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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  閑話12「隠れた動き」

 
前書き
優輝達以外で動いている人達の話。
新キャラ(オリキャラではない)も出てきます。
 

 






       =out side=





「……どうですか?」

「……ふむ、見た所大丈夫だろう」

 京都、街外れ。
 優輝達がアースラに戻った後、二つの人影が動いていた。

「瘴気は平気か?」

「はい。今の所は…」

 場所は幽世の大門がある場所。
 瘴気が色濃く残る場所に来れるという事から、二人は一般人ではないのは明らかだ。

「鞍馬さんの護符のおかげで何とかなっています」

「よし、それは重畳」

 鞍馬と呼ばれた灰色の長髪に、背中から黒い羽を生やした女性は頷く。
 その名の通り、彼女は天狗だ。

「では、早速試してみます」

「ああ。頼むぞ」

 もう一人の、黒髪を後ろで二つに束ねて降ろしている少女が目を瞑り、手を翳す。
 しばらく沈黙が続き、少女は目を開ける。

「……あちら……東の方へと“縁”が続いています」

「東か……」

「向かいますか?」

「……そうだな。幸い、京都はどこかの勢力が安全を確保してくれた。向かっても京都に問題はないだろう。ただし、私達の安全は一切保証できん」

 そういって、鞍馬は少女に“どうする?”と目で問う。

「でしたら、行きましょう」

「いいのか?戦闘になれば命だって落とす可能性があるぞ?」

「やっと私のやれる事…いいえ、やらねばならない事を知ったんです。なら、それを成し遂げないと……」

「一体、君の何がそこまで駆り立てるのやら……」

 呆れるように言う鞍馬だが、それ以上の否定する言葉はない。
 どの道彼女も東へ向かうつもりだったのだから。

「さて、では向かうとしよう。だが、交通はほとんど麻痺している。徒歩では相当な時間がかかるぞ?」

「それでも、です。向かいましょう」

 日本中が混乱しているため、電車などは碌に使えない。
 それでも少女は何者かが向かった東へ行こうとしていた。

「詳しい話をまだ聞いていなかったな。向かいがてら、聞いてもいいか?」

「……はい。式姫である鞍馬さんになら、構いません」

 そう。実は少女と鞍馬は初対面だった。
 少女が軽く事情を話し、この大門の場所まで来たのだ。
 そのため、お互いの詳しい事情は知らない。
 だから、二人は移動がてら事情を説明する事にした。







 少女…瀬笈葉月が鞍馬と会ったのはただの偶然に過ぎなかった。
 それ以前に、本来なら彼女は妖について何も知らない一般人のはずだった。
 しかし、彼女には一つの異能があった。
 それは、人の“縁”を探る事が出来る“物見の力”と言うものだった。
 自分が特殊な力を持っていると自覚していたが、周りに気味悪がられないように、あまり見せびらかさないようにしていたが……幽世の大門が開いた事でそれは一変した。
 確かに少女は一般人だった。…そのはずだった。
 しかし、“物見の力”の“縁”を探る力と、妖を目撃した事で、“思い出した”のだ。
 それは、所謂“前世の自分”。一つ前の人生の記憶だった。
 本来なら自分ではない自分の記憶で、混乱するはずだったが、彼女は別だった。
 やけにすんなりと記憶が定着し、“物見の力”の扱い方や、妖に関する知識も覚えたのだ。

「……それで、私に出会って同行する事にしたのか」

「はい。式姫に関しても知っていましたから」

 対する、鞍馬はそこまで特殊と言う程でもなかった。
 椿や葵のように、ひっそりと生き続けていた式姫の一人に過ぎなかったのだ。
 幽世の大門が開いた際、京都に滞在していたため、そのままなし崩し的に京都での戦いに参戦し、裏で被害が出ないように奔走していたらしい。
 巧みな采配によって、優輝達にも奔走していた事は知られていなかったが。

「しかし、なぜそこまでするんだ?何か理由があるのか?」

「……幽世は、私にとっても無関係ではありませんから」

「……ほう」

 並々ならぬ事情があると、鞍馬は察する。

「その訳を聞いても?」

「……前世の私には、一人の友人と姉がいました。詳しい事情は省きますが、私を含めた三人は幽世に一度落ちたのです」

「…それで、同じ幽世が関わっている現状を見て見ぬふりはできなかったのか」

「…はい」

 理由はそれだけじゃないだろうと、鞍馬は気づいていた。
 省いた事情の中にその理由があるだろうとも思っていたが、今はそれを聞いている暇はなかった。

「……ちっ」

「っ…!」

 現れた妖に対し、鞍馬が鳥の羽で作ったような、八つ手の葉型の扇を構える。

「葉月、戦えるか?」

「……いえ、前世ならともかく、今は自衛すら難しいです。記憶に体がついて行っていないので…」

「そうか。では…」

   ―――“扇技・護法障壁”

「しばらく、そこから動かないで欲しい」

「…分かりました」

 障壁を張り、鞍馬は前に出る。

「ふむ、全盛期には遥かに劣るが……」

「ガァアアッ!」

 襲い掛かる妖に対し、鞍馬は自分の体の調子を確かめるように呟き…。

「この程度なら造作もない」

   ―――“極鎌鼬”

 風の刃にて、切り裂いた。

「遅いぞ」

「ギィッ!?」

「ふっ!」

 鞍馬は本来、術をよく扱う式姫だ。
 しかし、天狗としての身体能力がない訳ではない。
 そのため、持ち前の素早さで妖に肉迫し、蹴りで吹き飛ばした。

「直接動いて戦うと言うのはあまり得意ではないが、選り好みはしてられんな」

「……さすがです」

「何、妖自体も弱い方だったからな」

 あっさりと眼前の妖を屠る。
 いくら式姫として弱体化していても、それ以上に妖が弱かった。

「幽世の門の守護者はこうはいかないだろうな」

「はい。大門の“縁”から他の門の位置もある程度分かりますが……」

「……全て閉じていく余裕はない。だが、見逃せなければ閉じるつもりだ」

「構いません。元より、個人では全て閉じる事は叶いません」

 人一人が日本中の門を閉じて回るのはほぼ不可能だ。
 それが例え式姫だったとしても、それに変わりはない。

「そうだな。……では、東へ向かおう」

「はい」

 改めて二人は東の方角へと向かう。

「……しかし、なぜ東なのでしょうか?」

「何か関連あるものがあるのだろう。……東にあると言えば……」

 過去、東にあったものを思い浮かべる鞍馬。
 そして、一つの存在に思い当たる。

「……まさか…逢魔時退魔学園(おうまがときたいまがくえん)…?」

「え……?」

 思い当たったその存在と関係があるならばと、鞍馬は嫌な予感を覚えた。













「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」

 街中を一人の少年と、その両親が駆ける。
 彼らだけでなく、多くの人々が逃げ惑っていた。
 理由はもちろん、妖の出現。避難している所へやってきたのだ。

「あぅっ!?」

「あっ…!」

 誰も彼もが我先にと逃げるため、人にぶつかって少年は倒れてしまう。
 それに気づいた両親はすぐに駆け寄り、起こそうとする。

「くそっ、車に乗っている奴も走って逃げたから、車が邪魔だ…!」

「あなた…!あ、あれ……!」

 彼らが車で逃げなかったのは、既に車で渋滞が出来ていたからだ。
 おまけに、その車に乗っていた人々は渋滞を待てずにそのまま走って逃げてしまった。
 そのため、彼らは自らの足でしか避難ができなかった。
 そして、少年がこけた事で、今彼らは逃げる人々の最後尾にいた。
 …つまり……。

「ひっ…!?」

「く、来るな!」

 襲ってきた妖に、ロックオンされてしまったのだ。
 襲い来る妖。子供と妻を庇おうとする夫。
 既に各地で出ている被害に、また一つ、加えられようとした時……。





「にゃにゃにゃにゃにゃーー!!」

     ザシュッ!

「…ぇ……?」

 その妖が、背後から何かに貫かれた。

「間一髪だにゃぁ!」

「ぇ…ぇ……?」

 貫いたのは、なんの変哲もない無骨な槍。
 そして、それを為したのは、猫耳と尻尾が二尾生えた少女だった。

「君は…!?」

「以前のお魚のお礼だにゃあ!ここは任せて欲しいにゃ!」

 そう。彼女、猫又は以前少年が偶然釣り上げた少女だったのだ。

「え……でも…」

 いくら目の前で妖を倒したからと言っても、目の前の少女が戦えるとは思えない。
 だからこそ、何か言おうとしたが……。

「早くするにゃ!」

     ギィイイン!ドスッ!

 次に襲ってきた妖に、猫又は槍を振るう。
 また襲ってきた事に、少年とその両親は怯えてしまった。

「に、逃げるぞ!」

「え、ええ!早く、行くわよ!」

「で、でも……」

「いいんだにゃ」

 それでも逃げるのを渋る少年に、猫又は微笑んだ。
 そして、少年はそのまま両親に引きずられるように連れていかれた。

「……さて、にゃ」

 槍を一回し、構えなおす。
 眼前には、多くはないものの何体もの妖が存在していた。

「久しぶりの妖討伐だにゃあ。……とこよが……主がいないのは寂しいけど、精一杯頑張らせてもらうにゃ!!」

 猫又は、椿たちと同じく現代に生きる式姫だ。
 式姫であるからには、一般人を助けるのは当たり前。
 だからこそ、例え弱体化していても、果敢に妖に立ち向かった。





「幽世の門が再び開いたんだネー…」

 場所は変わって北海道。そこにも一人の式姫がいた。
 肌に赤みが掛かったような色のセミロングな髪に、狐のような耳と尻尾を持っていた。

「……コロも行かなきゃネ」

 彼女の名はコロボックル。アイヌの伝承にある小人の式姫である。
 自ら死ぬ覚悟がなかったため、今まで生きてきたが、彼女もまた式姫であるため、再び戦いへと身を投じる事にした。





「……妖気を感じるわ」

 また、どこかの地の洞窟。その中にいた式姫が、外の様子を感じ取る。

「…もう、戦う事なんてないと思っていたのだけれどね」

 立ち上がり、彼女は洞窟の外へと向かう。

「毎年人々の願いを叶えて回るだけなのも飽きてきたわ。……いいわ、慈愛の力、久しぶりに見せてあげようじゃない」

 彼女の名は織姫。誰もが知っている名の式姫が、慈愛の力を以って戦いへと赴いた。





   ―――各地で生き続けていた式姫が、今再び戦場へと戻る。













「はぁ、はぁ、はぁ……。さすがに、疲れてきたね…」

「くぅ…」

 一方、妖の出現の対処をしていた那美と久遠は疲労していた。
 辺りの妖と祠は封印したため、現在は休息を取っていた。

「…まさか、本当に幽世の門があるなんて……」

「……何か、起きている?」

「それ以外考えられないかな」

 テレビなどで情報を得る前に戦いに巻き込まれた事から、那美はあまり事情を知らない。
 ましてや、幽世の大門が開いてこうなっているなど、知る由もない。

「っ……!」

「久遠?…また、なんだ」

 休息も長続きはしない。那美と久遠の霊力に妖は惹かれてくる。
 また現れた妖に対し、久遠が雷を迸らせる。
 そこまで強くない妖だったため、それだけで倒す事に成功した。

「……くぅ」

「一旦、何か飲み物を飲みたいね。さすがに喉も乾いてきた…」

 移動と戦闘を繰り返していたため、那美はだいぶ疲労が溜まっている。
 久遠も表情には出していないが、確かに疲労が溜まっていた。
 優輝達の特訓に参加していたとはいえ、それでも疲れる事には変わりない。

     ぐぅぅ……

「……コンビニないかな?」

「くぅ」

 現在、那美達は山の麓沿いを移動している。探せばあるかもしれない。
 なお、コンビニの従業員も避難のために逃げているので機能はしていない。





 ちなみに、優輝達と連絡を取ろうと思えば取れるのだが、那美は失念していた。
 その事に気づくのは、まだ少し先の事………。













「……ここね」

〈立入禁止区域…って言っても、今じゃそれどころじゃないか〉

 岩手県のある場所。そこにある立入禁止区域に鈴は来ていた。

〈結局徒歩になったね〉

「皆が避難している中、車での移動は悪手ね」

 鈴は途中から車を使わず走って移動していた。
 日本中が妖で混乱しているため、車は使えないも同然だったのだ。

〈ここにその悪路王がいるのかい?〉

「そのはずよ。……妖気も感じられるわ」

 立入禁止区域の奥から感じられる霊力を感じ、鈴はマーリンの言葉にそう返す。

「……行くわよ」

 意を決し、鈴は悪路王に会うために足を進めた。









「………」

 進めていた歩を止める。
 立ち止まった鈴は、そのまま前を見据える。

「……久しいな。陰陽師を見るのは」

「…悪路王」

 そこにいたのは、長い白髪を束ねて降し、黒い着物に赤い軽装の鎧を着た男。
 彼こそが悪路王であり、鈴が助っ人として会いに来た妖だ。

「吾の名を知ってここに来たか。何用だ?」

「……分かっているでしょう。外で何が起きているのか」

「ふん……」

 “当たり前だ”と言わんばかりに、悪路王は尊大な態度で鼻を鳴らす。

「大方、幽世の大門が再び開いたのだろう。だが、それがどうした?」

「…単刀直入に言うわ。……解決の助力を求めるわ」

「断る」

 鈴の要求を、悪路王はにべもなく切り捨てた。

「……理由を聞いてもいいかしら?」

「理由も何も、吾がお前たち人間に助力する意味がない」

「……そう」

 ばっさりと言い捨てる悪路王に、しかし鈴は予想していたように溜め息を吐く。

「相変わらず、興味がないものには干渉しないのね」

「……ほう」

 悪路王は、興味が湧かない限りまず力を貸さない。
 だから、まるで自身を知っているかのように、鈴は言った。
 そうする事で、悪路王の興味を自分に引き付けたのだ。

「貴様、ただの陰陽師ではないな?」

「当然。今いる陰陽師の中でも異端だと自負できるわ」

「ふん、食えぬ奴め。吾が問うたのはそう言う事ではないと分かっている上でそう答えるか」

 鈴は軽く挑発する。
 如何にして興味を尽かせないように立ち回るか。
 それによってこの後の展開が変わってくるからだ。

「当たり前よ。どんな陰陽師なのかは、貴方自身が探りなさい。答える気なんてないわ」

「ほう……吾を挑発するか」

 お互い軽く嘲るような笑みを浮かべながら会話を続ける。
 さすがに挑発している事に悪路王も感付く。

「かつての妹弟子が、その身を賭して閉じた大門よ。貴方を引きずってでも助力をしてもらうわ。そして、もう一度大門を閉じる…!」

「妹弟子……だと?まさか貴様……」

「さーて、どうかしらね…!」

 一発触発。ピリピリとした空気が二人の間に漂う。

「……娘、名を何と言う」

「…興味、持ってくれたのかしら?」

「答えろ」

 “軽口も通じないのね”と、心の中で呟きながら、鈴は乗ってくれたと確信する。

「……土御門鈴よ」

「土御門……ほう、あの娘の末裔か」

「ええ。何の因果か、私は土御門家の一人よ」

 鈴の肝心な所はお互いに言わない。
 どちらにとっても、今は言及する必要のない事だからだ。

「……気が変わった。いいだろう、力を貸してやる」

「そう。なら……」

「だが」

     ギィイイイン!!

 その瞬間、互いの刀がぶつかり合う。
 鈴の脇差程の刀に対し、悪路王は野太刀のような刀だ。
 悪路王自身、体格が鈴を大きく上回るため、ぶつかり合った瞬間、鈴は跳んで後退した。

「その前に吾を打ち倒して見せよ」

「ええ……元より、乗ってくれなければそのつもりだったわ…!」

 鈴は御札をばら撒き、その内一枚を地面に押し付ける。
 御札に込められた術式が迸り、鈴の身体能力が上がる。

「式姫も従えずに吾と戦うか。またそれも一興…!」

「生憎と、今のご時勢式姫を呼ぶ事が出来ないのよ。だから、私だけで我慢して頂戴!」

 鈴が駆け出すと同時に、悪路王は何体かの鬼を生み出す。
 “鬼産みの力”による、妖を従える力だ。

「はっ!……!」

「ギィ……!?」

 生み出された鬼の内、三体程が刀に切り裂かれる。
 他の鬼が鈴に襲い掛かるが、鈴はバック宙で躱しながら弓を御札から取り出し、射貫く。

「ふっ…!」

「っ!はぁっ!!」

     ギィイイイン!!

 雑魚を片付けた所へ、悪路王が刀を振るう。
 着地と同時に鈴は武器を斧に変え、身体強化を施して迎え撃った。
 しかし、それでも押し負け、鈴は後退する。

「む…!」

「これならどうかしら…!」

   ―――“火焔旋風”

 だが、後退しながらも鈴は手を打っていた。
 御札を何枚か投げつけ、その御札から焔の術式を三つ繰り出していた。

「ふっ……!」

 そんな三つの術を、悪路王は三太刀で切り伏せた。

「……何?」

「ここよ!」

   ―――“斧技・瞬歩”

 鈴はそれを先読みし、術を目暗ましに懐に潜り込んでいた。
 そのまま、勢いよく斧を振る。

「甘い」

「っ!」

 しかし、悪路王は刀を地面に突き刺し、その勢いと斧とぶつかり合った衝撃を利用して跳躍し、体を捻ってそのまま鋭い爪で鈴を切り裂きに行った。

「くっ!」

     ギィイイン!

「ふっ!」

「っ、はぁっ!」

 その爪は、新たに出した槍で防ぐ。
 爪で槍が若干弾かれるが、すぐに立て直し、突きを繰り出す。
 だが、その一撃は刀を再び手にした悪路王に逸らされる。

「そら、吾ばかりに構ってよいのか?」

「ええ。構わないわ」

 再び鬼産みの力で鬼の妖が生み出され、鈴に襲い掛かる。
 しかし、鈴は笑みを崩さない。

「既に布石は打ってあるのよ」

   ―――“火焔地獄”

「ほう…」

 予め撒いておいた御札の術が発動し、妖は焼き尽くされる。

「ここからよ」

   ―――“速鳥”

「……来るか」

 刀を二振り構え、鈴は御札を複数枚落とし、術式を発動させる。
 力、護り、速度、それぞれを強化する術が鈴を強化する。

「シッ……!」

「ふっ……!」

     ギィイイン!

 力で負けるなら手数で補う。鈴の二刀流は、詰まる所そう言う事だった。
 悪路王の刀を一刀で受け、その勢いを利用して体を回転、もう一刀で斬る。
 悪路王も負けておらず、爪でその一刀を受け止める。

     ギギギギィイイン!

「はぁっ!!」

「ォオッ!」

 刀と刀の応酬。鈴は舞うように、悪路王は堅実ながらも美しく。
 鬼産みの力で生み出された妖もものともせず、二人は剣戟を繰り広げる。





     ギィイイン!!

「ッ……!」

「…………」

 幾重にも剣閃を重ね、一度間合いが離れる。
 その瞬間、悪路王は明確な“構え”を取った。

   ―――満ちて乱れし朱の華―――

「……受けてみよ」

   ―――“刀奥義・雪月花”

 放たれる斬撃。対し、鈴は……。

「受けて…立つ!!」

   ―――刻剣(こくけん)風紋印(ふうもんいん)
   ―――“剣技・烈風刃(れっぷうじん)

 風を二刀に纏わせ、高速且つ鋭い五連撃を繰り出した。
 剣技と剣技で、相殺を試みたのだ。

「っづぁっ!?」

 しかし、力負けし、鈴は吹き飛ばされて壁に激突する。
 肺から息が吐き出され、鈴は若干咳き込む。

 ……決着は、ここに決した。







「………見事」

 悪路王が腹から血を流し、その場に膝を付く。
 そう。確かに鈴は力負けしたが、その斬撃は悪路王に届いていた。
 結果、こうして鈴は見事に勝利を収めたのだ。

「やっぱり、強いわね……」

「それでも一人で勝利を収めたのだ。誇るがいい」

「それは無事解決してからにするわ」

 今はここで満足している場合ではないと、鈴は言外に言う。

「そうか。……では、約束通りお前について行こう」

「……助力、感謝するわ」

「ただし、露払いまでする気にはならん。傷も癒す必要があるのでな、しばらくはこうさせてもらう」

 そういって、悪路王は鈴の右目に吸い込まれるように消える。
 右目に取り憑いたのだ。

「露払いはともかく、傷はそっちから仕掛けたんでしょうに……」

『知らんな』

「まったく……」

 呆れながら、鈴は体に霊力を巡らせ、自然治癒を早めて立ち上がる。

〈……終わったかい?いやはや、さすがと言うべきだね。これが君の全力かい?〉

「黙って見ていたのね。まぁ、全力ね」

 ただし、“今の状態では”と付くが、鈴はそれを言わない。

『……む、なんだ。それは』

「魔法を使う際の媒体…みたいなものね。種類によって人格があったりなかったりするけど。拾い物みたいなものだから気にしなくてもいいわ」

〈ちなみに名前はマーリンだよ。よろしくね〉

『そうか。付喪神みたいなものか』

 然程興味も湧かなかったようで、悪路王はそれっきり黙った。

〈んー、興味なしと見られるのはそれはそれで寂しいものだね〉

「あまり気にしてないでしょ。移動するわよ」

 助っ人が手に入ったため、鈴はすぐに移動を開始する。

〈次はどこに行くつもりだい?それと、車の運転手はいいのかい?〉

「運転手も土御門家の者だから自衛ぐらいはできるわ。次は……そうね、悪路王以外にも人手が必要だから……」

 同じ陰陽師を集めたい所だが、鈴自身にはあまり伝手がない。
 土御門としてなら腐る程あるが、家も家で対処に追われているため使えない。

「……那美がいたわね」

〈那美?もしかして神咲那美の事かな?〉

「え?那美の事知っているの?」

〈ボクにも“原作知識”は埋め込まれているからね。“リリカルなのは”の原典となるゲームの方に彼女は出てくるんだよ〉

「ふぅん。まぁ、知っているのなら話が早いのだけど」

 原作がどうとかは、鈴にとってはどうでも良かった。
 説明の手間が省けるという点では楽であるが。

「さて、まずは那美と連絡を取らないとね」

 そういって鈴は御札を取り出す。

〈陰陽術にも念話のようなものはあるんだね〉

「魔法では念話なのね。こっちは伝心と言うわ。“あの子”の世代では主に方位師が扱っていたけど、戦闘専門の陰陽師も扱えない訳ではないわ」

 伝心を繋げ、那美との連絡を繋げようと試みる。

「(もし那美に危険が迫っているのなら、密かに忍ばせておいた術式を使わないといけないわね……確か、那美は今、神奈川県方面に行ってたはず。もし“あいつ”と遭遇したら……)」

 ふと、鈴は一体の妖を思い浮かべる。
 大門が再び開き、妖が復活した今なら現れてもおかしくない。
 ……だからこそ、遭遇する可能性のある那美を心配した。







































「……出来るか出来ないかで問われれば、可能だよ」

「本当!?それなら早速…!」

「けど、あんたはダメだ」

「どうして!?」

 とある場所にて、誰かが会話していた。

「あんたは今、力が削がれているだろう?それと、あたしもダメだ。あたしはあたしで別の事に力を割いているからね」

「じゃあ、実質可能なのは……」

「私……だけですか」

 会話している三人は、何かをやろうとしていた。
 しかし、三人の内、一人だけしか“出来ない”ようだ。

「ああ。あんただけさ。今の状況では、こいつは力が削がれた上に今は式姫の体だ。あたしもここから離れる訳にはいかない。だから、力と肉体が戻ったあんたなら可能なのさ」

「………」

 “自分しかいない”と言う事実に、その一人は黙り込む。

「……分かりました。やりましょう」

「…怯えたりはしないんだね」

「散々鍛えられましたから。……それに、きっと皆が頑張っている。それなのに、私だけ動けるのに何もしないのは嫌ですから」

「……そうか」

 そういって覚悟を決めたようで、すぐに準備に取り掛かった。

「本来なら、“向こう側”から召喚する所を、あたしの特権で無理矢理こちらから派遣する。裏技みたいなものさ。もちろん、時間制限はある」

「……どれぐらいですか?」

「あんたの力の使いようによるけど……全力で戦闘し続けるとなると、二時半(ふたときはん)保つかどうかって所だね」

「なるほど……」

 二時半……つまりは約五時間である。

「短いかい?」

「………充分です」

「……それでこそだね」

 今の状況を知れば、明らかに少ないと思える時間。
 しかし、それでも“充分”だと言って見せた。

















 
 

 
後書き
鞍馬…鞍馬天狗の式姫。実は孔明としても存在していたらしい(式姫四コマより)。呪い師系の式姫で、術が得意。ただし天狗らしい身体能力も持ち、体術でも戦える。容姿に関しては式姫大全参照。

瀬笈葉月…うつしよの帳に出てくるキャラ。うつしよの帳でのパートナー的立ち位置の少女で、“物見の力”と言うもので、人の縁を探る事ができる。大門の守護者の行き先も、これで探っている。他にも、妖についての知識が豊富。そんな少女が生まれ変わったのが彼女である。幽世の大門が開き、妖を目撃した事で前世を思い出した。苗字は適当。(役割を“背負う”に掛けてたりする)

逢魔時退魔学園…かくりよの門に登場する学園。というか拠点。陰陽師による陰陽師のための学園。実は主人公の家を取り込むように建てられた。

コロボックル…式姫の一人。かくりよの門では弓系式姫。語尾がカタカナになっている。北海道(アイヌ)の伝承に登場する小人の事だが、かくりよの門では狐っ娘っぽい見た目になっている。

織姫…名の通り織姫の式姫。菫色の長髪と衣を着ている。“慈愛の力(と言う名の万能な力)”を扱う。公式で半ばネタキャラになっている。

鬼産みの力…所謂“仲間を呼ぶ”。弱い鬼の妖を呼ぶ。かくりよの門で初のボス複数戦。何気に自爆する妖も生み出すので注意。

斧技・瞬歩…斧キャラ専用速度バフ。脚に霊力を込め、縮地の要領で高速移動する。かくりよの門では必須レベルのスキル。

速鳥…単体速度バフ。22話にも登場。瞬歩と違って誰でも扱えるが、効果は劣る。

刀奥義・雪月花…悪路王が刀で放つ奥義。名にふさわしい美しい斬撃を繰り出す。かくりよの門では全体攻撃となっている。

刻剣…刀に属性を纏わせる術。ゲームでは不可能だが、複数の属性を同時に纏わせる事も可能。纏わせた属性の攻撃力が強化され、攻撃属性も付与される。

風紋印…刻剣で風属性を纏わせる。斬撃が鋭くなり、概念・思念系以外なら技量次第で大抵斬れるようになる。かくりよの門では風属性攻撃力が上がり、攻撃に風属性が付与される。

剣技・烈風刃…まさに烈風とも言える五連の斬撃を繰り出す。かくりよの門では斬+風属性の五回攻撃。風紋印で強化されると凄まじい切れ味を誇る。


うつしよの帳は1月18日にサービス終了したかくりよの門の姉妹作のスマホアプリです。かくりよの門の主人公の母親の話で、幽世の世界での話を描いています。
式姫達と葉月の服装は、現代に合わせているので、特に描写していません。式姫達は戦闘時に本来の衣装に戻りますけど。詳しく知りたければ式姫大全を見てください。(宣伝)

最後の三人は内二人が原作ありきのキャラ、残りがオリキャラです。
……分かる人には誰が誰か分かるかもしれません。 
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