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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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コラボ
~Cross over~
  Destruction;崩壊

炎膜現象(パイロプレーニング)》は、スカーレット・レインの持つ《移動能力拡張》の第一段階心意技だ。

アバターの中の炎属性の側面を増幅させ、足裏に熱源を集中。尋常ならざる熱量によって融解させた地面の上を走る……というより滑る、という感覚で超速移動を可能にする。イメージ源は車関係の用語のハイドロプレーニング現象というもので、雨による水膜という違いはあれど、根幹の原理は同じである。

《月光》ステージによって、中世ヨーロッパのような白いタイル張りになった校庭をまとめて踏み砕くような勢いで飛び出した紅い閃光は、そのまま真正面から謎の少年へ向かって突っ込んだ。

奇しくも先刻行った挟撃と全く同じ形で。

何らかの心意技なのか、アバター全身に走るラインを真っ赤に染めたブラック・ロータスは、反対から疾駆するニコに気付いているのか。だが、顔色の分からないV字のフェイスマスクの向こう側で苛烈にして凛麗な光が宿るのを確かに見た。

時間など関係ない意識の狭間。

そこで両者は何の合図もなく、完全なアイコンタクトのみで完璧な連携を行った。

おそらくこれが、連携など度外視したクレバーな役割分担なだけだった先の挟撃ならば、この謎の闖入者は余裕の笑みを崩すことなくあしらっただろう。

だが、それを超克した今回は――――

「苣膯꿯벁蓣膄裯벁駣膔蓣膙铣膄」

相も変わらず、言葉の理解は不能。しかし、その言葉は確かに笑っていた。まるで久方ぶりの対戦に血沸き肉躍っているように。まるで砂漠を迷っていた者が水の沸くオアシスを見つけたように。

だが。

その口元は、笑っていなかった。

おそらくは、この対戦始まって初めての、本気の防御行動。回避すら許さない二人の気迫が為した、明確な成果だった。

交差するように伸ばされた左掌が、限界の加速によって一足早く到達しそうになっているニコのジャンピング・ニーバットに伸ばされる。

―――止める気か!!止めてみせろよオイ!!!

心意技の延長線上で赤々と燃えるような過剰光に包まれた膝に秘められた威力は、もはや心意技のそれだ。まともに受け止めようものなら、肘関節から先が吹っ飛ぶだろう。

ならば心意技だろうか。校舎を一瞬で呑み込んだあの技を限定的な小範囲で展開できるのならば、欠損ダメージを受けるのは自分の方かもしれない。

超加速によって時間が流れる水のように重くなった中、しかし少年が取ったのは予想外の対応だった。

起点は感触。

膝に当たった掌からは、反抗の硬い意志はまったく伝わってこない。どころかその流れに乗るように自ら腕自体を引いていくのだ。

受け流すつもりなのだろうか、と眉をひそめたのも一瞬、その行方に眼をやって少女は戦慄した。交差されるように伸ばされた左腕。ニコの高速の飛び膝蹴りを受けることによって強制的に加速された肘が、上段から腕剣を振り下ろすために無防備になったロータスの胸部装甲へ向かっていくのだ。

―――クソッタレ!野郎、完全な無傷は無理だと思って腕を捨てやがった!

これまでの戦闘も合わせてだが、皮装備や布系装備を中心にした見た目的にも《レンホウ》の防御力はそう高くない。いくらニコの速さも相乗したとはいえ、盾系の強化外装を除けばデュエルアバターで一番ダメージの通り難い――――すなわち一番硬い装甲である胸部装甲と激突すれば、彼の肘もただではすまないだろう。下手すれば千切れ飛び、部位欠損ダメージも視野に入る。

だが、この挟撃を防ぎきるのは不可能と断じ、最尤の手を躊躇いなく切った。

「っそ!」

ゴドン!!という凄絶な音が響き、ロータスの胸部装甲が大きく凹み、ダメージ判定であるパーティクルが弾ける。だが同時に、少年の着る厚手のコートの肘部分から鈍い音が響き、視界右上の体力ゲージが猛烈な勢いで減り始めるのが分かる。

少年の表情に壮絶なものが走り、それを塗り潰すような爛れた笑みが広がった。

ずっと浮かべていた、余裕のある薄ら笑いではない。本当に本格的に、眼前の少年の底を表すような猟奇的で酷薄な哄笑。

戦闘狂(バーサーカー)の嗤い。

それに理性的な恐怖を覚えるより先に、本能的な危機感が炙り出され、咄嗟にロータスを回収する方向に身体が動き始める。

だが遅かった。

ゆらり、と。

眼にもわかるような形で、相手のアバターが変わっていく。一見すると何も変化はないように思える。だが、その中身で何か決定的な――――歯車が噛み合ったような、妙に腑に落ちるような感覚だけが残る。

真っ赤に染まる両眼から閃光のように残光を引きながら、動き出す。

その動きは、一時的とはいえ心意技で近い速度域に立っているニコからはコマ送りのように見えた。陸上選手のような力強い走り出しとは違う。むしろ脱力し、重力に任せて落下するような前挙動。その糸の切れた人形のような動きに、何もかも先手を取っているはずの状況ですら不安を掻き立てられる。

一歩。

顔が地面へ着く直前、破城槌のような脚の一歩目がタイル張りとなった校庭を踏み割り、走り出しの距離の一切を叩き潰した。

一瞬で肉薄される……!と思った時には、ころん、と綺麗に転がされていた。

軽く足を引っかけられただけ。

だが、たったそれだけにもかかわらず少女の顔色が変わったのには訳がある。人の歩行速度とF1の怪物マシンの速度の違いを思い浮かべたらわかりやすい。ただ転んだにしても、その速度次第ではただのアスファルトでも凶器になることがあるのだ。

今回は初速でスピードが乗っていなかったこともあり、そこまでの大被害という訳ではなかった。だが、ノーバウンドで二、三メートルも吹っ飛び、水切りの石のように地面を抉りながら止まった頃には、体力ゲージは半分を切っていた。

慌ててロータスを見るが、こちらは強運なことに自分がクッション代わりとなってダメージは行っていない。

カツ、と足音。

月光を背に顔に濃い影を落とす少年はゆっくりと歩を進めていた。

「该뾵苣膟ꃩ肟蓣膣ꛣ膠釣膘菥莕ꯣ膯鷣膦ꫣ膄」

「……へっ、わっかんねぇよ」

吐き捨てるように返答しつつ、小声で間近の漆黒のアバターに極小のボリュームで投げかける。

「おい、ロータス。まだ行けるか?」

「っ、愚問……だな。ここまでコケにされて引き下がる道理があるまい」

気丈なセリフだったが、その反面受けているダメージは相当なものだ。大半は装甲に吸われたとはいえ、ブレインバーストの痛覚フィードバックならば一時的に呼吸困難に陥っていてもおかしくなかったはずなのに。

「速さで勝負しても無理そうだぞ。あたしの心意技で互角くらいは行けそうだが、高速戦闘の経験が違う。さっきみたいにあしらわれて終わりだろうな」

「だが左腕は潰した。武器を持っているならともかく、体術主体ならば身体バランスがキモなはずだ。そこから崩せられれば……」

「左腕ねぇのはお前もだろ……。それになロータス、それは《鉄拳》パウンドみてぇなラッシュ型なら通用するかもだが、ヤロウの戦法は典型的なH&A(ヒットアンドアウェイ)だ。まずはアレを叩き落すトコから練らなきゃ一方的に削り潰されるぞ」

「ああ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

圧倒的な機動力を下地にしたノーガード戦闘にして、ノーダメージを狙える数少ないバトルスタイル。

あの完成度を前にしては、小細工は通用するのかすら不安に思えるような所だが、横目に見えるバイオレットの眼光は欠片も勝利を疑っていなかった。そのことに軽く溜め息を吐きそうになり、

「つっても、ヤル気だけあっても、根性論で解決するような敵じゃないぞ。あたしの強化外装(インビンシブル)も再展開にはまだかかるし、何より弾幕張っても避けられる未来しか見えねぇ。デカい一発のアテは……なくもないが、そりゃ当たったらの話だぞ」

「分かっているさ。――――だが、付け入るスキがまるでないということもない」

「防御面の脆さの話か?」

漆黒のアバターはこくりと頷く。

「無論それもある。てっきりあの外見は、デュエルアバターに新種のテクスチャでも貼っているのかと思っていたが、あの脆さは本物の肉体のそれかもしれないな」

そう言って黒雪姫は先刻手痛い一撃を貰った胸元の装甲を撫でるように触った。クレーターの如く陥没しているそこに一瞬視線を向ける。

「だが、あの桁外れの挙動と体捌きで中々分からなかったが、さっき気付いたことがある」

「それは……何なんだ?」

「それは――――ッ」

ビン、と。

ゆるんだ糸が張り詰めるような感触。

皮膚を粟立たせるようなその変容に思わず口を閉じた両者に、むしろのんびりとした調子で言葉が投げかけられる。

「苣芏ꏣ膟诣膪」

「……お呼びなようだぞ?」

「あの支離滅裂な言葉分かるのかよ」

残り時間はもう120秒を切っている。おそらく次が正真正銘最後の剣ヶ峰だろう。

真正の極敏捷型にもかかわらず、真正面から悠然と近づく矮躯は畏怖すら誘う姿だ。

「っ」

思わず腰のホルダーを確かめる。

己の持って生まれた武器。コミカルな見た目に反し、要塞のどんな火力コンテナよりも高い単体火力(DPS)を誇る小さな誇り。

そのつるりとしたカバーを撫でた後、小さな少女アバターは太陽のフレアのような苛烈な白光を相貌に迸らせる。

「さぁ――――行くぞッ!!」










スカーレット・レインの強化外装は、要塞型の《インビンシブル》が有名だが、その陰にひっそりと存在する小銃については、ついぞ語られることはあまりない。

それもそのはず。赤の王たる彼女が本格的にその名を轟かせた、レベル9に至る大規模戦闘で並み居る猛者を前に微動だにしなかったのも、通常対戦で用いるのも、たいていはその二つ名《不動要塞(イモービルフォートレス)》が指し示す通りインビンシブルだったのだ。

だが。

彼女の最強の得物は、その要塞ではなくその小銃であることは、もっと知られていない。

銘は《ピースメーカー》

銃身(バレル)部分のカバーを回転させることによりチャージを開始。経過時間に比例した破壊力を提供できるアビリティを持っている。

「喰ら……ぇッ!!」

流れるような抜き撃ち。

それによって戦闘状態へ移行したことの宣言であるが、対する少年の顔は別段緊張に動いてはいない。見た目の拳銃タイプなのが、油断を誘っているのだろう。

―――ド肝抜けゴラァ!!

心意技を放った際にチャージを開始していたから、最低限五十秒以上は力を溜め込んでいたはずだ。

バンッ!!

果たして、銃口から発射されたエネルギー弾は、小銃の発射音サウンドエフェクトに反し、絶大な威力を解き放った。

狙いは直近の対戦相手との間の地面。

タイルを割り砕くように床に潜り込んだ弾は、すぐに不壊属性(イモータル)であるマップ基部にブチ当たり――――そこで起爆した。

思わず立っていられなくなるほどの揺れが、足元から襲う。

探索系RPGのゲームでは稀にある、地揺れエフェクトの再現。思わず立っていられなくなるほどの直下型地震は、転倒(タンブル)までの高望みはしなくとも、二本足で直立していたなら相当効くはずだ。

しかし、この揺れを直立歩行形態にも関わらず、まったく無効である者が一人だけいる。

「せぇあああああ!!」

漆黒の槍が奔る。

そう。ブラック・ロータスのホバー移動は、常時地面から数センチ浮いている状態なのでこういった地形効果は効果がないのだ。

思わず止まる――――否、止まらざるをえなかった相手に向け、疾駆するロータスは深紅に輝く右腕の致死の剣先を突き出す。

一点突破の攻撃拡張の心意技。

―――だが、それじゃあこれまでと一緒だぞロータス……!不意や虚を突いても、猫だまし程度ですぐにあの超反応で回避される!一人で突っ込んでも無駄足だぞ……ッ!!

少年は確かにこの対戦中、左腕を部位欠損するという大ダメージを負った。だがそれは、王二人がかりで回避経路を潰したからだ。一人だけでの突貫など、あの相手にとって一番相手しやすいだろう。

事実、猛烈な突進(チャージ)をかけてくるロータスに、どこかつまらなそうに顔を歪めた少年は、向かってくる漆黒のアバターに対して緩やかといえる速度で身体を動かし始めた。この揺れの中では転倒の可能性が高いと踏んで、その場での即応体勢に入るつもりだ。

「ッロータス!!」

思わず出た声に反応するように、漆黒が沈み込む。

もともと取っていた前傾姿勢を更に深くする。端から見れば、全てを賭した右腕を突き刺す予備動作に見えたろう。対戦相手もそれを察し、右の剣先に意識を集中させる。

だが違った。

ギリギリまで引き絞られた切っ先が撃発する寸前、その刀身を覆っていた過剰光が掻き消えた。

「なっ……!?」

「꯯벟」

二人同時の声が上がる。

少年も驚きの表情を浮かべているところを見ると、外部接触でクラッシュしたのではない。黒雪姫本人が自ら練り上げた心意を中断したのだ。それによって凄絶な威力を放ったであろう絶大な心意技は過剰光を放つのみに終わった。

無論、事故の類ではない。純色の七王の一角、黒の王たる彼女がそんな愚を犯すはずがない。

「シッ!」

擦過音のような鋭い呼気を発しながら、漆黒の肢体は驚きに固まる相手を置いてけぼりにして唸る。

紅衣の胸元に押し付けられたのは、爆散した右腕。痛々しい断面にはもう絶対切断属性は働いていないにもかかわらず、黒雪姫は気勢とともに、押し当てるようにその断面を――――そこから滑るように剣の平を相手の胸板に押し付ける。

「おおおぉぉっッ!!」

ゴドン!!と。

鈍い音とともに、小さな矮躯が引き倒される。

―――押し倒した……だけ、か?だけどそれだけじゃ………………あ。

そこに至って、ようやくニコは黒雪姫の一連の狙いが、そして対戦相手の少年の持つ弱点に気付いた。

そしてそれは、胸板に押し付けた右腕剣を中心に、小さな体躯を地面に縫い留める漆黒のアバターから告げられた。

「……やはりな。そんなところだと思ったぞ」

抵抗する少年をギリギリと押し込みながら、黒雪姫は怜悧な言葉を紡ぐ。

「たとえ超人的な反応を持とうとも、たとえ反則級の機動力を持っていたとしても、貴様は決して万能な訳ではない。長所ばかりを目立たせて、短所に目線を持っていこうとさせていないだけだ」

持ち上がらない。

抵抗できない。

あれだけ超絶な脅威を感じさせた存在が、重量アバターでもない、どちらかといえば細見なF型アバターに完全に抑え込まれている。

その光景は、思わずニコを固まらせるに十分な衝撃を与えた。

「なぁ、レンホウとやら。貴様の心意技で焦っていたとはいえ、かなり杜撰な対応だったな、私達は。まったく、何が王だ。こんな体たらくではハルユキ君にもがっかりされてしまう。……貴様が、私達が誰だか把握して対戦を申し込んできたとはあまり思えないが、それでも失望したかもしれないな」

すまない、と静かな声で黒雪姫は素直に口にした。

「《完全に万能なアバターなど存在しえない》。ゲームとして当然の原則なのにな。お前の機動力特化のステータスを見て、最初に看破すべきだった。……貴様には《力》がない。いや、ゲーム的に言えば《筋力値》と言ったところか。実際、今私が抑え込んでいられるのもその証左だ。貴様がヒット&アウェイを取るのも、捕まったら振り解けない(終わりだ)からか?」

ギシギシと傷ついた右腕の刀身が、かけられる圧力に悲鳴を上げる。だが音すら無視して、黒雪姫はさらに言い募る。

「そしてその体躯から分かる通り、力技のハンデを覆すほどの《重さ》もお前にはない。……圧倒的な機動力を手に入れるための全ての要素が、そのまま貴様の弱点になりうる!」

レイン!と圧縮した音声が上がる。

それに大きく頷き返し、ニコはピースメーカーを構えながら小走りに駆け寄っていく。

確かに組み伏せたことで、敵の最大の手札(カード)である敏捷力と反応速度は潰せた。しかし、それだけではない。最初に梅郷中の校舎を丸ごと呑み込んだ、あの第二段階心意技を発動されれば、密着する黒雪姫はなすすべもなく喰われるだろう。そうなれば、ニコ単騎で盤面を再びひっくり返すことはほぼ不可能に近い。

よって、欠片でも過剰光を出すような兆候が見られれば即座に体力バーを消し飛ばそうとしていたが――――

「꿢肦꿣膯wl꿣膯jaksga,ca꿣膯;sjlaaljkjalsぅklsっkljs――――()

「……え?」

ジ、ザ、と。

まるで今さらのように、世界が彼の存在を認知したように、組み伏せられた少年の吐き出す言葉が自動的に組み上げられるジグソーパズルのようにソートされていく。

理解可能な言語に翻訳される――――のではなく、それを聞く鼓膜を直接調整されたような感覚。

「は、ははは!ははははははっはははあははは!!」

窮地の中なのに。

そのはずなのに。

にもかかわらず、少年は笑っていた。朗らかに笑っていた。

無邪気に、笑った。

「すごい!すごいすごいよ!こんな鮮やかにキめられたのって初めてだ!ははっ、あはは!!」

「……そんな笑い方もできるんだな、貴様は」

押し殺すように囁かれた黒雪姫の言葉に首を巡らせ、眩い笑顔を浮かべた相手は、

「おねーさんも同じなんでしょ?」

「?」

「この世界。おねーさんも好きなんでしょ?」

「――――っ。お前は……」

黒雪姫が何かを言いかけた刹那、眼前の笑顔が前兆もなく白い燐光に変じた。

「な!?」

質量がなくなり、少年に乗っかっていたアバターの視点がガクンと下がる。加えて胸板に押し付けていた刀身が空を切り、虚しくタイル張りの校庭を叩いた。

透明になった矮躯をすり抜ける時、黒雪姫は確かに頭の奥で声を聴いた。

捉えどころのない、聞きようによっては無邪気にも無感情にも無機質にも聞こえる、虚ろな透き色の声だった。

『この勝負は預けるよ、おねーさん。永劫輪廻の閉じた輪の中で、久方振りに《未知》を見れて楽しめた。……また…/* serial world */のどこ、か……で…………遭ジザザジジジジ――――32ska小径alkhaifa 【Thantifaxath】ジジ……∴passed escape//;』

最後のほうは、乱暴に回線が引っこ抜かれたような不快音に呑み込まれて聞こえなかったが、その言葉を皮切りに――――否、切るは切るでも切り上げとして、謎の闖入バーストリンカー《レンホウ》は、その体を仮想のフィールドから消失させた。

唖然と固まる二人の王、その視界に回線切断の意を示す【DISCONNECTION】のシステム文字列がゆっくりと瞬いていた。 
 

 
後書き
まさかの結果でしたが、ひとまず両世界の交流はこれで終わりということでw
今話の裏話というか読者の皆々様に対してのとっかかりは、レン君の戦闘スタイルに対してです。
これまでワイヤーというトリッキーな武器を駆使して戦ってきた彼でしたが、今回はひたすら徒手空拳。テオドラさんの専売特許を奪うような乱舞を見せていました。
ヒット&アウェイ、そして筋力値のなさを補って余りあるほどの敏捷値。
GGO編でなくなるまで永きに渡ってレン君の根底を支えていたワイヤーという武器。それは果たして、漠然とした意味での《正解》だったのでしょうか?
そこを辿ると、面白いモノが見えてくるかもしれませんよ?(笑) 
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