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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人

作者:織部
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辺境異聞 9

 セリカの一日は一杯のモーニングティーからはじまる。
 速めに起床し、規定のルートで早朝散歩をおこない、その後はお茶を嗜むという貴族的で優雅な朝からはじまるのだ。
 魔術学院に籍を置いているが、教鞭を執ることはほとんどない。いつも研究所や図書室でなにか調べものをしている。提出が義務づけられている論文等はアフタヌーンティーの片手間にかたづける。
 陽が落ちてからはロクでなしな同居人の夕食を作るなどの世話を焼きつつイブングティーや読書を楽しみ、時にはそのロクでなしな同居人のチェスの相手をすることもある。通算成績はセリカの一三四五勝〇敗だ。
 ボルツェル城という仮の住まいでも確立したライフスタイルをくずさないセリカ。秋芳は秋芳でセリカの治療以外の空いた時間は図書室や錬金部屋にこもり、書を紐解いていた。
 逃げたフーラを探し出す際に見つけた地下の隠し部屋のなかには、上階になかった魔術書や錬金レシピを発見。
 それらのなかにベラドンナ・ブラッドという霊薬があった。
この霊薬を服用した吸血鬼は、その外見的特徴――青い肌や赤い瞳など――を中和されて一見してそうと見分けられなくなる。血液中を循環することにより見鬼もある程度ごまかせるのだ。

「あいつらが生身の人間に偽装できたのはこれのおかげだったのか。ベラドンナは瞳孔を拡張する作用もあるから、目を大きく見せたいご婦人がたの間で一時期流行ったことがあったが……。この組み合わせだとそんな効能がつくのか」
「しかしなんだな」
「どうした」
「今さらだが地方を治め、外敵に備えていた辺境伯が吸血鬼だったというのは結構な大事件なんじゃないか」
「それも半世紀もの間、だれにも気づかれなかったときたもんだ。中央から遠く離れている場所だからこそそんなことが可能だったわけだ」
「人を害する吸血鬼を退治したのはいいが、同時に国に認められた辺境伯を亡き者にしたわけだろう。エリサレス王国との緩衝地帯をそのままにしておくわけにもいかないだろうし、どこにどう報告したものか……。下手をすると俺たちは貴族殺しの下手人あつかいされるかも知れない」
「帝国上層部の連中には公私ともに知り合いが何人もいる。そのあたりのことは私から説明しておこう、おまえが危惧するようなことにならないようにな」
「さすが第七階梯、顔が利くな。あと気になるのが……」
「なんだ」
「この城の中にある物だ。金貨や宝石類、美術品や貴重な霊薬や錬金素材やらなにやら、かなりの量を蓄えてある。それらがごっそり後続のやつに渡ると思うとちょっとな。俺たちはフーラどもに迷惑をかけられたわけだし……」
「いいじゃないか、慰謝料替わりに頂戴しろ」
「そうだよな、そう思うよな。なにも根こそぎもらおうってわけじゃない、少しばかり頂戴しよう」

 いつまでもフェジテを留守にしてボルツェル城にいるわけにもいかない。セリカは通信魔導器で学院とグレンに連絡し、近日中にフェジテに帰る旨を伝えた。

「ついでにおまえのことも学院に言っておいたぞ。私の野暮用を手伝っていることにしておいた。失踪したことにはなっていない」
「ありがたい、助かるよ」
「なあに、おまえは私の魂の傷を癒してくれた恩人だしな」

 セリカの霊障が癒えた翌日。城にあった馬車のなかでも造りの良いものを選ぶと、慰謝料として頂戴した荷物を乗せて出発することにした。
 目指すは街道。そこに出てしまえばあとは路なりに進むだけだ。

「《剽桿なる獣よ・荒野を走り・我がもとへ駆けよ》」

 秋芳はこの七日の間にセリカからいくつか魔術を教えてもらっている。そのうちのひとつを唱えた。
 黒い巨躯をした馬が召喚される。肉食魔馬の異名を持つ、激しい気性の汗血馬ブケパロスだ。

「ほう、肉食魔馬か」
「こいつ一頭で並の兵士二、三〇人は相手にできる。ケチな山賊が襲ってきても蹴散らしてくれるし、シャドウ・ウルフ程度の魔獣なら襲ってはこないだろう。馬車馬兼護衛に最適だ」

 主要街道周辺は軍が定期的に街道整備を行い、市井の人々が護衛をつけずに行き来できるほど安全だが、辺境ともなれば話は別だ。
 野盗まがいの連中や熊や狼といった野生の獣のほか、魔獣のたぐいに人が襲われたという話はたまに聞く。

「自分が病み上がりだということを忘れるなよ。妙なことになっても、いたずらに魔術を使ってはいけない」
「安心しろ。少ない魔力でも呪文を工夫して威力を増幅すれば【ゲイル・ブロウ】程度でも森を根こそぎ吹き飛ばして更地にできる威力を出せる( ̄^ ̄)」
「だからそういうのをやめなさいっての。君子危うきに近寄らず、暴虎馮河の勇を奮うなかれ、だ」

 ボルツェル城を後にして主要街道に通じる支街道を進んで間もなく、思いもよらないものを目撃することになった。

 GAAAAAッッッ!!

 突如として大気を切り裂くような声が轟いた。
 なにごとかと声のした方向を見れば、遠い空の彼方に黒い影が大きく翼を広げている。点のようにしか見えないが、そこまでの距離を考えればその巨大さは容易に想像できた。
 影が翼をはためかせて悠然と空を舞ってまっすぐに翔てくると、視界のなかで影は急速に膨れ上がり、その正体があらわになる。
 巨大な翼、漆黒の鱗、長い首と尾、太い胴体、口は耳まで裂け、頭には大小三対、六本の角が生えている。背筋に沿って暗灰色の毛がなびいていた。
 竜だ。
 竜が秋芳とセリカの頭上高くを飛びすぎていった。
 猛烈な風が吹き抜ける。

「あれが、竜か……」
「竜だな」
「どヴぁきん、どヴぁきん、ならしろすヴぁー♪」
「なんだその呪文は」
「いや、竜を見るとつい……」

 人知を越えた強大な力を持ち、万物の頂点に立つ最強の聖獣にして妖獣、幻獣にして魔獣。神獣とも謳われる存在を目の当たりにしてさすがの秋芳も驚きを禁じ得ない。

「このあたりは自然も多いいし、まだあんな竜が棲んでるんだねぇ」
「不忍池で狸を見かけたような軽い言いかただな」
「一〇〇年くらい前はフェジテ近郊でもよく竜を見かけたものだよ。湖には細長い胴の水竜が泳いでいたし、巨大な洞窟の奥には小山のような体躯の地竜が眠っていた。蒸気を吹き出す谷間には真っ赤な鱗の火竜が大きく避けた口から灼熱の炎を吐きあげていた……。今の竜、あの鱗の色から察するに闇竜だね」
「闇竜とはどんな竜なんだ?」
「知性を獲得する前の成竜(アダルトドラゴン)まではブラックドラゴンとも呼ばれ、老竜(エルダードラゴン)まで成長するとダークドラゴンと呼ばれる。特徴は全身を覆う黒い鱗と、その貪欲さだ。竜という種族は総じて金銀財宝といったお宝を巣に溜め込む習性があるが、やつらは特にお宝を好んでかき集める。人にとって価値があるものはやつらにとっても価値があるのか、ときには絶世の美女や美少年といった、生きたお宝をかっさらうこともある。『ドラゴンにさらわれたお姫様』てのはおとぎ話なんかじゃない。また闇竜は暗黒神と関係があると言われ、暗黒魔術も行使できる」
「うわぁ~、悪いモンスターそのものだな」
「だが邪悪というわけではない、気性の荒さや凶暴さでは火竜のほうが遥かに上だしな。――竜は幻獣ゆえ、その巨体の割には大量の食事を必要としないと言われ、なにも食べなくても生きてゆけると唱える学者さえいるが、空腹になると知性を失い凶暴になるとも言われる」
「どっちなんだよ、そりゃ」
「個体による差が大きいのさ。……また人を喰うことをおぼえた竜は人ばかりを食らうというが、食べるために人を襲うことはめったにない。聖エリサレス教会の連中は人の姿が神に似ているから畏怖しているのだ。などと主張しているが、どうだかな。私は単に人を恐れているだけだと思う」
「竜が人を恐れる?」
「そうだ。いくら竜が強いといっても重火器で武装した軍隊や高レベルの魔術師はそれ以上に強い。やつらはそのことを本能や経験で察している。だからあまりにヤンチャが過ぎると痛い目を見るから、直接人に手を出すような真似はしないんだろう」
「それに牛や豚にくらべたら人なんて骨と皮だけだし、俺たちのことは眼中になかったな。幸い腹は減ってなかったようだ」
「……いや、そういうわけでもないようだぞ」

 大気を切り裂く咆哮をあげて、漆黒の竜が舞い戻ってきた。その手には哀れな獲物が闇竜の太く鋭い爪から逃れようと必死に暴れていた。
 獲物は、大きな獣だった。
 鹿ではない、熊ではない、猪でもない。
 闇竜が捕えてきたのは獅子の胴に鷲の頭と前脚を持ち、翼を生やした異形の獣。

「グリフォン!」

 鷲頭獅子と呼ばれる魔獣を狩ってきたのだ。
 人を襲う魔獣ではあるが、その姿は雄々しく、家紋にしている騎士や貴族も多い。その嘴と爪には恐るべき破壊力があり、金属鎧でも板のように貫き、切り裂くという。馬を好んで餌にしているので、辺境の山道で馬車馬や旅の騎士が襲われたという話が数年に一度くらいは噂にのぼる。
 書物によれば光る物を好んで集めるため、その巣には金銀宝石の類が多くころがっているとあるが、さだかではない。
 魔術学院を晴れて卒業した第三階梯の魔術師であってもグリフォンと一対一で戦って簡単に勝てるとは思えない。そんな強力な魔獣であるグリフォンを獲物として屠った竜の闇色の鱗には傷ひとつついていなかった。
 巣に持ち帰って、ゆっくり食べるのかと思って見上げていると、岩山の頂に舞い降りて、やにわに食らいついた。
 グリフォンがひときわ激しく暴れて、大量の羽根が飛び散る。
 だが、すぐに動かなくなった。
 ぞぶり、ぞぶり、ぞぶり――。
 そのような咀嚼音が聞こえてくるような気がしてくる。

「グリフォンて鷲の味なのかな、それともライオンの味がするのだろうか」
「さあねぇ、鷲も獅子も肉食で不味いだろうから、いずれにしても美味しくないと思うよ」
「せめて草食獣がまざっていれば美味い部位がありそうだが」
「ならキマイラの山羊の部分は食えるのかね」

 弱肉強食という大自然の過酷な姿を目にした文明人ふたりが散文的な会話をしているうちに闇竜はグリフォンをぺろりとたいらげ、飛び去っていった。
 腹がくちくなって巣に帰りひと休みするのか、新たな獲物を探しにゆくのか。
 遠くにひときわ高く、険しくそびえ立つ山が見えるが、なんとなくそこが闇竜の住処のような気がした。

「食欲旺盛なようだが、成竜なのかな」
「いや、あの大きさからするとすでに老竜だろう」
「じいさんになっても食欲旺盛。なるほど、たしかに貪欲だ」

 秋芳は気の変わった竜に餌だと見なされ、追ってこないうちに、馬車を走らせた。





 森の中の道を進んでいると開けた場所に出た。ちょっとした広さの草原になっているそこかしこに馬が繋がれ、天幕が張られている。地面に布を敷いてなにやら商いをしている者もいる。
 一見すると隊商の野営か、市座のようだ。
 だがこのような辺鄙なところで市を開くなど、実に不可解だった。
 幾人かに話を聞けば、この先にある川が大雨のため増水し、橋が沈んで通れないとのこと。
 迂回しようにも橋のある場所はここから遠く、そこも沈下橋状態の可能性もあるうえ、野盗や魔獣の襲撃を恐れながら道なき道を進むのはリスクが大きい。
 水かさが低くなるまで待っているうちに行商人たちはおたがいに商売をはじめ、噂を聞いた近隣の村々からも人々が集まっていて、予期せぬ市が開かれたというわけだ。
河川敷の様子を見たところ、これ以上増水する気配はなく、あと数日もすれば落ち着くだろう。

「いそぐ帰路でもでもないし、俺たちもこの即席の市を楽しむか。なにか変わった酒や食べ物でもないかな」
「辺境の商人のあつかう物に私やあんたの舌を満足させる酒があるとは思えないけどねぇ」

 整備された街道とつながり、近くに港町があるフェジテには世界中から食材があつまってくる。特に近年では蒸気機関の発達で、庶民の元にも食料品がより速く、より遠くからあつまってくるのだ。
 国産のハムやチーズはもちろん、北海の鮭、南海のロブスター、南国の野菜や果物、西方の香辛料、東方の茶――。

 これらの食材に都会の洗練された調理がくわわり、人々の舌と胃袋を満足させる。

「なに、このさいハギスやバンガースみたいなゲテモノでもかまわないさ」

 スコットランド人やイギリス人が聞いたら怒るようなことを言って、あたりを物色してみる。
 たしかにナーブレス家があつかっているような品のある葡萄酒などないが、自家製のエールや蜂蜜酒は野趣のあるこくや酸味があり、悪くはなかった。

「…………」

 露天にならぶガラス細工を眺めるセリカの口元におだやかな笑みが浮かぶ。

「――その美貌は生きた人間というよりも、氷で作られた女神像を思わせる美しさ。肌の白さは白磁の花瓶、唇の紅さは女王陛下の宝冠に飾られたルビー。瞳はさながら氷に封じ込められたサファイアだった」
「口説き文句だとしたら一〇点だな」
「一〇点満点中で?」
「一〇〇点満点中の一〇点だ、ヘボ吟遊詩人」
「アルフォネア教授の採点は厳しいな」

 秋芳が手にした筒をかたむけて中身を胃の中に収めてゆく。持ち運びに耐えられるように蒸留酒とハーブを添加して度数を高めた葡萄酒で、船乗りや行商人などが愛飲している旅人の酒だ。

「美しさを喩えるのに生命のないものばかりを使用しているのが気に入らない。私が不老不死の化け物だって言いたいのかい」
「この世ならぬ美しさだからさ」
「私とキョウコちゃん、どっちが綺麗?」
「京子が太陽なら君は月だ」
「私が太陽がないと輝けない月だって言うのかい」
「そういえばルヴァフォース世界てのは天動なのか地動なのか。丸いのか平らなのか。それによってお日様やお月様の設定が変わってくるぞ」
「酔ってるね」
「酔ってるさ」

 さらにひとくち、筒の中身をあおる。

「なにか気になる物でもあったのか?」
「グレンがさ、最初の小遣いで買ってくれたのが、あんな感じの指輪なんだよ」
「ほう」
「私の渡した小遣い、全部使ってさ、一番高くて綺麗なやつをあげるって」

 セリカの脳裏に昔日の記憶がよみがえる。

(これ、セリカにあげる。けっこんゆびわ! またらいねん、おなじのかって、いっしよにはめる!)

「あの頃は小さくて素直でなぁ、ほんっと、可愛かったんだ」
「今の姿からは想像できないな」
「あーあ、子どもの頃はあんなに素直で可愛い男の子だったのに、今じゃあんなスレた男になっちゃって、……時の流れは残酷だな」

 そのようにして祭りにも似た楽しげな雰囲気を堪能していると、浮かれ騒ぐ周囲になじまない、深刻な面持ちの一団がいることに気がついた。
 身なりの良い初老の男を中心にして、なにやら相談事をしているのだが、彼らの口から頻繁にある単語が飛び交っている。
 「ドラゴン」という言葉が。
 秋芳とセリカは顔を見合わせた。つい先日ドラゴンに遭遇し、その威容を目撃したばかりなのだ。

「なにかおこまりですか」
「ええ、実は……」

 身なりの良い初老の男は山の向こう一帯のウォルトン地方を治める郷紳(ジェントリ)のジャレイフといった。
 郷紳というのは貴族ではないが先祖代々の広大な領地を持っている実力者で、貴族とともに上流階級を構成する一員だ。
 彼の土地にあるいくつもの村がドラゴンに襲われ、甚大な被害を受けているのだが、救援を求めて帝都オルランドまで行こうにも、この場で足止めを余儀なくされている。

「あの黒い竜ときたら、三日と間を空けず襲ってきやがる。このままじゃ村中の牛が食い尽くされちまうよ!」

 ジャレイフのお供の男たちはみな彼の治める村の住人で、ドラゴンの暴虐を目の当たりにしている。
 彼らの話によればドラゴンはおもに牛や羊といった家畜を襲い、貪り喰っているという。
 ウォルトン地方の主な収入源は牧畜で、これは死活問題だ。それに家畜を食べ尽くしたあと、こんどは人を餌と見なして襲ってくる可能性がある。

「一日でも早くオルランドへ向かいたいのだが、このありさまだ。今からでも引き返してレザリア王国に助けを求めてはという意見もあるのだが……」
「もう二日、早ければ一日待てば水は引く、それまで待てないのか!」
「その一日二日が惜しい。早馬を駆ってアルザーノに行ったほうが早い!」
「……という具合にみなの意見が割れていてな、難儀しているところだよ」
「先ほど黒い竜と言いましたが、ほかに特徴はありますか」
「そうだな、見た者の話では背筋に暗灰色の毛が生えていて、頭に大小六本の角が生えていて――」

 秋芳たちが目撃した闇竜の特徴と一致する。

「この人たちの村を襲っている竜は、私らが見たグリフォンを食べていたやつだね」
「家畜を襲い、グリフォンまで貪るとは、聞きしに勝る貪欲ぶりだな。よっぽど腹が空くとみえる。だれだよ、ドラゴンは幻獣だから食事はしないなんて言ったやつは」
「これは見過ごせないねぇ。彼らからしたらドラゴンを退治してくれるならアルザーノ帝国の魔導士だろうがレザリア王国の神官でもいいわけだ」
「……もしレザリアの連中の助けを借りて事態を解決した場合、この辺りはレザリアの影響力が強くなる。ということか」

 アルザーノ帝国とレザリア王国。両国の間に挟まれるような場所ながらも、中央から遠く離れたこの土地は緩衝地帯ということになる。
 両国は平時から土地の有力者と良好な関係を結び、自治を認めたり、納税を免除するなど優遇し、有事の際には味方になってもらう。最悪でも相手方に協力せず中立を保ってもらうよう、普段から根回しをしている。
 なかには形ばかりとはいえ両国から官位官職を与えてもらい、貴族の仲間入りをする表裏比興な郷紳もいるくらいだ。

「ここでレザリア王国に出てきてもらっては、アルザーノ帝国としてはまずいわけだ」
「そういうことだ。それに神官どころか軍隊でも派遣してきてドラゴン退治を名目に常駐されでもしたら、まためんどくさいことになる」
「じゃあ連絡してやろう。通信魔導器の魔力はまだ残っているだろう」
「もっと早く解決する方法もあるぞ。私がドラゴンを退治するんだ」
「まだ強力な魔術を使える状態じゃないと言っただろう、やめろ」
「ならおまえが行って退治してこい」

 裏庭の井戸から水を汲んで来い。
 とでも言うように、気軽な調子でセリカが言い放った。 
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