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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第三十八話 エヴァンゼリンの危機


今回はミッターマイヤー家の話です。
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第三十八話 エヴァンゼリンの危機

帝国暦479年1月3日

■オーディン ライニッケンドルフ地区     ウォルフガング・ミッターマイヤー  

 新年を迎えいよいよあと半年で任官だ、
正月ぐらい家で過ごせとの士官学校の計らいで家に帰ってきたのが12月29日
クリスマスも終っていたが、市内の店で親父とお袋、
そしてもっとも大事なエヴァにプレゼントを買って帰った。

まあ士官候補生だから親父とお袋へのプレゼントはたいした金額じゃなかったが、
エヴァへのは何を買おうか迷ったあげく、
可愛い人形を買っていった。

エヴァは非常に喜んでくれたが、
俺はもう一歩踏み出せず、
卒業したら結婚してくれと言えなかった。
俺の意気地なし。

翌日は遅めのクリスマスパーティーだった、
お袋とエヴァが腕によりを掛けて作ってくれた料理は絶品で、
コッソリ持ち出した親父秘蔵のワインを開けて飲んだら親父が泣きそうになったが、

お袋が『貯めておいてもキャビネットの肥やしよ』と笑いながら飲んでいた。
親父もグラスをひったくって飲み始めていた。
エヴァはにこやかにその姿を眺めていた、

良い雰囲気だ、此こそ家族というものだよ、
俺とエヴァと両親が4人仲良く暮らす。
この時間がずっと続けばいいと思った。

新年が明けて親父と話したりエヴァとお袋と一緒に買い物の行ったりしながら、
休暇を過ごし幸せな日々を送っていたのだが、
思いがけない事が起こってしまった。

1月3日朝食を取りながら親父と話していると、
家の前に黒塗りの超高級だと判る重厚な地上車が止まり、
中から立派な身なりをした男が降りてきた。

俺は嫌な事を考え始めていた、
親父も同じ考えのようだ顔色が悪い。
ほんの数年前同じような事が下町で有った事、

皇帝陛下の寵姫を探す為に宮内省の役人が年若く可憐な少女を求めていった事、
そしてその少女が現在は皇帝陛下の寵姫としてグリューネワルト伯爵夫人と呼ばれている事。
そして献上した役人は大変な褒美を貰い伯爵夫人の執事に成って出世した事を俺も知っている。

今年度幼年学校から士官学校生徒になった者達から聞いた話を思い出した。
噂によると伯爵夫人の弟は大変な乱暴者で何度も問題を引き起こし放校寸前に何度も成りながら、
その度に伯爵夫人の懇願で許されているらしい。

極点的な成り上がり者のパターンだと、
貴族の生態に詳しい、
親父に話したらそう解説してくれた。

自慢ではないがエヴァは町でも噂の美少女だ、
しかも今年15歳、グリューネワルト伯爵夫人が寵姫になった年齢と同じだ。
宮内省の役人がエヴァの噂を聞きつけて奪いに来たのか!

台所にいたエヴァもお袋も俺と親父の異様な雰囲気が判ったのか心配そうに覗いてくる、
馬鹿エヴァ顔を出すな!隠れていてくれ!
俺は叫びたくなった、エヴァが奪われる俺が誰より愛しているエヴァが遠くへ行ってしまう!

お袋は俺と親父の顔を見てそして外を見て驚愕の表情をしている、
エヴァはいきなりの事で未だよく判らないようだ、
あの事件の時エヴァは未だ子供だった詳しくは知らないのだろう、

頼むエヴァ直ぐに部屋に逃げ込んでクローゼットに隠れてくれ!
俺はそう叫びたかった。
親父も同じような顔をしてエヴァを見ている。

お袋はエヴァの腕を握りしめ真っ青な顔をし始めている。
この異様な雰囲気にやっと解り始めたのか、
エヴァの顔から笑顔が消え、俺に縋るように泣き顔になっていった。

エヴァが連れ去れれるなら、
何もかも捨てて叛徒の元へ亡命してでもエヴァを守る!
俺は最早そう考えるようになっていた。

4人での逃避行だ無事たどり着けるか判らない、
親父が悟ったように『ウォルフ2人で行くんだ』と俺に言ってきた、
お袋も同じように頷いている、

親父とお袋を捨てて俺たちだけで逃げる訳には行かない、
きっと2人とも不敬罪で処刑されるだろう、
そんな薄情な真似は出来ない、逃げるなら4人一緒だ!

そうしているうちに、玄関のベルが鳴り響いた。

■オーディン ライニッケンドルフ地区      エヴァンゼリン・ミッターマイヤー

 母が亡くなったあとたった1人で育ててくれた父が戦死し一人ぼっちになった私を親戚のお家で引き取ってもらえるなんて嬉しかった。
新しいお父様もお母様も凄く優しくて、本当の両親のように慈しんで頂いた。
  
ウォルフ様にお会いしたのが12歳の時ウォルフ様が士官学校のお休みでお家へ帰ってきていらっしゃった時でした。
あの日以来私はウォルフ様に恋していたのです。
ウォルフ様とお会いするのが何時も楽しみでした。

けどこんな日が来るなんて・・・・

ウォルフ様が新年休みでご帰宅なさると聞いてお母様と腕によりを掛けて料理を作りました。
ウォルフ様もお父様も喜んでくれて凄く嬉しかったです。

新年をウォルフ様みんなと楽しく過ごしていた、
1月3日朝台所で朝食の準備をしていたとき、
家の前に止まる地上車の音を聞いたのです。

何かと思ってお母様と覗くと、
ウォルフ様とお父様が真っ青な顔をして此方を見ているのです、
私はいったい何が起こったのかさっぱり判りませんでした。

ウォルフ様もお父様も私に何か言いそうな雰囲気で、
お母様は私に腕をギュッと握ってその手が震えています。
私もその異様な雰囲気にだんだん不安になり泣きそうな顔でウォルフ様のお顔を見続けていました。

お父様がウォルフ様に真剣な表情で何か仰っています、
お母様が頷いて、其れを見たウォルフ様はとて悲しそうな顔なさいました。

そうしているうちに、玄関のベルが鳴り響いたのです。


■オーディン ライニッケンドルフ地区   ロベルト・ミッターマイヤー

 私は造園技師。自慢じゃないが、腕は一流だ、
この階級社会腕に職を付けて働いた方が遙かに良いと、
この世界に飛び込み早20年今じゃ町の金持ちや貴族からも仕事が舞い込む様になった。

私には息子がいて今年20歳だが私と同じように職人になってもらいたかったのに、
よりによって職人は職人でも職業軍人になっちまった、
軍人になると聞いたときはガッカリしたね、期待していたんだよ親子で庭を造ることを。

そうこうしているうちに、新しい家族が増えたんだ。
別に子供が生まれた訳じゃない親戚の子供が1人になったから引き取ったんだ、
エヴァンゼリンて言って可愛い12歳の少女だった、
 
私も妻も娘が欲しかったから、愛情を込めて接したんだ、
エヴァンゼリンも私たち夫婦に大変なれてくれて、
実娘と思えるんだよ。

息子のウォルフが初めてエヴァンゼリンと会ったとき絶句していたが、
私から見ればあれは恋したなとおもったものだ。
少しずつ近づいていく2人を見てほほえましくも焦れったく思えたものだ。
妻もウォルフと娘は結婚すると言っていた。

その平穏な日がいきなりの地上車の音でかき消されつつあるとは、
私もグリューネワルト伯爵夫人の話は知っている、
貴族や上流市民の間では有名な話だから。

何たって夫人の弟が乱暴者で何人ものけが人を出して時には石で殴るって可笑しいだろう!
その度に伯爵夫人の懇願で皇帝陛下が不問にしてるって言うんだからどうしようもない。
息子も同じ話を後輩から聞いたらしい。

俺もお得意さんから茶飲み話で聞いていたんだが
余りに目に負えない状態で心配した連中が、
新たな寵姫を見つけようとしていると聞いていたが、

まさか家の娘がそのターゲットになるとは夢にも思わなかった。
青い顔をする妻と娘と息子そして俺もきっと顔は青いだろう、

何とか出来ないのか、息子が思い詰めた表情をする
亡命か、しかし寵姫を断り亡命など中々出来るはずがない。
皇帝陛下の横っ面を張り倒して逃げるようなものだ、

草の根分けても探されて不敬罪と反逆罪で処刑だろう。
恐らく息子は4人で逃げる事を考えているんだろう、
しかし無理だ俺は息子に『ウォルフ2人で行くんだ』と言い、

妻を見ると妻も頷いていた、済まんなお前と共に死ねる事だけが最後の幸せだ。
息子よ娘よ新天地で幸せになってくれ。

そうしているうちに、玄関のベルが鳴り響いた。


■オーディン ライニッケンドルフ地区   アデーレ・ミッターマイヤー

 家には2人子供がいる、長男のウォルフガング、長女のエヴァンゼリン。
エヴァンゼリンは養女だけど実の娘と変わらないぐらい私も夫も可愛くて仕方がない。
ウォルフは士官学校生徒で勉学に励んでいる。

息子と娘はお互いに惹かれ逢ってるんですが、
あの子達不器用だからちっとも進展しないと夫が覗き見しながらぼやいてました。
この日も新年休みで帰省した息子だらしなさを、

呆れながら娘と朝食の準備をしていると、
自宅前で何かが起こりつつある様な気配で、
娘と共にリビングへ向かうと其処には真っ青な顔をした、

夫と息子が居たのです、二人の視線の先には、
高級な地上車があり其処から立派な身なりの男性が降りてくるところでした。
私は此と同じ話を以前聞いた事を思い出しました。

皇帝陛下の寵姫グリューネワルト伯爵夫人が見初められたときもこのような状態だったと、
まさか娘がそんな目に遭うなんて、
私は目の前真っ暗になり娘の腕をきつく握りしめました。

娘も事態を察したのか段々と泣き顔になっていき、
私の手をぐっと握りしめて来ました。
息子を見ると真剣な表情をして私たちを見てきます、

夫が私を見ながら息子に『ウォルフ2人で行くんだ』と言い
私に済まなそうな目をして来ました。
何年一緒にいると思ってるんですか、

貴方の考えている事なんかお見通しですよ、
2人が逃げられるなら喜んで死の花道をくぐりましょう貴方。

そうしているうちに、玄関のベルが鳴り響いのです。

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グリンメルスハウゼン爺様の間者が彼方此方に噂を流しています。
 
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