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虎と鯉のクリスマス

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第一章

                虎と鯉のクリスマス
 二〇一七年を振り返ってだ、根室千佳はクラスでこんなことを言った。
「シリーズ出られなくて残念だったわ」
「まあああしたこともあるわね」
「まさかと思ったけれど」
「ベイスターズ出場とかね」
「あんなこともあるのね」
「負けたのは実力がなかったからよ」
 千佳の言葉は至って冷静なものだった。
「捲土重来、クライマックスの敗北を忘れずに」
「確か臥薪嘗胆?」
「その言葉よね」
「この悔しさを忘れずにっていうのね」
「来年こそは」
「カープは三連覇したことないけれど」
 それでもと言う千佳だった。
「絶対にやるわ」
「リーグ三連覇して」
「そうしてなのね」
「来年こそはシリーズに出て」
「そしてっていうのね」
「日本一よ」
 それになるとだ、千佳はその目を燃え上がらせて言った。
「そうなってみせるわ」
「来年ね」
「今年はもう終わったからね」
「晴れて来年ね」
「来年こそはっていうのね」
「そうなるわ、まあベイスターズだったからね」
 千佳はここでこんなことも言った。
「まだいいわ」
「それ私も思うから」
「私もよ」
「私だってよ」
 友人達は自分の席で言う千佳を囲んで立ちつつ言った。
「これが巨人だった日には」
「もう千佳ちゃんどうなってたか」
「暴れ狂っていたわよね」
「そうなってたわよね」
「多分ね、巨人は許せないのよ」
 千佳自身こう言うのだった、自分で自分のことはわかっているのだ。
「あのチームはね」
「そうよね、鯉女だしね千佳ちゃん」
「だから巨人は、よね」
「もう絶対に許せない」
「巨人がクライマックスでカープに勝ってシリーズに出てたら」
「あまつさえ日本一になってたら」
「それこそ」
「もうどれだけ怒ってたか」
 やはり自分で言う千佳だった。
「わからないわ、まあお正月はいつも通りね」
「お祖父ちゃんのお家行ってよね、広島の」
「それで厳島にお参りしてよね」
「カープの優勝お願いするのね」
「毎年やってる通りに」
「そうするわ、まあお兄ちゃんもね」
 兄の寿の話もする千佳だった。
「また来年だ、来年こそはって言ってるわ」
「お兄さんも相変わらずね」
「相変わらず半身に生きてるのね」
「千佳ちゃんがカープに生きてるのと一緒で」
「阪神愛の日々なのね」
「それで新年は西宮に行くって言ってるわ」
 西宮の神社にである。
「そこでね」
「阪神の優勝祈願ね」
「それをしてくるのね」
「例年通り」
「あと自分で何か色々やってるわ」
 このことは呆れつつ言う千佳だった。
「去年は陰陽道で優勝祈願してたし」
「その前は修行してたのよね」
「修験道か何かで」
「座禅を組んだこともあって」
「キリスト教の教会でお祈りしたり」
「あと天理教の方に行ったり」
「もう何でもだから」
 寿、彼はというのだ。
「神様仏様なら何でもお願い、お祈りしてるの」
「阪神を優勝させてくれって」
「そのことをなの」
「何か黒魔術とかそういう邪道は阪神じゃなくて巨人の力だってことで手を出さないけれど」
 寿はこう確信しているが実は千佳もである。 
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