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提督はBarにいる。

作者:ごません
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風邪引き提督と艦娘達・1

「ふぇ……っぐし!」

「38度7分……完全な風邪ですねコリャ」

 風邪を引いた。それも人生で何度かしか記憶にない酷い奴を。大抵『風邪っぽいなぁ』と思っても、半日もするとケロリと症状が消えるんだが……今回は立ち上がるのも億劫に感じる位には身体が重い。軽々しく言ってのける明石が怨めしく感じる。

「そんな怨めしそうな目をしてもダメですよ~?風邪の原因は解りきってるでしょ?提督」

 そう。この風邪の原因は俺の自爆に近い。昨夜、調子に乗った結果がこれだ。以前から要望のあった大浴場の露天風呂(それも岩風呂!)が完成し、その使い心地を一人で試していた所に、どこから嗅ぎ付けたのか発情した女豹……もとい、嫁艦共が襲来。1対1なら兎も角、流石に複数に迫られると勝ち目が無くなり、そのまま流されるように風呂でハッスル。スタミナを消費させられた上に湯冷めしたモンだからこの様さ。正に自業自得。

「しかし……もうすぐ秋の大規模作戦も近い。こんな時に寝てる訳には」

「いいから寝てて下さい、大体提督は普段からワーカーホリックで過労気味なんですから。この際1週間位安静にしてて下さい!」

 ふらつきながらも立ち上がろうとしたら、明石に両肩を押さえ付けられてベッドに無理矢理戻された。

「インフルエンザではないと思いますけど……一応検査の為に採血してきますね」

 注射針を刺されたのかも知れないが、それすら感覚が無い。身体が言うことを聞かない。

「じゃ、私はこれで。お薬は後で持ってきますから」

 バタンとドアが閉まる音がしたと思ったら、ドアの向こうで明石が誰かと会話してるのが聞こえる。この声は……大淀、か?

『どうだった?』

『う~ん……ただの風邪だと思うけどねぇ』

『でもあの不死身の提督をノックアウトする病原菌だからね、油断は禁物だわ』

『そうだね、私達にもかかるような未知のウィルスだったりしてw』

『有り得なくも無いから困るわ~www』

 ……畜生、聞こえてんぞ腹黒眼鏡と淫乱ピンクめ。そんな事を考えながら、俺は意識を手放した。





 どれ程眠っていたのだろうか。熱は下がっている様子は無いが、猛烈な空腹感と喉の渇きで目が覚めてしまった。普段なら閉店時間から昼まで起きずにグッスリなのだが、体調が悪い上に寝る前にハッスルしたせいで空腹を身体が訴えているらしい。

『参ったな……この調子じゃあキッチンに立てそうもねぇし』

 そんな事を考えていると、コンコンと扉をノックする音が。

『提督?翔鶴です。入っても宜しいですか?』

「あぁ、入ってぐ……ゲホッゴホッ!」

「大丈夫ですか!?」

 無理に喋ろうとして咳き込んでしまった。そんな様子を扉越しに聴いたのか、慌てた様子で翔鶴が駆け込んできた。

「だ、大丈夫だ。少し咳き込んだだけで……ゴホ」

 それよりも、翔鶴が抱えているお盆の上の中身が気になるんだが。

「いい匂いがするな……それは?」

「提督が風邪で寝込んでいると聞いて、お粥を作ってきました。本当は皆さん来たがったのですが、たまたま非番だったので私が」

「そうか、悪いな」

「いえいえ、私も仮とはいえ提督の妻ですから。具合の悪い時くらい頼って下さい」

 しかし料理上手の翔鶴が作ったお粥……これは期待せずにはいられまい。翔鶴に手を貸してもらい身体を起こし、座らせてもらう。翔鶴はベッドの脇に置いてあった椅子に腰掛けると、お盆の上の土鍋の蓋を開けた。途端にふわりと香ってくる、美味そうな匂い。

「白粥の方が良いかとも思ったんですが……中華粥にしてみました」

「いや、助かる。実はあんまりお粥ってのが得意じゃなくてな」

 あの味の薄い、如何にも病人食って感じの白粥は昔から好きになれない。数少ない風邪を引いた時にも、雑炊やうどんにしてもらって白粥は避けた程だ。

「なら良かった……まだ少し熱いので、冷ましますね」

 翔鶴は土鍋から持ってきていた茶碗によそい、匙に取ってふぅふぅと息を吹き掛けている。

「はい、あーん♪」

「……いや、流石にそれは恥ずかしいんだが」

「むぅ、調子の悪い時くらい思いっきり甘えてくれてもいいんですよ?」

 流石に四十も後半に差し掛かったオッサンが、見た目は20代中盤位の女性にあ~んされるのはキツい、というか恥ずかしい。もう少し歳を喰ってジジィならば介護の予行演習だ、とでも割り切って大人しく世話されるが。

「あ~ん!」


 しかし押しに弱い翔鶴、今日は諦めない。粥が入った匙を俺の口の前に突き出し、開けるまで動かしません!といった格好。俺も腹が減ってるし、食べずに泣かれても困る。

「あ、あ~ん……」

 観念して口を開けると、そっと差し込まれる匙。口を閉じたその瞬間、口の中に広がる鶏肉の旨味と生姜とごま油の香り。それに……コリコリという歯応えはザーサイだろうか。塩味だけの白粥より断然食べやすいし、美味い。

「うん、こりゃあいい。身体も温まるし、何より美味い」

「そうですか!?まだまだありますから、いっぱい召し上がって下さいね♪」

※翔鶴特製・中華粥のレシピ(1人前)

・ご飯:茶碗に軽く1杯

・生姜:1片

・青ネギ:1/2本

・鶏むね肉:50g

・薄口醤油:小さじ1~

・塩:少々

・ごま油:小さじ1/2

・鶏ガラスープの素やウェイパー等:お好みで

・いりごま、ザーサイ等:お好みで


 鍋に500ccのお湯を沸かし、沸騰するまでの間に生姜と青ネギをみじん切りにしておく。鶏むね肉は細いささがきにして、塩を1つまみ振って軽く揉んでおく。

 沸騰したお湯にご飯を入れ、2分程強火で煮たら中火にし、10~15分好みの弛さになるまでよくかき混ぜながら煮る。

 鶏肉と生姜を加えたら、鶏肉に火が通るまで煮込み、醤油や塩で味を整える。

※物足りなければ鶏ガラスープの素等をプラス!

 鶏肉が煮えたら火を止め、胡麻などの薬味を加えて軽く混ぜる。器に盛り、青ネギを散らしてごま油を軽く掛ければ完成。







「完食ですね、偉い偉い♪」

「……俺はガキかよ」

 腹も減っていたし、翔鶴の粥が美味かったので完食したら頭を撫でられた。褒められるような事じゃねぇと思うんだが。しかもナデナデすんな、恥ずかしいから。

「す、すみません。瑞鶴が体調崩した時に撫でてあげると喜ぶ物ですからつい……」

「つい、じゃねぇよ。お陰で熱が上がってきそうだ」

 腹も満たされて再び眠たくなってきた。真っ赤になっているであろう顔を熱のせいにして、布団を被る。

「暫く寝る。他の連中にも静かにしてるように言っといてくれ」

「了解です。あの……添い寝のご用命等はありませんか?」

「いらん、帰れ」

「そう言わずに」

「頼むから静かに寝かせてくれ……」

「HEYショーカク!darlingと添い寝するのは私デース!」

 ほら見ろ、また騒がしいのが来やがった。

「morningのデリバリーのジャンケンは負けたケド、それ以上のお世話はノー!なんだからネ!」

「……金剛」

「ん?どしたのdarling」

「うるせぇ。しばくぞ」

「Oh……」

 普段ならその元気のよさは有り難いが、今はその声のデカさが頭に響く。本気でイラっとするから勘弁してくれ。

「大人しく撤退シマース……」

「そうしてくれ」

 ふぅ。ようやく静かになった……おやすみ。 
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