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KAMITO -少年篇-

作者:redo
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サスケ開眼

千本による連続攻撃は途切れることなくカミトとサスケを狙い続けていた。

執拗なまでに狙い打ちにする白は、皮膚を削り、血を流させ、徐々に2人の体力を奪い続ける。

しかし、カミトもサスケも負けず劣らず攻撃を避け続ける。

愛用の刀である《千切斬》を右手に握り、手際良く振り回す。カミトは自分に向かってくる攻撃だけでなくサスケに向かう攻撃すらも払い除ける。しかし、全てを避け切れるわけもなく、2人の体のいくつかの箇所に千本が刺さり、血を流している。

敵の手から離れていく千本。その瞬間を狙い、千切斬の刀身で寸分(すんぶん)の狂いもなく千本の軌道を遮る。

キッ!キンッ!!と鮮やかな火花が散り、緑色に輝く刀身の表面に弾けた。それを意識した時はもう、カミトの右腕は眼で捉えにくいほどの速さで動いており、次々と迫り来る千本を弾き返す。再度、刀と千本がぶつかり合う衝撃音が響く。

だが__。

サスケを庇いつつ、防戦ばかりになっている。カミトは未だ感知能力を駆使してるが、白の本体の居場所はまだ掴めず、攻撃を仕掛けることもできない。かと言って無闇に忍術を発動させて、チャクラを消費するわけにもいかない。

「サスケ!急かすわけじゃないけど、速いとこ答えを導いてくれ!」

「わかってる!あと少しで何か掴めそうなんだ!だからお前も集中してろ!」

焦りが生まれたカミトに、サスケが言葉を返した瞬間。

「それは結構なことですね」

再び白の無慈悲な攻撃が2人を襲う。

「チャクラを感知しようとしても無駄ですよ。僕は今までにも感知タイプの忍を腐るほど始末してきましたからね。感知タイプへの対策は万全。付け焼き刃な君の感知能力では、僕の術は看破できませんよ」

鏡の中からカミトを見下し、牽制する。

「そういう台詞は、相手を倒した後の使いなよ」

カミトは両眼を閉じ、今まで以上に全神経を集中させる。

視線が暗闇に包まれる中、辺りにはまるで静かに揺らぐ炎のように、複数の白のチャクラが感じ取れる。

「隙だらけですよ!」

その刹那、白が再び千本を投げる。

しかし、カミトは眼を瞑ったまま右腕を動かし、千切斬を振り翳した。

キンッ!キンッ!!

「何!?」

眼を瞑っていても、相手の動きは手に取るようにわかる。これも感知能力の利点だ。

「サスケ……まだか?」

苦痛に歪む顔で懇願するカミトに見向きもせず、サスケは頭をフル回転させていた。

(考えろ……こういう術には必ずトリックがあるもんだ。それにこの違和感、絶対に何か見逃してる。考えろ……考えろ……)

サスケはパニックに陥ろうとする己の精神を落ち着かせながらも、必死に答えを導き出そうとする。

「何を考え込んでいるかは知りませんが……無駄ですよ」

最初にカミトに使った手口と同じ、精神的にサスケを追い詰めようと冷徹な言葉をかける。

カミトは透かさず千切斬を構え、庇うようにサスケの横に立つ。

(そういえば……)

ふとサスケは、白の言葉を思い出した。

―この術は、僕だけを写す鏡の反射を利用する移動術。僕のスピードから見れば、君達はまるで止まっているようなもの―

(鏡……奴だけを写す……)

その時、サスケの脳内に稲妻が打たれたかのような衝撃が走り、パッと閃いた。

「……そうか……そういうことか!」

「……やっと答えが出てくれたか」

突然、肩を震わせたサスケに、カミトは心配そうに顔を覗く。

「わかったぜ……お前の術の正体!!」

「ん?」

サスケは鏡の中の白に鋭い目を向ける。白はその眼光に一抹の不安を覚えた。

(わかった?……まさか、あり得ません!)

その不安を振り払うように白は再び千本を構えた。

「来い!」

サスケの雄叫びが辺りに響き渡った。











一方、未だ写輪眼を隠す額当てを上にずらさず、左手を添えたままのカカシ。

「ふっ」

再不斬が不気味な笑みを浮かべた拍子、どこからかクナイを1本取り出した。

「なっ!?」

透かさず再不斬は、驚愕の表情を浮かべるカカシに向かって突っ込む。そして右手に持ったクナイの切っ先を右目の写輪眼に突き付けた。

「先生!」

グサッ!という生々しい音が響き渡り、クナイがカカシの右目に突き刺さったと思ったサクラが声を上げる。

しかし__カカシは咄嗟に右の掌で再不斬のクナイを受け止めていた。

距離が縮んだ2人の足元に、掌から流れるカカシの血が滴り落ちる。

「芸はないと凄んでも……やはり写輪眼が怖いか……再不斬!」

「ふふふ……忍の奥義ってのは、そう何度も相手に見せるもんじゃねぇだろ」

カカシは痛みに顔を歪ませることもなく、再不斬を睨みつける。

「感謝しろ。二度もこの眼が拝めるのは、お前が初めてだよ。そして……三度目はない」

「ふっ……仮に俺を倒せたとしても、お前は白には勝てねぇよ」

固唾を飲んでカカシを見守っていたサクラは、再不斬の言葉に肩を震わせた。

(カカシ先生が勝てないって……?あのお面の子、そんなに強いの?)

サクラは、今も白と戦い続けていると思われるカミトとサスケの所に眼を向けるが、深い霧のせいで2人の姿は捉えられず、状況も把握できない。見えるのは、白が作り出した不気味な氷の鏡ドームのみ。

「俺はあいつがガキの頃から、徹底的に戦闘術を叩き込んできた」

その時、再不斬の脳裏に、白との修行の日々の記憶が蘇る。

「俺の持てる全ての技術。更に……奴自身の技をも磨き上げた。その結果、あいつは……どんな信じがたい苦境の中でも、常に成果を上げてきた。心もなく、《命》という概念さえ捨てた。《忍》という名の、戦闘機械だ。その上、奴の術はオレすら凌ぐ。血継限界という名の、恐るべき機能」

再不斬は得意げな薄ら笑いでカカシを嘲笑する。

「俺は高度な《道具》を獲得したわけだ。お前が連れてる廃品(スクラップ)とは違ってな」

再不斬はギリギリと、カカシに突き刺したクナイを持つ手の力を強める。

「サスケ君!カミト!そんな奴に負けないでぇ!!」

廃品。そう言われてサクラは我慢できずに声を荒げた。

「ふん……哀れな小娘だ。やはりお前らみたいな平和ボケした里じゃ、本当の忍は育たない。真の忍は、殺し合いという狂気の中で育つものだ」

侮辱にも等しい言葉にカカシは表情1つ崩すことなく、再不斬を見据える。

「確かにそうかもな。だが…。俺も言ったはずだ。俺はあいつらを信頼していると。他人の自慢話ほど退屈なものはない。それに、部下を道具扱いするようなクズに……勝ちはない!」

カカシは左手で額当てをずらし、ついに写輪眼を見開いた。同時に再不斬のクナイを振り払い、距離を取る。

「まぁ、待て。話ついでに、もう1つ自慢話をしてやろう」

「ん?」

不吉な予感がするような言葉に、カカシは一旦動きを止めた。

「この前の戦い……俺はただバカみたいにお前にやられてたわけじゃない。傍らに潜む白に、戦いの一部始終を観察させていたわけだ。白は術だけでなく頭も切れる。大抵の技なら、一度見ればその分析力によって、対抗策を練り上げてしまう」

対策__それは。

「水遁・霧隠れの術」

再び濃い霧が辺りを包み込む。再不斬は前回の戦いと同様に、霧の中に身を隠した。初めから霧に包まれていたせいか、更に濃くなった霧で視界はほとんどゼロだった。

「サクラ!タズナさんについてろ!」

霧が完全に濃くなる前に、カカシは命令を下した。

(……そうよね。今はサスケ君にカミト、それにカカシ先生を信じて……わたしのやるべきことをやらなきゃ!)

状況次第で臨機応変に対応するのは、よくあること。サクラはすぐさま納得し、タズナを目掛けて駆け出す。

「ふふふ……カカシ、お前の台詞を猿真似して返してやりたくて、ウズウズしてたんだぜ」

どこで喋っているのかわからない再不斬の不気味な声が霧中に響き渡る。

「《言っておくが、俺に二度同じ術は通用しない》……だったか」

再不斬の声をカカシは耳を澄まし冷静に追いかける。

(霧が濃すぎる。これじゃ再不斬自身も何も見えないはず……)

その拍子。

シュシュシュ!と風を切る複数の金属音が、カカシの耳に届いた。透かさずカカシは太股のホルスターからクナイを取り出し、風を切って飛んできた複数の手裏剣を振り払った。

この視界の悪さで正確に手裏剣を投げてきた再不斬に、カカシは焦りを隠せなかった。

「よくぞかわした。……さすがは《写輪眼のカカシ》だ」

突如、背後から聞こえた再不斬の声にカカシは瞬時に体を後ろに向けた。

そこには__。

(こいつ……!?眼を閉じてやがる!)

瞼を完全に瞑った再不斬の姿が見て取れた。

「惜しかったなぁ、カカシ。お前は写輪眼を過大評価し過ぎた」

「何……?」

そう言うと、再不斬はまたスウッと霧の中に姿を消した。

「お前は事象の全てを見通していたかのようにほざいていた」

最初に再不斬と戦った時、カカシは写輪眼で未来をも見通していたかのように振舞っていた。その時、再不斬は死ぬ、とまで言い切った。しかし、再不斬は未だ健在。

「カカシ、お前には俺の心も未来も見えてはいない。写輪眼とは、そう思わせるためのカムフラージュ。写輪眼を持つ者は、洞察眼と催眠眼の両方を合わせ持つ。この2つの能力で次々と連続して術は出し、自分は(あたか)も未来が見えているかのように振る舞っていただけだ」

写輪眼の能力が暴露される中、再不斬は更に続ける。

「まず、その洞察眼で俺の動きを即座に真似る。それが《姿写し》の方法。そして俺の動揺を誘い、俺の心の揺らぎを確信したお前は、更に俺に成り切ることで《心の声》を決め付ける。これが《心写し》の方法」

―お前は俺には勝てねぇよ!猿野郎!―

再不斬の言葉をカカシが真似し、精神が乱された時の記憶が蘇った。

「そして……俺の動揺がピークに達した時を見計らい、お前は巧妙な罠を仕掛ける」

カカシの背後に浮かび上がった再不斬自身の姿。

「催眠眼で幻術を使い、俺に印の結びを先出しさせて、それをコピーする。これが、《術写し》の方法。

カカシが《水遁・大瀑布の術》をコピーした時。

「だったら話は簡単だ。この濃霧で俺自身の姿を消し、お前の洞察眼を封じ……俺自らも眼を閉じる」

その瞬間、カカシの前方から再不斬の強烈な蹴りがヒットする。

「ぐっ……!!」

後方へと追いやられたカカシ。

(くそっ!ガードが遅れた!)

苦痛に顔を歪ませながら、カカシはなおも見えない敵の姿を探ろうとする。

「接近戦に於いて、お前が幻術を使う可能性を封じる」

得意げに語る再不斬の無謀な戦法に、未だカカシは理解に追いつけずにいた。

「だが……それだとお前自身の視界をも奪うことになるはずだ」

再不斬は眼を閉じている。ならここまで正確な攻撃ができるはずがないと、カカシは踏んでいた。

しかし、皮肉にも優れた忍術ほどネタは単純なものである。

「忘れたのか?俺が音だけでターゲットを掴む……無音殺人術(サイレントキリング)の達人だと言うことを」

「っ!!」

カカシはその言葉に、今更ながら再不斬の能力を明快に思い出し、そして自身の読みの甘さを思い知らされた。

「人選ミスだったなぁ、カカシ。緑髪のガキをこっちに残しておけばよかったものの」

「くっ!」

再不斬の言い分は理に適っていた。この濃霧の中で戦うには、感知タイプの忍が必要不可欠。

サスケを援護するほうが優先だと考え、カミトを白の元に向かわせたことが大失態になってしまった。

「白は俺の弱点をカバーするために、数多くの感知タイプの忍を殺してきた。言い換えれば、白のあの秘術は……感知タイプを封殺するためのもの。何もできずにガキどもは、死ぬ」

再不斬の言葉にカカシは顔を歪ませる。

(畜生……全て想定済みだったってことか!俺と奴らじゃ、チームとしての経験値が圧倒的に違う。これほどの悪条件下での戦いは久しぶりだ)

カカシは(はや)る気持ちをどうにか抑え、必死に頭を回転させた。

(落ち着け……焦るな。奴の目的は……次にどこを狙ってくるか……)

カカシが冷静さと引き換えに手に入れたのは、果てしない危機感だった。

(不味い!!)

カカシは弾かれたように、サクラとタズナの方へ駆け出した。

(間に合え!!)

その時、サクラとタズナの背後から、スゥッと(おぼろ)げな残像が殺意を持って現れた。

「えっ?」

「なんじゃ?」

サクラとタズナは一瞬の出来事に唖然し、硬直状態になった。

2人に再不斬の無慈悲な斬撃が振り下ろされた瞬間、一筋の黒い影が両者の間に割って入った。

「きゃあぁぁぁ!!」

サクラの叫びが橋全体に響き渡る。











サクラの叫び声は、白と戦闘中の2人にもはっきりと聞こえていた。

「っ!?今のはサクラの声!カカシの野郎、何やってやがる……!?」

「……サクラ……カカシ先生……」

突如聞こえたサクラの叫びに、カミトとサスケは焦りを披露した。

(今だ!)

一瞬、カミトの気が緩んだところを狙った白が千本を放つ。

(しまった!)

すぐさま自分達が戦闘状況にあることを思い出し、カミトはガードしようとする。

しかし、気づくのに少し遅かった。

「ぐあっ!!」

瞬間、カミトの肩と太股辺りに千本が突き刺さり、血が吹き出した。

それは唐突だった。

千本の刺さった箇所に、焼き鏝を押し付けられたような痛みが走る。

「ぐぅ……!」

だが痛み以上に、自分の気の緩みを不甲斐なく思った。

「カミト!」

声を上げるサスケの声は届かず、カミトは地面に崩れ落ちた。

「くっ……!」

後悔の念を感じた時、サスケの視神経に刺激が走った。

「そろそろカミト君は限界のようですね」

鏡の中から様子を伺う白は、膝をついたカミトの疲労を察した。

「そろそろ……決着をつけましょう!」

強い口調で区切りをつけた途端、白の姿は1つの鏡にだけ現れるようになった。

「なんだ?」

突然の出来事にサスケもカミトも戸惑った。

すると、白の姿は周りを囲む1つ1つの鏡に瞬間移動するように現れ始めた。おそらく、どこから攻撃を仕掛けてくるか悟らせないための行為だろう。

そして__白の千本が向かう。

(落ち着け……集中しろ。そして……見切れ!)

その時、サスケは力強く眼を()らし、傍らでしゃがむカミトを抱えて即座に移動した。当然、千本は2人には当たらず地面に突き刺さった。

(何!?僕の動きを完全に見切った!?)

驚きのあまりに白は、苦戦したかのように狼狽(うろた)えた。

満身創痍(まんしんそうい)で戦う2人にはもう、わずかの余裕さえ許されていなかった。

「カミト!ここから巻き返すぞ!」

「言われなくても!」

2人は力強く立ち上がり、白を見据える。

(どう言うことでしょう?先ほどまで追い詰められていたというのに……)

鏡が鋭い光を反射し、白が再び攻撃を仕掛ける。

「カミト!右だ!」

「ああ!」

サスケの指示の元、カミトの刀が動き出し、千本を弾き返す。

「サスケ!! 上!!」

「おう!」

今度はカミトの指示の元、サスケは攻撃を避ける。

(なぜ!?)

不安を搔き消すように、白は攻撃を続ける。

(なぜ当たらない!?)

白の攻撃が次第に2人を捉えられなくなっていた。カミトの感知能力だけが頼りだったはずのサスケも、今では自分自身で感知しているかのように攻撃をかわしていた。

白は動揺の色を見せながらも、ひたすら攻撃を繰り返す。だが、2人にはギリギリという具合で必ずかわされる結果。

すでに千本は2人の肌をかすめるだけとなっていた。

(なぜこんな……いきなり……!?)

白の不安が決定的になった時、サスケが口を開いた。

「ふっ……もう諦めたらどうだ?お前の術はもう通用しねぇぞ」

「そんな……どうして……!?」

白の経験上、この秘術を受けてここまで無事でいられた者は1人としていなかった。

「お前が自分でこの術のヒントを喋ってくれたおかげで、対策を立てられたぜ」

「ヒントを……喋った?僕が?」

いつの間にか攻撃の手を緩めていた白は、これまでの会話を思い返した。

自分がそんなミスを犯すはずがない。そう確信していた。

「考えてみりゃあ、簡単なことだった。お前、確かこう言ったよな?この鏡は自分だけを映す、と」

(僕だけを映す……っ!?しまった!あの時……!?)

今更、自分のお喋りが最大のミスだったことに気がついた。

「これは鏡なんかじゃない!お前は自分からネタバレしてたんだよ!!」

その瞬間、サスケは手裏剣を一斉に正面に映る白に投げつけた。

「くっ!」

白は咄嗟に鏡から飛び出したが__かえって不味かった。

「逃がすか!」

突然、白の意識からしばらく消えていたカミトが印を結ぶ。

()(いぬ)(うし)

「水遁・水龍鞭(すいりゅうべん)!」

手中にゲル状の鞭を作り出したカミトが、白の上半身をガシッ!と巻き付けた。

「サスケ!今だ!」

動きを封じられた白に、サスケの強烈なドロップキックが叩き込まれた。

「ぐはっ!!」

悲痛な声が漏れ出し、白は鏡の陣の中心に放り出された。

「な……なんで?」

突然の出来事に白は混乱するばかり。ヨロヨロと腹部に手を添えながら立ち上がった所で、サスケの説明が始まった。

「お前はこれを鏡だと言った。だが、そう言われて気づいた。この鏡は俺達を中心に展開されているが、本来の鏡は乱反射と言って、鏡同士が互いを映し、合わせ鏡のように重なって見えるもの。もしこれが本当に鏡だったら、中心に位置する俺達の姿があらゆる方向から乱反射して見えるはず」

サスケの主張を要約するように、疲労して地面に再び膝をついたカミトが言い放った。

「つまり全ての鏡が、君だけを真正面に映すわけがない!」

しかし白は、自分の秘術が攻略された理由が未だ理解できずにいた。

「……だとしても、なぜ物理攻撃が通用すると気づいたんですか?」

白は堪らず、敵であるサスケに答えを問う。

「最初におかしいと思ったのは、サクラのあの一撃と、俺の放った火遁。この2つを思い出した時だ」

「どういう意味です?」

「俺が火遁を繰り出した時、お前は一切動かなかった。だが……サクラが俺に渡すつもりで投げたクナイだけは、自分で受け止めた。そして気づいた。おそらくこれは鏡ではなく……《反射板》だと」

「要するに……チャクラだけを跳ね返し、反射する氷の板。それが鏡の正体だ」

またもやカミトが主張するかのように要約した。

「そしてもう1つが……カミトが感知したお前のチャクラが全部本物だったことだ」

サスケは白を見下ろしながら淡々(たんたん)と説明を続ける。

「この鏡もどきに映ったお前のチャクラは全て本物。それである仮説が立てられた」

「ある仮説?」

白は興味津々な感じでサスケの話を聞く。

「この反射板……言うなれば、全てが1枚。これら全ては……1つに繋がっている!」

「っ!?」

白は思わず驚愕した。仮面で顔は見えないが、おそらく汗を流した焦りの表情を浮かべているだろう。

ここから再びカミトが口を動かし、サスケの説明を要約する。

「最初は俺もサスケも、どの鏡に本体が潜んでいるか必死に眼で追った。さすがにどの方向に逃げたかは俺達にも見切れた。でもあの時、俺達にとどめを刺そうと君が出てきた鏡は、物理的にはあり得ない方向だった」

「ああ。最初は俺達も混乱したが、あまりにも不自然な位置からの攻撃を見て、速さでは説明がつかない何かがあると確信した。どこかに出入り自由な扉があると踏んだ」

白は返す言葉もなく、カミトとサスケをジッと睨みつけている。

「つまり、お前の戦術はこうだ。まず、この反射板に自分の姿を映し出し、最初の攻撃で、高速移動しながら鏡に逃げ込む姿を見せつける。そうすることで、相手は本物は1人だけだと錯覚し、お前を眼で追おうと必死になる。すると自然と鏡に映るお前を攻撃するという選択肢が心理的に消える」

「そして注意の薄れた死角から敵を攻撃する。でも、どこからでも出入り可能な君を眼で追うのは無意味。だから敢えて全体に注意を払えば、攻撃を予期するのは然程(さほど)難しくないってわけさ」

2人が揃って嬉しそうに術の秘密を暴いていく中、白にはまだ腑に落ちない所があった。

「しかし……それがわかっていたとしても、全方向に注意を払うなど不可能です。カミト君は感知能力があるから問題ないでしょうが、感知能力が備わっていない君には無理なはずです」

サスケに向かって言い放たれた、白の悔し紛れな言葉。だがサスケは対抗するかのように言葉を返した。

「確かに、俺に感知能力はない。だが……今の俺には……この眼がある!」

強く主張された最後の一言。そして同時に白は、開眼されたサスケの瞳に宿る力に気づいた。

(あれは……写輪眼!)

カカシと違って片眼だけでなく両眼に備わる、勾玉模様の赤い瞳。その瞳を見た時点で白はすでに圧倒されていた。

「そうか、君も血継限界の力を……」

戦いの中で開眼させたその両方の瞳で、サスケがあの《うちは一族》の者だと気づいた白は危惧した。

(感知能力に加えて、写輪眼まで出てくるとは……ますます厄介ですね。術の秘密も暴かれた以上、戦いを長引かせるわけにはいかない。彼を狙うのは浅はか。ならば……!)

不意に、白は瞬時に鏡__反射板の中に入り込み、全てに反射板に自分を映し出す。そして攻撃を仕掛ける故、再び千本を構える。

「もう同じ手は通用しないぞ」

明らかに自分に攻撃を仕掛けてくると思っていたサスケだが、白の標的はサスケではなかった。

全ての反射板に映し出された白が一斉に千本を放つ。先ほど術の秘密が暴かれた通り、注意の薄れた死角から攻撃を仕掛けた。

しかし__。

「何!?」

千本が放たれた方向はサスケではなく、疲労して動けずにいたカミトだった。

「なっ!」

カミト自身が気づいた時、千本はすでに5秒で届く距離に達した。

「くそっ!!間に合え!!」

心の内に秘められた何かに突き動かされるように、サスケは離れた位置にしゃがむカミトを目掛けて駆け出す。
 
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