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男艦娘 木曾 前日談~提督 大輝と秘書艦 唯~

作者:V・B
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第一話

 
前書き
どうも、本編スタートです。 

 

  
酷い母親だった。
 
父さんを捨てて、他の男の所に行きやがった。僕の父さんは確かに奥手で気弱な人かも知れないけど、僕らのことを第一に考えてくれてたじゃないか。
 
可哀想な父親だ。
 
母さんに逃げられて、男手一人で僕を育てようとしてくれた。仕事もあって忙しいだろうに。
 
そして、親不孝者な僕、神谷 大輝(かみや だいき)だ。
 
僕はそんなことを考えながら、殆ど変わることの無い窓の外の景色を見る。毎日変わらない木と、たまにその木に止まる鳥。僕は毎日それらを見ていた。最近はやけに五月蠅い蝉の声を聞いていた。
 
「…………はぁ。」
 
僕は溜め息をすると、ベッドに寝転がった。外の景色を見るのに飽きたからだ。
 
…………ここに来てからもうすぐ三ヶ月になろうとしている。
 
真っ白なカーテン、たいして面白くないテレビ。毎日が退屈で仕方ない。僕と同じくらいの年の子なら外で遊んだりするのだろう。
 
でも、僕にはできない。
 
所謂病気ってヤツだ。
 
小児がん。
 
…………担当医の先生は、ハッキリ言ったさ。
 
『長くない』って。
 
ふぅん、って思った。
 
あー、僕はもうすぐ死ぬんだって、案外すんなり受け入れることができた。勿論、それは僕だけの話であって、父さんはすごく泣いた。
 
ごめんなって、僕に謝るんだ。
 
別に父さんのせいなんかじゃ絶対に無いのに、なんで謝るのか僕には分からなかった。
 
そして、担当医の先生は僕にこんなことを聴いてきた。
 
『ちょっとでも長く生きるか、人らしく死ぬか。』
 
僕は少しだけ悩んだ。あんな母親に育てられたせいか、僕はだいぶひねくれた性格になってしまっているらしい。友達と言える人が殆ど居ない。
 
だから、人として生きるってのはやめた。ちょっとでも長生きしようと思った。
 
なぜか、父さんはホッとした顔をしていた。
 
父さんは、毎日ちゃんとお見舞いに来てくれる。色んな本を買ってきてくれたりしてくれる。本は嫌いだけど、父さんのことは嫌いじゃないから、ありがとうと言って全部読んだ。
 
父さん以外には…………一人しか、来てくれない。
 
「こんにちは、どう?調子は。」
 
そいつは、ナイスタイミングでやって来た。
 
カーテンのスキマからひょこっと顔をだしたこいつは、篠崎 唯(しのざき ゆい)。僕の幼馴染みで数少ない僕に話しかけてくる奴だ。腰ぐらいまで伸ばした髪に、メガネ。さらに、小さい頃から気に入っているカチューシャを付けている。
 
「いらっしゃい、今日はだいぶ楽だよ。」
 
僕はそんな風に言いながら体を起こす。唯はベッドの側に置いてあるイスに座る。
 
「うん、顔色もよさそうだね。酷いときは真っ青だもんね。」
 
「見せないようにはしてるんだけど…………やっぱり無理か。」
 
僕はそう言って軽く笑う。
 
「…………当たり前じゃない。これでも七年間位の付き合いなんだから。」
 
唯ちゃんはそう言って、笑わなかった。
 
僕は敢えてそれを無視して外を見る。
 
「外は暑い?」
 
今は七月の後半。今の僕が外に出たら暑さですぐダメになるだろう。
 
「うん、かなり。もう汗かいちゃって仕方無いよ。」
 
そのわりに唯からはいい匂いがしてる。制汗剤でも使ってきたのだろう。マメな奴だ。
 
「そうそう、これ。看護婦さんには見付からないようにね?」
 
唯ちゃんはそう言うと、持っていたカバンの中からポテチの袋を取り出す。唯ちゃんは日替わりで何らかのお菓子を持ってきてくれる。
 
「ありがと。どこに隠しとこうかな…………。」
 
僕はそう言いながら周りを見渡して、布団の中に入れた。
 
「ねぇねぇ、今日何か私に言うこと無い?」
 
唯ちゃんはそう言いながら、ベッドに両手を軽くおいた。
 
さてと、一体何だったかな。僕の誕生日…………ではないな。僕の誕生日は三月だ。それで、唯ちゃんの誕生日でもない。唯ちゃんの誕生日は六月だ。
 
…………あれ、学校の終業式って昨日だったよね。昨日その話をしたはずだ。
 
……日にち関係では無いのかな?
 
そうなると、今度は唯ちゃんを見てみる。何か、誉めて欲しいのかも知れない。
 
…………ダメだ。服装以外の変化が分からない。
 
「…………降参です。正解は?」
 
僕は観念して言った。
 
「もうっ、気付いてよ!ほら、髪の毛!八センチ切ったんだよ!」
 
「分かるかよ!」
 
いや、確かに昨日より短くなってるよ。それは認めよう。けどな?流石にそれに気付く男って気持ち悪いだろ。
 
「えー?でも大輝のお父さんは気付いてたよ?」
 
「ウチの父さんはノーカンだ。」
 
そんな、いつも通りの何気ない会話。僕が一日で、一番楽しみにしている時間。

僕が生きている間は、こうやって唯ちゃんと話せる。ある意味、その為に長生きしたいって頼んだのかもしれない。
 
でも、多分だけど、僕ももう長くないんだろうなって思う。多分、最後の夏なんだろうとは、前々から思ってた。
 
「…………海に、行きたいな。」
 
僕は何気無く、ボソッとそう言った。
 
「え、なに?海?」
 
「あぁ、うん。ほら、行ったこと無いからさ。ちょうど夏だし、行きたいなぁって。」
 
僕は本心からそう言った。父さんは毎日忙しくって、遠出とかはできなかった。映像で見たことは何回もあるけど、実際に見たことはない。
 
死ぬ前に、一回は見てみたい。
 
「…………うん、そうだね。」
 
唯ちゃんは、明らかに悲しそうな顔をした。
 
…………僕は、あと何回、唯ちゃんと会えるんだろうか。あと何回、唯ちゃんと話せるんだろうか。
 
答えてくれる人は居なかった。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
「失礼ですが、貴方が神谷 大輝さんですか?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―だって、まだ生きれたんだから。
 
  
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。次回から、話が大きくうごきます、待て次回。

それでは、また次回。 
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