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魔弾の王と戦姫~獅子と黒竜の輪廻曲~

作者:gomachan
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第21話『奪われた流星の丘アルサス~忍び寄る魔王の時代』【Bパート 】

 
前書き
次回から分割パートを止めます。その方が整理しやすいと思ったので。
サブタイトルとかみ合わなかったので、その辺も変えました。
原作は大団円で無事に終了しましたが、本作はまだ続きます。
(川口先生お疲れ様です<(_ _)>)
少し書き溜めてから投稿するので、次回は遅くなります。
ではどうぞ。 

 
「こ……こんなことって……」
「ガイさん……」
 
時間にして50……いや、30数える間もたっていないだろう。
一瞬にして巻き起こった剣舞が、彼ら敵兵たちの戦闘力を常識ごと抉りとっていく光景に、フィグネリア、ティッタ、そして少女はただただ驚愕するしかなかった。
 
「一兵たりとも逃がしはしない!報いは必ず……くれてやる!」
 
一同はあまりの獅子の猛々しい戦いに、身震いすることさえできない。
凱のアリファールを盾で防ごうとした騎兵が、その盾ごと叩き伏せられ落馬する。
ジスタートが誇る黒竜の武具にかかれば、鉄製の盾、合金の鎧の強度など皮羊紙に等しい。
本来ならばその一振りで、敵兵の生命は甲冑と同じ『真っ二つ』という運命を共にしただろう。
だが、勇者(ヴァルブレイヴ)の持つ竜の牙『銀閃の長剣』は、生命を食い殺すこと能わぬ、不殺の刃。
場に存在する大気が、白銀の長剣に幾重にも取り巻いて『見えざる鞘』となり、銀閃アリファールそのものを『峰』に変えているのだ。
そのような為に勇者の持つ竜具は凡刀(ナマクラ)もいいところだが、骨を曲げ、アバラをへし折り、少なくとも3日3晩戦闘不能にすることはできる。
 
「……ガイ?」
 
漠然としながら、フィーネは彼の勇者の名をつぶやいた。
どのような生物であれ本能を全うするにあたり、生き延びるための論理行動を司る『頭脳(ソフトウェア)』が存在する。
しかし、その頭脳によって与えられる思考から神経(ファイバー)を通じて、行動へ移行する過程で誤算率(ビットエラーレート)が発生する。
数多の戦士達はそれらの『誤算』を『精算』する為に鍛錬を積むものだが、獅子王凱の論理行動は戦闘における『概念(コンセプト)』そのものが違う。
三柱の神学関数――『sinθ』『cosθ』『tanθ』及び『X』『Y』『Z』にて定義される、関節の可動範囲(フレキシブル)。敵の体格を構成する骨格構造(ユニットフレーム)。運動力発生の基礎たる筋肉器官(ハードウェア)。敵が装備する得物の主力武装付属(メインウェポンツール)。そういった要素を瞬間的に検索把握(ライブラリー)し、誤算率を補正して凱の持つ才能、宇宙飛行士時代にて培われた『神算』にて見切る。
 
『人間工学』という『識』の力を広げて、『知』を体現して『最短結論』を導く。頭脳にて描いた仮想戦闘(シュミレ―ション)を現実に導いているだけに過ぎない。
その最短最速結果、動きそのものを消すことをたった一言で言い表せるのがあるとすれば――
 
―――――『神速』に他ならない。
 
目にしたものには、『神速』は『神技』と等しく思うかもしれない。
一閃。なんてことない銀閃の一振りは、見る者にとって絶技と捉えるだろう。
心臓の鼓動や筋肉の縮小、呼吸といった『原音』が、アリファールの風と共に乗り、凱の聴覚に『譜面』となって導き出される。
そこから生まれる『不殺の一撃』は、相手への――弱点と敗北――を同時に叩き込むことを可能にする。
『神算』――『神速』――『神技』――この三拍子がある限り、敵に間断なく敗北を馳走することが出来るのだ。
加えて、凱自身による超進化人類エヴォリュダーとしての力がある。
本来、凱自身は容易に『人を超越した力』を、ましてや生身の人間に向けるつもりはない。
しかし、ユナヴィールの村を焼き払い、少女の母親を討った奴らに対し、凱はエヴォリュダーの力を自制するつもりなどなかった。
 
「馬鹿な……こんなことがあってたまるか!?」
 
御頭らしき男も、ただ愕然としている。
圧倒的有利と思っていたものが、テーブル返しの如く一瞬にして覆された。
そして、相手が今まで自分たちが『焼き払った』者達とは別種の存在だと悟ったときには、もはや凱から逃げられない状態となっていた。
 
「く……くそ……くそおおおおおおおお!!」
 
自暴自棄になった、指揮官の男。
精神的にも追い詰められた形で勇者(ガイ)に挑むも、そんな『シミ』にすらならない絶叫では届きもしない。
 
(この男の特攻……勇気ゆえの行動じゃない)
 
かすかに一瞥をくれた、哀れみを含んだ凱の仕草。
大気に煌めく一条の『白銀の閃光』――――銀閃によって、指揮官の男はわき腹を薙ぎ払われてその場に倒れる。
各国勢力圏の確立で、剣と馬が戦場を支配する『総』の時代となった。
だが、それでも、信じがたいことに――流星が地に舞い降りる――現象と同等の『確率』で存在するのだ。
たった一人で万軍に匹敵し、(つわもの)達で埋め尽くされた海原を、剣という(エール)で突き進む、黒船の如き勇者の存在が。
その強さ――賢さ――まごうことなき勇者王。
 
「あんた……本当に……何者なの?」
 
皆唖然としている中、唯一口を開けたフィーネでさえ、それをつぶやくことが精いっぱいだった。
 
「まるで……ヴィッサリオンみたいだ」
 
こんな感想を述べたのは、果たして何度目なのだろうか?
フィーネも、それにふさわしい力を持った人物を、一人知っていた。
英知を振りまくような風貌なる凱に、どこか彼の傭兵団長と似た雰囲気を感じ取る。
遊撃傭兵団。その名は『白銀の疾風――シルヴヴァイン』
けっして出頭(でずら)の多い組織ではなく、長のヴィッサリオンは撤退戦のおり、積極的に殿(しんがり)を務めていた。
そして二人は出会った。とある負け戦の最中に。
過去にひたっているフィーネの耳に、凱が周囲を一瞥する。
 
「片付いたか……」
 
周りを見渡すと、凱の獅子奮迅なる戦舞劇によって、行動不能となった兵達の山が築かれている。
 
「先に、この少女の母親を……弔おう」
 
凱は少女の後ろに横たわる亡骸に目を向ける。
 
「……そうね」
 
力のない――フィーネの返事。
そしてもう一つの現状。
沈痛な表情を崩さないまま、ティッタは少女の母親の亡骸に目を向ける。
 
(どうして……あたしは……こんなにも無力なんですか?)
 
こうして、地に伏して倒れている、若しくは倒れていく民に対して何もできない自分。
 
――――なぜ?
 
これが天の仕業なら、天に怨嗟の声を叫ぶだろう。
これが地の所業なら、地に怒りをぶつけるだろう。
だが、今ブリューヌ全域で起きている惨劇は、明らかに人為的なものだ。
武力のない弱者は殺される。
知恵のない愚者は騙される。
それでも『なぜ』と思わざるを得ないティッタ。
例え過酷の中を生きようと、ただ弱いという理由だけで、本当に生きる資格はないのですか?――。
力弱くとも、その中で足掻きながら、懸命に『生きる資格』を掴もうとすること自体が、間違っているのですか?
 
(……祈っては……ダメ)
 
本来なら、巫女の家系出身たるティッタは手を合わせて神々に祈る……はずだった。
だが、それをしなかった。するべきではないからだ。
手を合わせれば、『母親』を弔う為に、土を掘り起こすことさえできなくなる。
悲しみを癒す為に、少女を抱きしめてあげることもできなくなる。
 
「……」
 
そして――凱も『母親』の表情に目をくれる。
ティッタとは違う自責の念が、凱自身に降りかかる。
力を持てし者と言えど、救える人間に限りがある。分かってはいたことだが、それを認めたくない自分がまだいる事にも、改めて気づかされた。
時折、シーグフリードの言葉の重さが、意識の中をかけめぐる。
 
――貴様が幻想国家(オステローデ)で居眠りをこけた分だけ、事態はより一層加速したんだよ――
 
代理契約戦争。
ディナントの戦い。
モルザイムの戦い。
ナヴァール騎士団との合戦。
オルメア会戦。
ビルクレーヌの戦い。
ナヴァール騎士団対銀の逆星軍との戦い。メレヴィル合戦。
銀の流星軍対銀の逆星軍との戦い。ディナント合戦。
 
本当に、本当にたくさんの事があった。ありすぎた。それは、悲劇に満たされた時間の流れ。
死は誰にも平等に訪れる。故に凱の存在は摂理に反する。
宇宙の法則を乱す者――元凶なりし者。
かつて、機界原種の初襲来にて、原種たちに歯が立たず、護に弱音を吐いたあの言葉。
 
――ただ自分が生き延びる為の……鋼の身体か!?俺は……何のために!――
 
人を超越した力を持つ故に、その力の行く道筋が見えぬもどかしさ。何も救えぬ虚しさ。
あの時――巨腕原種、鉄髪原種、顎門原種の強さは、どうしようもなかった。
凱だけが悪いわけじゃない。
それでも、仲間を守れなかった罪の意識は、凱の中でずっと駆け巡っていた。
今、アルサスで起きている惨状。
少女が泣き、侍女が悲しむ。
傭兵が見つめ、勇者が悔やむ。
 
「き……さ……ま……」
 
瞬間――凱の一撃を喰らったにもかかわらず、ふらふらと千鳥足で歩み寄る兵士が女たちの視界に入る!
 
「貴様等……に……『死』をぉぉぉ!!」
 
最も無力な存在と思われるティッタと一人の少女に、兵士は残された力を振り絞って強襲する!
 
「ティッタ!?」
 
一瞬、凱の反応が遅れる。
半瞬、フィーネがティッタ達二人を懐に巻き込みながら回避。片方の翼刃で斬撃を裁く。
 
「しぶとい!いい加減に……」
 
片腕だけでは、如何せん敵の剣戟を押し返すだけの膂力が足りない。
とびかかる凱の行動とて、一足分届かない。
それでも、ティッタ達を守る為に身を挺し、フィーネが双剣の片翼を振りかざそうとした、その時だった――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――――――――ドスッ!!―――――――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
何か、肉を斬り裂いたことがはっきりとわかる音のこだまり。
兵士の顔面から肉片と血飛沫と共に突き出ているのは、漆黒の『フランベルジュ』たる切先。
わずかに漂う、こんがりとした脳ミソの焼ける匂い。
間違いない。あの『銀髪の悪鬼』の仕業だ。
 
「あ……ああ」
 
突然の出来事に、ティッタは言葉にならない発声を口にした。
 
ヒュン――風を切るフランベルジュの刃が、刀身にこびりついた血のりを振り払う。
そして、フン――と鼻を鳴らし、何を呆れたのか、苛立ったのか分からぬ仕草で凱に睨みつける。
 
「……あの野郎。てっきり虎穴(ネメタクム)へ向かっていると思ったが……」
 
視線を凱に移す。
 
「貴様、こんなところでまだモタモタしていやがる?」
「シーグフリード?」
 
フィーネは目を見開いてつぶやいた。
 
「……知り合い……なのですか?」
 
対してティッタは、フィーネに顔を向ける。疑問に満ちた声で問いかけた。
 
「顔見知りだ」
 
フィーネの口調はどこかそっけなかった。最も、その意味を察することが出来るものなどそういない。
何というべきか――フィーネも『バーバ・ヤガーの神殿』で起きた出来事を、あまり深く語りたくないのも事実であり、凱にとっても想定を上回る予想外だったのだから。
悪鬼羅刹の斬り合いを演じた獅子達の再会だった。
 
「シーグフリードか」
 
短く、凱は銀髪鬼の名を告げた。
その『隙』に『背後』から凱へ襲い掛かった兵は、アリファールの鞘という反撃を『あご』から受けて悶絶する。
敵兵に見向きもしない――乱れた髪を直すが如く、ただの生理動作。
まるで、後ろに目玉があるかのような、ごく自然な動作で敵兵を返り討ちにした。
 
「何故、お前がアルサスに居るんだ?」
 
唐突な凱の台詞。
それはこっちの台詞だ。とは言い返さないシーグフリード。
世間話のような感覚で告げる。
 
「俺の放った部下から『アルサスで燃える水が採取されている』という連絡が入ってな」
「……燃える水?」
「直接出向いていく予定だったが、何人かアルサスから亡命するヤツもいるとの情報も同時に来た。そいつらを保護して事情聴取するつもりで急いできたが……手遅れのようだった」
 
ルヴーシュでの出来事から数日間、帝国に属する戦士団と騎士団は独自に行動を開始した。
別の風様と化したブリューヌの内部事情を把握するため、銀の流星軍と同じくヴォージュ山脈付近に拠点を構えて活動を開始した。
ちょうどザイアン=テナルディエが銀の流星軍の斥候の任を受けていたころである。二つの情報が同時に入ってきたのは。
一つは、アルサスにフェリックス=アーロン=テナルディエが駐在していること。
二つは、木炭や石炭に成り代わる次世代の燃材料――『燃える水』がアルサスで採取されていることだ。
 
「まさか、その子の母親が抱えているのは……『燃える水』なのか!?」
 
ブリューヌ辺境の地でまず見られない特別な容器。かすかに漏れる、鼻孔を逆なでする不快なにおい。無色透明の液体は、凱のいた時代でも広く使われているあの『引火性液体』しかない。
今は港海でさえ凍り付く冬だ。静電作用が極端に働く季節で『点火』などすれば、草原の海原は文字通り火の海と化す。
おそらく――無辜の民たちは、それを知らないはずだ。燃える水の恐ろしさを。
いつ着火するかわからない爆弾を、その手に宿しながら。
驚愕する凱をよそに、銀髪の人物は母親の亡骸に目をくれる。
 
「そうか。燃える水を奪取して『亡命』を図ろうとしたのだろうな。その女はアニエス出身。一時とはいえ、『元』奴隷の自分たちなら、アルサスへ怪しまれずに忍び込めると思った。そいつを条件に安全な国へ亡命するために」
 
全ては――自分の娘を危険な国から遠ざけるために。
国家機密である燃える水を奪われた銀の逆星軍は、凱が打ちのめした兵を、この人たちに差し向けたのだろう。
 
これが、もしムオジネルやザクスタンのような好戦国に渡ったりでもしたら、海戦力は飛躍的に上昇する。
 
シーグフリードの推測を聞いた凱は、独立交易都市(ハウスマン)で起きた『魔剣』をめぐる争奪戦を思い出した。
独立交易都市国家(ハウスマン)のように、大陸上に存在するすべての国家は、理念さえ守れば誰しも受け入れを許可するわけではない。亡命の際に必要な条件を提示することも求められるのだ。
かつて、帝国王家直接の(めかけ)の子が『皇族のなりすまし』という疑惑を着せられ、亡命先である軍国のアーヴィー=アーヴィングに条件を突き出された。
交渉相手は、当時シャーロット=E=フィーロビッシャーという、外見年齢で言えばティッタとさほど変わらぬ少女。
 
――帝国の情報を知っている限り我々に話すこと――
 
売国行為を条件に出され、『母への報い』と『母からの願い』で葛藤し、決断した。皇帝の血縁の証である『E』の名を捨てて。
赤髪の少女、セシリー=キャンベルの『服従』という名の説得がなければ、その未来はずっと曇り続けていただろう。
 
そして、少女とシーグフリードの視線があう。
幾ばくも無い間で、黒い外套を脱ぎ捨てる。ひらりと一舞した外套は母親の全身に覆いかぶさる。そんな彼を見ていた凱は感情に詰まる。
弔い――死者への哀悼のつもりだろうか?
 
「……『寝かす』なら、毛布くらいかけてやれ」
 
その場にいた全員が目を見開いた。
冷酷非道とも思える人物からの、かすかな行為。
凱以外知らないことだが、悪魔と人間の交配児であるシーグフリードの母親は、初代ハウスマンが群州列国から『買い上げた』人間の奴隷であった。
産み落としたのは彼だけではない。悪魔契約にて魔剣……現在では黒炎の神剣と化しているエヴァドニもだ。
エヴァドニも、シーグフリードも、その人間の奴隷から生まれ出でた。ゆえに二人は実質的な『姉弟』となっている。
おそらく、シーグフリードは自身の母親と、目の前の『母親』との面影を重ねたのかもしれない。
おかしな話だ。と心の中で嘆息を突く。銀髪鬼は母親の顔を知らないというのに。
 
(以前のシーグフリードなら、テナルディエと同じことをしていたんだろうな)
 
今のシーグフリードが何を思っているのか、凱にはわからない。
それとも、少女に昔の自分を重ね合わせたのだろうか?
もしくは、昔の自分を重ねているようで、見ていられなかったからか?
ただフィーネには、凱の心情に対して何かを語ろうとしているように見えた。
 
がたん。
 
何か、物音の崩れる音がした。民家と思われる物置のほうからだった。
一人――また一人と、徐々に、おそるおそる姿を見せる。
すると、凱達に目線が合う。何か気まずそうか、呻きにすらならない声で「ああ」と震える。
 
「あ……あんたたち……なんてことをしてくれたんだ!?」
 
おびえる様子を見る限り、ユナヴィールの村人たちはずっと凱たちの戦いを見ていたのだろう。
 
「ドナルベイン様のお怒りに触れてしまう……」
「も……もうお終いだ」
 
一体何の茶番だ?フィーネの取り巻く感情が、ユナヴィールの置かれた現状を把握させる。
 
「ちょっと!あんな奴らをのさばらせていいっていうの!?」
 
隼の傭兵は言い募る。
 
「オラたちは何も公爵様に逆らわなければ、殺されることもないんだ!」
「その女も『燃える水』を盗み出そうとしたのが悪いんだ!」
 
母親を悪者扱いされて、心が崩れるのを感じる少女。
彼らの言い分に、フィーネは激しく抗議する。
 
「何言ってるの!?同じ境遇を共にした仲間じゃないの!?」
 
ここは王都ニースより離れている。それどこか、国境代わりのヴォージュ山脈に接するほどの山岳部の村では、テナルディエが来る前から決して満ち足りた環境ではなかっただろう。
フィーネの生まれ育った貧村でも、様々な形で、村人同士が力を合わせて乗り越えてきた。
目の前に伏している『母親』も、この村と同じ境遇を味わったからこそ、魂の結びつきが強い『家族』であったはずだ。
そんな『家族』も同然のものを殺されて、侮蔑して、それでもなおテナルディエに従う彼らが、フィーネには理解できなかった。
 
――どうして!!
 
怒りに肩を震わせるフィーネの傍らに、シーグフリードが言う。
 
「そういうな。誰もが誇りと信念の為に戦えるわけじゃない」
 
それはわかる。だけどこの傭兵が納得するかどうかは別だ。
傭兵育ちのフィーネには、それが腹立たしかった。平和を享受するのが当然の権利といわんばかり。
文字通りの家畜なら、まだ見損なうだけでいいだろう。
正真正銘の家畜なら、言葉の通じない連中と断言できるだろう。
だが、彼らユナヴィールの村人達は、現状に対して不満と憤りを抱いている。それなのに。
 
――自分たちより強いものに言われたから、自分たちの弱さを理由に、自分よりも弱いものに、すべての罪と悲しみを背負わせようとしている――
悲しいことに、彼らはそれらの自責から逃れる言葉を知っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――――――――『仕方がない』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
自分たちが生き延びるためには。
それだけで、現状を受けて入れてしまっている。
家畜同然に生きる道を選んだ者たちの、見るに堪えない醜悪な光景だった。
 
「………………」
 
無言で、凱は母親に近づくと、ゆっくりとその体を両腕で抱きかかえる。
シーグフリードのかけてくれた外套が、これ以上母親の死を晒すことを無くしてくれる。
 
「おい!貴様!何をするつもりだ!?」
 
村人たちが非難の声を上げるが、凱は心の弓弦をひきしぼり、『視線』という名の(やじり)を放ち、肩越しに睨みつけて黙らせる。
 
「……お母さん……お母あああさん!!」
 
遺体にしがみ付く少女。とうに息絶えた母は、娘に返事することはない。
気丈に振る舞っていた仮面がはがれ、年相応の素面をさらけ出した。
 
(どうして……こんな光景が……)
 
凱は、心の中で激しい憤りを感じる。
人は『剣』よりも、『馬』よりも、『竜』よりも脅威がある。
暴力。
その下では、とにかく媚び、ただ生きることだけが目的となる。
 
――理想世界を先導する超越者……アンリミテッドたるテナルディエの目指す世界――
 
オステローデにて聞かされた、太古の言葉。
確かティナはティッタもその一人だと言っていた。
憤りよりも先に、今この両腕に抱いている母親を弔ってやらなければ。
凱達は村人たちの非難めいた視線を受けつつも、ユナヴィールの村を去っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
本来ならば、そこはどこまでも続く、紺碧の空の下だったはずだ。
その場に居合わせていた者、ティッタ以外はここへ訪れるのは初めてである。以前、『ディナントの戦い』で懲兵されたアルサスの農夫たちを、ここへ眠りにつかせたばかりだというのに――
中央都市セレスタの屋敷の裏側にある、ウルスや先代のアルサス領主の墓地とは違い、戦役で散っていったアルサスの人間は、ここで土葬することとなっている。
 
――しかし、今弔おうとしている人はブリューヌ人であってアルサスの人間ではない。
 
ただ、そういう理由で土葬を拒む理由にはならないはずだ。
もし、それで拒むというのなら、それはどこか人間性に欠いている行為だと、凱とティッタにはそう思えて仕方がなかった。
このような形で再び『星降りの丘』を訪れたティッタの心情を考えると、凱としてもやりきれない気持ちでいっぱいになる。
何より、凱には自責の念があった。ティグルの身代金を集めていたティッタを狙って、ヴォージュ山脈から降りてきたドナルベインを――生かしてしまったから。それが遠因となって、少女の母親は還らぬ人となった。
凱の心に、恐怖がのしかかってくる。
もし、ドナルベインを生かしたことが、弔いに努めるこの少女に明かされたとしたら、きっと凱を恨むのではないか?
 
――――終末にしか思えない大空でも、せめて風と草原の見晴らしがいい丘を見つけなければ。
 
ここなら、混迷の時代の渦中に散っていった、力無き民も安らかに眠れるだろう。それは、どこか罪滅ぼしのつもりで至った、凱の胸内かもしれないが、本当なら少女に何かをしてあげる資格すらないとも、思えてしまう。
埋葬と墓碑の設置を終えて、一同は手を合わせて祈りを捧げた。しかし、葬儀の列から離れている者がいた。シーグフリードとフィーネである。
その脳裏に、自分を育ててくれた母と別れた故郷の過去を、痛ましげに思い出していた。
何もできずに膝を抱えていたあの頃――その時の自分が記憶によみがえる。
 
「笑っていれば――いつか心の底から笑える日がやってくるわ。誰もが自分の生き方を選べないから、フィーネ――もし、『強くなりたい』とお星さまに願うなら、勇気を忘れてはだめよ」
 
そんな言葉を聞かされていたことを、いまの今まで忘れていた。
同時に、不快な感情が彼女の胸に渦巻く。
 
(これが……こんなことが連綿と続く世界が……テナルディエの作ろうとしている新世界か?)
 
胸の内を誰にも吐かず、フィーネは背持たれにしていた木から離れた。
本当ならそれは、清々しい『隼』の新たな出立になるはずだ。どこかその羽ばたきは弱々しかった。
葬儀――という行為が、何かを解決することは決してない。寄付金をどれだけ叩いたとしても。
だが、何かへ向かって旅立つ心理的な境界を引いてくれることに、なり得たはずだ。
『死者』は『生者』と違い、なにかを語ることはない。それでも、『想い』を『流星』という形で見守り続けるだろう。
だから『生者』には義務がある。生を全うした者たちが果たせなかった想いを、果たす為に。
『生者』は使命にゆかりて『聖者』となる。『勇者』もまた然り。
そんな中、ティッタは静かに語り掛けた。
遥か高台……アルサスを一望できる光景を見据えて。
 
「ティグル様。例え力無くとも、あたしは行きます……このような悲劇が繰り返さない為にも……アルサスを必ず取り戻します」
「ティグル。決してティッタ一人に無茶はさせない。だから君も……無事でいてくれ」
 
ティッタの傍らに、凱がいた。
そして、少女もまた同じ想いを込めた瞳を、ティッタに向けていた。
列を離れている銀髪と黒髪の人物は、ただ静かに凱達の後姿を見守っていた。
静かになり、重くなった空気を翼で打つように、フィーネはシーグフリードに聞いた。
 
「本当に……本当にブリューヌ王家はアルサスを見捨てたの?」
 
シーグフリードはゆっくりと語り始める。
 
「アルサスだけじゃない。オード――テリトアール――アニエス――を始めとした多くの地域を見捨てられ、テナルディエの領地になっている。恐らく、王家に忠誠を誓う騎士達も、領土奪回から手を引いているはずだ」
 
冷酷な事実。されど沸き上がる憤怒。
ただ彼とてのうのうと語っているわけではない。ルヴーシュの一件以来、シーグフリードは帝国戦士団の郊外情報網(ネットワーク)を用いてブリューヌ全土に密偵を送り続けた。
調査はわずか短日で終わった。放った部下からの報告は遠隔通信を可能とする『ある技術』を利用している。
第二次代理契約戦争の時期、軍国のユーインー=ペンジャミンが考案した『電信』ならぬ、『霊体通信』。
すでに3国1都市(帝国、軍国、群衆列国、独立交易都市)まで通信網が広がり、特に独立交易都市には、代理契約戦争時に大きな役割を果たした。膨大に舞い込む報告の処理さえこなせば、自然と情報が集まるのも労力を有することはない。
判明したのは、先ほどシーグフリードが述べた通りだ。
この銀髪の人物は、戦う敵の構成、特色、目的、兵力すべてを網羅している。
 
「それじゃあ……『国』は一体どうするつもり!?誰がブリューヌを取りまとめるっていうの!?」
 
折辣なるフィーネの熱くなる問いに、誰も答えられるはずがない。
 
「……分からない……ただ分かるのは――『このままでは全てテナルディエの思いのままになる』ということだけだ」
 
その言葉は何の比喩もない。純然たる意味を以て、その場にいる耳を打った。
女神代行者――魔弾の王。
竜技執行者――戦姫(ヴァナディース)
黄金軍神――ワルフラーン。
紅き竜――アウグストス
円卓の騎士。天上を見守る12柱の神々。
数多の神話が、たった一人の魔王によって弄ばれることを、意味していた。
 
「だからこそ今、オレたちのような『代理契約戦争』の生き残りが必要とされている」
 
フィーネには、なぜか彼の言葉がどこか使命感に満ちているように聞こえた。
当然、その言葉は凱の耳にも届いていた。
 
(俺は……ドナルベインを許さない!)
 
凱は決意する。たとえ『不殺』の誓いを破ることになろうとも。
これは、かすかな部分はドナルベインへの怒りだ。
残りは自分自身への怒りだ。
 
――真剣な表情の凱の耳に、喪に服すような場にそぐわない、明快な声が響く。
 
「ユナヴィールでの戦い……見せてもらいましたよ」
 
この声、凱とシーグフリードには聞き覚えのあるもの。
アルサスという惨状の中では不純物としか取れない、声の主はノア=カートライトだった。
背丈はティグルと同じくらい。金色の短髪。一言で表現して『優男』がそのまま似合うような風貌だった。
いつの間にか、凱達の後ろに立っていた。
ティッタと少女は身をすくませるように凱へ近寄り、勇者はそっと少女たちの背中を抱き寄せる。
心配ない。決して俺から離れるな。と、言い聞かせて。
 
「ガイさんに……シーグフリードさんに……それに……」
 
シーグフリードの隣に立つ女性――フィグネリアの顔を覗き込むノア。彼女には、その表情こそどこか得体のしれない不気味な雰囲気を感じ取っていた。
 
「乱刃の華姫――コルべシアのフィグネリアさんですね。僕の名はノア=カートライトといいます。テナルディエさんの側近を務めています。貴女のことはテナルディエさんから少々」
 
コルべシア。それは、腐臭の匂い漂う品格のない植物『ラフレシア』を語源とした二つ名。
刃の華咲き乱れる血臭を戦場に漂わせ、雇い主という拠り所を変え、明日を生き延びる糧を得る。しかし、品のない戦いしかしない『花』なら『華』と誰も呼んだりしない。
『戦いは弱いものから殺せ』
『戦場に知己の敵がいたら、苦しませず殺せ』
戦の鉄則を守り通す、強さにおける高嶺の『華』の、フィグネリアだからこその二つ名ともいえよう。
ただ、『元』がいいのだから、身なりに余裕を持ってほしいと思うのは同業者の弁。
 
すちゃり。
アリファールの鍔に手をかける。
 
「よしてくださいよぉガイさん。ほら、見ての通り――僕は戦うつもりなんてありませんから」
 
銀髪の人物以外、抜刀寸前でとどまりつつ、警戒を強める。
だが、ノアは笑顔で両手を広げ、自分は非武装で戦う意思のないことを主張する。
ついでに、傍らには鎧の神剣たる『ヴェロニカ』がいないことも同時に示す。
 
「ガイ。警戒したところではじまらんさ。いくぞ」
「……わかった」
 
今は従うしかない。そう判断した凱はシーグるリードに同意してノアの言葉に乗る。
 
アルサス戦役者の共同墓地――別名は星降りの丘。
勇敢に散っていった者達のからだに、再び星が宿り蘇るその日を願って、そう命名されたという。
輪廻転生。生まれ変わって何度でも巡り合って見せる。その意思を示す意味も、込められているのだろうか。
一同は中央都市セレスタを目指す。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【同刻・アルサス・中央都市セレスタ・『燃える水』発掘所】
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ここの屋敷にテナルディエがいるのか?」
 
問いを放つ凱の言葉。
ノアが案内したのは、アルサスの奥に位置する中央都市セレスタ。その領主が住まう2階建ての屋敷の見える街道。
他の村人たちの住居がみずほらしいことと同じ、質素な造りだった。
鼻を優しくいたわる、農業特有の深甘なにおいが立ち込めてきたころ、フィグネリアはノアに問いてみる。
 
「こんなところに案内して何を始める気?ここが銀の逆星軍の本拠地だというの?」
 
ブリューヌ、ジスタート転覆計画を目論む奴らが、まさか楽しく農作業に勤しんでいるわけではあるまい。
 
「やだなぁ、そんなわけないじゃないですか。ここは『栽培所』ですよ」
「……栽培所?」
「もともと、ブリューヌのお代官の間じゃ知られたちょっとした名酒生産地だったらしいですよ。『林檎酒のルテティア』あらば『葡萄酒のアルサス』ありと謳われるくらい……まあライトメリッツへの中継地点としてちょうどよかったですし、せっかくなんで頂いちゃいました」
 
頂いた――――少なくとも、凱、フィーネの想像し得るまともな範囲ではないだろう。
おそらく、ノアもわかっている。
分かっているから、このような惨事に対して笑っている。
フィーネは凱の耳に、小さな声でそっと聞く。
 
「ガイ、あのノアとかいう青年は一体何者?」
 
自然と、そしてやがて距離を少し離して、凱とフィーネ――シーグフリードとノアの組に分かれていく。
どうしてフィーネがそのようなことを聞くには理由があった。
残虐非道な行いをしても、罪悪感を抱くどころか、むしろ自慢げに語るものは少なくない。わかりやすい人物例が、凱に『炎の甲冑』を施したカロン=アンティクル=グレアスト、そして、マクシミリアン=ベンヌッサ=ガヌロンである。
だが、どのような冷酷な人格者でも、優越感や高揚感という形で精神の浮き沈みは必ずある。
傭兵ならば、気力という形で達成的動機付(モチベーション)を促す栄養源となる。
しかし、その精神感情が目の前を歩く金髪の少年には全くない。
 
「気を付けてくれフィーネ。ティナ――ヴァレンティナから聞いた話では、エレオノーラ姫を捕虜にしたのが彼……ノア=カートライトだ」
「……は?」
 
――あんな、絵にかいたような優男が?エレンを?
間の抜けたような、その言葉が事実と認識するのに、若干の一拍が必要だった。
青年の底知れなさを感じながら、凱は自分の知っている限りのことを説明する。
 
「ノア=カートライト。彼はここからずっと『東』にある帝国の出身。その帝国の貴族の生まれらしい」
「|坊や≪マリーティカ≫のようなツラしてると思ったら、ホントにお坊ちゃんなのね」
 
貧村の生まれであるフィーネからすれば、たとえ下級貴族といえど、十分裕福な部類に入る。
 
「落ちこぼれでなければ、そうだったんだろうな」
「落ちこぼれ?」
「前にも出られず、後ろにも引けない。力もなく帝都の家柄を背負った者の運命は常に過酷なんだ。ある日、彼は帝国騎士団の戦力外通告を出され、シーグフリードが統括する帝国戦士団へ異動した」
 
意気揚々と甲冑に腕を通したら、使命の重さより鎧の重さが先に立つ。
無駄死な未来は目に見えている。
臆病で、弱い自分を変えられるかもしれない。得体のしれない部隊でも、『未知』という概念が彼を希望へと結びつけていた。
 
「なんでそんなヤツが、テナルディエのような側近を務めているの?シーグフリードとはどういう関係?」
 
以前は上司と部下で――今回は敵同士で別れる。そこへ至るに何があったのか、フィーネが興味を示すのは当然だった。
 
「順を追って話すからせかさないでくれ。――――戦士団でも更なる『苦』は続いた。奴隷以上の虐待を受け、それだけにとどまらず、ある『魔剣選抜試験』で、魔剣を独占しようとした同僚によって殺されそうになった。その時、ノアの前に現れたのがシーグフリードだった」
「もしかしてと思うけど、シーグフリードが彼を助けたの?」
 
人外どもを統括する戦士団長とはいえ、シーグフリードもノアと似たような境遇に生まれた人物。銀髪の男は金髪の少年に慈悲を見た。
手向かうもの。逆らうもの。敵国兵をはじめ、数多の殺戮を犯してきたが、それでも無力な者、とくに自分を慕ってくれた者を殺めたことは一度もない。
 
「あいつ自身が助けていれば、まだ神様の慈悲があると俺も思ったさ」
 
それゆえに、あまりに残酷なノアの過去に、憐れむように目を細める。
再び凱は語った。選抜試験に現れたのは人間だけじゃないことを。この世ならざる人外、魔物をも交えた『非常識』なる模擬戦だということを。
竜。獅子。馬車をも上回る四足歩行の人外兵器。取り残されたのはノアだけとなり――――
 
「その時シーグフリードがしたことは、持参してきた『魔剣』を与えただけだ」
 
時は数年前。ノア=カートライトは齢16。
セシリー=キャンベルも、魔剣強奪事件にてジャック=ストラダーを殺めたのも、齢16.
赤髪の騎士セシリーは他人の為に、『その人の死を背負う』形で救済へに尽力したが、ノアの場合、自分が生き残る為に死力を尽くした。その違いだろう。
 
「神様は、慈悲も情けも愛も与えなかったけど――――――――たった一つの取り柄を、『天譜』の才だけは与えた」
 
人は生まれながらに身体へ、星の脈動たる『律動(メロディ)』を宿し、天から与えられた『譜面』をも持ち合わせている。
何をやっても冴えない某小学生のように、『射撃』だけは与えたように――ノアもまた宿しているのだ。
テナルディエが側近として召し抱えたくなる才能――――それは。
 
「待って……まさか、そのノア=カートライトは……」
「そのまさかだ。『魔剣一本』で竜をはじめとした人外達を、皆殺しにした」
 
――鉄の刃をも通さぬ竜たちを、皆殺しにした?
 
少なくとも凱からの話では、その瞬間こそ生まれて初めて魔剣を使ったのだという。
今思えば、破戒僧ホレーショー=ディスレーリが静止に入らなかったら、どうなっていたのか?
魚が生まれながらに運泳の術を得ているように、ノアはまるで小さいころから聞かされた『子守歌』を口ずさむ感覚で、魔剣を操ったという。
彼の才能は、まさに天空より訪れる流星から授かったものだろう。
だが――それは『魔剣』の使い手というよりも、『竜殺しの才能』、さらに踏み込めば『鬼殺しの才能』だったのかもしれない。
 
すなわち――――『鬼剣』。
 
「それ以来、ノアはシーグフリード直属の配下として働いていた。そのせいか、いや、多分テナルディエにもこういわれているはずだ。『ノア=カートライトは最高傑作の駒・鬼手(おにて)の使い手』だと」
 
鬼手。それは、東洋将棋(ヤーファ)における、直接的に勝利へ結びつく一手。
鬼子が己へ恐声を上げた瞬間、鬼剣の使い手は生まれ出でる。
 
「ただ、どうしてノアがテナルディエに従っているのか、俺にもわからない。もしかしたら、シーグフリードが何か知っているかもしれないが、あいつはあんな性格だ。多分知っていても教えはしないと思う」
「…………そうだったのか」
 
少々残念に思うフィーネだが、いずれ戦いの中ではっきりするだろう。どのみち、もうすぐテナルディエとの対面だ。焦らずともいいと自分に言い聞かせる。
そして凱の視界には――――ティグルの屋敷が見えてきた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――――凱たちがセレスタへ訪れる少し前のこと。
 
「民とは所詮……葡萄酒(ヴィノー)の原液。狩るも枯らすも我ら逆星の――――自由!」
 
その発言の苛烈さとおぞましさに、長年仕えているテナルディエの側近さえも息をのんだ。
絞れるものは極限まで搾り取る。労働の原液たる『血』と『汗』と『涙』さえも、この魔王は冷笑をうかべてそう告げた。
セレスタの街中は暗く、かがり火をいくつか焚いている。しかし、肝心の発掘部ではかがり火の明るさが届いていない。
理由は、舞い散った火の粉が『燃える水』に引火するからだ。
 
セレスタの屋敷前――テナルディエの為にこしらえた一つの……玉座。
この玉座は、セレスタ一帯を監視するために作られた簡易的な木造椅子にすぎない。が、どういうわけか、テナルディエはこのような素朴な造りが好みだった。それは、栄華誇る公爵家の環境で育ってきた、常に豪華な装飾や建造品を見飽きていた反動衝撃(リバウンド)かもしれない。
 
一人の無知なる民が、こう申し上げた。「オラァ暗くて見えない」と。
 
対して魔王は、「ならば、夜より深き闇をも見分ける『光の眼』を与えよう」と。
 
これが、無知なる民に魔王が与えたもう英知にして光の正体。
 
光届かぬ世界――発掘の奥深くまで照らせる光――独立交易都市(ハウスマン)からもたらされた文明の一つ。『投光照明(グランドフォーム)』。
 
独立交易都市では『定時』になると、外柱の頂点に設置されている『玉鋼』が、街中の歩道を均一かつ適度の『照度』で点灯する。
本来なら、それらは『一日を労う夜の陽光』に成りえたはずだ。
だが、ティル=ナ=ファの司る『夜』を奪い、『闇』に逆らう機械仕掛けの『光』は、民の安眠さえも奪っている。
文字通り奴隷として働く彼らアルサスの民に、もはやどちらが『夜』か『朝』か――分からなくなっていた。
 
先ほどのテナルディエの発言に対し、一人の武官にして秘書官たるスティードが臆することなくこう申した。
 
「ですが閣下、極端に搾り取ろうものなら、やがて反乱分子が生まれます」
 
対してテナルディエはこう切り返した。「絞り方が足りぬからだ」と――
先ほどの『亡命者』が生まれたのも、その一端にすぎない。もしこれが連続で動こうものなら、ねじ伏せ続けるのは難しいはずだ。
心まではねじ伏せない。ということを。
なおも説き伏せるようにテナルディエの論理は続く。
 
「生きるだけで精一杯では、反乱などという考えは浮かべるなどありえぬ」
「閣下。わたくしは何も『光景』を見て申しているわけではありません」
「私もだ」
「では何故?」
「決まっておる」
 
弱者だからこそ徹底的に。奴らの果実を絞り上げた先の『蜜』したたる世界に辿り着くことは、我らの自由なる権利であり正義たる使命なのだ。
生きるだけで精一杯ならば、喰らうか喰らわれるかの二極選択しか取れないのだ。
勇気を持たぬ論理行動など、所詮そのようなもの。
本来、テナルディエ本人の前でこのような態度をとるスティードは、自殺行為に等しい言動を繰り返す。だが、テナルディエはまるで過ちを犯した子供をあやすような態度で説き伏せる。
むしろ、口答えした勇気をたたえ、こう諭した。
 
「見誤るな。愚かな民を『導く』ということは、何も戦争だけではないということを」
 
それ以上、武官は何も追求できなかった。テナルディエの言葉も分からなくはなかったからだ。
騎手は鞭を振り上げ手綱をつなげなければ、たとえ『魔法の馬バヤール』といえど無恥通り走り続けるだろう。
民とて同じこと。辞書(ヴィラルト)英知(ヴェーダ)を持たぬゆえに、脆く、愚かで、蜜の滴る理想世界どころか、草木一本生えぬ不毛の大地へ辿り着く。
アルサスの過酷な労働環境監査を再開しようとしたその時、一人の兵士がテナルディエの元へ報告を届けに来た。
 
「閣下――――ザイアン様が御帰還です」
 
耳元へ告げられたその名前に、テナルディエは眉をひそめた。
ザイアン=テナルディエ。父フェリックスの命令を受けて、アルサス焦土作戦の総指揮官であった息子。
この再開は、数多の意味で『決別』を意味するものであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――――◆◇◆―――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
凱と別行動をとったザイアンはまともに休むことなく、アルサスの中心都市セレスタへ向かった。
正確には、連行だった。
彼がセレスタの門をくぐったときに複数の兵士が出そろっていたからであり、ザイアンは今に至るまでの経緯を語ろうとしなかったからだ。
おそらくフェリックスはそれを聞いて、すぐに連行しろと命令したに違いない。ザイアンは周囲の兵士たちに固められ、総指揮官の天幕に通された。つい先立ってここを訪れたとき、ザイアンは周囲の者たちと同様に、父上への忠誠心熱き兵士だった。
そう――アルサスを焼き払えという苛烈な命令にさえ、怯むことがなかった。

だが、今は父の威を借りていた『仮初』の自分と全く違う。

銀の流星軍という別勢力の、それも大使ともいうべき存在だ。少なくとも、ザイアン自身はそのつもりだった。

(……『相変わらずの光景』だな……あの頃から全く変わっていない)

燃える水を採取する為に発掘作業を『機械』のように続ける『元アルサスの民』たる奴隷たち。
かすかな一瞥をくれただけで、ザイアンはそれほど見向きもしなかった。

ひとりの女性が――貴重な『燃える水』をこぼした。
それを見かねた『監視』が鞭を持ち、痛めつける。誰も助けようとしない。
ザイアンにとって、既に見慣れたはずの光景だ。だけど、眼をそむけようとも、耳をふさぎたくなるのは本当だった。





ヴォルン家の屋敷の前――そこには待ち構えていたかのようにたたずむ父の姿があった。





目線があった途端、獅子の牙のように鋭い父の目がザイアンを射抜いた。

「……ザイアン」
「……父上」

いつもと同じ出会いがしらの一声。ザイアンはその視線を避けようとしたものの、寸の所で思いとどまり、真っ向からそれを受け止める。
フェリックスはそんな彼の変化にさえも気づかない。ザイアンを連行した兵士に、乱雑に命ずる。

「貴様等は下がれ。ザイアンとは二人だけで話をする」

ザイアンを連行してきた兵士たちは、背筋を整えて敬礼した後、二人のテリトリーを離れていった。
やがて彼等の姿が見えなくなるのを確認すると、ザイアンは心を絞るような気持ちで問いただした。

「父上は……この戦争をどうお考えなのでしょうか!?」
「なんだと?」
 
自分の望みに沿って行動するはずの息子が、最も矛盾した質問を投げかけてきた。
――――何故だ?という、指導者にあるまじき疑問符が浮かぶ。
テナルディエは自身に問う。
だが、ザイアンの表情は真剣だった。
 
「――銀の逆星軍、捧げた理念行動(スローガン)を、ちゃんと父上の口から聴きたくて戻りました」
 
公約ではなく信念を。貴方が信じる正義は何なのか?
数秒後、テナルディエ公はゆっくりと口を開く。
 
「ブリューヌから、真の自由と平和を取り戻す。いかに流星へ願おうと決して手に入らぬ平和を――」
 
相変わらずの、重みある魔王の発声。まるで、猛獣が檻にこもって唸り声を散らしているかのよう。
建前を聞いているのではない。口には出さず、瞳と視線でかの魔王たる父に訴える。
 
「平和……平和という言葉を勘違いしているのではないのですか!?」
 
ザイアンは怯みつつも激しく言い返す。
 
「我々が言う弱者にも、父があり、母があり、子を授かってはまた戦場に駆り出して――戦火を求めることが父上の望みなのですか!?」
「――――どこでそんな戯言を吹き込まれた?まさか……ティッタとかいう侍女にでもたぶらかされたのか?」
 
ザイアンの胸中に絶望の一矢がよぎる。目の前の父には自分の言葉の意味どころか、言葉そのものが届いていないように感じた。風と嵐の女神エリスに信仰深いわけではないが、せめて言葉を風に乗せて届けたいという願いがザイアンにあった。
それでも、ザイアンはあきらめず言葉を尽くす。
 
「流星と逆星が、ただぶつかり合って、それで本当に『真の平和』とやらが訪れると、父上は本気で考えておられるのですか!?」
「そうだ」
 
言葉を交わし、意志を確かめて、文字をしたためるほどの文明を持つ人間が、竜や獣のように喰らいあうべき事が、あるべき姿なのか。
 
「そうやってただ斬りあい、撃ちあい、否定しあうだけなら、終わることなんてありません!」
 
自分の思っていることを吐き出したザイアンに対し、テナルディエは確信を込めて重低音響く声で叫んだ。
 
「終わらせるまでよ!真の諸悪たる『弱者』を全て滅ぼせばな!」
 
―――――本気で父上は言っているのか?
 
ザイアンは全身の血が、凍漣のように凍てつく感覚に襲われる。
いや、魔王の凍漣的な思考感情、氷血晶(タリスマン)は『冷徹』の一言に尽きる。勇者のような、氷結晶(クリスタル)を宿す『冷静』な分析は一欠けらも感じられない。
 
「本気で……おっしゃっているのですか!?弱者を全て滅ぼすと!?」
 
――――弱者とは、存在自体が悪なのか?
 
怒り任せとはいえ、そのようなことを平然と吐けるのか?
 
「言え!ザイアン!貴様は掴んでいるはずだ!『銀の流星軍―シルヴミーティオ』の所在を!これ以上戯言を抜かすと、貴様とて許さんぞ!」
「父上……」
 
ザイアンは震えながら、フルセットの髭を蓄えている、憤怒に震える父の顔を見上げた。瞬間――
 
――――ガチリ。
 
ふいに、何か鉛同士を撃ち合う音が聞こえた。
ザイアンは知っている。聞いたことがある効果音に、彼は思わず畏縮する。
 
(……撃鉄小銃(ハンドガン)……!?)
 
鈍い(くろがね)の光がザイアンの瞳を射抜き、無意識に頬を冷や汗が一滴流れる。
それこそ、次世代の『弓』であり『槍』ともいえる『銃』が火を噴く予備動作だということを。
生命の稲穂を刈り取る銃砲、それを実の息子に向けるのか?
正気かと――思えてしまう。
いや、正気だからこそ、本気で引けるのだ。まだ猶予を与えられているのだ。
弓も銃も引くことにためらいさえなければ、本質は同じかもしれない。
問い直せば、これが最後の機会と告げんばかりに、ザイアンを突き付ける。
 
「全ては『焼き払う』為の戦いだ!それすらも忘れたのか!貴様!」
 
魔王は息子の当惑に全く意に介さない。そして迷いさえも含まれていない。
彼らの間には、あらゆる理解が存在しない。溺愛する父はその面影すら見えない。あるのは、見えざる壁と遠ざかる距離間だけだった。
自分の命を救ってくれたティッタの為に、父を説得できると思っていた自分はとんだ大バカ者だった。
フェリックスは息子の想いなど気にも留めない。たくましき(かいな)で息子を突き飛ばし、ザイアンはたまらず尻もちをつく。
 
「答えろ!答えなけれ……討つ!」
 
打つ。討つ。撃つ。たった一言だが、明確な殺意を向けられたザイアンはあきらめざるを得なかった。
そして涙をこらえつつ、緑色の海から押し寄せる絶望の波にうちひしがれる。
改めて思う。自分は愚者の一人にすぎなかった。父はすでに銃という亡霊にとりつかれたものの一人だったことを、既に理解していた。していたのに。
理を説いても、情で訴えても、この男を止めることはできない。
 
(これでは……ダメだ!この人をブリューヌ・ジスタート双方の『玉座』に据えてしまったら、世界は『魔』の環境に作り変えられてしまう!)
 
数多の躯と流れる血。それだけになってしまう。
ひとつの時代の終焉と、知的生命体の滅亡。摂理に従って行動する魔王。
かろうじて機能している『玉座』をひっくり返す――ブリューヌ・ジスタート転覆計画。
 
「父上!覚悟!」
 
ついに意を決し、ザイアンはあらかじめ『安全装置(セーフティ)』を外しておいた銃を懐から取り出し、父に銃口を向ける。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――銃口が火を噴きだし、銃声が両者の耳にたたきつけられる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
しかし、灼熱のような弾丸はザイアンの右肩を容赦なく貫く。数拍おいて、あの時『テラスの隙間』からヴォルン伯爵に右手を貫かれた痛覚がよみがえる。
生温かい血が、ザイアンを濡らしていく。
突如放たれた銃声を聞いて、テナルディエの側近が駆けつけてくる。
 
次々と抑え込んでくる手と手、足と足。地べたに這いつくばったザイアンの胸元から、一枚の皮羊紙がひらりと落ちる。
 
独立交易都市からもたらされた機械文明の一つ。『写真投影(フォトショット)』。
かつてヴィクトールが凱にフェリックスの正面写真を見せたものと同質のもの。
 
『写真』に映る幼き自分と、自分をあやす父の笑顔。
厳岩のごとき表情は『相』も変わらず、しかし、口元に浮かべた笑みに『愛』がある。あったのだ。
視界に入っていないのか、その写真をテナルディエはその辺の雑草と同じように踏みつける。
 
――――――ガチリ。
 
再び、撃鉄を鳴らす音があたりに響く。
 
「答えぬか!?ザイアン!」
 
そう告げる魔王の手には、さらなる銃が握られていた。拡散式多撃銃――ショットガンを。
ザイアンは黙したまま何も語らない。
止まった空気に耐えかねたのか、父は口を開いた。
 
「連れていけ!銀の流星軍の居場所を吐かせるのだ!」
 
縄をかけられながら、ザイアンはこれから訪れる未来を想像する。
既知財産を有しているだけ、自分はまだ父によって生かされるだろう。
だが、そのあとはどうなるのだろう?
突如として、目の前が曇るのを感じるザイアン。引っ立てられ、連れ出される彼に、フェリックスは忌々しく吐き出した。
 
「愚かなサイ」
「お互いに」
 
サイ――昔、騎士のおままごとに付き合ってくれた、息子ザイアンへの愛称。
吐き捨てた本人に名残惜しさがあったかは分からない。ただ、ザイアンにはそれらも含まれているように聞こえてきた。
こうして、父と子は決定的な亀裂と決別を残した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
通路を連行される間、ザイアンの耳に勇者の言葉がよみがえる。
 
――心に灯した流星の輝きを、消しちゃいけない。勇気ある限り――
 
(……勇気)
 
暗く閉ざされつつあったザイアンの思考に光が宿る。
そうだ。オレにはまだやるべきことがある。グレアストが考案したお得意の拷問処刑によって、情報を奪われて死す可能性があったとしても、あきらめるわけにはいかない。
たとえ生きることがどんなに苦しくても、感じられても、逃げるわけにはいかない。
絶望の海原に勇気の帆を張り続けて。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「お乗りください」
 
丁重に――とは言い難いが、ザイアンはそのまま兵士に囲まれ、中央都市セレスタの出口あたりまでたどり着く。
用意された馬車に乗り込めば、もう自分が逃げ出す機会はなくなる。
 
(あの人も、このような気持ちで馬車に乗り込んだのだろうか?)
 
獅子王凱の異端審問の噂は、ザイアンの耳にも届いていた。ガヌロンの代理としてグレアストが馬車を引っ提げて、このようにセレスタへ訪れたことがあったのだ。
 
(でも、勇者は希望を捨てず、文字通り生還したじゃないか)
 
身を焦がす清めの炎。炎の甲冑さえも、あの人は乗り越えた。
オレはあの人のようになれない。けれど、あの人のような生き方を選びたい。
 
――それは、ずっと前、ティグルが凱に白露したのと同じ想い。
 
ザイアンは意を決する。
馬車に足を踏み入れる瞬間、油断した兵士たちがザイアンの形振り構わない特攻に突き飛ばされる。
 
「お待ちください!ザイアン様!もし逃亡を図るものなら射殺せよとの命令を受けています!」
 
それは、銀の流星軍に情報が漏れるかもしれない、テナルディエの気掛かりだった。正確には、『あの男』が生きているかもしれない、勇者の完全排除を危惧してのことだ。
 
「――――御免!!」
 
兵士の一人が、銃を撃ち放つ。二人目も同じく、そして火戦はやがて数を増していく。
迫りくる赤白い銃弾が、ザイアンの生存空間に置かれ、敷かれていく。
 
(ダメだったか!?)
 
死への恐怖が全身を支配しようとしたその時――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「――銀閃殺法!八頭竜閃(ヤマタノオロチ)!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
突如、ザイアンの脇に、頭前に、幾重にも分かれる『刺突』が放たれる。まるで彼をまもろうとするかのように。
一条一条が明らかな『質量』を持ち、熱を帯びた蜂たちを打ち落としていく。
 
「――――誰だ!?」
 
後ろを振り向くと、そこには銀閃アリファールを抜刀している勇者がいた。
獅子王凱だった。
 
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