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北欧の鍛治術師 〜竜人の血〜

作者:観葉植物
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第二章 戦王の使者
  戦王の使者Ⅱ

洋上の墓場(オシアナス・グレイヴ)のメインデッキ。今ここに集まっている者を見れば一部の人間は悲鳴をあげて逃げ出すかもしれない。世界最強の吸血鬼『第四真祖』、第一真相直系の孫、竜と人の混血種(ハイブリッド)。ここにいる3人が本気を出せば地球などすぐに征服できそうな戦力だ。
「やあ、第四真祖。今日は僕のパーティーに参加してくれてありがとネ」
「えーっと・・・あんたは?」
「こいつは戦王領域のアルデアル公、ディミトリエ・ヴァトラー。第一真相直系の第三世代吸血鬼だ。あと付け加えるなら無類の戦闘狂(バトルジャンキー)でもある変態だ」
「うお⁉︎なんでお前がいるんだよ?」
古城のこの質問にアインはこめかみを抑え、声を荒げて言った。
「なんでかだって?いいだろう教えてやるとも!そこにいる馬鹿に無賃金労働を強いられる様に仕向けられたんだよ!ただでさえ女ばかりの空間に放り込まれて疲れてんのにその上働けだと⁉︎そして交通費は出ない!最悪の労働環境だよ!」
「ああ・・・それはなんというか・・・御愁傷様としか言いようがないな」
まるで社畜かのような言い分を天に向けて叫ぶアインの表情は疲れと自嘲に満ちていた。
「そうさ!俺は社畜なんだ!ほらどうした?もっと働かせてみろ!俺は残業とパワハラには負けんぞ!」
「ほらほら落ち着いて落ち着いて。君らしくないヨ?」
ニヤニヤと面白いオモチャを見つけたような顔をしながらヴァトラーはアインに近づく。
「何者だ⁉︎貴様まさか・・・!貴様か、このブラック企業のトップは!この労働者の敵め!殺してくれる!」
そう言って錯乱気味に両刃の片手剣やらレイピアやらを拡張領域から実体化してヴァトラーに斬りかかるアイン。その速さは封印状態とはいえ尋常なものではなく獣人種の身体能力の高さを十分に示していた。それをアトラクション感覚で軽々と避けるヴァトラーもヴァトラーだが。
「おおっとっと。どうどう、僕は君の上司でも敵でもないヨ?」
「黙れ社会の諸悪の根源め!切り刻んでくれるわああぁぁぁ‼︎」
そしてアインの刃がヴァトラーの額を真っ二つに割ろうとした時。突如ゴン!と鈍い音が甲板に響き、アインがヴァトラーの目の前で不自然な形で甲板に叩きつけられた。
「アインさん・・・騒いだらウェイターさんが何事かと思って様子を見にきてしまいますよ」
そう言ってため息をついたのは雪菜。チャイナドレスの少女ーーー煌坂紗矢華の拘束から抜け出して展開していない状態の雪霞狼でアインの後頭部を殴りつけたのだった。
「ぐおお・・・痛え・・・姫柊貴様本気で殴ったな・・・」
「そうでもしないとアインさん程頑丈な人は止められないと思いますけど」
後頭部を抱えながら持っていた剣を杖にゆっくりと起き上がるアインと本気で笑いをこらえているヴァトラー。雪菜は慣れた手つきでいつものギターケースに雪霞狼を収納し、再度ため息をついた。
「そのー、本当に大丈夫か?」
「一応・・・目は覚めた。おお痛え・・・」
本気で申し訳なさそうな目をして尋ねてきた古城に不安な一言を返しながらアインは自分でばら撒いた刃物を拡張領域に仕舞った。
「雪菜、その男が前言ってたキーストーンゲートを破壊した奴?」
「いえ、この人はアルディギアの鍛治術師(ブラックスミス)のアイン・フィリーリアスさんです。一部性格的に問題がありますが基本的に悪い人ではない・・・はずです」
「おいちょっと待てなんだその評価は」
「ちょっと!私の雪菜に近づかないでくれる?このケダモノ!」
「ケダッ…⁉︎ほう、やる気か、長身?いいだろう、俺は寛容だから本気で相手してやるぞ」
こめかみに筋を浮かべながら拡張領域から両手剣を出して突撃の構えを取る。
「そっちが本気で来るなら私もそれなりの力で応じるけど?」
そう言って紗矢華が構えたのは紗矢華が獅子王機関から貸し与えられた六式降魔弓・改(デア・フライシュッツ)。2人の間の空気がピリピリと張り詰め、今にも暴発しそうになった時、パンパンと手を叩いてヴァトラーが声をあげた。
「はいはい、2人ともそこまで。二人が戦うのは面白そうだけど一応ここ僕の船だから。紗矢華、君に至っては僕の護衛って事でここにいるんだろう?アインもアインで本気で暴れたらこんな鉄と木の塊なんて一種で塵にする事ぐらい簡単だろうし」
「う・・・すみませんでした」
「ちっ・・・しゃーねぇ」
二人は武器を収め、戦闘態勢を解いた。そしてこの後は特に大きな騒動もなくパーティーは無事終了を迎えた。


翌日 IS学園

「(あー眠い。眠いの一言しか出ない。ヴァトラーの野郎ただでさえギチギチなスケジュールをさらに詰めてくれやがって・・・。しょうがない、今日の授業は寝るか)」
朝、HR(ホームルーム)中からすでに眠いアインは担任である千冬の連絡を一応聞きながらその日一日の過ごし方を考えていた。もう既に今日何度目か数えるのも忘れたほどの回数の欠伸をした、その時だった。突如前の席の生徒が立ち上がってこちらを向いた。突き出す両手の先には、拳銃。疲れもあり完全に気を抜いていたアインは反応が遅れ、生徒が引き金を引くのを阻止できなかった。顔の目の前で発射された弾を避ける術は流石の竜人と言えどもアインにはなく、その凶弾を顔面にモロに受けることになった。カラン、と薬莢が床に落ちる音がして、クラス中が固まった。唯一、撃った生徒だけは顔を青ざめさせながら肩で息をしている。アインの体は背もたれに寄りかかりながら仰け反るようにして微動だにせず、腕も宙に揺れているため誰もが死んだと思った時だった。アインの体が突然、ばねが跳ねるような速度で起き上がり、生徒の持っていた拳銃をいつのまにか両手に持っていた2本の片手剣で上に跳ね飛ばした。それと同時に硬直していたその生徒の首を2本の剣でハサミを形作るようにして挟み込んだ。そして誰もがアインの顔を見て驚いた。弾丸はアインの顔に達しておらず、アインが掛けていた眼鏡の右のレンズを貫通せずにそこで止まっていたのだ。
「いやー、防弾にしといてよかったよ。いつかこんなことあるとは思ってたけどまさか2日目から役に立つとはねぇ」
「フィリーリアス、その剣を下ろせ」
「お断りします、織斑教論。少なくとも自分の身の安全が確保できるまでは下ろしませんよ。まだ暗器の類を隠し持ってるかもしれませんしね」
「・・・分かった。そいつを逃すなよ、拘束してひとまず理事長室だ」
千冬は懐から手錠を取り出して生徒の背中側で腕を拘束し、理事長室にアインと生徒を伴って向かった。しばらくしたあとアインは理事長室で事情聴取から得られた情報を元に考えられた今回の事件の顛末を聞かされた。今回の件は女権の意向によるものであの生徒はその女権に所属しており、学園は今回の事件でその女権を起訴することが後の職員会議で決定した。朝一番の出来事で午前中は1年1組の他の生徒は授業に集中出来ず、無為な時間を過ごして昼休みを迎えた。アインは昼休みは可能な限り睡眠時間にあてるつもりで食堂に軽く食べられるようなものが何かないか探しにきていた。そして、メガネを失った弊害は"メニューが見えない"という意外なところまで出ていた。
「おばちゃん、あれなんて書いてあるんだ?目が悪くて見えねぇんだけどよ」
「おや?アンタ、メガネはどうしたんだい?」
「あー・・・そのー・・・色々あって壊れちまった」
「えっとねぇ、左からサンドイッチ、ラーメン、(中略)和洋中それぞれの定食だね」
「じゃあサンドイッチで。お代はいくらだ?」
「320円だよ」
「あいよ、320円ちょうどだね。ちょっと待ってな」
そう言っておばちゃんは厨房に引っ込み、アインが欠伸をしながらカウンターで待っていると不意に声を掛けられた。眠そうな目でアインがそちらを見ると、そこに立っていたのはセシリア・オルコット。
「フィリーリアスさん。一緒にお茶でもいかがでしょう?実は(わたくし)もお昼はまだなんですの」
「それは是非とも。おばちゃん、サンドイッチもう一つ追加でよろしく!お代はここに置いとくからよー!」
セシリアが席を取ってきますわね、とその場を離れ、厨房からは、あいよー!と元気な声が返ってきた。



「じゃ、手短に済ませようか。用件は?」
サンドイッチ片手にセシリアと向かい合って座ったアインは言葉を飾らずに話しかけてきた理由を問うた。
「では。端的に言わせていただきますと、私に剣の扱いを指南して頂きたいのです」
「ほう、なんでまたそんな酔狂なことを?オルコットさんの機体は確か狙撃銃が積まれていたろう?」
「私、銃の扱いならばそれなりに自信はあるのですが剣、というか近接武器に関してはお恥ずかしながら全くと言っていいほど扱えませんの。指南役を探してはいたのですが見つからず、途方に暮れていたところに今朝の騒動。貴方の剣の腕を見込んでのことですわ」
「・・・なんだ、そういうことか。いいだろう。立派に、とまではいかんが素人レベルを脱却させるくらいの指南はできるつもりだ。だが俺の言うことには従ってもらうぞ。それが絶対条件だ」
「分かりました。どうぞよろしくお願いいたしますわ」
「ああ、サンドイッチ食えよ。飯まだなんだろ?ついでにオルコットさんの機体に積まれてる近接武器についても聞いておきたいしさ」
「ではありがたく頂戴いたしますわ。あと私のことはセシリア、と呼んでいただいて構いませんわ」
「なら俺もアインで構わん。じゃ、早速だがセシリア。まず扱った事のある近接武器の種類を・・・」
その後昼休みギリギリまで話し続けた2人は予鈴が鳴ってから食堂を出てアインがセシリアをお姫様抱っこして所構わず全力疾走し、なんとか授業開始直前に教室に戻ることができた。



放課後 剣道場

「失礼、剣道部の部長さんはどちらに?」
「私だよ。それで何の用かな?体験入部とかだったら嬉しいんだけど・・・」
「いや、今日は剣道場の隅っこを貸してもらえないかと」
「だよねー。やっぱりそんな都合良くはいかないか。うん、いいよ。あっち側は今は誰も使ってないから」
「感謝しますわ。部長さん」
「 
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