マジック

「だったらな」
「ああ、本拠地での胴上げだな」
「そうなるな」
「今年はここまで苦労してるけれどな」
「もうマジック一だ」
「じゃあ優勝したいな」
「一勝で優勝だ」
「頑張ってくれよ」
　ファン達は優勝した時の用意もしてそうしてだった。
マツダスタジアムに詰めた、だが三連戦で一度もだった。広島は勝てず阪神も負けずにそれでだった。
　三連戦はお預けだった、これにファン達は嘆いた。
「何なんだよ」
「あと一勝だぜ」
「その一勝が出来ないか？」
「何でなんだよ」
「一勝が出来ないってのかよ」
「それはないだろ」
　こう言うのだった。
「まさかこの三連戦一勝も出来ないなんて」
「阪神も粘るしな」
「まあ次もマツダだけれどな」
「マツダスタジアムで三連戦だよ」
「相手は阪神だ」
　そのこれまで広島に影響を与え続けているチームである。
「阪神と戦って決まるか」
「優勝するかどうかな」
「だったら決めてくれよ」
「阪神に勝ってな」
「そうして」
　ファン達は心から願った、そしてだった。
　試合を観戦するが阪神も粘る、八回まで両チーム無得点でそのまま九回に入ってしまった。広島は九回表にピンチを招いてしまった。
「満塁か」
「しかもワンアウトか」
「ここで点取られたらまずいな」
「本当にな」
　観客席は真っ赤だった、ただし三塁側には阪神ファンも多い。彼等とて自分達のチームを愛する気持ちは同じだ。
「凌いでくれよ」
「それで九回裏にな」
「何とか点取ってくれ」
「一点でいいんだ」
「一点入れば」
「この九回表を抑えて」
　そうしてというのだ、そしてだった。
　広島ナインも奮起した、浅い外野ブライを。
　センターが素早く捕球しダイレクトにホームに投げた、そうして。　　
　キャッチャーがタッチアップを防いだ、広島は何とか危機を凌ぎファン達は思わず総立ちになった。
「やった！」
「無得点だ！」
「凌いだ！」
「何とかやったな」
「後は裏だ」
　その九回裏だというのだ。
「一点でいいんだ」
「頼む、勝ってくれ」
「一点取ってくれ」
「ホームランでも何でもいい」
「決めてくれ」
　ファン達は祈る様な気持ちだった、その中でカープは九回裏の攻撃を迎えた。だがあっという間にだった。
　ツーアウトになった、しかもランナーはおらず。
「駄目か？」
「延長か？」
「それで延長で打たれるとかな」
「それはなしにしてくれ」
「止めてくれ」
　最早実際に祈ってさえいた、その中で。　
　今のバッターもツーストライクまで追い込まれた、まさにあと一球で延長だった。