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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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奇策

試合が終わった音ノ木坂学院野球部は全員で真姫の父親が経営する病院へとやって来ていた。

「「「「「・・・」」」」」

誰も一言もしゃべらない重苦しい雰囲気。とても直前の試合で勝利し女子高校野球児が憧れる秋葉ドームに駒を進めたチームとは思えない。

「ありがとうございました」

しばらくすると長い診察を終えて剛と海未が診察室から出てくる。

「どうだったの?海未ちゃん!!」
「穂乃果!!病院よ、静かにしなさい」

海未に掴みかからんばかりの穂乃果を引き剥がす絵里。待合室にいる全員の視線が突き刺さっているので、会計を終えて病院から出る。

「海未の肩は打撲だ。骨には異常はない」

それを聞いて安堵の表情を浮かべる面々。しかし、剛の表情は暗いままだった。

「ただ、かなり痛みもあるようだし海未をマウンドに上げることはできない。正直守備や打撃もどの程度できるかわからん」

それを確かめたいが明日も試合がある練習もできない。明日の試合の中で見て決めていくと続ける。彼女がチームに大きな存在となっていただけに、ここでの離脱は与えるものが大きい。戦力的にも、精神的にも。

「で、それを踏まえて明日のスタメンを発表したいと思う。今日とは大きく変わるからみんな心の準備をしておいてくれ」

カバンから手帳を取り出し翌日、秋葉ドームで開催される全国女子高校野球選手権大会のスターティングメンバーを発表する。その驚愕のオーダーにメンバーはどよめき、大きく目を見開いた。

















翌日の午前10時。穂乃果たちは試合が開かれる秋葉ドームのスタンドにやって来ていた。

「ここが秋葉ドーム・・・」
「準決勝ともなると注目度が高いのね」

あまりの観客の多さに圧倒される9人。バックネット裏にいる観客もスタンドを埋め尽くす人々も、両チームのスタンドで声援を送る応援団。すべてが今までの規模を凌駕しており、飲み込まれそうになってしまう。

「みんな何呑気なこと言ってるんですか!!」
「そうよ!!この観客は私たちのことも見に来てくれてるのよ!!」

呆然としていたところで花陽とにこが大声を上げる。彼女たちはスマホを取り出すと、何かのページを開き全員に見せる。

「『本日より秋葉ドームで開催される全国女子高校野球選手権大会準決勝。今大会は注目すべきチームが勝ち上がってきた』」
「『第一試合は春の選抜大会覇者UTX学園と春で同校に涙を飲んだ沖縄商学の対戦となった』」
「『UTX学園は綺羅、優木の二枚看板がここまで無失点。打線は4番の統堂が3本のホームランを放っておりここまで全試合でコールド勝ちを納めている』」
「『沖縄商学はエースで4番の鈴木が安定した成績を残しており彼女の出来が試合を左右しそうだ』」

準決勝の展望が書かれているニュースページ。それを読んでいくと、準決勝第二試合の展望も書かれていた。

「『準決勝第二試合は今大会初出場の音ノ木坂学院と3年ぶりの全国制覇を狙う秀光学園の対戦となった』」
「『秀光学園は3投手の継投で少ない点差で勝ち進んできており、試合運びに提供がある。打線はホームランはないもののノーヒットで稼いだ得点が三度と試合巧者ぶりを発揮している』」

経験値の高さで勝ち進んできた対戦相手。そのあとに書かれている文に、彼女たちは目を凝らす。

「『対する音ノ木坂学院は初出場とは思えない強さを見せつけている。エースの小泉は2試合を完投し3回戦でも6回をわずか1失点』」
「『打線も高坂、星空は出塁率が高く、長打力のある西木野、絢瀬、東條がそれを返す。5番に入る矢澤は小技に勝負強い打撃と得点圏打率も高く、園田、南、小泉の下位打線も安定している』」
「『創部4ヶ月での4強進出、以前は音楽学校だったこと、少子化による廃校を阻止するために立ち上がった少女たちと話題は尽きない。今大会のダークホースとしてもっとも高い注目を浴びている』だって!!」

これまでの大会までよりも集客率が高くスタンドを埋めているのは彼女たちの存在が大きい。それを聞いていた希が、さらにある言葉を続ける。

「ある高校野球掲示板にはね、うちらのことこう呼んでたんよ。












9人の音の女神、『μ's』って」
「μ's?石鹸?」
「違います」

以前音楽学校だったこと、『音』ノ木坂学院を救うために創設したこと、ここまで試合に出ている人数が9人であること、そのことから神話に出てくる女神の名を取り、そう呼ばれているのだ。

「いい名前ね」
「それだけ期待されちゃってるんだ!!私たち」

A-RISEと同じように二つ名をつけられたことで俄然やる気が湧いてきた選手たち。彼女たちが盛り上がっていると、グラウンドから快音が響き渡り、観客たちは興奮し立ち上がった。

「A-RISEを擁するUTX・・・あいつらを倒せるのは、もはやお前たちしかいないな」

初回ノーアウトですでに4対0となっている準決勝第一試合。グラウンドを見つめていた選手たちの元に、剛がゆっくりとした足取りで現れる。

「まずは今日の試合だ。全員、普段とは違う役割になるが、頼むぞ」
「「「「「はい!!」」」」」

緊張感よりもワクワク感の強い少女たちに、難しい言葉をかける必要はない。何も言わずとも自然と少女たちはモチベーションが上がっていった。しかし、その中で1人だけ、白い顔でイマイチテンションが上がっていない者もいた。

















「14対0・・・終盤打ち疲れて残塁が多くなってしまったな」

スコアブックを見ながらデータ班の部員と反省点を上げているのUTX学園の主将、統堂英玲奈。

「ツバサァ、私のアイシング使ってない?」
「これあんじゅのだったの?道理で緩いと思ったわ」
「ツバサが小さすぎるんでしょ!?」

準決勝でヒット2本で抑える完璧なリレーを見せたツバサとあんじゅは肩肘のケアのためアイシングの準備をしていた。だが、その2人のやり取りを背に試合を見ようとしていた西村はプルプル震えていた。

「お前らアンダーシャツでウロウロすんな!!ユニフォームかウィンドブレーカーを着ろ!!」

高校野球では観客が球場にいる間はユニフォームを正装として着ていなければならないと規約がある。練習用ユニフォームももちろんダメだが、アンダーシャツでうろつくなんてもってのほかだ。

「英玲奈もデータは後でやれ!!今はアイシングをしてこい!!」
「はい、すみません」

アイシングはスポーツ選手に取って重要なダウンの1つだ。西村に怒鳴られた3人は渋々着替えができるロッカールームへと向かった。

「あいつホントうざいわぁ」
「ツバサ、監督はお前のことを気にして口うるさく言ってるんだぞ」
「そうね。もう少し怒らないといい人なんだけどなぁ」

呑気に会話をしながら控え室へとやって来た3人。彼女たちは準備されていたアイシングを付けると、ユニフォームを上から着てスタンドへと向かう。

『ただいまより全員女子高校野球選手権大会準決勝、音ノ木坂学院対秀光学園の試合に先立ちまして、両校のスターティングメンバー、並びにアンパイアを紹介いたします』

試合前に行われるスタメン発表。そのアナウンスが聞こえると、英玲奈は残念そうな表情を見せる。

「音ノ木坂のノックを見たかったんだが、間に合わなそうだな」

メンバー発表はシートノックを先攻チームが行っている際に行われる。シートノックは後攻から先攻へと移っていくため、もう終盤に差し掛かっていることがすぐにわかった。

『先攻の音ノ木坂学院』

先攻は音ノ木坂学院のため今シートノックをしているのは音ノ木坂学院。走れば少しは見れるかもしれないが、人が多いためケガのリスクを考えるとそんな気もしなくなる。

「1番はやっぱり高坂さんかな。ここまで来たら小泉さんで行けるところまで行くしかないんだろうし、変える意味はないわよね」
「園田さんがどうなっているか気になるけど、もう投げさせるのは無理よね」

ツバサとあんじゅは英玲奈ほどモチベーションは高くない。はっきり言って、エースが疲労して出てくるチームなど相手にならないのは目に見えていることなのだから。
だが、次に呼ばれた選手名を聞き、彼女たちの表情は一変した。

『1番、ライト南さん』
「「「え!?」」」

ここまで1番から3番まで変わることはなかった。勢いを与える穂乃果、俊足好打の凛、チーム1の長距離ヒッター真姫の3人の安定した攻撃力を変える意味などないからだ。

「まさか・・・」

そこまできてある考え方が脳裏を過ったツバサは人の間を掻き分けスタンドへと向かう。あんじゅと英玲奈もそれに続きスタンドへと駆け上がると、電光掲示板に映し出された音ノ木坂学院のスタメンを見て立ち尽くした。

「驚いたな。まさかここまで俺たちを本気で倒しに来る奴等が現れるとは」

球場中が静まり返っている中不敵な笑みを浮かべる西村。しばらくして両チームのオーダーが発表を終えると、ツバサは嬉しそうに口角を上げた。

「楽しい決勝ができるかもしれないわね」

1番 ライト ことり
2番 センター 花陽
3番 キャッチャー 穂乃果
4番 ショート 絵里
5番 レフト 真姫
6番 サード にこ
7番 セカンド 希
8番 ピッチャー 凛
9番 ファースト 海未

大幅の打順変更。今大会どころかピッチャー初経験の先発。突如繰り出された奇策に、敵も味方も動揺を隠しきれなかった。




 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
凛ちゃん準決勝でピッチャー計画はもっと前からフラグ建てておく予定だったんだけど全然できんかったorz
この失敗は次に生かそう 
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