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英雄伝説~西風の絶剣~

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第27話 太陽の娘

side:??


「グルル…」
「いやぁ、誰か助けて…」


 どこかの森に一人の女の子が狼型の魔獣に遭遇してしまっていた。魔獣は今にも女の子に飛びかからんとうなり声を上げている。一方女の子は恐怖で足がすくんでしまったのかその場を動けないでいた。


「グルァァァッ!!」
「いやああぁぁぁ!!」


 狼型の魔獣が女の子に向かって飛びかかる、その鋭い牙が女の子に刺さらんとしたその時だった。


「させないわよ!」
「ギャンッ!?」


 茂みから一人の少女が現れて魔獣を持っていた武器、スタッフで弾き飛ばした。


「ふえっ…?」
「もう大丈夫よ。私があなたを守るわ」


 襲われかけていた女の子は突然現れた少女に困惑した表情を浮かべるが少女の笑みを見て自分を助けに来てくれたと理解し安堵の表情を浮かべる。


「グルル…」


 一方の魔獣は突然の乱入者を警戒していた。少女は魔獣に振り替えるとスタッフを構える。


「こんな小さな女の子を襲うなんて許さないわ!私が相手よ、かかってきなさい!」
「グガァァァッ!!」


 少女の言葉に魔獣はキレてしまったのか牙を剥いて少女に飛びかかる、少女はスタッフを振るい魔獣に向かっていった。


「喰らいなさい、『金剛撃』!!」


 少女の放った一撃が魔獣に炸裂した、その威力は凄まじく魔獣は声も上げる暇もなくセピスへと変わっていった。


「ふう、ざっとこんなもんよ」


 少女は余裕綽々といった様子で勝利のポーズを決めた、そして今なお地面に座り込んでいる女の子に声をかける。


「もう大丈夫よ、あなたを襲おうとした悪い魔獣は私が退治したわよ」
「ありがとう、お姉ちゃん!すっごくかっこよかったよ!」
「ふふん、お姉ちゃんはね、とっても強い遊撃士なんだから!」



ーーーーーーーーー

ーーーーー

ーーー


side:エステル


「う~ん、あたしは遊撃士なんだから…むにゃむにゃ…」
「エステル、もう朝だよ」


 …う~ん、なによ、今いい所なのに…


「エステル、起きなって。朝ご飯出来てるよ」


 ……ふえ?


 あたしは重たい瞼を開けて辺りをキョロキョロとする。さっきの女の子の姿はなくそこは見慣れたあたしの部屋だった。


「…う~眩しい…あれ?ここは…」
「まだ寝ぼけてるの?さっきも寝言でなにか言ってたし……ほら、しっかりしなよ」


 濡れたタオルで顔を拭かれてようやくさっきまでの出来事が夢であったことを理解してあたしは自分の顔を拭いてくれた人の名前を呼んだ。


「おはよう、ヨシュア」
「おはよう、エステル。はやく着替えて顔を洗ってきなよ。今日はお父さんが朝ご飯の当番だから待ってるよ」
「うん、今準備するわ」
「じゃあ先にいってるよ」


 あたしは義弟のヨシュアに返事をして彼が部屋を後にしたのを確認してから着替え始めた。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「おはよう、父さん」
「おはよう、エステル。今日はお寝坊だな」
「えへへ、ちょっといい夢を見ていたんだ」
「そうか、まあとにかく朝食を食べなさい。ヨシュアも席について」
「うん、わかったよ」
「それじゃあ食うか、いただきます」
「「いただきます」」

 あたしは父さんに挨拶をして自分の席に座り朝食を食べる。


「ごちそうさま~!とっても美味しかったわ!」
「朝からよく食べるね……」


 あたしの食べっぷりを見てヨシュアが半笑いをしていた。何よ、別にいいじゃない。


「いいじゃん。子供はよく食べてよく寝る事で育つのよ」
「まあしっかり喰って力を付けるんだな。何ていったって今日は研修の仕上げなんだろう?」
「うん、今までのおさらいだけどね」
「それが終わればあたしたちも『遊撃士』よ」


 あたしはふふんと胸を張るように父さんに話した。今日の研修を終えればあたしもいよいよ遊撃士になれるんだから、もう子供扱いなんてさせないわよ!


「最初になれるのは『準遊撃士』だろう?まだ見習いになったばかりだ。一人前になりたければ早く『正遊撃士』になることだな」
「むむっ、上等じゃない」


 遊撃士には順序があって研修を終えた人を準遊撃士といってそこから実績を積んでいきそれがギルドに認められると晴れて正遊撃士になれるシステムなの。だから父さんに追いつくためにも早く正遊撃士にならなくちゃ。


「何を張り合ってるんだか……」
「ちょっと、ヨシュアも父さんに負けないぞっ!……ってくらいの意気込みをいいなさいよ」
「今日は試験もあるんだ、まずはそれに受かってからだよ」
「大丈夫大丈夫、何とかなるって♪」
「全く……君は前向きというかなんというか」


 別にいいじゃない、受からないって思って受けるより受かるって思ってやった方が絶対いいんだから。


「ほらほらお前たち、そろそろ町に行った方がいいんじゃないか?シェラザードが待ってるんだろう?」
「あ、いっけな~い!そろそろ行かないと!」
「それじゃ行ってくるよ、父さん」
「ああ、気をつけてな」


 あたしは父さんに挨拶をしてヨシュアと一緒に街に向かった。







「ちょうどいい時間についたみたいだね」
「それにしても日曜学校を卒業したばっかりなのにまた勉強しなくちゃいけないなんて思ってもなかったなぁ」
「それも今日で最後でしょ?それに自分で選んだ事なんだ、我慢しなくちゃ」
「それもそっか、じゃあ最後くらい気合を入れてシェラ姉のシゴキに耐えるぞ!」
「そのいきだよ、エステル」


 あたしは気合を入れなおしてヨシュアと一緒に遊撃士協会(ギルド)の入り口のドアを開けて中に入る、すると受付のアイナさんが私たちに気が付いた。


「あら、おはよう。エステル、ヨシュア」
「アイナさん、おはよう」
「おはようございます」
「ねえアイナさん、シェラ姉ってもう来てる?」
「ええ、二階で待ってるわ、今日の研修が終われば二人とも遊撃士の仲間入りね」
「うん、その為にも今日の試験は頑張るわ!」
「ええ、私も応援してるわ」


 アイナさんと挨拶をして二階に上がる、二階の奥のテーブルに銀髪の女性がカードを並べて何か考え事をしているのが見えた。


「シェラ姉、おっはよー!」


 あたしが声をかけると銀髪の女性ことシェラ姉が顔を上げた。


「あら、エステル、ヨシュア。おはよう」
「おはようございます、シェラザードさん、何かを占っていたんですか?」
「まあちょっとね、それにしてもどうしたの、エステル?貴方がこんなにも早く起きてくるなんて珍しいじゃない」
「まあ最後の研修くらいはね。とっとと終わらせて遊撃士になるんだから!」
「なら今日のまとめは厳しくいくわ、覚悟してなさいね♪」
「え~そんな~……」
「あはは、お手柔らかにお願いします……」


 そんな会話を終えてあたしたちは今までのおさらいに入るのだった。


ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


 今日のまとめは実際に遊撃士の仕事の流れを私たちが体験していくものだった。でも机の上で勉強するよりはこっちのほうがあたし的にはありがたかった。
 それからは遊撃士が使う道具や施設の一通りの説明を受けて最後に街の地下水路にある宝箱から収められているものを回収するという依頼をこなすことになった。魔獣が徘徊していたけどヨシュアと協力してなんなくクリアすることが出来たわ。


「二人とも、お疲れ様」
「ふっふ~ん。どうよ、あたしたちが本気になればこんなの楽勝なんだから」
「よく言うよ、途中で箱の中身を見ようとしたくせに」
「あら、これは落第かしらね?」
「ちょ、ちょっと!それは言わないでよ!?」
「うふふ、冗談よ。まあ途中で開いていたら本当に落第にしてたけどね」
「あっぶな~、開けなくてよかった……」


 その後は依頼の報告をして無事に今日の研修を終えることが出来た。そして遂に遊撃士の証であるエンブレムをもらう事が出来た。


「やったね、ヨシュア!これであたしたちも遊撃士の仲間入りよ」
「全くエステルは……はしゃぐ気持ちは分かるけど僕たちはまだ見習いだから調子にのるのは良くないよ」
「今日くらいいいじゃない、憧れていた遊撃士にやっとなれたんだから!」
「……そうだね、今日くらいはいいよね」
「そうよ、もっとパーッと喜ばないと!」


 でもようやくあたしも遊撃士になれたのね。これは早くお父さんに報告しなくちゃいけないわね。


 あたしたちはシェラ姉にお礼を言ってギルドの外に出るとルックとパットの二人に出会った。二人はこの街に住んでいる子供であたしたちの知り合いでもある。でもなんでかルックはあたしによくつっかかってくるのよね、パットは素直でいい子なのにどうしてああも違うのかしら。


「ルックったらどうしていつもつっかかってくるのかしら?あたし、嫌われてるのかなぁ…」
「いや、むしろ逆だと思うよ」
「え、どうして?」
「まあ男の子にはそういうこともあるのさ」


 そういえば二人は秘密基地に行くって言ってたわね、町の外には魔獣もいるしあんまり危ない事をしてないといいんだけど……まあ大丈夫よね。


 あたしは二人がちょっと心配だったけど取りあえず今は家に帰ることにした。


「エステル!ヨシュア!」


 その時だった、誰かに呼ばれたので振り返ってみるとアイナさんが何やら慌てた様子で走ってきた。


「あれ、アイナさん?」
「どうかしたんですか?やけに慌ててますが…」
「少し面倒なことになったの?」
「面倒なこと?」


 アイナさんの話によるとルックとパットの二人が北の郊外にある翡翠の塔と呼ばれる場所に向かったらしい。翡翠の塔は魔獣の住処になっているという話があるので幼い二人には危険な場所だ。しかしシェラ姉は他の仕事でいないためアイナさんは父さんに保護をお願いしに行くところだったらしい。


「アイナさん、あたしたちが先に翡翠の塔に行きます!」
「でも貴方たちは今日資格をとったばかりだし……」
「いえアイナさん、ここはエステルのいう通りです。二人にはさっき会ったばかりですから急げば塔につく前に追いつけるかも知れません」
「……わかったわ、責任は私が持ちます。遊撃士協会からの緊急要請よ、一刻も早く子供たちの安全を確保して」
「了解!」


 アイナさんは父さんを呼びに行きあたしたちはマルガ山道を通って翡翠の塔を目指した。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「翡翠の塔まで来たけどここまで来るときに二人は見なかったわね」
「ああ、どうやら少し遅かったようだ。きっと二人はもう塔の中に入っていると思う」
「大変じゃない!?急がないと!」


 あたしたちは二人を探しに翡翠の塔に入る、初めて中に入ったけどけっこう広いわね。一階には二人の姿がなかったので二階に向かった。


「うわああぁぁぁ!?」
「た、助けてぇぇぇ!!」


 二階に上がると二人の悲鳴が聞こえた。


「ヨシュア!」
「了解!」


 あたしたちは武器を構えて声がした方に向かった。そこには複数の飛び猫が二人に襲い掛かろうとする光景が目に映った。


「うりゃあああ!」
「はあぁぁぁっ!」


 バキッ!ザシュッ!


 あたしとヨシュアがそれぞれ一体ずつ飛び猫を倒して二人の前に立ち武器を構えた。


「エステル!?」
「ヨシュア兄ちゃんだぁ!」
「あんたたち!危ないから下がってなさい!」
「すぐに片付けるからね」


 あたしとヨシュアは飛び猫に向かっていった。


「喰らいなさい、『旋風輪』!!」


 あたしはスタッフをつむじ風のように振り回し飛び猫を蹴散らした。


「そこだ!」


 そこに追撃でヨシュアが攻撃を放ち飛び猫の一対をセピスに変えた、だがヨシュアの背後から他の飛び猫が襲いかかろうとしていた。


「『アクアブリード』!!」


 あたしはアーツを飛び猫に放ち怯ませる、その隙にヨシュアがSクラストの体制に入った。


「秘技、『断骨剣』!!」


 ヨシュアの姿が消えて飛び猫を左右から斬りつけて止めに真上から鋭い一撃を放つ。飛び猫がそれに耐えられる訳もなくその体をセピスへと変えた。


「よっしゃ、片付いたわね」
「うん、みんな無事で良かったよ」
「終わったの……?」
「すっげえ!エステルって結構強いんだな!俺、見直したよ!」
「このおバカ!」


 あたしははしゃぐルックの頭に拳骨をお見舞いした。


「いってー!何すんだよ!」
「何すんだよじゃないわよ!こんな危ない所に来てなに考えてるのよ!皆心配してたわよ!」
「そ、それは…」
「あんたたちに何かあったら悲しむ人がいるのよ、だからもう危ない事はしないこと。いい?」
「……うん、ごめんなさい」
「うん、よろしい」


 あたしはルックの頭を撫でる。顔が赤いけど嫌だったのかしら?


「エステル、なんだか年上のお姉さんみたいだね」
「ちょっと!あたしは正真正銘年上のお姉さんよ!」
「ごめんごめん、冗談だよ…ッ!エステル、後ろ!」
「えっ……」


 あたしが背後を振り返ると魔獣があたしたちに襲い掛かろうとしていた。咄嗟の事だったので防御も出来ずせめてルックを守ろうと身を盾にしようとした。


「詰めが甘いな、二人とも」


 だが魔獣は弾き飛ばされて消えて行った。あたしは何が起きたのか一瞬理解できなかったが、あたしを助けてくれた人に向きかえる、そこに立っていたのは父さんだった。


「と、父さん!?」
「良かった、来てくれたんだね」
「ああ、アイナから連絡を受けてな。しかし危なかったな、エステル。見えざる脅威に対応するため常に感覚を研ぎ澄ませておく、それが遊撃士の心得だぞ」
「うん、ごめんなさい……」


 さっきのは完全にあたしが油断していた事なので素直に謝った。


「なんだ、やけに素直じゃないか」
「そりゃ自分が悪いと思った事は素直に謝るわよ……」
「だがお前たちがいなければ俺も間に合わなかったかもしれん。その点に関してはよくやったぞ」
「あ……」


 父さんに頭を撫でられてちょっと恥ずかしい気持ちになった、でも何だか嬉しいな。


「父さん、ごめん。僕がついてながら…」
「まあお前も守ることに関してはまだまだだったようだな。だがそんなに落ち込むな、精進するようにすればいいさ」
「うん、わかったよ」


 ヨシュアも父さんに頭を撫でられて照れくさそうに微笑んだ。


「さて帰るとするか。お-し坊主ども、歩けるな?」
「あ、まってカシウスおじさん」
「あっちに誰か倒れているんだ」
「あんですって?」


 ルックとパットの言葉にあたしは驚いた、他にも誰かがここにいるってこと?


「倒れているって怪我をしてるって事?大変じゃない!」
「う~ん、それが突然現れたんだ」
「えっ、どういうこと?」
「俺達が二階に上がったらピカーって光ったんだ。そしたら知らない兄ちゃんが倒れていて……俺達町に戻って誰かを飛ぼうとしたんだけど魔獣に囲まれちゃったんだ」
「ふむ、気になるな。そこに案内してくれないか?」
「うん、こっちだよ」


 二人に付いていくと確かにそこには誰かが倒れていた。


「黒髪……ここらへんじゃ見かけないわね」
「うん、珍しいね」


 あたしとヨシュアが倒れている男の子を見ていると父さんが驚いた様子で駆け寄っていった。


「馬鹿な、なぜ彼がここに?」
「父さん、この子の事知ってるの?」
「話は後だ、まずは町の教会に彼を連れて行くぞ。お前達は子供たちを頼む」
「あ、父さん!」


 父さんは倒れていた男の子を背中に背負って町に向かっていった。普段は冷静な父さんの慌てように少し驚いたがあたしたちはルックとパットを連れて街に戻った。

  
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