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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人

作者:織部
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辺境異聞 3

 
前書き
 さんざんロクでなしの原作小説10巻の宣伝しておいてなんですが、まだ読んでません。 

 
 時おり奔る稲光がランプの灯すかすかな明かりを飲み込む中で、フーラの説明が続く。

「この城にはわたしたち父娘のほかに執事がひとり、召し使いが十二人、門番が四人の合計一九人が暮らしています。執事も召し使いも門番も父に忠実で、聞いてもなにも答えてくれないでしょう。無理に聞き出そうとすれば、あなたたちのことを父に報告するだろうと思います。そうなれば調査に妨害が入ることでしょう。ですから、それは思いとどまってください」
「できる限りこの城の住人とは口を聞くなってことだね」
「はい。――それと父のヨーグは非常に厳しい人間です。というより冷酷な人間です。召し使いやわたしにもつらくあたります。なぜあのような父に執事や召し使いたちが忠実なのか、まったく不可解です。それと彼らも母の死についてはなにも語ろうとしません。――あと、わたしには姉がいたそうです。ですが、わたしがまだ幼い頃に母と姉は流行り病でともに死んだと教えられました。母の記憶はかすかにあるのですが、いつのことか、またどのような病気で死んだのかわたしはまったくおぼえていません。姉についてもほとんど記憶にありません。母の名はソティー、姉の名はヘルギです」

 フーラからそのようなことが聞けた。
 秋芳とセリカは夜が空けてから捜査を開始する。





 翌日。
 昨日ほどの勢いはないが、それでもじゅうぶん激しい雨が降っている。
 外出はひかえて城内を調査することにした。
 秋芳は城の三階にある図書室にこもってなにか情報はないものかと書物の山を漁った。セリカとふたりで手分けして作業すれば負担は軽くなるのだが、その手の仕事を嫌うセリカにすべて押しつけられたのだ。
 ごく普通の本のほかに、魔術関係の本が目立つ。
 魔術書は学院の図書室にも置いてあるような一般的なものがほとんどだったが、一冊だけ『暁の王』という聞きおぼえのない書名の本があり、ページの大部分が破かれてなくなっていた。
 またボルツェル家の家系図や代々の記録書などもあり、家の記録を調べるとフーラの母が死んだ時期のものが巧妙に抜き取られてなくなっているのを確認した。

「ゴシックロマンあふれる古城で謎解きか、なにやら『クリムゾン・ピーク』を思い出すな」

 ふと窓の外に目をむければ眼下に雨に煙る中庭が見えた。貯水槽を兼ねた池と温室、そしてボルツェル一族の墓が建てられている。

「リメイク版『オーメン』で出生の秘密を知るのに墓を暴くシーンがあったが、さすがに、なぁ……」
「お疲れ様です、なにかわかりましたか?」
 
 ひとりごちる秋芳に様子を見に来たフーラが遠慮がちに声をかける。

「ああ、この『暁の王』という魔術書なんだが。どうも意図的に抜き取られているようだ。内容はご存じで?」
「『暁の王』ですか……。すみません、わたしの記憶にはありません」
「それとボルツェル家の記録書も調べたのですが、あなたの母が亡くなった時期の記録だけがやはり抜き取られている」
「まぁ! では、やはり……」
「なにかあるのはたしかでしょうね。ところであの温室ではなにを栽培しているんです?」
「おもに錬金術用の薬草をいくつか」
「後で見せてもらってもいいですか、最近この世界の――。ああ、いやこの国の錬金術の勉強をしていましてね」
「ええ、もちろん。わたしも錬金術は好きで、趣味で色々と調合しています。……どうですか、息抜きにハーブティーでも。摘み立ての薬草で淹れたものを用意できますよ」
「よろしいので?」
「はい。昨夜のようにいろいろなお話も聞きたいですし」

 食堂に移りハーブティーを飲むことにした。

「これは……、シロッテで苦味をおさえてありますが、コンカラーの根っこですか?」
「まぁ、よくわかりましね。どちらもお城の温室で採れたものです。スコーンも焼きましたので、どうぞ」
「ひょっとして、これもご自身でお作りに?」
「はい。父はわたしが外出することをゆるしてくれないので、手慰みに……、味はどうでしたか?」
「美味しい」
「よかった! ……変ですよね、貴族の娘がこんなふうにお菓子を作ったりするのって」
「いやいや、調理スキルというのは錬金術に通じるから料理を嗜むのは決しておかしくはないですよ」
「そんなふうに言ってくれて嬉しいです。この前は蜂蜜とティーツリーを使ってアロマキャンドルを――」

 フーラは秋芳が茶を飲み、菓子を食べているあいだ、ずっとしゃべり続けた。

「あ、やだっ、ごめんなさい。こんなの、はしたないですよね、ゴニョゴニョごにょごにょ……」
「…………」
 
 両手で口を押さえて赤面するフーラ。
 その伏し目がちな姿はなんとも可憐で愛らしい。細く可憐な手を取っておのれの手を重ねたくなる。
 シルクのような長い髪からただよう芳しい香りが、麻薬のように感じる。
 形の綺麗なその唇が潤いを忘れないように自分の唇で湿らせて――。

「人が足を棒にして調べまわっているあいだに優雅にお茶なんかして、いい身分だね」
「きゃっ」
「この香りはコンカラーの根っこと……、ん?」

 いつの間に食堂に入ってきたのか、セリカはカップに注がれた琥珀色の液体の匂いを嗅ぐと軽く眉をひそめた。

「……コンカラーの根は苦味を味わうのが通なんだ。シロッテで甘味を足すのは私の好みじゃないな」
 
 口元まで持っていったカップをテーブルへ戻す。

「足を棒にしてと言ったが、どこをほっつき歩いてたんだ。俺は一日中本の山と格闘してたんだぞ」
「上から下までさ。まず最初に――」





 秋芳が本の山とにらめっこしている間、セリカとて惰眠を貪っているわけではない。セリカはセリカで情報収集をしていた。
 私は足で情報を稼ぐ。
 そう決めて調査と称して城内をくまなく歩きまわった。
 四階にある倉庫。
 鍵がかけられている。それも【ロック】が、魔術による施錠だ。

「《開け》」

 ヨーグや召し使いたちに見つからなければどこでもご自由に、というフーラの許可は得てある。
 彼女に言って鍵をもらってもよかったのだが、セリカは伝える手間をはぶいて【アン・ロック】で扉を開けた。
 魔術師の基礎教養として多少の鑑定眼はある。まして地下迷宮の調査を日課とするセリカは普通の魔術師よりも目利きである。
 高価な美術品が並ぶなか、丹念に捜すとボルツェル一族の肖像画を発見した。
 赤ん坊の頃のフーラとソティー、ヘルギの絵もある。
 ソティーは三〇代前半、ヘルギは二〇歳前くらいに見えた。
 また壁にかけられた絵の中にはヨーグによく似た若い男性の絵もあった。

「お姉さんとはいくつ歳が離れてるんだい?」
「……一四歳ほどです」
「ふうん、よく似ているねぇ。それにお母さんはずいぶんと若い時分にお姉さんを産んだんだね」
「はい。歳は離れていますが、姉とわたしは双子のように生き写しだったそうです」
「あのヨーグ辺境伯にそっくりな男の人は?」
「ああ、その人は伯父のウンキです。父の兄にあたりますが、わたしが生まれた頃に事故で亡くなられたとか……」

 セリカは上から下まで城内を見てまわった。
 照明が極端に抑えられた城内は全体的に薄暗く、影も見えないほどで窓の外はいまだに嵐でなお暗い。
 城の住人は全体的に少食でヨーグは朝が遅いということで朝食には顔を出さないということをメイドから聞けた。
 彼が部屋から出るのは昼と夜の食事の時だけで、それを済ませるとすぐに自室にもどるそうだ。
 そのメイドをはじめ召し使いたちはヨーグに完全に服従し、個性も自我も持たないように見える。
 四階には倉庫のほかに使われていない礼拝堂といくつかの空き部屋やテラス。
 三階にはヨーグの私室と図書室。
 二階にはフーラの私室といくつもの客室、談話室。
 一階には玄関、ラウンジ、ホール、兵舎、食堂、厨房、召し使らの居住区。
 その召し使いたちが利用する食堂兼居間から地下室に降りられる。食糧庫、物置小屋、ワインセラー、もう長いこと使われていない地下牢がある。
 浴槽つきの化粧室が各私室と客室にある。
 見張り塔は高さにして六階まであり、屋上もあるが普段は使用されていない。
 などなど――。

「どうだ、すごいだろう!」
「ああ、すごい」
「いいか、見るのと観察するのは大きなちがいがある。私は各階段の段数までかぞえておぼえたんだからな」
「おお、そりゃすごい!」
「ははは、すごいだろう、すごいだろう」
「あのう、セリカさん。お口に合わないのなら新しく淹れてきますが」
「いや、私が淹れるよ。厨房のなかのものを好きに使ってもいいかい」
「はい、どうぞご自由に」

 セリカが席をはずしているあいだ、フーラはずっと秋芳に話をねだり続けた。

「外の世界を見てみたい……。わたしはここから出ることなく父の決めただれかと結婚し、年老いてゆくのです」
「ご自分を籠の中の鳥だとでも?」
「ええ、そう。ここは牢獄です」
「たとえ籠の中からでも想像力さえあれば人は自由に羽ばたき、どこにでも飛んで行けます。ライツ=ニッヒは座して紙上に数多の物語を、世界を創りました。本を読むこと、書くことは旅をすることとおなじです。人は読書を通じて、それまで知らなかった世界や感情。人生を旅することができるのです。行ったことのない南の島の青さと緑に目を細め、極北の凍った風の匂いを嗅ぎ、身を焦がす恋をする 。名もない男や老女、さすらう犬になる。そのたびに自分の中の世界が広がってゆく。宇宙が誰にも気づかれないうちに広がるように」
「……とても、誌的ですね」
「だから図書室や書店には、本の中には、本を書いたり読んだりする人の頭の中には無限の世界が詰まっている。いろんな時代、いろんな物語、いろんな命。そして死――。籠の中には無限の世界が存在し、穏やかな静寂があり、ゆるやかに流れる時がある」
「わたしに作家になれと?」
「本は嫌いで?」
「いいえ、好きよ。でも他のこともしたいの、ダンスとか」
「舞踏会ならいくらでもひらけるでしょうに」
「父の決めた相手ではなく、いろんな方と踊りたいのよ」

 艶然と微笑むフーラ。可憐で切なげな表情にかすかにまざる妖艶な表情。
 それがまた、魅力に思えた。

「踊ってくれますか?」
「ああ」
「ワルツはできますか? わたし、まだだれとも踊ったことがないんです」
「ワルツは簡単だ。女性は男性の少し右に立ち、六つのステップを踏むだけですむ」
「音楽はありせんが、お願いします」

 手を取り合ってワルツを踊る。
 蝋燭の灯りに照らされ、ふたりの影が幾たびも交差する。

「待たせたな!」
「きゃっ」

 いつの間に帰ってきたのか、新しく淹れたハーブティーを持ってセリカがそこにいた。

「おやおや、まぁまぁ、お邪魔しちゃったかな。若いおふたりさん」
「そ、そんなことありません!」
「踊って喉が渇いたろう、お茶でも飲みなよ」

 セリカの注いだ茶を 口にした、その時。

「あ、ごめん。私ってば砂糖とまちがえてシアン化カリウム入れちゃったみたい。てへぺろ(・ω<)」
「ウボォアーッ!? なんでそんなまちがえようがないものをまちがえるんだよっ。そもそもなんでそんなものが台所に?」
「まぁあわてるな。幸いここにユニコーンの角を砕いて作った万能の解毒薬があるから、飲め。フーラ、あんたもお飲み」
「……いえ、わたしも錬金術をたしなむ身です。薬の用意くらいはあります」

 フーラはそう言うとそそくさとその場を立ち去った。はたから見たら良い雰囲気のところを邪魔されて気分を害したように見えるだろう。

「……礼は言わないぞ。それと、薬も不要だ。フーラの薬は効いてない」
「ん? 一服盛られたことに気づいていたのか」
「俺は陰陽師でもあり呪禁師でもあるからな、多少は鼻が利く」

 呪禁師、あるいは呪禁道士。呪術によって病気の原因となる疫神や瘴気を祓う治療などを務めた典薬寮の役人。

「こっちに来てから色々と薬を試したよ。あれは浮気草、ラブ・ポーションの類だな」

 さらにだめ押しの【チャーム・マインド】。両手で口を押さえた時にこっそりと魅了の呪文を唱えていた。
 薬と魔術。両方をもちいて秋芳を篭絡しようとしたのだ。
 コンカラーの苦みとシロッテの甘味で浮気草の香味をごまかそうとしたが、錬金術に通じたセリカはそれを目ざとく察知し、解毒する流れに持ち込んだ。

「どうやって抵抗した? 飲んだふりをしてこっそり吐き出したのか?」
「これから吐き出すところだ。……失礼」

 窓を開けると外にむかって胃の中のものを吐き出した。
 意守丹田。内力を廻らし薬が五臓六腑に染み込むのを防ぐと同時に薬の無効化に努め、薬効を弱めていたのだ。
 もっとも神仙ならざる人の身だ、さすがに完全に無効化することはできなかったので、フーラを魅力的に思えてしまったのは否めない。

「また器用な真似をするねぇ……。だけどいきなりラブ・ポーションぶちかますとは、ずいぶんと惚れられたじゃないか、この色男」
「初対面の男に惚れ薬を盛るような女に好かれても嬉しくないな。とっとと依頼を片づけてフェジテに帰りたい。さっきの話の続きをしよう、まずボルツェル家の記録におかしなかところが――」

 秋芳はフーラの母が死んだ時期の空白と、聞き覚えの無い魔術書のことを説明した。

「で、そっちは倉庫でウンキ伯父さんの肖像画を見たんだっけ。百聞は一見に如かずだ、案内してくれ。あと他に見聞きしたこと情報を交換したいから色々と聞かせて――」
「口で説明するのはめんどうだから移すよ」
「移す?」
「抵抗するなよ~。《千の言の葉・一指に宿りて・疾く移れ》」
「……ッ!?」

 セリカの手が秋芳のひたいに触れた瞬間、脳に衝撃が走る。一瞬【メンタル・アタック】を受けたのかと錯覚したが、ちがった。
 セリカの見聞きした記憶が、流れ込んでくる。
 白魔改【メモリー・マイグレイト】。
 術者の伝えたい記憶を対象に移す補助呪文(サポート・スペル)。一瞬にして脳内再生されるため、口頭や文章で伝えるよりも鮮明で素早く正確に内容を理解させることができる。
 本来は白魔儀。儀式魔術で、複雑な手順と手間暇を要する、それなりに高度な魔術だが、セリカはそれを三節呪文に落とし込んだ。
 論理的には可能でも、技術的には至難の業だ。それはもはや固有魔術(オリジン)に近い。

「なんちゅう呪文だ……。それにあんた、ヨーグ伯の部屋に忍び込んだのか。大胆なことをする」
「フーラの出生にはなにか秘密があって、ヨーグ伯は城内にそれを隠して、だれも触れないように監視の目を光らせていると言っただろう。なら一番怪しいのはヨーグの私室だ。真相を記した日記でも見つかれば一発だと思ったんだけどね」
「アドベンチャーゲームの謎解きや情報集めを無視して一気にクリアしたがるタイプだな」

 ヨーグ伯の生活について、召し使いたちからある程度のことは聞けた。
 彼は朝が遅く、自分の部屋から出てくるのは昼と夜の食事の時だけで、三〇分ほどで食事を済ますとすぐに自室へ戻る。
 昼食時、セリカはこっそりと侵入をこころみた。
 だが部屋にはしっかりと鍵がかけられていた。それも魔術による施錠、扉や箱などの開閉式の物体に鋼の強度を宿す【ロック】の上位魔術である【ハード・ロック】が。
 しかも出入りするたびに合言葉を変えている痕跡がある。
 セリカの魔力であれば【アン・ロック】や【ディスペル・フォース】で解除できるが、いちど解除したものをもとの状態に戻すのはむずかしい。開けてしまえば何者かが侵入したとすぐにばれてしまい、疑いの目は部外者であるこちらに向けられるのは明白だ。
 ヨーグ伯の私室は三階にある。バルコニーから侵入しようとすれば登攀するか空を飛ぶ必要があるが、そちらにも【ハード・ロック】がかけられていれば意味はない。
 どうするか?
 幸い部屋自体に魔術的な結界は張られていなかったので、セリカは【レイス・フォーム】を使って幽体離脱し、室内を物色した。
 清潔だった。
 あまりにも、清潔だった。
 清潔すぎる。
 壁にも床にも塵ひとつ落ちていない。
 それ自体は不思議ではない、貴族の私室だ。毎日のように使用人たちが念入りに清掃していれば、そういう状態を作り出すことはできる。
 そういうレベルではないのだ。居間にも書斎にも寝室にも、全く生活している様子がない。感じられない。
 物を、調度品どころか机の上のペンや燭台ひとつかすかに動かした形跡すらない。
 異様さを感じつつ書斎を見れば魔術関連、特に死霊術(ネクロマンシー)に関する本が数多く並んでいる。
 次に多いのは聖エリサレス教会が禁書指定している、異教の神々や信仰について記された本だった。
 思っていた以上に書物の数は多い。
 とおりいっぺんの捜査しかできず、短い捜査時間ではフーラの出生に関するものは発見できなかった――。

「もうさ、【スリープ・サウンド】でふか~く眠らせてる間にガサ入れしちゃわないか?」
「だからそういうのはやめなさいっての。まだ一日目だ、また明日にでも調査してみよう」

 そのようにしてたがいに情報交換をした、その夜。秋芳は温室の中を覗いてみることにした。
 フーラの依頼について調べるというよりかは、純粋にどのような薬草が栽培されているか、興味があったからだ。
 マンドレイク、ナイトシェード、ベラドンナ、ロトス、オーキッド・ベル、フライ・アガリック――。

「薬と毒は表裏一体と言うが、またずいぶんと毒性のある草花ばかりだな」

 特に多いのがベラドンナだった。美しくも毒々しい紫色の花が視界を埋める。
 
「…………」

 秋芳の見鬼が厭な気配を察した。地面の下、そう深くない場所からかすかに陰気を感じる。
 生命の発する陽の気ではない、死がまとう陰の気だ。

「《常世の風よ・還らざる者たちの・声なき声をとどけよ》」

 死体探知魔術【ディテクト・コープス】。
 帝都やフェジテ周辺は寒冷な気候のせいで死体が長持ちするいっぽう、冬場は雪のために死体の発見が困難になる。救助活動に従事する者には必須の魔術だ。
 攻性魔術を重んじる学院では馴染みのない魔術だが、秋芳はあえてこの地味な魔術を習得していた。
 死者の放つオーラが見えた。
 地面の下に無数の死体が埋まっている。
 この温室の草花は人の骸を養分に育てられているのだ。
 
 

 
後書き
 夢枕獏の『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』がおもしろくて、そっちを読み進めています。
 空海と逸勢のやり取りが、おなじ作者の『陰陽師』晴明と博雅のやり取りとかぶる。 
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