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勇者にならない冒険者の物語 - ドラゴンクエスト10より -

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始まりのジュレット3

 ジーナは、ウェディの青年の手を引いて複雑に上下する住宅街を進んで行く。
 ウェディの青年は体力が無いようで、引っ張られる事でいっぱいいっぱいの様子だ。
 最近冒険者になったエルフの友人ミエルから、パーティ仲間の知人の記憶喪失っぽい男の捜索を依頼されたが、別に報酬があるわけでも無いしジーナ自身冒険者では無いので知ったことでは無い。
 何より、所属している酒場兼宿屋の劇団で踊り子をしているジーナにはそれなりにファンも付いているし、今日は特に遠征討伐に出ていた大規模冒険者チームの「ウーガル兵団」から宿泊先に選ばれていることもあり、稼ぎ期だ。青年1人分の遊戯代や宿泊費くらいどうにでもできる自信がある。
 一見純粋そうな青年だ。一晩を共にすれば恐らくジーナに引け目を感じて勝手に出て行く真似もすまい。
 体力の無さは問題かもしれないが、何より強い。ルックスも悪くは無いし用心棒兼彼氏として囲っておいても店も劇団も何も言わないだろうという目論見があった。
 だとしても、今日という稼ぎ期にステージに遅刻でもしようものなら目論見どころかペナルティを科されかねない。
 是が非でも出勤を間に合わせねばならなかった。

「ちょ、ちょっと! そんな急がないと、いけないことが、あるのか!?」

 青年が弱音を吐く。
 口を大きく開いて大きく息を切らせながらついてくる姿は、若干滑稽で・・・。

(か、かわいい!!)

 そんな事を思いながら、ジーナが上り階段を元気に上がって行く。

「ほらほら、良い男の子が弱音吐かない! いいからついて来なさい!」

 階段を登りきった先の階層はまた別の広場になっており、その階層には数件の比較的に大きな建物が並んでいた。
 パッと見たバルジェンが声を上げる。

「おお! ここ! 宿屋の所!」

 目的地に着いたという意味だったのだが、ジーナには別の意味で聴取られる。

「そうよ! 何を隠そうあたしはね、あの一番大きな宿屋、ホテルマルガレットで踊り子をしているの!」

「・・・?ああ、そう?すごい事なのか?」

「当然よ、ファンだっていっぱいいるんだから!」

 ドヤ顔で形の良い胸を張ってみせる。
 なんだか話が噛み合わない気がしながらもバルジェンは頷いてみせた。

「それは、す、すごい?ね。それじゃあ、俺も宿屋に着いたようだから・・・」

「そうよ、着いたのよ。じゃあ早速行きましょう!」

 グイグイとホテルマルガレットに向けて引っ張り出すジーナに抵抗しようとするが、意外に握力が強くて手を引き離せない上に女性に手を上げるのに臆病なバルジェンはされるがままだ。

「いや、うん、ちょっと、俺の宿あっち・・・」

「あたしの特別招待券はシルバーだから、VIPルームは使わせてあげれないけど、飲食とショーは無料だから安心して。あと、ラストまでいてくれていいからね! あんたひとり分くらい面倒見れるんだから。お姉さんに任せなさい!」

(いやいやいや、それ絶対ボッタクられるパターンじゃん!)

「いや、パーティの仲間が帰ってくるかもしれないし、戻らないと・・・」

「何!? やっぱあんた冒険者なの!? やばいうけるー」

 何が受けるのか解らないが、ついて行ってはマズイと立ち止まって抵抗を試みるバルジェン。

「いやいや、報酬とか要らないから、大丈夫だから。まあ、ほら、あそこの宿に泊まってるからさ」

「いいからとりあえずこっち来なさいって」

「お前それさっきのチンピラどもと一緒だからな!? やってる事は!?」

「何よ美味しい料理食べたくないの?」

 美味しい料理と言われても、バルジェンにはちょっとしたスナックやケーキが通常の10倍の価格で置いてある気しかしない。
 そんな店に行った記憶など勿論ないが、そう思うという事は記憶喪失になる前には通ったことがあるのだろう。
 ほらほら早く早くと楽しげに引っ張ってくるジーナにタジタジになりながらホテルの酒場にさしかかろうという時、シャツの背中の裾を思いっきり後ろから引っ張られてバルジェンの首がえりに締め上げられる。

「ぐええ!?」

 カエルのように声を上げて振り向くと、物凄い形相のエルフの少女が睨みつけて来た。

「心配になってルーラ石で飛んで帰って来てみれば、これは一体どういう事だ?」

 冷ややかな声色。そして視線。
 ものすごく怒ってるみたいだ。

「いやぁ・・・、突発クエストの、報酬? みたいな?」

 ガッと左脇腹を力一杯つねられる。ギリギリギリっと鈍いような激しいような微妙な痛みに襲われた。

「いいい、いたいいたいいたい、チョウキさんちょっと、話聞いて」

「な、ん、の、は、な、し、を、だ!?」

「いやいやいや、そもそも、イタタ、俺らって、これ、ああ痛い、付き合ってるんだっけ!? いやいや待ってマジで痛い肉が千切れる」

「私はお前のことを今でも恋人だと認識しているが!?」

 ギリギリと締め上げられる中、ジーナが唐突にチョウキの事を横から両手で突き飛ばした。
 小柄なエルフ娘はたまらずよろけてバルジェンから数本離れる。

「とと・・・、何をする一体どういうつもりだ!?」

「は!? どういうつもりはこっちのセリフなんですけど!?」

「そうか、貴様私が見ていぬ間に色仕掛けでも使ったか」

「まだ使ってねーし!」

「使うつもりだという事だな!? 何という泥棒猫! もとえ泥棒魚だ!!」

「は!? あんたこそ何よコイツの何なわけ!?」

「恋人だ!!」

「は!? ねえちょっとそうなの!?」

 バルジェンを睨みながら問いかけてくる。
 うわあ、何このめんどくさい展開。と、嘆きながら首を横に振るバルジェン。

「いや、まだ、うん、ちがう?」

「ちーがーうーっつてんですけど〜!」

「貴様こそバルジェンの何だというのだ? まさかただの一目惚れでしたとか言うオチでもあるまいに」

 2人の口論が熱を帯びて来たところで、ジアーデが唐突にバルジェンの背後から両腕を彼の肩に回しておぶさって来た。
 ふくよかな双丘がバルジェンの背中にマシュマロのような感覚を・・・与えたのは一瞬だった。
 ジアーデは直ちに全力で体重を真下にかけてバルジェンを引き倒しにかかってくる。

「うお重い重い重い、っていたのかよジアーデさん!」

「他人行儀だにゃあ、呼び捨てでいいにゃ」

 言いながらどんどん加える力を上げて行く。まるでレスラーのごとく容赦のない力に冷や汗を浮かべながら耐えるバルジェン。

「ちょー、ちょー、ちょっとー、重い重い重いマジで何してん」

「女の子に体重の話をするなんてバルジェンは失礼な人なのにゃあ」

「体重関係ないじゃん、思いっきり力入れて来てるじゃんよ!」

「みゃっはー❤️」

 楽しそうに力を入れ続けるジアーデにバルジェンが根を上げる。

「ちょっと・・・! マジで、辛いんですけど何してくれてん!」

「んー、バルジェンの体がひんやり気持ちいいから火照った身体を冷やすついでにいじめてるのにゃ」

 ようやく力を緩めると、バルジェンの頰にすりすりと頬ずりを始める。
 本来なら、豊満な肉体で抱きつかれて頬ずりなど興奮冷めやらぬシチュエーションであろうが、圧倒的な怪力を見せつけられた後では早く食べたいと舌舐めずりされているようで若干の恐怖すら感じてしまう。
 そんな彼の様子に、ジアーデはペロっと小さく舌を出して微笑んで見せた。

「ゴメンにゃちょっといじめすぎたにゃ。お詫びに何か美味しいもの作ってあげるにゃ。ゴハンまだでしょ?」

「あー、うん。しかし・・・」

 言い合いを続けるエルフ娘とウェディ娘をチラ見するバルジェンを背後から抱きしめて、ジアーデは笑った。

「むしろ、お前がここにいた方が喧嘩は長引くにゃ。ジアーデもお腹すいたにゃ」

「うーんそれもそうか? じゃあ、帰る?」

「帰るにゃ❤️ おーんぶ❤️」

 無邪気にバルジェンに負ぶさって彼の腰に脚を絡みつかせてくるジアーデに、彼は仕方ないと言った様子で肉付きの良い太腿に手を回して諦めた様子で歩き始めた。

「おんぶって、鎧を脱いでからにしてくれませんかね。重いんだよ」

「失礼だにゃあ、胸当ては外してるにゃ」

「もうほんとうにっ、この娘は、この娘はっ・・・!」

「レッツゴー、だにゃん」

 ジアーデをおんぶして、彼が宿屋に向かって数分後。

「おいバルジェン! お前は一体、どっちの味方だ!?」

「そうよ男ならハッキリ答えなさいよ!?」

 と彼のいたはずの方を見ると、すでに姿は遠く、

「って、ジアーデをおんぶして貴様はどこへ行くのだーーーーー!!」

「ああっ、くそっ! 追いかけたいけど流石に時間が・・・ステージがっ!」

「ま、まてーっジアーデ! 貴様それはちょっとヒドイぞーーーーーっ!!」

 駆け出すエルフ娘の後ろ姿に、ジーナは拳を振り上げて叫んだ。

「お、覚えてなさいよ! ステージ終わったら覚えてなさいよ!」

「やかましい! 貴様はとっとと忘れてしまえ!!」

「うきーーーっ、覚えてなさいよーーーーーっ!!」 
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