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ラブライブ!サンシャイン!! Diva of Aqua

作者:ゆいろう
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輪舞



 浦の星女学院、その体育館。

 その中央にポツリと佇む、ひとりの少女。

 彼女――椎名夜絵のためのライブが今、幕を開けた。



 イントロが流れ出すと同時に、下りていた幕が少しずつ上がっていく。ステージに立つ九人の少女達――Aqoursが顔を覗かせ、歌声が響き渡る。

 曲は『青空Jumping Heart』。これから始まろうとしている。見たことのない、夢の軌道が。


 アップテンポな曲に合わせて、Aqoursは見事にステージで舞い踊る。用意されていた椅子に座っていた夜絵は、気がつけば立ち上がってステージのすぐ前まで来ていた。

 練習中に倒れてしまい、入院を余儀なくされた夜絵。大手術が後日に控える彼女は、満身創痍の体に鞭打って楽しそうにはしゃいでいる。

 曲のリズムに合わせて、手を大きく突き上げたり体を動かしたりして、目の前のライブを精一杯楽しんでいる。

 ステージで歌い踊るAqoursは、自分と違ってキラキラと輝いていた。夜絵はそんな彼女達に魅了され、その存在の虜になっていく。

 初めて観るAqoursのライブは、そんな衝撃と共に幕を開けたのだった。




 一曲目が終わった。夜絵は盛大な拍手をステージ上の彼女達に送る。


「すごいすごーい! みんなキラキラ輝いてる! これがスクールアイドルなんだね!」


 スクールアイドルのライブを初めて目の当たりにした夜絵。同年代の少女達が繰り出すパフォーマンスに、夜絵は感動した。


「夜絵、そんなにはしゃいで大丈夫なの」


 一曲目から全力ではしゃいでいた夜絵が、梨子は心配になっていた。


「大丈夫! せっかくみんながライブをしてくれてるんだから、楽しまなきゃ損でしょ!」

「……ふふっ、夜絵らしいわね」


 夜絵の答えを聞いて、梨子から笑みが零れた。何事も自分のやりたいように行動するのが椎名夜絵だ。余計な心配は無用であった。


「それじゃあ、次の曲も楽しんでね」

「もち!」


 梨子の言葉に夜絵は手でピースサインを作って答える。その顔は、後日に控える手術の不安など微塵も感じさせないほど、笑顔で溢れていた。


 ステージ上に再び緊張が走る。どうやら次の曲が始まるみたいだ。


 千歌と曜、梨子の三人が歌い出す。息ピッタリの完璧な歌い出し。それと同時に、音楽が優しく流れ出した。

『ダイスキだったらダイジョウブ!』

 Aqoursのファーストライブで披露された曲。その時のメンバーはまだ、千歌と曜、梨子の三人だけだった。彼女達の始まりの歌。



 曲が終わると、間をとることなくすぐに次の曲へと移行する。

『夢で夜空を照らしたい』

 そのときメンバーには花丸、ルビィ、善子の三人が新たに加わっていた。

 バラード調の曲に合わせて、九人のメンバーはしっとりと優しく、だけどどこか力強く歌う。


 その次は『未熟DREAMER』。このとき、Aqoursはようやく今ステージに立つ九人のメンバーになった。

 どんな未来が待っているかは、誰も知らない。だけど、みんなとなら乗り越えることができる。そんな、未来への希望を歌った曲。

 この瞬間、夜絵は胸が熱くなっていくのを感じた。後日に待ちうける手術も、乗り越えられそうな気がする。

 ――みんながいるから。

 歌が、音楽が、まるで力となって体に流れ込んできているよう。歌が元気と勇気となり、水のように身体中に行き渡っていく。



 曲が終わり、次の曲が始まる。

『想いよひとつになれ』

 明日、夜絵は手術のため東京の病院へと移ることが決まっている。Aqoursのみんなと離れることになってしまうが、想いはひとつであると。そんな気分にさせられる。

 どこか遠く離れた場所にいたとしても、同じ明日を迎えるだろう。そう信じている。曲にはそんなメッセージが込められている。



 曲が終わると、メンバー達が一斉に一歩前へと踏み出した。そのなかで、リーダーの千歌が夜絵に語りかける。


「夜絵ちゃん! 次が、このライブの最後の曲です!」

「えぇー!? もう最後なのー!」

「文句言わないの、夜絵」


 最後の曲ということに不満を表した夜絵であったが、すぐさま梨子に咎められる。ステージが緊張感に包まれているのを見て、夜絵は口を噤む。



 大人しくなった夜絵を見て、千歌は切り出した。

「夜絵ちゃんの手術が成功するように」





 曜が。

「私達は願ってる」





 善子が。

「私達は光となり」





 花丸が。

「夜絵さんの未来を照らすずら」





 ルビィが。

「夜絵さん、頑張ルビィ!」





 ダイヤが。

「この曲は、私達から夜絵さんに贈る」





 鞠莉が。

「未来への切符」





 果南が。

「この場所で待ってるから」





 梨子が。

「戻ってきて、夜絵……!」








 Aqoursが。

『――MIRAI TICKET!』





 静かなイントロが流れ出し、最後の曲が始まった。


 徐々に壮大になっていく前奏は、まるでこれから広がっていく未来のよう。ステージ上の九人は、胸の前で祈るように手を合わせていた。その光景を夜絵は、自身の未来を願ってくれているのだと感じ、目頭が熱くなる。

 前奏が少しずつフェードアウトしていく。そして――Aqoursは一斉に歌い出した。

 未来を照らしたい。そのための光になろう。そんな歌詞に、夜絵の瞳から涙が零れ落ちた。


 思えば今日のライブの曲は、どれも未来や夢、希望を歌った曲ばかりだった。それは偶然なのか、それとも夜絵のために用意されたのか。

 夜絵は都合のいいように後者だと受け取る。彼女達の粋な計らい。自身のワガママで実現した今日のライブは、夜絵にとって最高の思い出となる。



 全ての曲から力をもらった。


 元気をもらった。


 勇気をもらった。


 希望をもらった。


 未来をもらった。


 夢をもらった。



 今日のライブで、たくさんのものをAqoursからもらった。身体中にそれらが行き渡り、夜絵は生きていたいと強く願う。

 これだけたくさんのものを彼女達からもらっておいて、そう易々と死ねるわけがない。

 そこには以前あった投げやりな感情がすっかりと消え失せていた。一度は死を受け入れ、残りの人生を謳歌しようと思った。だけど今は、もっと長く生きていたいと願っている。

 もっと彼女達と一緒に過ごしたい。彼女達のいく末をこの目で見届けたい。そんな想いが強くなるばかりだった。


 夜絵の瞳に、今まで以上の光が宿った。






 曲が終わった。夜絵は精いっぱいの拍手を、ステージに立つAqoursに送る。自分のために今日ライブをしてくれた彼女達には、感謝してもしきれない。


「アンコール! アンコール!」


 夜絵が思いっきりそう叫ぶ。その目からは涙が流れ出していた。だけど、夜絵は満面の笑顔を浮かべている。

 夜絵からのアンコールを受け、Aqoursの面々は顔を見合わせる。



 そして――。




「それじゃあ最後に一曲――」





 ステージに立つ九人が、夜絵を見つめた。その視線に夜絵は深く頷く。彼女達の意図は、言葉にせずとも夜絵に伝わっていた。






「Aqours――」






 千歌の合図。


 十人の声が重なった。







『――サンシャイン!!』







 アンコールの一曲が始まった。









***





 アンコールの曲が終わり、ライブは幕を閉じた。


 予定より時間が押してしまったライブ。夜絵はその余韻に浸る間も無く体育館を出ると、駐車場で待っていた両親の車に乗り込み、浦の星女学院を去った。


 向かう先は東京の大病院。


 翌日そこで、夜絵は手術を受ける。





 浦の星女学院で再会を果たした梨子。


 その仲間であるAqours。





 彼女達が待っている未来を目指して。





  
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