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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第134話「京での戦い・前」

 
前書き
実は玉藻前のような強力な妖が一遍に出現したのは優輝達のせいだったり…。
どの道、妖を倒すのに霊力を使う→妖を引き寄せるという事になるのであんまり意味はないですけどね。と言うか原因が神降しだって優輝達も気づいてますし。
 

 






       =司side=



「光よ!」

「はっ…!」

 京都の街中を、妖を倒しながら駆け抜ける。
 優輝君達と別れた後、私達はアースラに援軍を要請。
 とりあえず近い場所にいる橋姫の場所へと向かっていた。

「橋姫と酒呑童子…どう考えても後者の方が厄介だよね…」

「でも、こっちには空を飛べるアドバンテージがある。…上手く立ち回ればなのは達でも問題なく倒せるはず」

「……それもそうだね」

 事実、学校で防衛していた時はなのは達は一方的に攻撃できていた。
 京都にいる妖より弱かったのもあるけど、やっぱり空が飛べるのは大きいのだろう。
 椿ちゃん達曰く、妖は飛べる奴ばかりじゃないらしいし。

「……!あそこ…!」

「見つけた…!」

 京都の宇治橋と呼ばれる橋。そこに橋姫と思われる妖がいた。
 既に嫉妬の力を振るっており、警察が応戦しているけど、まるで歯が立っていない。

「っ……!これじゃあ、撃てない…!」

「じゃあ、私が行くわ…!」

「お願い!」

 ジュエルシードの魔力で攻撃しようとして、躊躇する。
 …警察の人達がいるから、巻き込んでしまう可能性があるのだ。

「ガードスキル、“Delay(ディレイ)”」

 奏ちゃんが移動魔法を用いて一気に橋姫に肉迫する。
 霊力を纏わせた刃の一撃を与えようとするけど…

「っ……!」

「(防がれた…!しかもあれは、嫉妬の感情が形を為したもの…?)」

 黒い水のようなものによって、奏ちゃんの一撃は凌がれてしまった。
 その黒い水は、祈りの力を扱う私だからこそ、嫉妬の感情が形を取ったものだと理解できた。

「くっ……!」

「っ、危ない!」

 繰り出される嫉妬混じりの霊力の弾。
 奏ちゃんはしっかりと躱しているけど、警察の人達はそうはいかない。
 だから、私が障壁を張ってしっかりと守る。

「子供……!?」

「下手に動かないでください!その方が危ないです!」

 戸惑う警察の人達にそう言って、改めて祈りを込めた障壁を張る。
 …よく見ればわかるけど、既に何人も倒れている。橋姫や妖にやられたのだろう。

「っ……!…守って!」

   ―――“Tutélaire(チュテレール)

 これ以上犠牲者を出す訳にはいかないと、警察の人達を覆うように障壁を展開する。
 これで流れ弾程度なら何とかなるだろう。

「祓え!」

     パァンッ!!

「っ!シッ…!」

 祈りを込めた魔力の波動を橋姫の力にぶつけ、相殺する。
 その際にできた隙を利用して、すかさず奏ちゃんが斬りつける。

「貫け…“神槍”!!」

「“戦技・双竜斬”!」

 斬りつけた事で橋姫の注意が奏ちゃんに向かう。
 そこで私は背後に回るように移動してから霊術を放つ。
 背後の私に橋姫は気づいたけど、奏ちゃんがすかさず切り込む。

「『…手応えに違和感…。やっぱり妖は普通の生物とかとは違うわ…』」

「『違和感…?それって一体…』」

 先ほどから切り込んでいる奏ちゃんから、念話でそう言われる。

「『なんというか……水を切ったような…少なくとも、まともに攻撃を喰らっているようには思えないわ』」

「『そっか…なら…』」

 やっぱり一筋縄ではいかない相手と言う事だろう。
 少し動きを変え、身体強化を用いて突貫する。
 祈りを込めた刺突を喰らわせるけど…

「(……なるほど…)」

 確かに、違和感のある手応えだった。
 豆腐のような、水のようなものを貫く感覚。ダメージが入っていると思えない。
 けど、祈りの力は効果があったのか、突いた所から瘴気が出ていた。
 ……それだけ分かれば正体は大体わかる。

「『奏ちゃん、浄化の類…聖属性の力を使って攻撃して。この妖は嫉妬とか負の感情を力にしてる。だから、それを祓う力が有効みたい』」

「『…!わかったわ』」

 物理的な攻撃も効果がない訳じゃない。
 だけど、明らかにこっちの方が手っ取り早かった。

「ジュエルシード、皆を守ってて」

 ジュエルシードに警察の人達を任せ、私もシュラインを構えて攻撃する。
 一撃一撃に祈りを込め、確実に力を削ぐ…!

「ッ……ァアアアア……!!」

「くっ…!!」

 怨嗟のような声を上げ、溢れる霊力で私達を退かせる。
 やはり強力な妖なだけあって、飛べるというアドバンテージがある上で簡単には倒せない。嫉妬の感情が泥水や濁流のようになって私達へ襲い掛かる。
 呪術なども混ぜてきており、優輝君でもない限り接近し続けるのは困難だ。
 …ただでさえ、霊力の障壁などで致命打を与えれてないのに。

「っ…!まずい…!」

「……!」

 さらには、川が氾濫するように私達へ襲い掛かってきた。
 霊力が感じられる事から、橋姫がやったのだろう。
 余っていたジュエルシードを用いて、何とか水を弾く。

「(悠長にやっていたら呪いとかできつくなりそうだね。ただでさえまだまだ別の妖が控えているというのに。……なら…)」

「………」

 長期戦にしていては警察の人達の不安が増す。
 私は奏ちゃんに目で合図を起こし、一つの行動を起こした。
 ……それは、所謂“一点突破”。優輝君の十八番だ。

「シッ!はぁっ!」

「ふっ……!」

 飛んでくる呪術をシュラインで切り裂き、橋姫を守る水のような嫉妬の渦を祈りの力で吹き飛ばす。さらにすかさず奏ちゃんが切り込み、守りに“穴”を開ける。
 無理すればこの状態でも届くけど、懸念があるためさらに隙を作る。

「させないよ!」

 辺りに散らばる嫉妬の水。
 それらが浮き上がり、ここら一帯を負の感情で飲みこもうとしていた。
 だけど、そんなのは私がさせない。
 すかさずシュラインの柄で地面を叩き、祈りの力で嫉妬の水を相殺する。
 もちろん、多くの魔力を消費するけど、そこはジュエルシードで代用した。

「これで…っ!」

「終わり…!」

 奏ちゃんが橋姫を覆っている嫉妬の水を切り裂く。
 ついに無防備になった橋姫に私がシュラインを突き刺し、奏ちゃんが切り裂いた。
 派手に魔法を使っていない分、その攻撃に込めた聖属性の力は強い。
 橋姫にも効果は抜群だったらしく、その場に膝を付いた。

「“神撃”!!」

 トドメに聖属性の霊術を打ち込む。
 聖属性は天巫女の能力と相性がいいため、威力も普通と桁違いだ。
 …これで、ようやく橋姫を倒し切れた。

「っ、そうだ…!幽世の門は……!」

「あそこよ…!」

 幽世の門はまさかの橋のど真ん中にあった。
 どうやら橋姫がずっとそこに陣取っていたみたいだ。
 そこから湧き出る瘴気も力にしてたのなら…あそこまで強いのにも納得かな。

「……よし、これで完了…と」

「後は…」

 これで橋姫は倒せた。後は…警察の人達への対応だ。
 …生憎、魔法とか霊術とかを説明するような話術スキルは持ち合わせていない。
 持ち合わせていた所で、絶対納得してくれないだろうけど。

「『…どうするの?』」

「『どうするも何も……任意同行とか説明している暇はないし、かと言って怪しまれてるから迂闊な行動は取れないし……』」

 何も分かっていない人達への説明は難しい。
 学校の皆は魔法とかを知らなくても、私達と言う人柄は知っていたから、あの説明で割と何とかなったのだ。

「『……こ、こうなったら…』」

「『…何をするつもり?』」

 じりじりと、警戒しながらも近づいてくる警察の人達に対し、私がした行動。
 ……それは…。

「一般市民の保護をお願いします!『逃げるよ奏ちゃん!』」

「『えっ……』」

 説明も何もかもすっ飛ばして、一言残して逃げるという事だ。
 正直説明してられない!変に余計な事喋っちゃいそうだもん!

「『クロノ君に状況を聞いて、危ない方に加勢に行くよ!』」

「『……分かったわ』」

 手を引っ張ってその場から奏ちゃんも連れだしておく。
 あの判断にちょっと納得がいっていないようだけど、そこは我慢してほしい。









       =なのはside=





「あれが……酒呑童子…」

 クロノ君に転移してもらって、私達は酒呑童子という妖の討伐に出ていた。
 正直、何人かは司さんや優輝さんの方に加勢しに行った方がいいと思うけど…。
 …そう思うのは、まだあの人たちの実力を低く見ているからかな?
 私達と違って霊術が扱えるのも、少人数でいい理由かもしれない。

「…ところで、酒呑童子って何?」

「っ……フェイトちゃん、今そこでそれを聞くん…?」

「だって、何も知らないし…」

 フェイトちゃんの言葉にはやてちゃんが空中でずっこける。
 …口には出してないけど、私も知らないんだよね…

「簡単に言えば、昔大江山っちゅー山に住んでた鬼のボスや。当然、ボスって言う程やから、その強さもとんでもないやろなぁ……」

「良く知ってるねはやてちゃん…」

「色んな本を読んでたからなぁ…」

 鬼のボス…それだけでなんとなく危険さがわかる。
 鬼と言えば妖怪の中でも相当有名だからね。私もそれぐらいは分かるよ。

「さて、結界で囲ったのはいいけどよ、どう倒すんだ?」

「どうも何も…相手の出方次第やなぁ…」

 海鳴市に残っていた皆も既に集まっている。
 唯一、帝君だけここにはいないけど……

「……なぁ、あいつだけ別行動で本当にいいのか?」

「私もクロノ君も指摘したんやけどなぁ…どうせ連携が上手くできないからの一点張りや。クロノ君もそれで納得してしまうし…」

 帝君はここ最近調子に乗ったような行動はしなくなった。
 アリシアちゃん達曰く、誰かに一目惚れしたかららしいけど…
 優輝さんから特訓も受けているからか、状況をちゃんと見れるようになってるみたい。

「今はその事よりも、あれをどうにかしないと……」

 帝君は現在別行動で、他の妖を倒して回っているらしい。
 でも、私達はそれを気にする暇はない。

「っ、はやて!後ろだ!」

「えっ……」

 ……戦いは、もう始まっていたのだから。

「はやてちゃ―――」

 酒呑童子は、私達魔導師と違って空を飛ぶ事はできない。
 でも、“跳ぶ”事はできる。
 私達より巨体なその体で、攻撃が届かないように飛んでいた私達の所まで跳んできたというのだ。……その事に気づくのが遅れ、はやてちゃんが不意の一撃を受ける。
 …そう思っていた。

「てぉぁああああああ!!」

 はやてちゃんを庇うようにザフィーラが前に出る。
 振るわれた腕を、障壁と拘束魔法(鋼の軛)を使って受け止める。
 それでも破られそうになるけど…まるで受け流すように上に逸らした。

「ざ、ザフィーラ……」

「ご無事ですか?」

「あ、ありがとう」

「いえ」

 その一撃は、私から見てもとんでもない強さなのが分かった。
 受け流したとはいえ、ザフィーラの手に傷があったから。

「あ、あの体でここまで跳ぶのかよ…!?」

「驚く暇はない!また来るぞ!」

 ヴィータちゃんが驚き、シグナムさんが叫ぶ。
 その瞬間、また酒呑童子がこっちまで飛んできた。

「散開!」

「っ……!」

 今度は皆避ける。
 空では私達の方が有利なのだから、簡単に負けたりはしない…!

「シュート!」

「ファイア!」

 私とフェイトちゃんで、反撃に出る。
 基本的な魔力弾による攻撃だけど、飛べない酒呑童子なら確実に当たる…!

「嘘っ!?」

「効いてない…!」

 だけど、その魔力弾はまるで埃を掃うように腕に掻き消された。
 様子見とは言え、まるで効いていなかった。

「ちぃっ…!」

「でりゃぁあああ!」

「はぁっ!」

 さらに、着地する所を神夜君、ヴィータちゃん、シグナムさんが狙う。

     ギィイイン!

「なっ……!?」

「軽い」

 でも、それさえもあっさりと防がれた。
 霊力を纏っているのか、普通に堅いのか、刃が通らなかった。
 そしてそのまま、三人は吹き飛ばされてしまう。

 ……あれ?ちょっと待って…。

「…喋った!?」

「う、うん。今確かに“軽い”って…」

 妖って喋るの!?…あ、でも私達、そういう事に詳しくないし、あり得るのかな?
 ……だとしても、喋るのは驚くなぁ…

「久方ぶりの現世かと思えば、来るのは小蠅のような童どもか!足りん、全く以って足りんわ!」

「っ……!!」

 声を発する。ただそれだけで、私達の体が竦んだ。
 雰囲気だけでわかる。……あの妖は文字通り化け物だと。

「はぁあああっ!!」

「っ、援護や!」

 神夜君がその威圧に臆せず斬りかかる。
 今この場にいる中で最も強い神夜君なら、少しは通じるはず。
 さらに、はやてちゃんの声を合図に、私達も援護射撃を放つ。

「ぬぅ…!」

「ぉおおっ!!」

 砲撃魔法が命中し、頭上から神夜君がデバイスを振り下ろす。
 動く隙を与えないような攻撃に、酒呑童子も防戦一方だった。

「甘いわ!」

「くっ…!」

 ……そういう風に見えたのは、その僅かな時間だけだった。
 酒呑童子はあっさりと神夜君の攻撃を弾き、地面に手を付いて蹴りを繰り出した。
 神夜君は躱したけど、その蹴りの風圧で木々が倒れる。

「(正面から打ち合ったらダメ…!何とかして隙を作らないと…!)」

 “見て”なんとなく“わかった”。
 力の差は歴然。あんなのをまともに受けたら絶対にやられる。
 おまけにとても頑丈で、不意を突かなきゃ碌にダメージが与えられない。
 攻撃を回避しつつ、隙を作り出して最大火力を叩き込む。
 …これぐらいはしないといけないかもしれない。

「これなら、どうだぁあああああああ!!」

   ―――“Gigantschlag(ギガントシュラーク)

 神夜君が相手している隙にヴィータちゃんが上からハンマーを振り下ろす。
 巨大なハンマーによる叩き潰しを、酒呑童子は躱しもせずに…。





   ―――真っ向から、受け止めた。



「ぬうぅ……!!く、はは!思ったよりもやるじゃないか童共!」

「翔けよ隼!」

   ―――“Sturmfalken(シュツルムファルケン)

「だからこそ…」

 ハンマーを受け止めている間に、シグナムさんが矢を放つ。
 かつて闇の書の障壁を叩き割ったヴィータちゃんの魔法。
 受け止められたとは言え、足止めしている所へ、同じく障壁を貫いた魔法。

「嬲り甲斐があるというものよ!」

「なっ……!?」

 …だけど、それは、あまりにもあっさりと。

「嘘…やろ…?」

 ヴィータちゃんのハンマーを押し退け、シグナムさんの矢は肘と膝で挟む事で受け止められる。…一瞬だった。その一瞬で、不可避に思えた攻撃を防がれた。

「っ…闇に沈め!」

   ―――“Diabolic Emission(デアボリック・エミッション)

 アインスさんが咄嗟に魔法を放って足止めする。
 あっさりと命中はするけど、たぶん……。

「ぬるい!」

「がぁああっ!?」

 やっぱり、効いていなかった。
 魔法を受けながら飛び出してきた酒呑童子は、神夜君を蹴り飛ばした。
 あの頑丈な神夜君でも、今の一撃は大ダメージだと思う。
 …そして、酒呑童子の攻撃はそれで終わらない。

「堕ちろ!烏擬き!」

「っ……!?」

 空中で身を捻り、拳が振り下ろされる。
 その狙いは……はやてちゃんだった。
 回避はもう間に合わず、咄嗟に防御魔法を張るはやてちゃん。
 だけど、わかっていた。それでは防げない事は。

「させんぞぉおおおおおお!!!」

 でも、その瞬間、ザフィーラが割り込んだ。
 障壁を展開し、斜めに拳を防ぐ。
 あっさり障壁が破られるも、即座に渾身の拳を横から叩き込んだ。
 さらにもう一度障壁を斜めに展開し、逸らす事に成功させる。

「む……?」

「盾の守護獣ザフィーラ。ここに面目を果たすとしよう。……主たちには指一本触れさせんぞ!!」

「吠えるか、犬が!」

 再び振るわれる拳。だけど、またザフィーラは逸らす。
 ダメージがない訳じゃない。いくら受け流しても手にダメージは蓄積する。

「ぉおおおっ!!」

「っ!?」

 だけど、ザフィーラは何かが変わっていた。
 手に蓄積するダメージをものともせず、拳を逸らしてから肉迫。
 渾身の力で酒呑童子を殴り抜いた。

「……く、ははは!やるではないか犬!」

「…私は狼だ」

「人間に仕える獣など、犬で十分。……いやしかし、陰陽師ではないにしろ楽しめそうだ!」

 酒呑童子は一度地面に下り、再びこちらへと跳んできた。
 先程までよりも速い…!

「主、私が凌いでいる間に頼みます」

「ザフィーラ!?そないな無茶を…!」

 無茶だと、はやてちゃんは言う。
 けど、その途中でザフィーラの覚悟を見たのか、言葉を詰まらせた。

「っ…シャマル!アインス!ザフィーラを援護や!他の皆もバインドとかで足止めして!その間になのはちゃんはチャージ!でかいの撃ち込んで!」

「わかった!」

 はやてちゃんの指示に私は返事する。
 その間にも、ザフィーラは酒呑童子の攻撃を逸らしていた。
 酒呑童子の足元にはザフィーラの魔法である鋼の軛があり、それで体勢を少し動かす事で上手く威力を減らしているみたいだった。

「(いつの間に、あんな戦い方を…)」

 戦っている所を頻繁に見る訳ではなかったけど、ザフィーラの戦い方は今のようなものではなかった。あの戦い方は、まるで素手の時の優輝さんのような……

「ぬぅっ!?面妖な…!だが!!」

「嘘!?バインドを力ずくで!?」

 シャマルさん、リニスさんを筆頭にバインドが仕掛けられる。
 けど、手足に付けられたリングバインドはあっさりと砕かれ、チェーンバインドも直後に引きちぎられた。

「(っ…まだ動いちゃだめ…!もっと魔力を溜めないと…!)」

 酒呑童子には並大抵の魔法は効かない。
 …ううん、効いてはいるけど、倒すには至らない。
 だから、今の私の最高火力をぶつけるためにも、魔力を集めないと…!

「かゆいわ!」

「っ、シグナム!」

「すまない、フェイト!」

 隙を見て何度も攻撃していたシグナムさんへ蹴りが繰り出される。
 間一髪でフェイトちゃんが助け出した。

「“縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)”!!」

「ぬ、ぐぅううっ!?そのような技を隠していたか…!」

 ダメージから復帰した神夜君が魔力を込めた斬撃を繰り出す。
 斬りつけた場所で魔力を炸裂させるその技は、酒呑童子にも通じた。
 ようやくまともな傷が酒呑童子の腕についた。

「余所見をしていていいのか?」

「む…!」

 その間にもザフィーラは行動していた。
 狼の姿になって酒呑童子の周りを縦横無尽に駆けまわり、鋼の軛を使っていた。
 これで酒呑童子は鋼の軛に囲まれたようになり、身動きが取れないはず…。
 ……なんだけど、今回は…。

「このような飴細工で止められるとでも!」

 それは、通用しない。
 あっさりと鋼の軛は破壊される。
 一応、接近していた神夜君とザフィーラは撤退していたから大丈夫。
 ……でも、その魔法は拘束のためじゃなかったみたい。

「隙あり、だぁああああ!!」

「ッ―――!?」

     ガァアアアアアン!!

 カートリッジをロードし、待機していたヴィータちゃんが肉迫する。
 砕け散った鋼の軛が目暗ましとなって、酒呑童子の懐まで入り込んだ。
 その状態から、渾身の一撃を放って、酒呑童子を顎から打ち上げた。

「自前の力など飾り。威力を出すなら、敵の動きをも利用する!!」

   ―――“剛拳波(ごうけんは)

 ヴィータちゃん渾身の一撃で吹き飛んだ先にはザフィーラ。
 拳を構え、攻撃が放たれる。
 その一撃を喰らった酒呑童子は、倍の勢いとなって地面に叩きつけられた。

「ぉおおおおおおお!!」

「はぁああああっ!!」

 そこへザフィーラや神夜君など、何人かで畳みかける。
 一撃一撃を全力で放てば、ダメージは確実に通る。

「ぬぅうう……!小癪なぁ!」

「っ!?」

 その瞬間、魔力ではない力…おそらく霊力が発せられ、吹き飛ばされる。
 さらには黒い瘴気のようなものが溢れてくる。
 見れば酒呑童子は何かを呟いており、まるで呪詛のようだった。

「(ううん…“ような”じゃない。間違いなく、あれは呪詛…!)」

 霊術に詳しくない私だけど、何故か“わかった”。
 あの瘴気にまともに触れると危ない。
 尤も、それは正体が判らなくても分かるようで、皆も触れないように立ち回った。

「っ……!」

「まずは、貴様からだ!守護獣!」

 ヴィータちゃんあたりを狙ったと見せかけて、庇いに来たザフィーラを狙った。
 その際の蹴りは逸らしたものの、追撃の拳の振り下ろしが当たってしまう。

「ザフィーラっ!!?」

「まずい…!あんな一撃、まともに食らったら…!」

 神夜君でさえ、防御魔法なしではまともに食らえない一撃。
 それを、ザフィーラはまともに食らってしまった。
 はやてちゃんが悲痛の声を上げるけど、これじゃあ……。

「……ぬうぅ…!認識を改めるべきだな…!鬼の一撃を喰らって、耐え切るか…!」

「え……!?」

「…盾の守護獣の名は、伊達では…ないっ……!!」

   ―――“魔纏闘(まてんとう)

 誰もが…あの酒呑童子すら驚いた。
 叩き潰されたと思ったザフィーラは、地面に窪みを作りながらも、その一撃を受け止めていた。……いや、それだけじゃない…!

「ぜぁっ!!」

「ッ!?」

 横に逸れて拳を避け、瞬時に狼形態になる。
 狼形態の方がスピードが速く、一瞬で酒呑童子の顔の横まで移動した。
 そのまま人型に戻って回し蹴りが放たれ、酒呑童子を吹き飛ばした。

「なっ…!?」

「速い…!」

 それを見た神夜君とシグナムさんが驚く。
 …かく言う私も驚いている。いつの間にザフィーラはこんなに強く…。
 そう思って見てみれば、ザフィーラの体が若干青白く光っていた。

「ォオオオオ!!」

「てぉぁあああああ!!」

 酒呑童子とザフィーラの拳がぶつかり合う。
 いくら身体強化しているとはいえ、相手は鬼。…力の差は歴然だった。
 押し負け、吹き飛ばされるザフィーラ。だけど、ただでは終わらない。

「縛れ…“鋼の軛”!!」

「ぬうっ!」

 酒呑童子の足元から鋼の軛が生える。
 数が少ない分、鋭さを増したようで、酒呑童子に突き刺さる。

「オオオオオオッ!!!」

 魔法陣を足場にザフィーラは酒呑童子に再び肉迫する。
 足元に一瞬注意が逸れた酒呑童子はその接近を許してしまう。
 そして…。

     ドンッ!!

「っ……!?」

 渾身の一撃が酒呑童子の頭に突き刺さる。
 地面に叩きつけられた酒呑童子。結構ダメージもあるみたい。

「今だ!押し留めろ!!」

「っ…!」

 ザフィーラのその声に、全員が反応する。
 鋼の軛、リングバインド、チェーンバインドなど、いくつもの拘束魔法が酒呑童子を縛る。

「今やで!なのはちゃん!」

「うん!」

 この時点まで、私とはやてちゃんは一切攻撃も援護もしていない。
 それと言うのも、今までずっと魔力を溜めていたから。
 …全ては、この一撃に繋げるため……!

「行くよ、はやてちゃん!」

「了解や!」

「せーのっ!!」

 私と、はやてちゃんが放つ最大の一撃。
 時間を掛ければ掛ける程、魔力を集めれば集める程強力な魔法。
 私の切り札とも言える魔法。それは…!!

「「“スターライトブレイカー”!!」」

 二筋の極光が、酒呑童子へと迫る。

「ッ……!これほど、とは…!」

 僅かな時間とはいえ、躱す程の身動きが取れない酒呑童子は、極光に呑まれる。
 皆も余波に当たらないように間合いを取って、様子を見る。

 しばらくして、極光が晴れていく。
 これで倒しきれなかったら…!

「っ…!?嘘…」

 そう思った矢先に、酒呑童子の姿が現れる。
 体はボロボロになり、どう見ても満身創痍。
 …だけど、確かにそこに佇んでいた。

「まだ、やるのか…!」

 誰もがまだ終わらないのかと思った。その矢先…。

「……見事だ、人間…。陰陽師でもない者に敗れる時が来ようとは……」

「えっ……」

「っ………」

 それだけ言って、酒呑童子はその場に倒れ込んだ。
 巨体が倒れこんだ事で、僅かな地響きが起こる。

「勝った……の…?」

 実感が湧かない。だけど、酒呑童子はもうピクリとも動かなかった。

「やった…やったぞ……!」

 神夜君の言葉に、ようやく皆も喜び始める。
 ……本当に、倒せたんだ…。

「ザフィーラ!無事なんか!?」

「主……大丈夫です。この程度……」

「でも、ボロボロやんか!シャマル!」

「はい!」

 はやてちゃんがザフィーラに駆け寄って治療をしている。
 ザフィーラの手はボロボロで、どこか動きもぎこちなかった。
 手はともかく、さっきの身体強化魔法で体もボロボロなのだろう。

「皆!無事!?」

「……もう終わってるわね」

「奏ちゃん!司さん!」

 そこへ、先に戦いを終わらせてきたのか、奏ちゃんと司さんがやってくる。
 ……これで、ここの幽世の門は閉じられた。





 …でも、まだまだ事件は終わってない。
 その事に、私は不安を隠せなかった。











 
 

 
後書き
Tutélaire(チュテレール)…“守護者”フランス語。天巫女としての基本的な防御魔法。ただしそれでもジュエルシードを用いているので相当強力。汎用性も高い。

嫉妬の力…橋姫が操っていた、黒っぽい禍々しい色の水のようなもの。見た目や動きは完全に水だが、それに込められた負の感情は精神を蝕む。なお、司や奏は自前の霊力による精神防御で防げる。

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)…言わずもがなFGOで出たランスロットの宝具。本来ビームのように放出する魔力を、斬りつけた場所で炸裂させる。

剛拳波…一見魔力を込めた拳の一撃でしかないが、この技の真骨頂は敵の動きを利用した所にある。今回の場合、打ち上げられた勢いに反発するように拳を打ち込み、そのまま勢いを倍にして返すように放っていた。

魔纏闘…身体強化の際に放出される魔力も体内に押し留め、それすら身体強化に回す魔力運用。普通の身体強化よりも強化されるが、その分体の負担も大きい。所謂DBの界王拳。4章で優奈との模擬戦にて、一撃だけ使った霊魔相乗を参考にした。


酒呑童子の口調はオリジナルです。少なくとも作者の記憶上、かくりよの門、うつしよの帳、ひねもす式姫では喋りませんし、四コマでもギャグ方面でしか出ていない(そもそも四コマがギャグ系)ので……。当然ですけど、この酒呑童子は性別上男です(東方やfateとは違います)。

結界を張らない優輝や司達と張るなのは達。
すぐ傍に警察や陰陽師がいたから張らなかった訳です。
霊力による攻撃で結界は簡単に穴が開きます。穴が開けばそのまま被害が出ますからね。実際に見えてる方が逃げてくれるだろうという算段もあります。後、なのは達では幽世の門は閉じれないので、結界で押し込めておくという作戦でもあったり。

原作よりも強化されていくなのは達。その中でも今回はザフィーラが目立っています。以前、優奈と手合わせをしたことで新たな戦い方を得ているので。後、今更ですがアリシアが生存しているのでシグナムがフェイトの事を名前で呼んでいます。(大した事じゃない)

この章での話は正直技名をあまり出さない方が映えるかもしれません…
ドラゴンボールやFateのような高速戦闘や殺陣で技名をいちいち言ってられませんからね…。そういった感じの戦闘を描写できる自信もないですけど。(おい 
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