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KAMITO -少年篇-

作者:redo
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忍の道

事件から翌日。

カミトとイルカは、ヒルゼンに事件の経緯を説明。事件の主犯者であるミズキは投獄され、《封印の書》も無事戻った。それで問題は全て片付いたと思われたが__事態はそう簡単に収まらなかった。

事件の後、火影室にてカミトはヒルゼンと2人きりになり、ある密談をした。

ミズキから聞かされた驚くべき真実。ずっと自分を縛っていた(わだかま)り。それらを解こうとカミトは必死だった。

カミト本人に知られないように掟まで作った自分が話さなければ示しがつかない。そう思いながらも、ヒルゼンはどのように答えるべきか戸惑った。

真実を知らないまま生きるほうがカミトのためになると考え、ヒルゼンは物心のついた頃のカミトに《人柱力》のことを伏せて両親のことを教えた。自分が四代目火影を父に持ち、木ノ葉創設者である《千住一族》の末裔だと知らせることで精神を安定させ、立派に育ってくれるように道を示したつもりだった。

しかし、何1つ知らずに育つのは耐え難い仕打ちを積み重ねることにもなり得ると、今回の事件を踏まえて学んだ。

真剣な眼差しを向けたカミトは、今度ばかりは両親と自分、そして九尾との因果関係、その全てを聞くまでヒルゼンの前から一歩も動かず立ち尽くしていた。

そんなカミトの硬い意志に敵わず、ついにヒルゼンは全てを語ることに同意した。

__そして、カミトは知った。











2日後、《火影屋敷》に呼び出されたカミトは、先日出すように言われた書類を提出した。

「忍者登録書は、これでいいですね」

今日は新人忍者の登録受付日。この日、カミトは忍者としての一歩を踏み出すべく新生活をスタートさせようとしていた。

「うむ、確かに受け取ったぞ」

登録書を受け取ったヒルゼンは、登録書に貼られたカミトの真剣な表情の顔写真をまじまじと見ながら、水晶玉を通して見た一部始終を思い返した。

飛雷神と影分身のことはイルカから聞いたが、水晶玉ですでに知っていたこともあってそれほど驚かなかった。イルカ同様にカミトの卒業を心から祝福していた。

「にしても、二代目様の術を一晩で2つも習得するとは、大いに感心じゃ」

「いや、別に大したことありませんよ」

自身を過小評価する姿を見たヒルゼンは、カミト特有の愛嬌(あいきょう)を感じた。

(真実を知ったというのに……相変わらず健気じゃの。二代目様の術を扱えるようになっても、それを鼻に掛けようとはしない)

ヒルゼンとの密談により、《九尾の人柱力》として自分が背負う過酷な運命を知ったカミトの世界は一変した。

父《波風ミナト》__母《千手レナ》__人柱力__里を担うパワーバランス。

長年自分を縛っていた(わだかま)りが解かれたことによって愕然(がくぜん)し、内心がズタズタに切り裂かれる思いだったはずだ。追い求めた真実を知って、自分の世界が砕け散ったはず。自分の物語はこれで終わりだと絶望する。それが普通だ。

__だが違った。

(本当に強い子じゃ。あやつもこれくらい健気じゃったらのぉ……)

ふと思った、その時。

「爺い!勝負だぁ!コレ!」

噂をすれば__。

突然、浅葱色のマフラーに帽子を被った子供が、片手に手裏剣を持ってヒルゼンに向かって走り出す。

「五代目火影は!この木ノ葉丸様のもん……!」

と言いかけた矢先。

ズルッ!と途中で(つまず)き、思いっきり頭からずっこけた。

「いってぇぇぇぇぇ!!くそぉ!トラップか!?コレェ!」

部屋中に鈍い音が響くと、《木ノ葉丸》と名乗る子供が涙目になりながら立ち上がった。

(なんだ……この子?)

「大丈夫ですか!お孫様!?因みにどこにもトラップはありません!」

カミトが招かれざる客人の騒がしさに驚く中、今度は黒い丸サングラスをかけた忍が慌てて子供に駆け寄った

「お〜い君、大丈夫かい?」

カミトが心配そうに木ノ葉丸に声を掛ける。

「余計なお世話だ!コレ!」

心配無用と間髪を容れずに食って掛かる。

「そうか!貴様がなんかしたんだなぁコレ!」

「は?」

突然詰め寄られ、言いがかりをつけられたカミトは、咄嗟にヒルゼンに眼を向ける。

「あの、三代目。この子、誰です?」

だが、質問に答えのは、丸サングラスをかけた上忍だった。

「誰とはなんだ!誰とは!その方は三代目火影様のお孫様だぞ!」

「……え?」

と聞いたが、すぐに反応できず、しばらく硬直した。

「……ええ!?この小さい子が?」

「小さいって言うなぁ!コレェ!」

火影室で大騒ぎする子供に、それを(なだ)める子供の2人でバランスは取れている感じだった。

(やれやれ……カミトがいてくれたからまだよかったものの、こやつには手を焼かされるの)

孫のやんちゃ振りはいつものことだが、こう毎日続くと日常茶飯事(にちじょうさはんじ)のように思えてきそうだった。

一方、カミトと木ノ葉丸は互いを見つめながらも、自分達なりに相手を理解しようとしていた。

(火影の孫とわかった途端、これだもんな。こいつもどうせ、メガネ教師やみんなと同じに決まってるんだ)

木ノ葉丸のカミトに対する認識は悪い捉え方のようだ。

(もしかして……この子……)

しかし、カミトは眼を合わせた瞬間、何か自分に近いものを感じた。

「君……かなり不満を溜め込んでいるな」

「は?何言ってんだコレ?」

「その気持ち、よくわかるよ」

と言って、再びヒルゼンに眼を向けた。

「じゃあ、三代目。俺はそろそろ行きます」

「うむ。明日のアカデミーでの説明会、遅れるでないぞ」

「わかってます。それじゃ」

最後の言葉を告げ、火影室を後にした。

それからわずか数分後、残された木ノ葉丸は自分を担当する家庭教師、及び保護者役を務める上忍《エビス》からお叱りを受けていた。

「いいですか?あなたはこの三代目火影様の孫なのです。悪戯(いたずら)や脱走ならまだしも、あのような者に関わってはいけませんぞ」

「………」

木ノ葉丸は無言のまま眼を下に向ける。

「あんなのを相手にしてもロクなことはありません。このエリート教師、エビスの言うことに間違いはありません」

自分を鼻に掛けるような言葉は、逆効果になり()ねない。木ノ葉丸も薄々それを感じていた。

「お孫様は五代目火影になりたいのでしょ?この私が忍術を教えれば、火影の名を名乗ることなど簡単」

とは言うものの、やはりその言葉にはどこか胡散臭いものが感じられる。木ノ葉丸から視線を逸らしたエビスが、名言でも吐いてる気で続ける。

「そう。この私に教えを()うことこそが、五代目火影への一番の近道なのです。わかりましたねお孫様?」

視線を戻すと。

「あれ?」

いつの間にか、木ノ葉丸が風の如く消えてしまった。

キョロキョロと周りに視線を送ったエビスだが、火影室の中に残っているのは自分とヒルゼンだけだった。

「って!いない!」

ようやく木ノ葉丸の不在を確認した。

「どうやら、カミトの跡を追っていたようじゃな」

木ノ葉丸が出て行く場面をしっかり眼に捉えていたヒルゼンが口を動かす。

「なんと!?それは一大事ですぞ!!」

慌てて火影室を出て行ったエビスは、すぐさま木ノ葉丸を捜索した。

「やれやれ」

1人ポツンと残ったヒルゼンは呆れるしかなかったが、しばらく時間が経過して立ち上がる。

「さて……そろそろ《カカシ》の奴を案内してやるかの」











その頃、大樹家に帰ろうと森の奥を歩くカミトは、薄々誰かの尾行に勘付いていた。

(……暗部じゃないな。まぁ、誰かは見当がつくけど……)

一応、振り向いてみると、白い布を被ったまま地面にしゃがみ込む者がいた。

(あれで隠れてるつもりなのか?)

誰かどう見てもバレバレの《隠れ蓑の術》だった。少なくともカミトの使う隠れ蓑の術がまだマシな方だ。

「お〜い、用があるならさっさと出てこいよ」

段々と阿呆らしく思え、とうとうカミトは声を掛けた。

「んふふふ!よくぞ見破ったぞコレ!」

覆い被さっていた布を外し、遂に姿を表す木ノ葉丸。

「さすが俺が見込んだ男だなコレ!」

(見込んだ?……さっき言ったことが影響したのか?)

いい加減な隠れ蓑の術まで使ってカミトを追尾してきたのにも、ちゃんとした理由があると悟った。

カミトに詰め寄ってきた木ノ葉丸が、人差し指を指して堂々と大声で言ってきた。

「俺!お前の弟子になってやるぞ!」

「……は?」

突然の意味不明な言い分にカミトは困惑した。

「さっき聞いたぞ!お前、火影の爺いが強いと見込んだ男のようだなコレ!」

(強い?三代目様がそんなこと言ったのか?)

この時、火影の孫がついて来た理由がわかった気がした。

「だから弟子になってやる!その代わり、火影の爺いを驚かせた術とやらを教えてくれ!」

「………」

大方(おおかた)、そんなことだろうと思っていたが、あっさり答える。

「悪いが、その頼みは聞けないな」

「なんだと!?」

「その術は、君には速すぎるよ。さっきの上忍にでも頼めばいいだろ」

「そんなこと言わずに頼む!師匠!」

「ん?……師匠?」

「師匠!師匠!師匠!」

何度も同じ単語を聞く内に、師匠、という言葉の響き良さに心を動かされた。

「んぅ〜……まぁ、少しくらい付き合ってもいいかな……」


◇◇◇


そして木ノ葉丸が連れてこられたのは、森の奥地に位置する、とある大きな池の付近。

「よし。じゃあ始めるぞ」

「よっしゃ!どんな修行から始めるんだ!?」

やけにやる気満々な木ノ葉丸を見ていると、不思議と癒されるような気がした。

「その前に、確認だ」

「ん?なんだ?」

「オマエ、《チャクラ》のことは知っているか?」

「もちろんだコレ。忍者が忍術を使うために使うエネルギーのことだコレ」

「……まぁ、そのとおりだ」

かなり大雑把な答えだが、間違いではなかったため聞き流した。

「じゃあ、まず俺が術を見せる。よく見てろ」

「おう!」

ようやく、といった感じで眼をキラキラさせる木ノ葉丸。人差し指と中指を立てた両手で十字型の印を結び、発音する。

「影分身の術」

その瞬間、カミトの右側に煙がボワッ!と発生。煙が消失した場所にもう1人のカミトが立っていた。

「おお!!」

ただの《分身の術》でないことは木ノ葉丸にもすぐわかった。

「これは《影分身の術》。残像ではなく実体そのものをチャクラで作り出し、物理的な攻撃を可能とする高等忍術だ」

封印の書を読んだ時、最初に記載されていた術が影分身。その他にも術は色々記載されていたが、中でも目に留まったのが《飛雷神の術》。その術と影分身の2つを選択し、必死に修行をした。

高等忍術なだけあって、どちらも習得するのにかなりの時間と体力を使った。影分身もそうだが、一番の難点は飛雷神のほうだった。会得難易度は影分身以上と言える。

さすがに飛雷神を木ノ葉丸に教えるのリスキーだと思い、影分身のほうがマシだと結論づけた。

(……大丈夫かな?俺より幼い子に高等忍術を教えるの……やっぱりマズかったかな?)

自分が学ぶならまだしも、他人に教えるとなると不安になりそうだ。そもそもカミトは誰かに術を教えたことなどない。相手が子供でも自信がなかった。

「どうしたんだコレ!?さっさと始めるぞ!」

「………」

しかし、そんなカミトに興味と尊敬に満ちた眼差しを向けてくる木ノ葉丸の思いを無下にはできない。長い物に巻かれるような感じでここまで来たが、三代目火影やイルカのように自分にも教えられることがあるなら、挑戦すべきだ。

最初から不安になっていたら、いつまで経っても変わらない。それは日々の修行でわかっていることだ。

「よし。じゃあまずは、印を結んでみろ」

両手の人差し指と中指を立て、右指を上、左指を横にして十字型の印を組む。

「おす!」

カミトの組んだ印を、木ノ葉丸も見て真似る。

「影分身の術!」

と叫んだが、

ポン!

「ん?」

木ノ葉丸の隣に小さな煙が発生しただけで、分身はできなかった。

「単に印を組めばいいもんじゃないぞ。もっとチャクラを練らなきゃ」

「おす!」

それからも木ノ葉丸は、カミトのアドバイスを頼りに何度も印を組み直しては練習を続ける。

(失敗しても(くじ)けず前に進み続ける。まるで幼い自分を見ているようだ)

カミトも、今の木ノ葉丸くらいの歳からずっと修練してきたが、術を習得するのに100回以上の失敗を繰り返してきた。しかし、その失敗の積み重ねが新たな成功を開花させ、眠っていた力を覚醒させる。











時刻は昼12時を過ぎ、里の歓楽街にて火影ヒルゼンと、木ノ葉上忍《はたけカカシ》が雑多な人混みの中を歩いていた。

「カカシよ……このたび、お主に担当してもらう下忍たちについてじゃが……」

「また俺にですか?」

今まで担当してきた下忍を幾度も落としてきたカカシにとっては呆れる提案だった。

「そう嫌な顔をするな」

文句に言葉を遮られながらも、ヒルゼンは跡に続いて歩くカカシを宥める。

「《ガイ》はすでに下忍たちと班を組んで任務に出ておる。お主も早く弟子と任務に出たいとは思わんのか?」

「はぁ……」

ため息に等しいカカシの微妙な返事。

「まぁ、よい。今度の下忍たちには、少なからずお主も興味を持つじゃろう」

そう言ってヒルゼンが足を止めた場所。目の前を見ると、4階建てのビルが眼に映った。

「ここは確か……」

眼前のビルを見た時点でカカシは気づいていた。

「そうじゃ。ここは《うちはサスケ》の自宅じゃ」

コンクリートで造られた建物から冷たい印象を抱きつつ、様々な種類の金属を組み合わせた床を横切って行くと、正面に巨大な階段があった。

床を踏む足音を響かせながら階段を昇っていくヒルゼンとカカシ。やがて無表情な木製の扉の前で足を止めた。やがて意を決したように右手を上げ、扉を開け放った。

サスケの暮らす家は、まるで高貴な者が住むような八畳の部屋。壁には《うちは一族》の家紋に、忍に関するあらゆる本や巻物が並べられた棚。太陽の光を通す窓。エリート一族の住む場所だけあって高級感と清潔感が感じられる。

「うむ、サスケの父《うちはフガク》は厳格な男だったからな。仕付けもよかったと見える」

クルリと周囲を見回し、綺麗に整理整頓された部屋にカカシは思わず見惚れそうだった。そして同時に、暗部時代の後輩を思い出した。

「兄の《イタチ》も、きっちりとしていましたからね」

「そうじゃったな。暗部時代、イタチもお主の下につけておったな。兄同様、サスケをよろしく頼むぞ。父フガクに代わって、ワシからの願いじゃ」

「……イタチには、教えることなんて何1つありませんでしたよ。《写輪眼》にしても、俺以上の眼を持っていたようですし」

「とは言え、木ノ葉で写輪眼を持つのは今やお主のみ。サスケがこの先、写輪眼を開眼できるかどうかはわからんが、その時はお主がサポートしてやっておくれ」

「はぁ……」

またしてもカカシは頼りない返事をする。

本当なら、写輪眼など開眼しないほうが幸せなのだと、内心で呟いていた。何よりこの眼は、カカシのかつての仲間2人を死に追いやるきっかけになったとも言える。

「写輪眼には、悲劇が付き纏います。できれば、開眼などせずに終わるほうがいいのかもしれません」

ふと浮かんできたそんな思考に戸惑った。

「しかし……良くも悪くも、この眼には友が……仲間への思いが重要な鍵を持つようです。悲劇を引き起こすのが思いの裏返しと考えれば……そうはならぬよう、仲間を大切思う気持ちを見極める必要があります」

「うむ、今年もお主の審査基準は変わらぬようじゃな」


◇◇◇


続いて、四代目火影の忘れ形見カミトの自宅……と言うより野営地に辿り着いた2人。

木ノ葉周辺を覆い尽くす広大な森。その奥にポツンと位置する大樹。ここがカミトにとって唯一《家》と呼べる場所だ。里で生まれ育った者が住む場所にしては随分と不便に思えるこの場所は、先ほど訪れたサスケの自宅とは対照的だった。

大樹の根元に開いた大きな樹洞(じゅどう)内には、カミトが毎日欠かさず熱心に読み尽くしている数多くの本や巻物。その綺麗に並べられた書物のほとんどが、忍の歴史や忍術に関する物ばかりだった。アカデミーを不登校していたとは言え、勉強にはしっかり励んでいた。

整理整頓されたその場所の主は、きっちりとしていた四代目火影の息子としか思えないほどだ。

「素朴な場所じゃが……カミトには整った環境のようじゃ」

「これは……一体どういうことですか?」

野生感を放つ場所に、カカシは思わず眼を見開いた。

「……ここがカミトの自宅じゃ」

ヒルゼンが重い口調で答える中、カカシはどうにか平静を保ち

「……これでは、まるで追放者のような生き方ですね」

「確かにな」

「俺の知らない間に、こんなことになっていたなんて……。カミトは今まで、どうやって生きてきたんです?孤児なら、里から援助してもらえるはずでは……」

長い間、暗部としてカミトから距離を置いていたカカシは、カミトの近況について詳しい事情は何も知らなかった。

「生活費はワシが届けておった。じゃが、例の《九尾事件》のせいで里に煙たがられるカミトに、物を売る者はおらん。そのため金を持て余しているのじゃ。食事に於いては、この森の野草や木の実、魚や鳥を狩り、自分で調理しておる。時にはワシのところへ訪れて、食材を調達することもあった。そうやって今まで生きてきたのじゃ」

「しかし、せめて住む家くらい与えても……」

「もちろん与えた。ワシはアパートの一室を用意し、カミトの生活を見守るつもりじゃったが……住み始めて間もない頃、付近の住民たちから苦情が殺到し……仕舞いには、部屋に押し入られるという強行手段にまで至った」

「そんなことが……?カミトは無事だったんですか?」

「ああ、無事じゃ。幸いその時、カミトはアパートを留守にしておった。じゃが、里からの迫害に耐えられなくなったカミトは、いつしか人気のないこの森で生活を送ることを止む無くされたのじゃ。隠居生活と言ったところじゃろう」

「………」

カカシは、その時のカミトの様子が思い浮かぶほど心を痛めた

「では、カミトは今でも……?」

「そうじゃ。あの子は本来、とても純粋な子じゃ」

ヒルゼンもカカシも、カミトが忍として生きていく上での精神状態を危惧していた。

「カカシよ、お前は鼻が効く。《人柱力》を見守る者としては、お前が適任じゃ。それに何よりカミトは……《ミナト》の忘れ形見じゃ」

「……はい」

四代目火影の名に反応を示したカカシは、どうにかしてやりたい思いで言葉を返した。


◇◇◇


自分が担当する下忍3人の家を訪問し終えた後、カカシはヒルゼンと共に公園のベンチに腰を掛け、缶コーヒーを飲んで一息ついていた。

しばらくして、カカシがふと質問をする。

「……なぜなんです?」

「何がじゃ?」

「なぜ……あの3人を俺の担当にしたんです?」

今度の下忍達を重ねて考えると、かつての自分の班が脳裏に浮かんできた。

「確かに……天然な劣等生に、優秀なエリート。そして賢いくノ一。……かつての《ミナト班》のようじゃな」

「っ!?そ、それではわざと俺に!?」

ヒルゼンの意図を悟ったカカシは思わず声を上げた。

「カカシよ、ワシも火影じゃ。個人的な思惑で人事を決めたりはせぬ。適材適所、人材の配置には、頭を悩ませておる」

サスケは卒業生27名中1番の成績。対するカミトの成績は低い位置に属している。そんな2人が同じ班になることで、班のバランスが取られるという仕組みになる。

「今や、忍も集団行動。班編成が任務の成功率を大きく左右する。ゆえに専門班のバリエーションを持つことが、里を治める者の責務となる」

納得のいく説明に、カカシは頷いた。

「例えば、昨年編成した《ガイ班》は……体術に特化された編成じゃ」

「……確かに」

「今年は他にも、索敵に特化した班や、秘伝忍術による戦術特化班なども編成するつもりじゃ」

「なるほど。そういう意味では、カミトは《千手一族》にして《九尾の人柱力》。そしてサスケは、うちは特有の写輪眼を開眼する可能性を持っている」

「さっきも言ったが、サスケが写輪眼を開眼した時、サポートできるのはお主だけじゃ」

とは言うものの、ヒルゼンは先のことを考え、サスケに九尾をコントロールできる写輪眼を開眼させようという意図を持っていた。

__あの夜の悲劇を繰り返さないためにも。

「カミトとサスケが特殊なのはわかりましたが、一緒の班で大丈夫なんでしょうか?」

「何か心配事でも?」

「まぁ……あの2人の一族は元来、敵同士だったという歴史がありますからね」

「それは過去の話じゃ!」

カカシが言い終える前に、ヒルゼンが強い口調で遮った。

「うちはと千手による長き争いの歴史はすでに幕を下ろしておる。今さら心配するようなことではない」

カカシが不安に思うのも無理はなかった。

一国(いっこく)一里(いちり)というシステムが作られる前、世界は戦いの絶えない戦国時代だった。忍の組織は一族単位の武装集団でしかなかった。戦乱の世でもっとも名を上げた《うちは一族》。図抜けたチャクラと写輪眼を有した彼らは、最強の戦闘一族として各国に知れ渡った。

そして、うちはと双璧を成す最強の一族こそが__森の《千手一族》。

あらゆる忍術・体術・幻術に精通し、多くの優れた忍を生み出してきた。あらゆる術に精通していることから《千の手を持つ一族》と呼ばれ、忍世界最強の一族と(うた)われてきた。その最大の特徴が、強人な生命力と身体エネルギー、そして図抜けたチャクラ量を有していることである。

うちはと千手、2つの一族は幾度も争いを繰り返した。

__しかし。

果てることのない争いの先に待つのは、互いの滅亡。そう考え、対立の立場から手を取り合う道を選んだのが、一族の(おさ)である《うちはマダラ》と《千手柱間》である。

やがて2人は新たな組織を作り出した。それが後の《木ノ葉隠れの里》。各国に拡散していた忍達も、やがて里というシステムを構築し、戦乱の時代から一転、一時の安定へと変わった。

だが__所詮うちはと千手は水と油、交わることなどできはしない。そう訴えるマダラに耳を貸す者は1人もおらず、同胞にまで裏切られる始末。やがてマダラは里を抜け、復讐者となって木ノ葉に戦いを挑んだ。それを阻止したのが、千手柱間である。

互いの意志を賭けた震天動地の戦いに柱間は勝利し、マダラは敗北となった。うちはと千手による長き因縁に決着がつかれ、以来両一族が争うことはなかった。

「すいません、余計なことに時間を取らせて」

「まぁ、良い」

申し訳なさそうに謝罪するカカシに、ヒルゼンは情けを掛けた。

「話を戻しますが、あの《春野サクラ》という少女にも、何か特別な要素があるんですか?」

「さて、特別かどうかはまだわからん。良いくノ一となる素質はあると思うが、今のところは普通じゃな。ミナト班で言うところの、《のはらリン》のような役割を担ってくれる存在だとワシは考えておる」

「っ!?」

不意に、リンの名前を出されたカカシは驚愕した。

「才能は人を惹き付け、人は他者に認められることを意識し、競争は互いを成長させていくのじゃ」

「つまり、班の成長も考慮に入れていると?」

「そういうことじゃ」

考えてみれば、ミナト班はリンの精神的サポートのおかげで纏まっていたようなものだ。

「三代目の考えは理解しましたが、自分は三代目が二度も考えた班編成に失敗した男です。やはり俺には、担当上忍なんて向いていないと思います」

「個人的感情で落第させたのか?」

「……いいえ」

あまり自信を持って答えられないカカシに、ヒルゼンは言葉を付け加えた。

「まぁ、お前に落第された者たちには悪かったかもしれぬが、厳しい忍の世界じゃ。若い内に気づいていたほうが良い。結果的に、彼らの人生には重要だったはずじゃ」

「ですが、それはたまたま結果オーライだっただけでは……?」

「そうかもしれんが。じゃが、ワシはそうなると信じたのじゃ。信じて、お主に託したのじゃ」

「三代目……」

こんな自分を信頼してくれているヒルゼンに、カカシは感動が溢れ出てくるような気持ちだった。

「ミナトもそうじゃった」

「え?ミナト先生が?」

かつての師の名を口に出され、カカシは再び驚きを表した。

「弟子を信じて見守る。これもまた、師の在り方じゃ」

「………」

この時、カカシの思考は渦巻いていた。

今までにも下忍の担当をしてきたとは言え、今度のメンバーが特殊過ぎるあまり、多少の危機感を感じる。

特にカミトは自分の師の息子にして九尾の人柱力。そんなカミトの担当が自分に務まるかどうか心配で仕方なかった。

「三代目、質問をよろしいですか?」

「なんじゃね?」

カカシはふと頭に浮かんだ質問をするべきか一瞬迷った。

「……小耳に挟んだんですが、アナタがカミトに真実を話したというのは、本当なんですか?」

「………」

迷いを振り切って訊いたカカシに、ヒルゼンは少なからず動揺した。

「ああ、本当じゃ。両親であるミナトとレナのことを含め、人柱力が担う国と里のパワーバランス。ミズキの一件以来、ワシが自ら全てを話した」

「……そうですか」

予感はしていた。しかし、カカシにとっては当たってほしくない予感だった。

「カミトはさぞ、傷ついたんでしょうね」

長い年月が経って、ようやく自分を縛っていた(わだかまり)が解かれた。自分が里の最終兵器としての役割を背負っていたと知れば愕然(がくぜん)とし、内心がズタズタに切り裂かれる思いだったはず。

「ワシも最初はそう思っておった。……じゃが、実際は違ったのじゃ」

「え?」

違う、その一言の意味が理解できず、カカシは頭が混乱した。

「長年追い求めていた真実が人柱力だとわかれば、絶望するものじゃろう。自分の世界が砕け散り、自分の物語はこれで終わると。じゃがカミトは違った」

「なんと言ったんです?」

カカシはドキドキする思いで、ヒルゼンの返答をすぐにでも聞きたかった。

「カミトは終わりではなく……自分の物語はこれから始まる、と言ったのじゃ」

「……え?」

意外にもほどがあり過ぎる答えだった。

「産まれた頃より、カミトはずっと孤独じゃった。里の者たちに忌み嫌われるのは、誰からも必要とされず、愛されていないからだと思っておった。じゃが、ワシの話を全て聞き終えた時、両親が命と引き換えにしてまで自分を生かしてくれたことを強く受け止め、《死んだ今でも家族はずっと自分を愛している》と認識したのじゃ」

「そ、そんな……まさか……!?」

(にわか)には信じられなかった。

人柱力はほとんどの場合、五影の近親者の中から選ばれる傾向にある。しかし、体内に秘められた尾獣の圧倒的な力のせいで周囲から畏怖(いふ)及び疎外(そがい)され、心に深い傷を持って人間不信になることがある。そんな事実を突き付けられて平気なはずがない。

「カカシよ、お前が信じがたいのもわかる。ワシも最初は自分の眼を疑ったが、今話しているのは紛れもない事実じゃ」

そう付け加え、ヒルゼンは話を続ける。

「自分は独りぼっちではない、家族はずっと自分の傍にいてくれた。あの子はそう感じたのじゃ。復讐者になっても仕方ないような事実を突き付けられたというのに、カミトはそれを受け入れ、誇りを感じ、真実を直接告げたワシの心まで癒してしまったのじゃ」

四代目ミナトがなぜ九尾を息子に封印したのか?その理由はヒルゼンにもわからないが、息子を里の人々に英雄として見てもらいたかったというミナトの心情を理解していた。だからこそ、ヒルゼンには確信があった。

「カミトは、両親に似て強い子じゃ。ミナトとレナの強さをしっかり受け継いでおる」

「……確かに、ミナト先生もレナさんも強い方でした。その2人の子供なら、私もある程度は納得できます」

「そうじゃろう」

カカシの納得にヒルゼンは頷き、安心感を得た。

「人は誰でも、必ず過酷な試練に直面するものじゃ。誰も逃げることはできん。だからこそ向き合うのじゃ。試練が訪れた時、どう行動するかによってその者の道が決まるのじゃ。お主が再び落第させる結果になったとしても、カミトとサスケを任せられるのは……カカシ、お前を措いて他におらん」

カカシは眼を細め、カミトとサスケを待ち受ける宿命に底知れぬ不安を抱いた。

しかし__。

「……ま、やるだけやってみますよ」

同時に、カカシの中では《ミナトに代わって息子を育てる》という思いが湧き上がっていた。











木ノ葉丸が影分身の練習を始めて2時間が経とうとしていた。

練習のし過ぎで疲労した木ノ葉丸は、地面の草原に寝っ転がって休憩を取る。近くに倒れていた丸太に腰を掛けるカミトが、ふと質問した。

「そういえばお前……えっと、木ノ葉丸だったな。なんでさっき、火影様に喰って掛かろうとしたんだ?」

突然の質問に、木ノ葉丸の眼は不満の色に染まった。

「木ノ葉丸って名前……爺ちゃんがつけたんだ。この里に(あやか)って。でも……これだけ里で聞き慣れた名前なのに……誰もその名前で読んでくれない。みんな、俺を見る時も呼ぶ時も……ただ火影の孫として見るんだ。……誰も、俺自身を認めてはくれない。そんなの、もう嫌なんだ。だから……」

悔しそうに手を震えさせる。

「だから今すぐにでも火影の名がほしいんだ!」

「……なるほど」

木ノ葉丸の抱える不満は理解した。最初に彼の眼を見た時から、何か自分に近しいものを感じていたが、当たりだった。

「でも……今のお前じゃ、誰も認めてはくれないぞ」

「え?」

「火影の名を受け継ぐ、誰かに本当の自分を認めてもらう。どっちも口で言うほど簡単なことじゃない」

誰かに本当の自分を認めてもらいたい。それがどれだけ大変な道のりなのか、カミトはこの身でしっかりわかっている。

「里の誰もが認める最高の忍……火影の名を受け継ぐのは、決して簡単じゃない」

「え?」

最後の一言に力を込めた言い放った直後に立ち上がり、凄まじく険しい顔で話を続ける。

「そもそも忍の世界に、近道なんてないんだよ。火影を目指すなら、恐ろしく過酷な道を進まなきゃならない。覚悟が必要だ」

「覚悟……」

「ああ。誰もが圧倒されるような強い忍になれ。そうすればみんな、お前自身を認めてくれる。だから挫けず、自分の道を進み続けろ」

そう言ってカミトは足を動かし、その場から離れて行く。そんなカミトの背中を眺める木ノ葉丸には、恐ろしいくらいカッコよく見えた。

「おっす!」

カミトの言葉に共感した木ノ葉丸は、背中を見送りながら元気よく敬礼をした。
 
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