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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!

作者:織部
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巫之御子 余談

 秋芳たちが去ってしばらくしたのち。扉を開け、あたりをうかがうようにしてプールサイドに入って来た一人の少年がいた

「よし、もうだれもいないな……。いいぜ、夏目」

 黄色と黒の虎柄をした海パン一丁の春虎が手招きすると、飾り気のない白いワンピース水着を着た夏目が姿をあらわした。

「お……」

 春虎の視線が思わず一点に集中してしまった。
 夏目が着ているのはたしかに飾り気のない、白ワンピだ。だが春虎が思っていたよりも三角ラインが鋭角。つまりハイレグ度が高かったのだ。
 それにくわえて少々布地が薄く、心もとない。
 端的に言ってしまえば極薄超ハイレグの競泳水着だったのだ。

「あ、へ、変かな、この水着……?」

 春虎の視線に気づいた夏目が両手で身体を隠すようにして、恥じらう。

「へ、変じゃないって! なんて言うか、その、あ、アイドルみたい? 思ってたよりずっとかわいいって言うか似合ってるて言うか……」
「かわいい!? ほ、ほんとう?」
「おお! すっげぇ、かわいいよ! マジで!」

 年齢制限のある雑誌に載っているグラビアアイドルみたいにエロい。などとは口が裂けても言えない。

「ふふ、良かった。これ、ちょっと地味かなぁと思ったんだけど、春虎が気に入ってくれたんなら正解だね」

 そんな極薄超ハイレグ水着のどこが地味なんだ! デザインか? デザインが地味なのか? たしかにデザイン『だけ』なら地味かも知れないけどよ!

「こほん」

 わざとらしい咳払いとともに二人の近くに紺色のスクール水着(旧型)を着た幼女が現れた。
 尖った耳にケモノの尻尾。アイロンプリントには『コン』と書かれている。
 春虎の護法式であるコンだ。コンだけに紺の旧スクを着用しているのは偶然か。

「春虎様、夏目殿とておなごでございますぞ。そのような劣情に満ちた不躾な視線で舐めまわすように視姦するのはどうかと……」
「し、ししし、視姦!? 春虎君、そんな目で私を――ッ」
「ちょ、おまっ、ななな、なに言ってんだよ! そんなんじゃないって!」
「そうでござりますか……?」

 おのれの式神から飛んでくる、ジト目の視線が痛い。

「そうだよ、もういいから準備運動始めるぞ!」
 土御門夏目。陰陽師の名門である土御門家に生を受け、呪術の才にあふれた天才少女。
 その土御門家には様々なしきたりが存在した。
 そのうち一つ『跡取りは対外的には男子として振る舞わなければならない』ことにより、中学入学以降は男装し、男子として過ごしている。
 そのため公の場で水着になる、水に浸かることなどまったくなかった。水泳の授業も受けず、スイミングスクールに通うこともなかった。それゆえ、泳げない。
 つまり、土御門夏目はカナヅチだった。
 そのことを知った春虎は、それならばと自分が教えようという気になったのである。
 その機会はすぐにやってきた。案件とやらでプール清掃をすることになった秋芳に頼んで、掃除が終わった後のプールを二人だけで貸し切りにしてもらったのだ。
 もっとも秋芳には夏目のことは言ってはいない。

「実はコンのやつ、カナヅチなんだ。だから今度おれが泳ぎを教えてやろうと思ってたんだけど、なかなか場所が見つからなくて……。ほら、護法式とか、公共の場であんま見せて歩くのもあれだろ? それにコンも人目があるといやだって言うから……」

 そのような苦しい言いわけをして、使わせてもらうことに成功した次第だった。

「コンめは水練もできまする。それを夏目殿のダシに使うとは不本意です」

 そうぶうたれるコンをなだめすかすのには大変だった。そして今でもご機嫌斜めの様子だ。

「コンもほら、準備運動、準備運動!」

 水に入る前にしっかりと身体をほぐし、温めるのは大事だ。
 硬くなっている筋肉をほぐすことはケガの予防になるだけでなく、足がつるのも防ぐ効果がある。
しかし――。
 極薄超ハイレグというきわどい水着に身をつつんで脚を開いたり曲げたり屈んだり反ったり跳んだりしている様は、なんというか、かなり危ない絵面だった。
 夏目は華奢な体型で、同年代の女子とくらべると胸のあたりなどひかえめなほうなのだが、それでも身体のラインがはっきりと表れる競泳水着を着ていると、やはり男子とはちがう。丸みをおびた、柔らかそうな身体つきをしているのがハッキリとわかる。
 アニメ『東京レイヴンズ』第九話を思い出して欲しい。
 バイクの後ろに乗った春虎が前の夏目の胸をつかんだシーンで、はっきりくっきりと盛り上がるほどのサイズの乳があったではないか。
 胸にある二つのふくらみが『ほらほら、どう? あたしたち女子は男子とは身体の作りがちがうんだから。興味ある? 来て見て触ってみる?』(CV:花澤香菜)などと自己主張している幻影が春虎の脳裏に浮かんだ。
 これは男子ならばだれもが脳内に持つ妄想器官の働きによるものだ。
 エマージェンシー! エマージェンシー! ただちに暴れん棒を冷却せよ!

「お、おっし! 準備体操はこれまでっ」
「えっ? もういいの?」
「おう! 早く水に浸かって身体を冷やそうぜ!」

 言うやいなやどぼんと飛沫をあげてプールに飛び込む。

「きゃっ!? もう春虎君てば危ないっ」
「ハハッ、夏目もコンも早く来いよ。冷たくて気持ち良いぜ」
「もう、子どもなんだから……」
「では、お言葉に甘えてコンめも入水(にゅうすい)いたしまする」

 豪快にダイブした春虎とちがい、足から水に浸けてゆっくりと入水する夏目とコン。これがプールの正しい入りかただ。

「ひゃっ、冷た」
「おおぅ……、これはこれは、なかなか心地よい」

 チャプチャプと水音を立てて器用に背泳ぎをするコン。尻尾が舵の役を果たしているのか、かなり安定した泳ぎを見せている。

「じゃあ夏目はまず水に慣れるとこからだな。顔を水につけてみようか」
「もうっ、そのくらいはできます! もぐれます! 泳ぎを教えてください!」
「あはは、そうか。じゃあ――ッ!!」
 ふたたび春虎の視線が夏目の身体の一部を凝視してしまった。
 なぜなら――。
 
 透けて見えていたからだ――。

「春虎君?」 

 怪訝そうな表情で小首をかしげ、のぞきこむように春虎をうかがう夏目。
 小動物のようなかわいらしい仕草だが、春虎にはその愛おしい姿を見る余裕はなかった。
 なぜなら――。

 透けて見えていたからだ――。

 どこが透けて見えていたか?
 夏目は白い水着。それもどこで購入したのか、極めて薄い布地のものを着ているのだ。
 つまり――。

 「春虎君? ねぇ、どうしたのさ?」

 春虎の中の『虎』が目覚めようとしていた……。
 
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