DOREAM BASEBALL ～ラブライブ～

『1ボール1ストライク。ここで音ノ木坂バッテリー時間をかけます。サインが決まらないのでしょうか』

うなずきも首振りもしない花陽と動きが完全に停止している穂乃果の姿が映し出される。しばらくその時が過ぎると、ようやく穂乃果がサインを出した。

『長いサイン交換が終わり第3球、投げた』
「！！」

内角高め、顔面付近に来たボールに思わず仰け反る英玲奈。これには投じた花陽が一番ビックリした顔をしている。

「花陽ちゃん！！楽に楽に！！」
「う！！うん！！」

花陽を落ち着けるように声かけをしながらボールを返球する穂乃果。だが、英玲奈は彼女が難なくボールを捕ったことから狙いを理解していた。

（今の投球はわざとだな。内角高めに目つけして外角のボールをより遠くに感じさせる）

となれば狙うは外角のボール。ナックルは制球に難があるためない。ここはストレートに狙いを絞って打ちに行く。
セットポジションから投じた4球目、英玲奈は花陽が投じると同時に踏み込むと、向かってきたボールに目を疑った。

（内角！？いかん、当たる！！）

外角と思い込んでいたため内角に来たボールに反応が遅れた。ストライクかボールか際どいコース。だがホームよりに踏み込んでいた英玲奈のエルボーガードに当たった。

「ボールデッド！！テイクワン！！」
「避けてませんよ！！」
「コースがボールだ」

本来はストライクを取られてもおかしくないコースだが、打者に当たったことでボールに見えたらしく進塁権が与えられる。マウンド上の花陽は帽子を取り謝罪すると英玲奈は手を振り無事をアピールする。

（まさか内角を続けるとは・・・デッドボールになったのはラッキーだったな）

読みが外れたことが幸いし出塁することができた。続く2番の越智は打席に入るとすぐさまバントの構え。

（ここは無難に送りバントだろうけど、ここからツバサさんとあんじゅさんに回っちゃう。高めのストレートで上げさせたい）

高めにストレートを要求。花陽はこれの意図を理解し高さギリギリのストレートを目一杯投げる。

ｺﾞｯ

そのストレートをバントする打者。うまく転がったのは良かったが、打球の勢いが強い。

「ボールセカンド！！」

転がったコースも悪くピッチャー正面。花陽はそれを拾うと振り向き様にセカンドに投げる。

「アウト！！」
「凛！！」

二塁はフォースアウト。ボールを受けた絵里はベースカバーに入っている凛にスローイング。ゲッツーかとも思われた。だが越智がギリギリ駆け込みなんとかセーフになった。

「ナイスフィールディングよ、花陽」
「1アウトね！！花陽ちゃん」
「うん！！」

ゲッツーは取れなかったが得点圏に走者は進ませなかった。アウトカウントを増やしてランナーは一塁。打席にはここまで好投を続けているツバサが入る。

（ツバサさんの今日はすごい仕上がってる。甘く入ったら持っていかれる！！ここは低めを徹底するよ）
（わかりました）

ランナーを警戒しつつ初球は高速スプリット。ツバサはこれを打っていくが空振り。

（なんだろう、今日のツバサさんスイングがバラバラのような気が・・・）

一打席目で剛と西村が感じた違和感を穂乃果も感じ取っていた。まるで一発しか見えていないようなフルスイング。準決勝まではコンパクトな中に力強さがあっただけに、これには疑問を抱かざるを得ない。

（力が入っているなら打たせよう。高めにストレート）

力が入っているバッターはアッパースイングになりやすい。それだと低めよりも高めが拾いづらいため有効な手と言える。

ﾌﾞﾝｯ ﾊﾞｼｯ

真ん中高めへのストレート。ボール気味だったがこれに手を出すツバサ。力が入りまくっている彼女は空振りし、勢いのあまり体勢が崩れる。

「まるで孔明さんみたいですね、あのフルスイング」
「え？そうか？」

スタンドでそれを見ていた亜里沙が嬉々として話しかける。それに孔明は半ば驚きながら顔を向け目をパチクリさせていた。

「孔明さんもすごいフルスイングが売りだったって聞きました」
「甲子園でも実況がビックリしてたんですよ」

2人の少女に言われて初めて気付いたらしく、孔明は「そうなんだ」と呟いていた。

（でもあんなフルスイングしてたら疲れるぞ？最後まで持つのか？）

ピッチングにも影響を及ぼしてしまうのではないかと心配している孔明。そんな彼の心配など気付くわけもないツバサは、ヘルメットを直し構え直す。

（これだけ力が入っているならダブルスプリットはいらないかな？ここは低めにスライダーで三振してもらおう）

ランナーが詰まっているので振り逃げはない。ワンバウンドするスライダーでフルスイングのバッターを交わし三振。2アウトになった。

「2アウト！！二遊間ニアベースね」
「わかったわ」
「了解ニャ！！」

ノーアウトでランナーを出したものの2アウトまで漕ぎ着けたμ's。一方いまだにランナーを進められないUTXベンチはピりついていた。

「ツバサ、なんだあのスイングは」
「・・・」
「進塁させるために転がそうとか思わなかったのか！！」

無言を貫くツバサに声を荒らげる西村。しばらく沈黙した時間が流れると西村があんじゅにサインを送りながら口を開く。

「何度でも言ってやる。今のお前じゃ孔明にはなれない」

そう言って彼女に次の守備の準備を促す。打席に立つあんじゅは背中にピりつくベンチの空気を感じながら戦っていた。

（監督の言う通り、今日のツバサはおかしい。おかげで監督もイライラしてきてるし、ここは点数を取らないと空気が変わらないわ）

とは言ってもすでにカウントは1ボール2ストライク。このままではダブルスプリットの餌食になるのは目に見えている。

（でもここまでダブルスプリットは2球しか使ってない。ツバサの言う通り、ヒジに大きな負担がかかるからかしら？けどそれなら・・・）

終盤までとっておきは残しておきたい。ここは打てるかわからないダブルスプリットよりも高速スプリットに狙いを絞る。

ﾋﾞｼｭｯ

真ん中低めに来たボール。ストライクだと思われたボールはそこから沈み始めるが、あんじゅのバットは止まらない。

ｶﾞｯ

鈍い音と共に転がる打球。完全に打ち取った当たりだが転がったコースがいい。三遊間の深いところに転がったボールは絵里がなんとか止めたものの、あんじゅが全力疾走で一塁に到達するところだったため投げれなかった。

「ナイバッチ」
「どこがよ。あんなショボいヒット」

この試合両チーム通じて初めてとなるヒットにも不満げな顔を崩せないあんじゅ。結局このあとの5番の鈴木が三振に倒れランナーを二塁に進めたものの無得点に終わった。

「よく凌いだぞ！！ピンチのあとはチャンスが来やすいからな。気持ち入れてけよ！！」

ピンチを凌いだ音ノ木坂ナインを剛の元気な声が迎え入れる。その様子を見ていた孔明は楽しそうに微笑んでいる。

「まさかここまでダブルスプリットを2球しか使わないとは・・・剛らしいいい配球をするな、あのキャッチャー」

穂乃果のことを高く評価する彼に照れ臭そうな反応をする雪穂。彼女が穂乃果のキャッチャーであると聞くと孔明は驚きの表情を浮かべた。

「孔明さん！！今度亜里沙にもダブルスプリット教えてください！！」
「ダメだ」
「えぇ！？なんでですか！？」

目を輝かせ懇願する少女をあっさり切り捨てる。なおもしがみつく彼女を押し退けると、彼は教えられない理由を伝えた。

「あのボールはヒジへの負担が他のボールの比じゃないんだ。俺でも1試合で10球投げれるかどうかだよ」
「「え・・・」」

信じられないような言葉を前に固まる2人。しばらくして正気を取り戻した雪穂が彼に慌てた様子で問いかける。

「じゃあ、なんでそんな危険な球を花陽さんに教えたんですか？」
「なんで教えたか・・・か」

マウンド上で投球練習をする小さな少女を見ながら、彼は不敵な笑みを浮かべながら答えた。

「剛のチームのピッチャーだから・・・かな？」

低くなった声に背中を凍えさせる亜里沙と雪穂。試合を見つめる青年の目は、一際厳しくなっていた。


 

いかがだったでしょうか。
次はμ'sの攻撃からです。果たして先取点はどちらの手に！？