べる。
「ですから建造も艦載機とパイロットの調達も」
「空母は難しいか」
「実に」
「他にも何かと難しい点が多いな」
 ヒトラーは己の椅子で腕を組んで言った。
「だがあれは脅威だ」
「今後我が軍の厄介な敵になります」
 レーダーの危惧は当たった。実際にだ。
 イギリスの通商航路を破壊させる為に出撃させたビスマルクが撃沈された。その殊勲を挙げたのはソードフィッシュだった。
 そのソードフィッシュの水雷攻撃で足をやられそこを集中的にやられて沈められた、これはドイツ軍にとっては痛いダメージだった。
 ヒトラーはそのソードフィッシュについても言った。
「厄介な魚だな」
「全くです」
 レーダーも応えて言う。
「お陰でビスマルクが」
「空を制する者が戦いを制する」
 電撃戦然りだ、ヒトラーもそれでこれまでの戦いを勝ってきてから言えることだった。
「今度はイギリスがそうしたのだ」
「そういうことですね」
「あの魚、そして空母を我々が持っていれば」
 ヒトラーは苦い顔でこうも言う。
「違っていただろうがな」
「残念なことです」
「空母と艦載機か」
「それがビスマルクを沈めました」
 ドイツ海軍にとってソードフィッシュは厄介な敵だった。そしてイギリス海軍の方もこの艦載機を誇りにした。
 二枚羽根のその艦載機を見て彼等は言うのだった。
「こいつがビスマルクを沈めるきっかけを作ってくれたからな」
「よくやってくれたよ」
「いい魚だ」
「ロイヤルネービーの守り神だな」
「ああ、そうなってくれてるよ」
 こう笑顔で言うのだった。
「まあドイツ海軍の戦艦は少ないしな」
「潜水艦が厄介だけれどな」
「戦線は太平洋だな」
「海軍はそこに行くことになるみたいだぞ」
「日本とも戦争になることは避けられない様だ」 
 戦局がそうなっていた。それでだった。
「じゃあこいつは今度は太平洋でだな」
「派手に暴れてくれるな」
「ドイツを破ったんだ、日本が何だ」
「大した相手じゃないさ」
 彼等は日本をドイツより格下、海軍でもそうだと思っていた。それで確信を持ってこう言っていたのである。 
 そのうえで太平洋に海軍を送る計画を立てていた。やがて日本と実際に戦うことになった。  
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