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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  Another/前回の物語





ショウが消えた。
翼刀も、唯子も消し飛んだ。

メンバーは世界に封じられ、残されるのはアリスと蒔風のみ。


援軍は来た。
頼もしい14人。

しかし、突破口はない。


勝ち目もない。
糸口もない。


この中で、彼は一体どうするのか。


これは、蒔風の知らない




しかし、蒔風舜の物語である。




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「グゥァッッ!!!」

失敗した。
玄武盾と青龍刀を手にして、セルトマンの魔力放出を耐えていたものの、ついに押し切られて弾かれる。

いくら何でも未知数すぎる。
セルトマンの正体がつかめない。


「どうした蒔風!!この俺の正体を、掴むんじゃなかったのか!!!」

「グ・・・ァ・・・・ペッ!!」

セルトマンの挑発に、口に溜まった血を吐き出して応える蒔風。

もう手はない。
セルトマンを倒す術はない。



もうああするしか、手段はない。




『アリス』

『なんですか!!』


ライダーたちとともに再生怪人を相手取るアリスへと念話を飛ばし、短く告げ始める蒔風。
その言葉には、いつもの自信はなく、あきらめにも似た哀しみがあった。



『すまない』

『え?ちょ、ま・・・なにをする気ですか!!』

『もうこれしか・・・・方法がないんだ』


パチリと、蒔風の双眸が開かれる。
同時に念話はシャットアウト。すでに、蒔風は覚悟を決めていた。



「セルトマン。お前に勝つ術は・・・俺にはない」

開翼する蒔風。
言葉の真意に、セルトマンは疑問符を浮かべた。


この男の言葉は―――――


「だが。お前を排除する術なら、見つけたぞ」


――――勝利を掴むにもかかわらず、敗北したかのような鳴き声が混じっていた。


嗚咽はない。
震えてもいない。

ただ、そんな気がしただけのこと――――――



ゴッッ!!

「これは・・・・時空転移・・・・?」

「終わりだ。セルトマン―――――!!!」


セルトマンの真上に、巨大な渦が発生した。
ただ渦というよりは、ヴォルテックスと言ったほうが発音的には激しさが伝わってくる。


その猛烈な吸い上げにセルトマンの身体が浮き始める。
それを踏みとどまるが、そうしているうちに蒔風がセルトマンにタックルを仕掛けてきて


「うぉっ・・・・」

「―――終わりだよ。お前も・・・・俺も!!」

蒔風が飛びついていき、セルトマンの身体が浮き上がる。
セルトマンの膝が蒔風の腹部に叩き込まれ、必死にはがそうとするが蒔風は離れない。

そして、そのまま渦に飲まれて



「ダメですッッ!!すぐにセルトマンを放して―――――」

(それじゃあこの渦は消えちまう!!この男は、確実に!!確実に倒さないといけないんだ――――!!)

叫ぶアリスに対し、しかし蒔風はそれを伝えることなく、思うだけに止める。
そして、蒔風は



ゴゥッ―――――シュォッ

セルトマンとともに、渦に消え散ってしまった。



「蒔風・・・・・・」

そして、その空を

ただ一人、アリスが見上げて涙を流した。





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無限の渦の中にいた。


洗濯機の中か、若しくは乱気流の中に放り込まれたかのようだ。
上下左右もわからず、だたどこかの方向に向かって飛ばされていることだけはわかる。


しかし、かき回される平衡感覚では、それが瞬時に右だったり下だったり斜めだったりと回転していく。


その中に、蒔風とセルトマンはいた。
バチバチと時折光るのは稲妻か、時空転移の反応か。

蒔風はセルトマンを放さないとがっしり掴んでいたが、セルトマンからすれば凄まじいGによって離れられないというのが正しかった。



そんな流位を続けて、どれだけの時間が過ぎたか。
1時間だと言われればそんな気がするし、思い直すと一分だったかもしれない。



二人はいきなりあいた穴からその急流から放り出され、ついに外へと跳びだした。
ドシャリと地面に倒れ、よろよろと立ち上がる二人。


呼吸が整うまで、立ち上がっても二人は何も言葉を発しなかった。


そして


「何をした」

「・・・・翼人は世界を渡る。世界と時間の密接な関係性は知っているな?」

これは、幾度も言われるものだ。
要はパターンAとBの行動があった場合、世界はそれだけ分離する―――所謂パラレルワールドというものだ。


「故に、翼人だって時間は超えられる・・・・ま、俺はそこらへんやったことないから、とにかく全力で来たけどな」

そう。
世界転移はともかく、時間転移となると大変なことになる。

パラレルワールドの転移ならば、隣の平行線に飛び乗ればいい。
だが、この場合は逆走するのだ。通常以上の力が必要なうえに、扱いもデリケートとなる。

そんなものと、ぶっつけ本番でやったのだ。
あれだけの乱気流も仕方がないというもの。


「ははは・・・それで?」

なるほど、理解した。
だが、それがいったい何だというのだ?


「たとえここがどれだけ過去だろうと、俺は死なない。寿命で死ぬとでも、本気で思っているのか?」

セルトマンは死なない。
少なくとも、セルトマンが生きるあの時間までは確実に。

蒔風の思惑は外れたのだ。


しかし


「はっはっは!だがあれだけのことをしてお前の力は落ちている!!今のお前なら・・・な・・・ら・・・・」

しかし、セルトマンの歯切れは悪くなっていく。
言葉を荒げるたびに、段々と呼吸を深くしていき、ついには嘔吐くかのような呼吸をするほどになってしまう。


「どうした?・・・・顔色悪いぞ?」

蒔風が静かに告げる。
それはセルトマンの精神的なものを表した顔色ではない。


本当に、セルトマンは、体調を崩していた。


「な・・・にを・・・・?」

苦しさに涙まで滲み、かすれていく視界。
だがその視界に異常が映ったのは蒔風だけではなかった。


「翼・・・が・・・・・?」


開翼していた蒔風の翼が、ハラハラと散って消滅していく。
羽となって散り、そしてそれもまた粒子となって消える。

その様子を、蒔風は振り返るでもなく、流れる粒子の先を見るわけでもなく


ただ拳を固めて、悲しそうにうつむいているだけだ。




「お前・・・何をした・・・・!?」

「ここは過去の世界―――――ずっとずっと過去の世界だ」


蒔風にとって、時間流位は初めてだ。
どれだけ力を籠めれば、どれだけ戻れるかわからない。

だから全力を使った。失敗だけはできなかった。
とはいえ、発動の瞬間にすべての力を引っ張り出されてしまったのだから、調整も何もなかったわけだが。



「ず・・・っと・・・・だと・・・」

呼吸が苦しい。
だが、セルトマンは聞かねばならない。


「どれだけ過去かはわからない。ただ確実なのは、この世界はただの“no Name”ってことだ」

「の・・・・まさ・・・か・・・・」


簡単な話。
最大世界から過去にさかのぼったとして、それを蒔風が行えば当然「the days」のものへと帰るだろう。

では、その世界に魔術はあったか?
答えはNoだ。


世界修正の前には、セルトマンの完全も役には立たない。

力を使い果たし、心身共に、そして力も足した使い果たした蒔風の「翼人」ですら消されてしまったのだから。



(まずい・・・では、これは・・・・)

蒔風は知らない。
セルトマンの肋骨を。


ただ、魔術も何もないこの世界で、泥を胸部に埋め込んで、体調を崩さないわけがない。



「今の俺はただの人間。今のお前もただの人間。だが今のお前は、どうしてか知らんが具合が悪そうだ」

そういって、そこらに転がっているバスケットボールほどの岩を持ち上げる。
重そうにしているが、振り上げて落とすのには不自由しない。



「ま・・・て・・・ハァ・・・・それでは・・ハァ、ハァ・・・・お前は永遠に」

「そうだ。俺にはもう元の世界に戻る手段はない」

そうだ。
蒔風はもう、あの世界に戻れない。


あの仲間たちのもとへは戻ることができない。


この時間で、彼は死ぬしかないのだ。



「は・・・ははは!!なんだ。結局心中するしかないわけだ・・・・」

「・・・・・・・」

「俺はアーカイヴに接続していたんだぜ?俺がこうして未来を一度経験している以上、「次の俺」は未来を読めるはずだ!!」

「ああ」

「つまり、お前のこの行動は全くの無駄だ。なにせあの瞬間、お前を引きはがせればお前は勝手に消えるんだからな!!」

ゴッッ!!!


セルトマンの言葉ごと、文字通り叩き潰すように蒔風が岩を振り下ろした。
思った以上に固い頭蓋骨は簡単には砕けず、一撃で絶命はさせられない。



「お前は負ける」

ゴッ

「どうしても無意味だ」

ゴッ

「ここで何を手にいてれも」

ゴッ

「「アーヴ・セルトマン」に」

ゴッ

「敗北はない」

ゴッ

「無駄だ」

ゴッ

「ここで」

ゴッ

「お前・・・」

ゴッ

「お゛・・・わ・・・」

ゴッ

「俺h」

ゴッ

「完・・・せ・・・」

グシャ






一面の黄土色。
気休め程度の茶色と緑。

その世界に、濃い赤が付け加えられた。


一人は地面に倒れ、一人はのそりと起き上がる。
ボトリと、持っていた岩を落として、しばらく放心する。


そして




空に向かって、声を漏らした。
大声で叫ぶそれを聞く者はおらず、ただただ男の哀しみは空へと吸い込まれていく。




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それから男は、地面に転がるもう一人を引き摺って、そこから見えた森へと入った。
距離はあったが、時間には余裕がありすぎている。


そこで、男は動かない男を分解し始めた。


目当てのものは、簡単に見つかった。

それを記憶のうちにしっかりと留め、死体を埋め、その場を後にした。




長い旅が、始まる。




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男は集落にたどり着いた。
とはいっても、すでにほとんどか崩れてしまっている。


もうここに人はいないらしい。
半分遺跡となっている集落だ。

住居も洞窟に住んでいるというだけの簡易なもの。



そうして洞窟内に何かないかと探していると。


そこで、男は見た。

掠れてしまいそうな記憶から、それを思い出す。


そうだ。
確かこれは、『誰か』が見学に行くとか言ってた絵だ。

これを誰かが、見に行くと言っていた。


ならば、男がやることは一つだ。



枝や石を使って、必死になって削り始める。
皮膚が裂け、血が垂れても、男は諦めずに削り続けた。


元々絵心のない男にとって、それは大変な仕事だった。
簡単な棒人間を描くしかない。

しかし、男はやり遂げた。



やっとの思いでそれを書き上げ、そこを後にしていく。


そして、また旅に出た。
「自分」があの近くで死に、発見されるのは避けたい。




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長い時間が経った。


男は、最初に現れたのと似たような荒野をさまよっていた。




あれから、人間には出会った。
しかし、男を受け入れてくれる場所はどこにもなかった。

表面上は受け入れていても、やはり彼はその場にとどまれない。

そうして集落を転々とし、男はついに力尽きた。
食料の豊富な土地ではないのか、男の体力も、命も、限界だった。


バタリ、などという、体重を感じさせる倒れ方はしなかった。



パサリと

乾いた大地にふさわしい音とともに、男は倒れた。



そして、目を閉じる。


あの男は、自分で完成してしまった。
完結してしまった。


だが、人間の凄さというのは、完全になることではない。
人間―――否、生命というものの素晴らしさは、後世に伝えることができる、未来に繋げていくことができることだ。



あの男は、確かに強力だ。
だが、その「完全」は停滞と同義。

「進展」していく者に、いずれ追い詰められていくのだ。




男の意識が消える。
心臓が、停止して。


死んだ。



荒野に、ただ一人の男の身体だけが残り



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「―――――――」

男の意識は、黒い空間にいた。
足元を淡い光が照らす、真っ暗な空間。



そこに、男はいた。
振り返ると、ドレスを着た女性が、まるで我が子を見るかのような表情で微笑んで待っていた。



―――座りましょう?

そういうと、どこからともなくテーブルとイスが現れた。
ガーデンでのティータイム、とでもいうようなその一式に腰を掛け、男は本当に久方ぶりに声を出した。


―――ここは?

―――ここは世界の外。私は管理者

―――管理者?

―――あなたは、とても大きなことを成し遂げましたね

―――そんな・・・気がする・・・

―――見てください



女性が手を軽く振るうと、黒い空間の中にいくつもの天体が生まれた。
男は、それが様々な世界であることを、なんとなく感じ取る。


―――これらの数多の世界。今は少ないですが、これから多くが生まれるでしょう

その祝福を祝うかのように、女性がパチ、と手を叩く。
すると、シャボン玉のようにフワリと、また別の世界が誕生した。


―――祝福を

彼女がやっている、というわけではなく、どうやらタイミングを合わせてやっているだけのようだ。
しかし、同時に悲しそうな顔をして別の天体に目を向ける。


男も視線を向けると、その天体が黒く染まり、ついには背景に溶けて消滅していってしまった


―――あ・・・・

―――いま、世界が一つ消滅してしまいました。

―――そんな

―――今の世界は、殆どが成りかけです。そのすべてが誕生の可能性を持ち、そのすべてが何かの拍子に崩壊してしまう可能性を持っています。

―――どうにか

―――したいですか?



――――――「ああ」

―――まだ、戦うというのですか?



――――「もし、俺にそれができるなら」

―――戦いたいのですか?




――「戦いたくはない。ただ俺は」

―――そうですよね




「俺は、そこにいる人を、助けたい。消えていく世界を、見ていたくない」

―――では、あなたはいくというのですね?




コクリと、男は頷いた。
自然と、背中に翼が生えてきた。

銀の輝き。
煌めく白。



コトリとティーカップを置いてから、男は椅子を引いて立ち上がる。
そして一礼をしてから、世界の浮かぶその空間へと足を踏み入れた。


その背中を、女性は嬉しそうに、しかし悲しそうにも見える表情で見送った。
自分たち管理者は、やはり自分では何もできないのかと。



「どうしたんですか?」

「あら、どうしたのそんなところで」

その女性のスカートのすそを、一人の少女が掴んでいた。
その間もなく幼女から抜け出そうとするほどの年齢の少女は、向こう側へと歩いていく青年の背を見つめて聞く。



「あの人は?」

「あの人はね、守りに行くんですよ」

「せかいを?」

「いえ・・・・皆を、です」

「わたしもまもりたい!!」


手を上げて、元気にそういう少女。
その少女の頭に手を置いて、女性は優しくなでていく。


「そうね。守れるといいわね」

「うん!!」

大きく頷き、男の背を見る。
段々遠くに行く男を見ながら、女性は少女に言った。



「しっかり見ておきなさい、アリス。あれが「希望」よ」

「・・・すごくキレー・・・・・」















歩を進めていく翼人

まるでマントを翻すかのような動作で翼を払い

ばさりと大きく振るわせてから



その眼に光を宿してはっきりと宣言した。




「俺は――――世界をめぐる、銀白の翼だ!!」




A pace does'nt stop.
Let's go Another Now World...

 
 

 
後書き

はい、これで第六章はほんとに終わりです。
ここからまた別の「めぐ銀」が始まるとか思うと胸熱ですね。


あの壁画を描いたのは、未来から回ってきた蒔風自身でした。
タイミングとしては、ライダーが助けに来たところです。しかし、突破口が見つからず、苦肉の策に。


蒔風は知ることはなかったですが、どれくらい昔かというと2000年前。
これだけ古いと、もうデンライナーも行き着けません。


あとは大体、日常編に書いていた通りですね。



アーカイヴがあったから、セルトマンは未来の分も読めたんです。
なぜならば、「アーヴ・セルトマン」という人物は、一度その時間軸を通過しているわけですからね。


次に繋いだから勝てた蒔風と、次に託しても勝てなかったセルトマン。
やはりそこに、未完成でありながらも、強力な人の力、というものがあるのでしょう。


 
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