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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第2話

リィン達”教官”がグラウンドに姿を現す少し前、グラウンドに集合した生徒達はそれぞれ雑談や考え事等で時間を過ごしていたが姿を現したリィン達に気づくとリィン達に視線を向けた。



~トールズ第Ⅱ分校・グラウンド~



「あ、あの女性は………!?」

「……まさか………”槍の聖女”……………!?」

「さ、さすがにそれはありえないんじゃないかな?”槍の聖女”は遥か昔の人物だから、ただ似ているだけだと思うよ?そ、それよりもあの黒髪の人って確か………」

「ええっ……あの有名な……!?」

「ククッ………マジかよ。」

「ふふっ………予想外、ですね。」

「ふえええええっ!?ど、どうしてレンちゃんが………」

リィン達の登場に生徒達がそれぞれ驚いている中金茶髪の男子は不敵な笑みを浮かべ、ミント髪の女子は微笑み、金髪の娘は信じられない表情でリィン同様眼鏡をかけたレンを見つめ

「”灰色の騎士”………」

「えええええええええええっ!?な、何で”あの人”までここに……ていうか何でここにいるのよ~!?」

「………………理解不能です。」

蒼灰色の髪の男子は真剣な表情でリィンを見つめて呟き、ピンク髪の女子は驚きの声を上げてランドロスを見つめ、アルティナはジト目でランドロスを見つめながら呟いた。

(あれ、あの子って………)

(ハハッ、ま、リィンがいる時点でリィンの近くにいるような気はしていたけどな。)

生徒達の中にいるアルティナを見つけたトワは目を丸くし、ランディは苦笑していた。



「静粛に!許可なく囀るな!―――これよりトールズ士官学院、”第Ⅱ分校”の入学式を執り行う!略式の為式辞・答辞は省略!クラス分けを発表する!」

リィン達の登場で騒いでいる生徒達に注意して黙らせたミハイル少佐は宣言をした後、話を続けた。

「まずは”Ⅷ組・戦術科”!担当教官はランドロス・サーキュリー!副担当教官はランドルフ・オルランド!」

「ウッス。呼ばれたヤツは前に来てくれ。ゼシカ、ウェイン、シドニー、マヤ。それにアッシュ、フレディ、グスタフ、レオノーラの8名だ。」

(クク、俺達が担当になるとはお前達も運が良い連中だなあ?)

「……ハッ……」

ミハイル少佐の言葉に続くようにランディは一枚の紙が挟んであるバインダーを取り出して名前を読み上げ、読み上げられた生徒達がそれぞれ自分達の所に来ている中ランドロスは獰猛な笑みを浮かべて生徒達を見つめ、金茶髪の男子は鼻を鳴らした後ランディとランドロスの下へと向かった。



「次、”Ⅸ組・主計科”!担当教官はレン・H・マーシルン!副担当教官はトワ・ハーシェル!」

「えっと、名前だけ呼ぶね?サンディちゃん、カイリ君、ティータちゃん。ルイゼちゃん、タチアナちゃん、ヴァレリーちゃん、ミュゼちゃん、パブロ君、スターク君の9名かな。」

(クスクス、レンがティータの先生になるなんて、これも空の女神―――いえ、”ブライト家”の導きかしらね♪)

「……ふふっ………」

ランディに続くように自分達が担当する生徒の名前をトワが読み上げると名前を呼ばれた生徒達が自分達の所に向かっている中レンは小悪魔な笑みを浮かべてティータを見つめ、ミント髪の女子は意味ありげな笑みを浮かべた後トワ達の所へと向かった。

(Ⅷ組にⅨ組……”戦術科”に”主計科”か。すると残りは……)

(アルティナさんを含めた残りの3人の方達がわたくし達が担当する生徒ですわよね……)

それぞれの担当教官達の下へと生徒達が集合している中、リィンとセレーネはまだ呼ばれていない生徒達を見つめた。



「静粛に!これより本分校を預かる分校長からのお言葉がある!――――分校長、お願いします。」

「ええ。」

ミハイル少佐に視線を向けられたリアンヌ分校長は頷いた後一歩前に出た。

「―――我が名はリアンヌ・ルーハンス・サンドロッド。”第Ⅱ”の分校長となった者です。外国人もいるゆえ、我が名を知る者、知らぬ者はそれぞれでしょうが、一つだけ(しか)と言える事があります。――――貴方達も薄々気づいている通り、この第Ⅱ分校は”捨石”です。」

「ふえっ……?」

「フン………?」

リアンヌ分校長の言葉にトワは驚き、シュミット博士は僅かに眉を顰めた。

「本年度から皇太子を迎え、徹底改革される”トールズ本校”。そこで受け入れられない厄介者や曰く付きをまとめて使い潰す為の”捨石”――――それが貴方達であり、そして私を含めた教官陣も同じです。」

「………………」

「え、えっと…………?」

「おいおい……………」

「へえ?」

「クク…………」

リアンヌ分校長の断言を聞いたリィンは絶句し、セレーネは戸惑い、ランディは疲れた表情で溜息を吐き、レンは興味ありげな表情をし、ランドロスは不敵な笑みを浮かべた。

「ぶ、分校長!それはあまりに――――」

そして生徒達がザワザワとし始めたその時、ミハイル少佐はリアンヌ分校長を諫めようとした。

「―――ですが、常在戦場という言葉があります。平時で得難きその気風を学ぶには絶好の場所であるとも言えるでしょう。自らを高める覚悟なき者は今、この場で去りなさい。―――教練中に気を緩ませ、冥府へと旅立ちたくなければ、今すぐこの場から去るのが貴方達の為です。」

リアンヌ分校長の厳しい宣言に対して生徒達はそれぞれ誰一人動く事なく決意の表情でリアンヌ分校長を見つめた。

「その意気やよし。―――ようこそ”トールズ士官学院・第Ⅱ分校”へ。『若者よ、世の礎たれ――――』かのドライケルスの言葉をもって、貴方達を歓迎させて頂きます。」

その後入学式が終わり、それぞれのクラスが行動を始める為にグラウンドから離れている中リィン達とまだ呼ばれていない生徒達だけがその場に残った。



「………って、なんか気迫に呑みこまれちゃったけど………」

「ああ……結局のところ、僕達はどうすれば――――」

「………………」

ピンク髪の女子の言葉に蒼灰髪の男子は頷いた後戸惑いの表情をし、アルティナは落ち着いた様子でその場で待機し続けていた。

「………サンドロッド卿、いえ分校長。そろそろ”クラス分け”の続きを発表していただけませんか?」

「………!」

「へ………」

「フフ、いいでしょう。――――本分校の編成は、本校のⅠ~Ⅵ組に続く、Ⅶ~Ⅸ組の3クラスとなります。貴方達3名の所属は”Ⅶ組・特務科”――――担当教官はその者、リィン・シュバルツァーで副担当教官はその隣にいるセレーネ・L・アルフヘイムとなります。」

リィンの言葉にアルティナ以外の生徒達が顔色を変えたり呆けている中リアンヌ分校長はアルティナ達に説明をした。



その後リィン達はある施設へと向かった。



~アインヘル小要塞~



「わああっ……!送られた図面で見ましたけどこんなに大きいなんて……!」

「フンこの程度ではしゃぐな。伝えていた通り、お前には各種オペレーションをやらせる。ラッセルの名と技術、せいぜい示してみるがいい。」

「は、はい……っ!」

リィン達と共にある施設に到着した金髪の娘は興味ありげな様子で施設を見つめていたがシュミット博士の言葉を聞くと表情を引き締めて頷いた。

(”ラッセル”………?もしかしてあの方がツーヤお姉様のお話にあった……)

(列車で会った子……やっぱり第Ⅱの生徒だったか。ラッセル………どこかで聞いた事がある気もするが。それにしても――――)

セレーネと共に金髪の娘を見つめて心の中で考えていたリィンは自分達の生徒達となるアルティナ達を見回した。

((Ⅶ組・特務科)……偶然じゃないんだろうな。生徒数はたったの3名。しかもアルティナまでいるとは…………まあ、アルティナに関しては多分リウイ陛下達が俺達のサポートとして根回ししたんだろうな……)

「現在、戦術科と主計科はそれぞれ入学オリエンテーションを行っているが……Ⅶ組・特務科には入学時の実力テストとしてこの小要塞を攻略してもらう。」

リィンが考え込んでいるとミハイル少佐が今後の事をリィン達に伝えた。



「……………」

「こ、攻略………?」

「それに”実力テスト”、ですか……?」

「そもそもこの建物は一体………」

ミハイル少佐の言葉を聞いたリィンが真剣な表情でミハイル少佐を見つめている中ピンク髪の女子とセレーネは戸惑い、蒼灰髪の男子は困惑の表情でミハイル少佐に自身の疑問を訊ねた。

「アインヘル小要塞――――第Ⅱと合わせて建造させた実験用の特殊訓練施設だ。内部は導力機構による可変式で難易度設定も思いのまま―――敵性対象として、”魔獣など”も多数放たれている。」

「な……!?」

「ま、魔獣―――冗談でしょ!?」

シュミット博士の説明を聞いた蒼灰髪の男子は驚き、ピンク髪の女子は信じられない表情で声を上げた。

「………なるほど。”Ⅶ組”、そして”特務科”………思わせぶりなその名を実感させる入学オリエンテーションですか。新米教官達への実力テストを兼ねた。」

「という事はこのオリエンテーションは生徒達だけでなく教官であるわたくし達の”実力テスト”でもあるのですか。」

「フッ、話が早くて助かる。と言っても、かつて君達がいた”特務支援課”や”特務部隊”、そして君達にとっても縁深い旧Ⅶ組とは別物と思う事だ。教官である君達自身が率いることで目的を達成する特務小隊―――そう言った表現が妥当だろう。」

「なるほど……それで。」

ミハイル少佐の説明を聞いたリィンは納得した様子で呟いた。

「ちょ、ちょっと待ってください!黙ってついてきたら勝手なことをペラペラと……そんな事を……ううん、そんなクラスに所属するなんて一言も聞いていませんよ!?」

「適正と選抜の結果だ、クロフォード候補生。不満ならば荷物をまとめてクロスベルに帰国しても構わんが?」

「くっ……」

(クロスベルに帰国……という事は彼女はクロスベル帝国からの留学生か。)

ピンク髪の女子は不満を口にしたが淡々としたミハイル少佐の正論に反論が浮かばなく、唇を噛みしめ、その様子を見たリィンはピンク髪の女子の出身を察した。

「……納得はしていませんが状況は理解しました。それで、自分達はどうすれば?」

「ああ―――シュバルツァー教官以下5名は小要塞内部に入りしばし待機。」

そして蒼灰髪の男子の質問に答えたミハイル少佐は5種類のマスタークオーツをリィンに手渡し、説明を続けた。

「その間、各自情報交換と、シュバルツァー教官とアルフヘイム教官には候補生にARCUSⅡの指南をしてもらいたい。」

「―――了解しました。」

「わかりましたわ。」

ミハイル少佐の言葉にリィンとセレーネはそれぞれ頷いた。

「フン、これでようやく稼働テストができるか。グズグズするな、弟子候補!10分で準備してもらうぞ!

「は、はいっ!」

金髪の娘はシュミット博士の言葉に緊張した様子で頷いた後リィン達と共に小要塞の中へと入って行った。



「ったく、聞いてた以上にフザけた学校みたいだな。」

小要塞に入っていくリィン達の様子をミハイル少佐が見守っていると赤髪の男がミハイル少佐に近づいてきた。

「……本来ならば部外者には立ち入ってほしくないのだが。」

「ハッ、言われなくても余計なことをするつもりはねぇよ。あいつの入学を見届けたらとっとと行かせてもらうぜ。」

「結構――――皇族の紹介があるとはいえ勘違いはしないことだ。この後、”お仲間達”とエレボニア帝国内でどう動くかも含めてな。」

「ハッ……そいつはお前さんたち次第じゃねえのか?色んな思惑が絡み合っているとはいえこんな分校がポンとできちまう―――そんな状況を生み出してるのはどこのどいつだって話だろうが。」

ミハイル少佐の忠告に対して鼻を鳴らして流した赤毛の男は目を細めてミハイル少佐を睨み

「……フン、さすがは”A級”といったところか。」

対するミハイル少佐も鼻を鳴らして赤毛の男に睨み返した。



「機械仕掛けの訓練施設……博士ならではといった感じだな。―――で、まさかとは思うけど概要についても知らされているのか?」

小要塞の内部へと入って待機していたリィンは周囲を見回した後アルティナに訊ねた。

「―――詳しくは何も。地上は一辺50アージュの立方体、地下は拡張中という事くらいです。」

「あの……その事を知っている時点で、既に”知らされている”と言ってもおかしくないのですが……」

「へ………」

「………知り合いですか?」

アルティナの答えを聞いたセレーネが苦笑している中ピンク髪の女子は呆け、蒼灰髪の男子はリィンとセレーネに訊ねた。

「まあ、そうだな。まさか俺達が彼女が所属するクラスの担当教官になるとはさすがに想定外だったが。―――それはともかく。”準備”が整うまでの間、互いに自己紹介をしておこう。申し訳ないが、到着したしたばかりで君達二人の事は知らなくてね。俺は――――」

「………別にわざわざ名乗らなくても知っていますよ。”灰色の騎士”リィン・シュバルツァー。メンフィル帝国の軍人でありながらメンフィル・エレボニア戦争――――通称”七日戦役”の勃発に対して元祖国の皇族であったエレボニア皇家に罪悪感を抱いていた両親の為に戦争で大活躍をした事によって戦争勃発から僅か1週間で両帝国間の戦争を”和解”という形で終結させ、更には”七日戦役”後メンフィルが選抜した少数精鋭部隊とエレボニア皇家に協力していた学生達を率い、そして正規軍とエレボニア皇家側へと寝返らせた貴族連合軍の一部を纏め上げて”七日戦役”勃発の原因の一つでもあるエレボニア帝国の内戦を終結させた両帝国の若き英雄。そして”聖竜の姫君”セレーネ・L・アルフヘイム。あの”蒼黒の薔薇”の双子の妹にして、”七日戦役”、そしてエレボニアの内戦で”灰色の騎士”を支え、自身もそれぞれの戦争で活躍した竜族の姫君。どちらもエレボニアどころかクロスベル―――いえ、ゼムリア大陸全土でも知らない人はいないくらいの有名人じゃないですか。」

「え、え~と………」

「ア、アハハ…………」

自己紹介をしようとしたリィンだったが呆れた表情をしたピンク髪の女子に先に自分とセレーネの事を言われると困った表情をし、セレーネは苦笑していた。

「補足すると、”七日戦役”の和解条約によって”帝国の至宝”の片翼であるエレボニア帝国の皇女――――アルフィン・ライゼ・アルノール皇女殿下が内戦終結後”灰色の騎士”に嫁ぎ…………更には皇女殿下以外にも婚約者が8人存在して、その内の一人が”聖竜の姫君”だそうだ。」

「ええっ!?じゃあ、”灰色の騎士”って既婚者だったの!?ていうかエレボニアのお姫様と結婚していながら更に8人の婚約者がいるって………局長―――いえ、ヴァイスハイト皇帝陛下みたいなとんでもない”好色家”ですね………そう言えばロイド先輩もエリィ先輩を含めた”特務支援課”に所属していた女性達のほぼ全員どころか、”アルカンシェル”のリーシャ・マオとも付き合っていましたね……もしかして、ヴァイスハイト皇帝陛下の影響を受けたんですか?確かリィン教官も一時期ヴァイスハイト皇帝陛下も所属していた”特務支援課”に所属していましたよね?」

「その推測は少々間違っているかと。もしその推測が当たっているのならば、”特務支援課”に所属していた残りの男性―――ランドルフ教官とワジさんもリィン教官やロイドさんのように複数の女性を侍らせているかと。」

「アルティナさん………その言葉、ワジさんはともかく絶対にランディさんがいる前では言わないでくださいね………?」

蒼灰髪の男子の情報を聞いて驚いたピンク髪の女子はジト目でリィンを見つめ、ピンク髪の女子の意見に指摘したアルティナの言葉を聞いたセレーネは疲れた表情で指摘した。

「ハ、ハハ………(俺とロイドって、一体どういう風に見られているんだ……?)………いや、それにしても驚いた。英雄なんて過ぎた呼び名だが。それでも改めて名乗らせてくれ。リィン・シュバルツァー。シュバルツァー男―――いや、シュバルツァー公爵家の跡継ぎにしてメンフィル帝国領クロイツェン州統括領主補佐だ。様々な事情により、2年間ここ第Ⅱ分校の臨時教官として本日赴任した。武術・機甲兵教練などを担当、座学は歴史学を教える事になる。”Ⅶ組・特務科”の担当教官を務める事になるらしいからよろしく頼む。」

「ではわたくしも………―――”アルフヘイム子爵家”の当主にして、リィン・シュバルツァーの婚約者の一人のセレーネ・L・アルフヘイムと申します。メンフィル帝国領クロイツェン州統括領主秘書見習いです。お兄様と同じく本日より2年間ここ第Ⅱ分校の臨時教官として赴任しました。座学は音楽・芸術・調理技術を担当し、また保険医も兼ねていますわ。”Ⅶ組・特務科”の副担当教官を務める事になるとの事ですので、リィン教官―――お兄様共々よろしくお願いしますね。」

ピンク髪の女子達の言葉に冷や汗をかいて乾いた声で苦笑したリィンは気を取り直して自己紹介をし、セレーネもリィンに続くように自己紹介をした。



「―――次は、自分ですね。クルト・ヴァンダール。帝都ヘイムダルの出身です。シュバルツァー教官とアルフヘイム教官の事は一応、噂以外にも耳にしています。」

リィンとセレーネが自己紹介を終えると蒼灰髪の男子―――クルトが自己紹介をした。

「ヴァンダール………そうだったのか。すると、ゼクス将軍やミュラー中佐の……?」

クルトがある人物達の親類である事を察したリィンは目を丸くしてクルトを見つめた。

「ミュラーは自分の兄、ゼクスは叔父にあたります。まあ、髪の色も含めて全然似ていないでしょうが。」

「それは…………」

(そう言えばお二人とも黒髪でしたけど、クルトさんの髪の色は黒髪ではありませんわよね……?)

(ああ……それに容姿も全然似ていないような……)

クルトの言葉を聞いたリィンは答えを濁したがセレーネの小声の言葉に頷いてクルトを見つめた。

「――それはともかく、リィン教官のその眼鏡は伊達ですか?あまり似合っていないので外した方がいいと思いますよ。」

「うっ……」

「ア、アハハ………」

「ぷっ………あはは………!」

「まあ、それなりに需要はありそうですが。」

若干呆れた表情をしたクルトの指摘にリィンは唸り声を上げ、セレーネは苦笑し、ピンク髪の女子は思わず笑い声を上げ、アルティナは淡々とした様子で推測を口にした。



「………はあ、似合っていないのは自覚してるから勘弁してくれ。よろしく、クルト。―――それじゃあ続けて頼む。」

一方リィンは疲れた表情で溜息を吐いた後ピンク髪の女子に自己紹介を促した。

「あ……はい、わかりました。ユウナ・クロフォード。クロスベル帝国・クロスベル警察学校の出身です。……よろしくお願いします。」

「クロスベル出身……だからわたくし達やロイドさん達の事をご存知だったのですね。」

「まあ、”特務支援課”は俺達が来る前も元々有名だったそうだけど、局長―――いや、ヴァイスハイト皇帝陛下も所属した事によって更に知名度が上がっていたそうだからな。ちなみに警察学校というのは、”クロスベル軍警察学校”の事だよな?」

ピンク髪の女子―――ユウナの自己紹介を聞いたセレーネは目を丸くし、リィンは苦笑しながら答えた後ユウナに確認した。

「…………ええ。ヴァイスハイト皇帝陛下達――――”六銃士”や”六銃士派”の人達の活躍によって”自治州”だったクロスベルが”帝国”へと成りあがった影響で、名称等も変えられました。正式名称以外は使わない方がよかったですか?」

リィンの指摘に対して複雑そうな表情で答えたユウナはリィンに問い返した。

「いや……他意はない。悪い、無神経だったようだ。」

「……別に。あたしも言い過ぎました。」

「………?」

リィンに謝罪されたユウナもリィンに謝罪し、その様子をクルトは不思議そうに見守っていた。

「最後は私ですね。アルティナ・オライオン。1年半前の内戦時は貴族連合軍の所属でした。」

「な………」

「へ………」

「ア、アルティナさん!?」

(あっさり明かすのか……)

そしてアルティナが自己紹介を始めるとクルトは絶句し、ユウナは呆け、セレーネは驚き、リィンは呆れた表情をしていた。

「内戦の際に命じられたある任務の実行時、メンフィル帝国所属の人物達に妨害、並びに捕縛された事によって任務失敗。その後メンフィル帝国の捕虜の身でしたが、”七日戦役”で大活躍をしたリィン教官のご厚意によってメンフィル帝国から解放され、並びに私の身元引受人はリィン教官を含めた”シュバルツァー家”になり、メンフィル帝国から解放された後は”シュバルツァー家”の使用人として”シュバルツァー家”の方々をサポートし続けていました。今回の分校への入学はメンフィル帝国からの指示もありますが、私に”普通の子供として”学院生活を経験して欲しいというリィン教官達―――”シュバルツァー家”の心遣いも含まれています。どうかお気になさらず。」

アルティナの説明を聞いたリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「………聞き捨てならない事を聞いた気がするんだが。」

「貴族連合軍って、確か1年半前の内戦を起こした……って、それよりメンフィル帝国からの指示とかって、どういう事よ!?」

「失礼、秘匿情報でした。」

「ア、アルティナさん……」

(ハハ……相変わらずだな。)

我に返ったクルトは呆れた表情で呟き、信じられない表情をしたユウナの指摘に対してマイペースに答えたアルティナの様子にセレーネは冷や汗をかき、リィンは苦笑していた。



「お、お待たせしました!」

するとその時金髪の娘の声が要塞内に聞こえてきた。

「アインヘル訓練要塞、LV0セッティング完了です!”ARCUSⅡ”の準備がまだならお願いします!」

「これって、さっきの金髪の……」

「僕達と同じ新入生だったはずだが……」

「了解だ、少し待ってくれ!さて―――いきなりになるが、3人とも、これを持っているか?」

娘の声を聞いたユウナとクルトが戸惑っているとリィンが返事をし、そしてユウナ達を見回して自身が持っている戦術オーブメントを見せて訊ねた。

「ええ、それなら―――」

「送られてきたヤツね。まだ起動はしていないけど……」

リィンが見せた戦術オーブメントを見たユウナ達も戦術オーブメントを取り出した。

「戦術オーブメント―――皆さんもご存知のように、所持者と連動する事によって様々な機能を発揮する個人端末です。導力魔法(オーバルアーツ)が使えたり、身体能力が向上したりしますが……この最新端末”ARCUSⅡ”では更なる新機能が実装されています。」

「ARCUS(アークス)Ⅱ―――ENIGNA(エニグマ)とは違う、エレボニア帝国製の戦術オーブメントか……」

「正確には、クロスベル帝国ラインフォルト社とエプスタイン財団の共同開発ですね。いよいよ実戦配備ですか。」

「そ、そうなの?そう言えばラインフォルト製の新型戦術オーブメントがクロスベル軍や警察に配備される話を聞いた事があるけど……あの話ってこれの事だったんだ。」

「ああ、新機能についてはおいおい説明するとして――――3人とも、これを受け取ってくれ。それとこれはセレーネの分だ。」

「ありがとうございます、お兄様。」

リィンはセレーネ達にそれぞれ異なるマスタークオーツを渡した。



「これは……」

「エニグマにもあった……確か”マスタークオーツ”でしたっけ。」

「ああ、基本概念は同じはずだ。開いたスロット盤の中央に嵌められるからセットしてくれ。」

「……了解。」

「えっと、ここかな……?」

(さて、俺もつけておくか。)

その後リィン達はそれぞれのARCUSⅡにマスタークオーツをセットした。



「わわっ……」

「これが……」

「マスタークオーツが装着されることでARCUSⅡが所持者と同期した。これで身体能力も強化され、アーツも使えるようになった筈だ。」

マスタークオーツをセットした事によってARCUSⅡと同期した事で驚いているユウナとクルトにリィンが説明した。

「なるほど……」

「な、なんかエニグマとはけっこう仕様が違うような……」

「フン、準備はすんだか。」

リィンの説明を聞いた二人がそれぞれ納得したり、戸惑ったりしているとシュミット博士の声が要塞内に聞こえてきた。

「シュミット博士。ええ、いつでも行けます。」

「ならばとっとと始めるぞ。LV0のスタート地点はB1、地上に辿り着けばクリアとする。」

「は、博士……?その赤いレバーって……ダ、ダメですよ~!そんなのいきなり使ったら!」

「ええい、ラッセルの孫のくせに常識人ぶるんじゃない……!―――それでは見せてもらうぞ。”Ⅶ組・特務科”とやら。この試験区画を、基準点以上でクリアできるかどうかを――――!」

「みんな、足元に気を付けろ!」

要塞内に聞こえてくるシュミット博士と娘の会話を聞いてある事を察したリィンがユウナ達に警告をしたその時、リィン達が待機していた場所が突如傾いた!



「え―――」

「なっ……!?」

「バランスを取り戻して落下後の受け身を取れ!セレーネとアルティナは――――」

突然の出来事に驚いた二人が先に傾いた床によって下へと滑り落ちる中姿勢を低くして傾いた床に踏みとどまったリィンが下へと滑り落ちていく二人に指示をした後セレーネとアルティナにも指示をしようとしたが

「――――やあっ!」

「クラウ=ソラス。」

セレーネは一瞬で背中に魔力によって形成した光の翼を背中に生やして滞空し、アルティナは漆黒の傀儡―――クラウ=ソラスを呼び出し

「……心配無用か。」

二人の様子を見たリィンは苦笑しながら両腕で身体を支えながら下へと滑り、セレーネは光の翼を羽ばたかせ、アルティナはクラウ=ソラスの片腕に乗った状態で下へと向かった。



~B1~



「う、うーん……も、もう何なのよ一体……あの博士って人が話したらガコンて床が傾いて―――」

「……その……たしかユウナだったか。」

「え。」

目を覚ましたユウナが戸惑いながら今までの状況を思い返していたが下から聞こえてきた聞き覚えのある声に呆けた後下へと視線に向けた。

「……………」

「悪いけど、動けるなら自分でどいてもらえないか……?重さは大したことはないけど呼吸がしにくくてかなわない。」

「な、な、な、な………」

自分の状態――――自分の下にいるクルトの顔に胸を押し付けている状態に呆けたユウナだったが、我に変えるとすぐに顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。するとその時リィン達も到着し、二人の状態を目にした。

「こ、これは――――」

「え、えっと………」

「弾力性のある床……打撲の心配はなさそうです。しかしまた、リィン教官のような不埒な状況になっていますね。」

二人の状態を見たリィンが驚き、セレーネが困った表情をしている中クラウ=ソラスを消して着地したアルティナは淡々と答えた後二人へと視線を向けて呟き

「だから誤解を招くような事を言わないでくれ。」

アルティナの言葉を聞いたリィンは疲れた表情で指摘した。するとその時ユウナが起き上がり、ユウナが起き上がるとクルトも続くように起き上がってユウナと向かい合った。

「~~~~~~っ~~~~~~………」

「……事故というのはこの際、関係なさそうだ。弁解はしない。一発、張り飛ばしてくれ。」

顔を真っ赤にして身体を震わせているユウナに対して静かな表情で答えたクルトは覚悟を決めた表情になってユウナを見つめた。

「ふ、ふふ……殊勝な心がけじゃない……そんな風に冷静に言われるのもそれはそれで腹が立つけど……遠慮なく行かせてもらうわっ!」

クルトの言葉に対して口元をピクピクさせながら答えたユウナは片腕を思いっきり振り上げてクルトに平手打ちをした!



「……フンッ、これだからエレボニア帝国の男子っていうのは……!」

「別にエレボニア帝国どうこうは関係ない気もしますが。」

クルトに平手打ちをした後クルトに背中を向けて怒りの表情で呟いたユウナにアルティナはジト目で指摘し

「その……災難だったな?」

「えっと……治癒魔法は必要ですか?」

リィンとセレーネは苦笑しながら平手打ちをされた部分を片手で抑えているクルトに話しかけた。

「別に……無様な体勢で滑落したのも修行不足です。それに偶然とはいえ女子に無用な恥をかかせてしまった―――己の未熟さを痛感します。」

「そ、そうか……(随分しっかりしてるな。)―――4人とも、大きなダメージはないな?それではこれより、この小要塞の攻略を開始する。各自、武装を見せてくれ。」

クルトの答えを聞いたリィンはクルトに感心した後ユウナ達に確認し、そして宣言をした。



「って、こんな茶番に本気で付き合うんですか!?」

リィンの宣言を聞いて驚いたユウナはリィンに訊ねた。

「博士の事は人づてで聞いた事はあるが、茶番を仕掛ける性格じゃないと思う。あくまで本気で、俺達5名の実力を測ろうとしているんだろう。無事ここを抜けるためにも全員のスタイルを知っておきたい。」

「うぐっ……」

「わかりました。―――自分はこれです。」

リィンの正論にユウナが反論できず唸り声を上げるとクルトは納得した様子で頷き、そして自身の得物である双剣を取り出して軽く振るって構えた。

「……二刀流……?」

「淀みない剣捌きですね。」

「あら……?ミュラー中佐は大剣を扱っていましたが……」

「ヴァンダール流の双剣術……存在するのは知っていたが。」

クルトの戦闘スタイルにユウナが戸惑い、アルティナが静かな表情で評価している中セレーネはある人物を思い返して不思議そうな表情で首を傾げ、リィンは目を丸くしてクルトを見つめた。



「セレーネ教官が仰ったようにヴァンダール流は剛剣術の方が有名ですからね。ですが、あちらは持って生まれた体格と筋力を必要とする……こちらの方が自分は得意です。」

「……なるほど。ユウナ、君の方はどうだ?」

「っ………勝手に話を進められているみたいで面白くありませんけど……士官学校の新入生として一応、弁えているつもりです。」

リィンに話をふられたユウナは機械仕掛けのトンファーを取り出して構えた。

「それは……」

「あら?あの武装は確かロイドさんが扱っている……」

「トンファー型の警棒?」

「いや、それにしては複雑な機構をしているな……どういった武装なんだ?」

ユウナが見せた武装にそれぞれ興味ありげな表情をしている中リィンがユウナに詳細を訊ねた。

「ガンブレイカー――――クロスベル警備隊で開発された銃機構(ガンユニット)付きの特殊警棒です。モードを切り替えることで、中距離の範囲射撃になります。」

「そんな新武装が……」

「まさかクロスベル帝国軍がそのような武装が開発していたなんて……」

「もしかしてその武装の開発にはエルミナ大尉―――いや、エルミナ皇妃も関わっているのか?確かあの人は”軍師”―――”戦術家”であると同時に兵器や武装の開発にも携わっていると耳にした事があるが。」

「ええ、このガンブレイカーの開発にもエルミナ皇妃殿下が関わっていて、エルミナ皇妃殿下の考案のお陰で更なる機能―――導力の集束による導力エネルギー砲も追加されたと聞いています。」

ユウナの説明を聞いたアルティナとセレーネが驚いている中ある事に気づいたリィンはユウナに訊ね、リィンの質問にユウナは頷いて答えた。



「―――わかった、その武装の性能は実戦で確かめさせてもらおう。見たところ扱いにも慣れているみたいだからな。」

「と、当然です!警察学校で訓練しましたから!エレボニア帝国人が使う、昔ながらの剣なんかよりは役に立つはずです!」

リィンの言葉に肯定したユウナはクルトを睨み

(むっ……)

「フ、フン……」

ユウナの言葉に一瞬ムッとしたクルトは表情を顰め、ユウナはクルトから視線を逸らした。

「まあ、そのあたりもお互い実戦で確認するといいだろう。次は―――アルティナ。」

「はい。」

二人の様子に苦笑しながら指摘したリィンはアルティナに視線を向け、視線を向けられたアルティナは頷いた後一歩前に出た。



「って、何気にさっきから突っ込みたかったんですけど……こんな小さい子がどうして士官学校に入ってるんですか?」

「……僕も気になっていた。貴族連合軍に所属していたという話ですが、さすがに戦闘には参加させられなかったのでは?」

ユウナの疑問に同意したクルトは不思議そうな表情でアルティナを見つめた。

「……まあ、個人的には同感だよ。」

「懸念は無用です。私の身体年齢は14歳相当。小さい子というほどではないかと。」

クルトの言葉にリィンが苦笑している中アルティナは淡々とした様子で答えた。

「し、身体年齢……?って、十分小さいんじゃ―――」

「そして貴族連合軍に所属していた根拠たる”武装”もあります。」

ユウナが指摘しようとしたその時アルティナが先に答えて背後にクラウ=ソラスを現させた。

「――――――」

「な、な、な……」

「そ、そう言えばさっき、黒い影が一瞬見えたような……」

「クラウ=ソラス―――”戦術殻”という特殊兵装の最新鋭バージョンとなります。秘匿事項となるため詳細は説明できませんがそれなりの戦闘力はあるかと。」

クラウ=ソラスの登場に二人が驚いている中アルティナはクラウ=ソラスについて軽く説明した後クラウ=ソラスを消した。

「……えっと、貴族連合軍って事は元々エレボニア帝国に所属していたって事よね?エレボニア帝国ってあんなのが普通にあるわけ?」

「そんな訳ないだろう……僕だって初めて見た。(”槍の聖女”と非常に似た人物に”殲滅天使”、”紅き暴君”、”灰色の騎士”と”聖竜の姫君”、それにこんな少女まで……第Ⅱ分校―――どういった場所なんだ?」

苦笑しているユウナに訊ねられたクルトは静かな表情でユウナの推測を否定する答えを口にした後リィンとセレーネ、アルティナを順番に見回して真剣な表情で考え込んだ。



「疑問は御尤もだがさっそく行動を開始しよう。―――ああ、ちなみに俺の武装はこれだ。」

「わたくしはこれです。」

「”八葉一刀流”の”太刀”に主に王宮剣術に使われる”細剣(レイピア)”………」

「……リィン教官のはアリオスさんが使っていたのと同じ武器ね。」

「ああ、騎士等が扱う通常の”剣”とは違う東方風の”剣”―――”刀”だ。はは、さすがに”風の剣聖”はクロスベルじゃとても有名な存在だから、”刀”も知っていたのか。」

「………色々ありましたけど、今でもファンは多いですし、慕っている人も多いですから。ヴァイスハイト皇帝陛下達―――”六銃士”によって世紀の大悪党扱いされて、今は拘置所にいるみたいですけど。」

リィンに話をふられたユウナは複雑そうな表情で答えた。

「あ………」

「ああ………そうみたいだな。―――よし、それじゃあ攻略を始めよう。」

ユウナの言葉を聞いてかつての出来事を思い出したセレーネは不安そうな表情をし、リィンは静かな表情で呟いて先へと進む扉に視線を向けた。

「現在B1、地上に出ればこの”実力テスト”も終了だ。実戦のコツ、アーツの使い方、ARCUSⅡの機能なども一通り説明していく。迅速に、確実に―――ただし無理はしないようにしっかりついてきてくれ。」

「怪我をすればすぐに治療しますので、遠慮なくいつでも申し出てください。」

「……わかりました。」

「……やるからには全力を尽くします。」

「それでは状況開始、ですね。」

そしてリィンの号令とセレーネの申し出を合図にユウナ達はそれぞれ決意の表情になって小要塞の攻略を開始した――――




 
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