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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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ダン梨・I

 
前書き
 ヘス「……という訳でバミューダ君はこんな武器が欲しいらしいんだけど」
ヘファ「えぇぇ~~………なにこの、何?ムチと剣の合体、ガリアンソード?え、どういう構造と設計思想なの?変態なの?これ私が作るの?」
 ヘス「……ダメ?」
ヘファ「まぁ、趣味で作ってみるのは暇つぶしに丁度いいかもしんないけど……これ不壊属性にしないとメンテがバカに大変だからあのナイフより割増料金よ?」
 ヘス「うぐぐ……しかし、背に腹は代えられない!!我がファミリアの為に!!」
ヘファ(これで当人がファミリアから逃げたら貢がされただけで終わる事分かってんのかなぁこの子) 

 
 
 ソーマ・ファミリア殲滅作戦の細工は流々だ。

 まず、団長のザニス・ルストラを落とす。ゲドくんの『善意』によってもたらされた情報によると、現状のソーマ・ファミリアがファミリアとしての体裁を保てているのはこの男がいるからだ。逆を言えば、こいつを落とせばファミリアは瓦解する。

 これまたゲドくんに『善意』の協力を得てザニスの行動パターン、週別のスケジュール、人間関係、癖、趣味などを徹底的に調べてもらう。これは小物で頭の悪いゲドくんにストレートにさせると不自然さが出てしまうと思い、俺がゲドのサポーターのふりをしてソーマ・ファミリアに近づくことでさりげなく情報を手に入れた。

「おら、ノロノロしてんじゃねえよ雑魚冒険者が!(言いすぎると後で何を言われるか分からない分台本通りにすることに必死)」
「す、すいやせんアキニィ~~!!(仕返しのためにミスの数をきっちり数えている)」
「ゲドのやつ、いい子分手に入れたなぁ」
「ああいうタイプ、囮に使うのに丁度いいんだよ……げへへ」

 更に、このファミリア内に存在する不穏分子、すなわちザニス体制を快く思わない存在――ドワーフのチャンドラとコンタクトを取ることに成功する。

「あの目の上のたんこぶを蹴落として別のトップを据えれば、ソーマの出来高制は廃止だ。それに、俺らの掴んだこのファミリアの実態が表に出たら間違いなく酒造りにペナルティが来る。ギルドを言いくるめて実体を隠蔽するには、今のうちにザニスを落とすしかない。どうだ?こっちには戦力に少々アテがあってね……」
「お前、ガキの癖して黒い奴だな……だがザニスと違って自分だけが得する事は考えてないだけマシか。いいだろう。ただし、切っ掛けは上手く作ってくれよ」

 彼はソーマを呑むことが大好きではあるが、他人を蹴落としてまで美味い汁を啜ろうと思う程に欲深な人間ではない。それはゲドみたいな下っ端の雑魚でも感じていた事らしい。ただし、「上手い切っ掛け」が上手くいかないようならば何も行動しないという。まぁ、妥当な判断だ。

「という訳で、情報は揃った。では明日の計画を説明する!!」
「たった1週間がこんなに長く感じたのは初めてだな……」と、しみじみするベル。
「でもいいじゃないですか。この計画、リリ好みです……♪」と、乗り気なリリルカ。
「『みんなで幸せになろう』、ね。まさか本気だったとは………」と、戦慄するゲド。
「酷い搦め手ですが、蛇の道は蛇という事ですか………いや、バミューダさんの年齢で蛇の道ってどういう事なのか全然理解できませんが」とは暇を持て余し気味だったリューさん

 こうしてお膳立ては整えられた。さぁ、終わりの始まりだ……!!
 俺は決起前の景気づけにいつもよりちょっといい梨の皮をむいて周りに切り分けつつ、明日の計画を遠足前の子供のようにウキウキと待った。



 = ベル・クラネルの独白 =


 バミューダ主導のもと、ゲドさんの協力(という名の脅迫)を得て暴かれたファミリアの実態は、僕の想像を絶する程に汚いものだった。とてもではないが、リリのような女の子がいていい環境でもないし、それを縛るザニスという男を許せなかった。

 でも、バミューダはその実態を知りながら、まだ情報が必要だと僕を押しとどめた。

「誰が悪いのかもう分かってるんでしょ!?だったら!!」
「駄目だ。ヘスティア・ファミリアの眷属として絶対的に『身の潔白』と『正当性』を確保し、なおかつぶっつけ本番リハなし一発で成功させる必要がある。ザニス以外の人間がみんな幸せに終わるには、焦ったら駄目だ」

 つまりはこうだ。無茶して禍根が残れば、それは主神であるヘスティア様に迷惑として振り掛かる。だからヘスティアが何ら恥ずべきことはしていないと本人も周囲も納得させられる材料――よりよいお膳立てが必要だということだ。

「その為に……ゲド」
「ひぃッ!?な、なんだよぉ……俺は嘘は言ってねぇぞ!?」
「嘘は言ってなくとも気付いてないことぐらいあるだろ?だがお前が腹芸の得意な男には見えないから間諜としちゃ不安なんだよな……だから、俺が出る」

 ゲドの舎弟にされた、弱みのせいで強く出られない子供。それがバミューダの自身に課した設定だった。これによってソーマ・ファミリアの人間に近づき、より正確な情報を得る。悪だくみの得意なバミューダらしいと最初は思ったが、その日のうちに考えは覆った。

 ソーマ・ファミリアと共にゲドの舎弟として行動するという事がどれほど過酷な事か、僕は甘く見ていた。バミューダが「そう」ならばリリもまた「そう」なのか、帰ってきたバミューダの体にはあちこちに生傷や青痣が出来ていたのだ。凝り性のバミューダは「立場の弱い人間」を演じ過ぎたのだとすぐに理解した。当人は「耐久上がって一石二鳥だな」などと笑っていたが、僕はそれを必要経費と割り切る事は出来ない。
 だって友達で、家族だから。痛みも悲しみも分かち合える人だから。

「僕が、替わる。バミューダと替わって探りを入れる!」
「はい駄目ー。駄目ですぅー。実際問題お前も腹芸出来ないし、既に行動も外見も目立つお前の知名度は上がりすぎてる。白髪も目立つし警戒されるだろ?あと任務中に我慢できずソーマ・ファミリアに突撃ヒャッハーしそう」
「ぐうの音しか出ない……」

 駄目だった。確かに僕に腹芸は出来ないし、堪えきれるか断言できない。だからせめて、僕はバミューダの傷の手当てをすることにした。神様にバレた時の事を考慮してバミューダアイデアでポーションを希釈してちまちま使ったが、生傷に綿に染み込ませた質の悪いポーションを使っているせいで痛そうだった。

「普通にポーション使えばいいのに」
「勿体ないだろ、高いんだからポーションは」
「このまえ僕にケチるなって言ったのは誰だっけ?」
「危険度の度合いと優先度を考えろっつーの。こんな傷程度に原液使う程俺たちはブルジョワじゃないぞー……いつつ」
「ほら、動かないで。治りが遅くなるよ」

 僕がリリを助けたいと言い出したから、バミューダはこうしてる。
 もしも僕がレベル3ぐらいの強さがあったら、バミューダはもっと直接的な殴り込みも考えただろう。でも僕には力がなく、更には知恵も仲間も足りなかった。だから今、身の程を弁えなかった分の損がバミューダに降りかかっている。

「強くならなくちゃ」

 バミューダと僕では、僕の方がステイタスの伸びがいい。だけどその力はまだちっぽけで、バミューダの策謀に役立つレベルではないようだ。今までバミューダとの冒険でそれほど苦労を味わってこなかった僕は、この時になって自分のちっぽけさを思い知らされた。

 人を助けるには、それに見合った力が必要だ。
 リリを助けるのも――バミューダを助けるのも。
 ごめんなさい、おじいちゃん。僕はハーレムより先に成長を取ります。



 = リリルカ・アーデの独白 =



 リリとしては――適当に話に乗りつつも適当なタイミングでこの集団から抜けるつもりだった。
 しかしあのベルとかいうカモり易いのは人のため人のためとお為ごかしのようなことを言い続けて勝手にリリを庇い、バミューダとかいうのはリリの浅はかなファミリア脱出計画が浅はかであることを遠回しに看破し、変身魔法を使う暇もなく気が付けばリリは「みんなで幸せになる計画」とやらに組み込まれていた。

 バミューダ・トライアングル――年の割には頭が回るようだ。少々粗を探してみたが、詰める理論は詰め、はっきりしない部分は推論を交えつつ調査して確かめるというスタンスは大胆に見えて慎重だ。そんな彼は、ベルと違って「取引」を持ちかけた。

「俺はベルと違って打算とか大好きでね?ぶっちゃけた話、うちのファミリアに専属のサポーターが欲しい」
「つまり、都合よくコキ使える人材が欲しいと?」
「うん。ただし待遇に要求があれば相談に乗るし、割に合わないと思ったら夜逃げしてもいいよ。ウチのファミリアに君1人を追跡する余裕はないからね」
「へぇ……ちなみに魔石の分の儲けの9割がサポーター持ちって言ったら?」
「厳しい条件付きで可。ドロップやレアアイテム目的の遠征と、魔石以外の儲けが7割超えてる時ならそれでもいいよ。ギルド仲介で誓約書書いてもいい」
 
 この回答には少し驚いた。普通なら「ふざけるな」と殴り飛ばされてもおかしくない滅茶苦茶な吹っ掛けに対して、本当に厳しい条件だが「いいよ」と言えるというのは、尋常ではない判断だ。内容も半端に下手に出るのではなく、厳しい条件によってフェアな関係を保とうとしている。

 正直、こういう返しをされるとは思わなかったので少し悔しく思う。一枚上を行かれたという、してやられた感覚だ。だからリリも、この男の計画に乗ってやろうと思った。
 どちらにしろ、ソーマ・ファミリアよりは簡単に逃げられるのだ。彼の計画が絵に描いた餅に終わるかどうか、見届けてから終わってもいい。

 だが――。

「どうして自分から傷つく必要があったんですか……?」
「迫真に迫る演技くらいはしないと、掴めるものも掴めないだろ?いてて………」
「ホラ動かない!まったく、また無茶ばっかり!」

 ぷんすか怒るベルの治療を受ける目の前の食わせ物が、何かリリの価値観と痛烈に食い違う。
 頭の回転がいい存在というのは、自分が傷つかず手を汚さずに利益を得ようとする、そのために狡いのだ。リリは少なくともそうだった。しかし目の前の男は、自分が傷つく事でよりよい結果を求めようとする。リリに言わせれば、こういういい方は癪だが『根性がある』。自分自身よりもだ。

 痛みに耐えるのは、簡単だ。策謀とて多少は巡らせられる。しかし他人を従えるのは無理だし、脅すのも無理だ。それは単純にリリの身体能力や技量の問題でもあるが、きっとバミューダとリリの違いはそこではない。

「納得できないって面してるから勝手に喋らせてもらうけどさ。代償を伴わない結果って、満足いくものになると思う?安い金で買った品は所詮やすっぽっちな品質しか持ち合わせない。結果得るなら目利きだけじゃなく相応の金を払わなきゃね」
「毎日品を値切ってるバミューダが言うと説得力半減だね」
「馬鹿め、代償は払ってるぞ。値切りに費やす時間と体力だ。タイムイズマネーの体現者だな」
「名前マネーダに変えとく?」
「ドラクエに出てきそうだなマネーダ」
「僕は確信を持って言うけど、多分その『どらくえ』はこの世界でバミューダ1人にしか分からない奴でしょ。ぜのぎあすおーぴーごっこと同じ系統でしょ」

 リリはこれ以上の痛みから逃げ出す事を選んだ。解放され、痛みにはもう向き合いたくないと思った。それは危険区域からの退避、つまりは逃亡者だ。しかしバミューダは痛みを伴わない行動が出来るのに、現状に満足せず環境を変える為に自ら痛みに飛び込んだ。逃亡者ではない、開拓者なのだ。
 バミューダは強者ではある。しかし決定的な強者ではない。その行動にはベルのそれを大きく上回るリスクがあり、それを小手先の技術と知恵でカバーして大きく見せている。本質的弱者――それでありがなら、格下を貶めて汁を吸うのではなく格上に立ち向かって虎視眈々と隙を狙う。

(精神的、強者。逆境に立ちながら泥の中で上を目指す人)

 彼の鞭。リリにとっては少しばかり衝撃だった。鞭の威力は確かに筋力に左右されるが、それ以上に鞭そのものが魔物に対する殺傷能力という点では圧倒的なまでに劣る。そんな一面的には『役に立たないもの』を、別側面からのアプローチで『役立つもの』に変えてしまえる。それは心の強さだった。

 星を見るか、泥を見るか。バミューダという男はもしかすれば、自分が『持ってはいないが持ちうるもの』を持っているのかもしれない。

「見届けさせてもらいますよ、バミューダ様」
「参加もしてもらうぜ、リリルカ嬢」
「僕としては嫌なら別にやらなくていいと思うんだけど、それじゃなんにも解決しないもんね……」

 すべての答えが出るのは、きっと遠くない未来の事。 
 

 
後書き
I=「痛みを恐れないで」。ってなんかJpopの曲のフレーズでよくありそう、のI。

二次創作者として9割死んでます。 
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