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ガンダム00 SS

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ep3 歪みに生きる私は

 
前書き
人革軍の超兵1号、ソーマ・ピーリスの話です。時系列でいうと、1stの合同軍事演習でチームトリニティに水を差された後の話です。セルゲイとピーリスが宇宙にいる場面があったので、そこからいろいろと連想しました。 

 
軌道エレベーター内を走るリニアトレインが無重力空間に入り、身体を抑える物的圧力がふわんと抜ける。ソーマ・ピーリスはそれを機に気分を変えようとしたが、無理だった。

脳裏をよぎるのは、タクラマカン砂漠における合同軍事演習だった。羽根つきのガンダムを鹵獲し、基地へ帰投する途中、人革軍超武特務部隊は新たなガンダムの襲撃を受けた。部隊は行動不能になり、あえなく撤退した。

ーー新しいガンダム。

オレンジ色に光るガンダムは、ビームを発射する小型兵器をいくつも搭載しており、ティエレンの装甲を走り間際に突き破っていった。

ーーソレスタルビーイングは、我々の真意を予測していたというの?

合同軍事演習の真の目的はガンダムの鹵獲だ。そして、それはあともう少しで成し遂げられたはずである。

ーー私は超兵1号として、任務を遂行する。

ーー戦いのために生み出され、生きているのだから。

リニアトレインの向かいには、セルゲイ・スミルノフ中佐は大きな体躯を背もたれにつけ、窓際に映る軌道エレベーターの内壁を眺めていた。すると、彼はふと思い出したようにピーリスに話しかける。

「そういえば、少尉は身体検査の後、テスト機の試験運用に就くという報告を受けているが」

「はい。ティエレンの次世代量産試作機の特殊兵装だそうです」

「テスト機はその名の通り安全性が担保されていない。タオツーのとき同様、異常には備えておくんだ」

「はッ」

リニアトレインが徐々にスピードを落とし、宇宙ステーションに到着する。ピーリスはスミルノフ中佐の後に続き、ステーションへと降り立った。



人革軍ラオホゥのMSデッキ。ティエレンの無骨なシルエットばかりが佇む中で、ピーリスはテスト機に対面していた。

上半身はティエレンだった。濃いグレーを基調に赤や黒の塗装が所々に施されている。頭部にある2本のアンテナが特徴的だった。

だが、それ以上に目を引いたのは下半身の大型ユニットだった。人型がベースのMSを考えると、この機体はMSとMAの中間とも捉えられる。

ピーリスの隣にいた長身の技術士官が顎をくいっと動かし、機体を示した。

「ティエレン高機動ユニット装備型。通称『トゥーオゥ』だ」

「トゥーオゥ……?」

「土偶って意味だよ。こいつ、土偶みたいだろ?」

技術士官が機体を指差しながらハハハッと笑い、説明を加える。

「ティエレンの次世代機開発プランの1つだ。タオツーをベースに考案された、ティエレンの次世代量産試作機。それを対艦隊戦特化兵装に化かしたのがこいつだ。下半身にブースターを増設したが、全高は少し低くなっている。パイロットの負担はさほど大きくないはずだが……」

「何か?」

「テストパイロットはもう1人いてね。ただ彼ではトゥーオゥを上手に扱えなかった。そこで超兵である少尉の力を借りることにしたんだ」

ピーリスは再びテスト機を見やる。形状からもトリッキーな機体であることが窺えるが、彼女は淡々と言った。

「分かりました。すぐに始めますか?」

「そうだな……。1時間後にテスト飛行をしよう」

「了解」

ピーリスは技術士官に敬礼し、その場から離れた。

タオツー以外の機体に乗るのは極めて珍しい。だが、ピーリスの心は特に高揚することも緊張することもなく、平坦だった。


ーー私は戦いのために生み出された存在。これもまた戦争の一環であって、私はそれに従うまでだ。

だが、それとは別にスミルノフ中佐の言葉が脳裏で再生される。

ーー『テスト機は安全性が担保されていない。異常には備えておくんだ』

中佐はいつも的確な判断や忠告を部下に与える。ピーリスは彼の言葉に心中で頷き返した。



1時間後、ピーリスは時間きっかりに技術士官の前へやってきた。パイロットスーツは超兵用ではなく、一般で使用される物に変更してある。

「時間ジャストだな。よし、じゃあよろしく」

「はッ」

ピーリスはトゥーオゥのコクピットハッチを開け、中に入る。ここの作りは今までのティエレンと同じだった。

コクピットは全周モニターのタオツーとは違い、宇宙用ティエレンと同型を使っている。

「機体状況確認、各部接続異常なし。オールグリーン」

『ラオホゥ出撃後、テスト飛行と実戦運用をしてもらう』

「実戦運用?」

ピーリスは思わず眉を寄せて聞き返してしまう。そんな話は聞いていなかったのだ。

技術士官は軽い調子で言葉を続ける。

『スミルノフ中佐には反対されたんだけどな?大事な部下を完全体でないMSでは戦わせられないと。だが安心してくれ。模擬戦だ。確実に仕留めるまではいかないさ』

「中佐は承諾されたのですか?」

『説得、というか理詰めで抑えたよ。ピーリス少尉は超兵1号として、軍の未来に繋がる任務に就くのだと話した。さて、お話はそろそろ終わりだ』

技術士官はピーリスの言葉を待つことなく回線を切る。彼に聞きたいことはいくつかあったが、ピーリスは無理やり頭を切り替えた。

「ティエレントゥーオゥ、発進します」

ラオホゥのハッチが開き、機体が宇宙に射出される。ピーリスは機体のテスト飛行を始めた。

性能については良好だった。対艦隊戦をコンセプトにしているだけあって、機動性は高く、運動性もタオツー並だ。機体制御はやはり一般機よりも扱いづらいところがあるが、ピーリスには特に問題なかった。

続いて、ラオホゥから新たにMSが射出された。ティエレン宇宙型3機とラオホゥ1機がこちらへと進行してくる。

『少尉、今から対MS模擬戦に入る。プログラムに従って仮想敵との戦闘を行ってくれ』

「了解」

ピーリスはヘッドディスプレイに表示された行程を確認した。ティエレン1個小隊の攻撃を切り抜け、後方に構えるラオホゥを叩く。対艦隊戦特化のトゥーオゥらしい戦法だ。

ティエレンが滑空砲を放ってくるのを、ピーリスは機体を操作して躱す。機体が彼女の感覚についてきて、実弾を軽々と回避していく。見た目とは裏腹な身軽さに彼女は驚いた。

順調に進む模擬戦の中で、ピーリス技術士官の言葉を思い出す。

ーー『上層部の一部で、ソレスタルビーイングへの第2の物量作戦について話し合われている』

ーー『そこでトゥーオゥは、ソレスタルビーイングのスペースシップに攻撃をかけることになるかもしれん』

合同軍事演習の場を提供した人革連は、作戦の失敗により世論の非難を受けている。さらに新たなガンダムが出たため、これ以上のリスクを負って物量作戦を実行することは考えにくい。 スミルノフ中佐はそう話していた。

ーーそれでもソレスタルビーイングを倒すことができるなら、私は戦う。

ティエレンの攻撃を抜けたトゥーオゥは、さらにスピードを上げてラオホゥの前方に躍り出る。右腕に装備したリニアカノンをラオホゥに向けたところで、コクピットに通信が入った。

『プログラム終了。これで模擬戦を終了する。少尉、ご苦労だったな』

「母艦に帰投します」

ピーリスは模擬戦を行ったティエレンたちの後に続く。

トゥーオゥの力は確かだ。ピーリスは、自分がこの機体を駆ってガンダムと戦う姿を想像する。彼らの母艦に一撃を食らわせるトゥーオゥは、まさに世界の答えを代弁しているようだった。

ーー軍部の思惑が何にせよ、私は指示に従って戦うまでだ。

ーー私は戦争の中で生きる兵器、超兵なのだから。

ソレスタルビーイングは戦争を世界の歪みとして、武力による戦争根絶という矛盾行為を行っている。そして、それを止める正当な行為というのもまた、武力だとピーリスは考えていた。

ーー私は戦う。それが、歪みに生きる私の存在意義だ。
終 
 

 
後書き
ティエレン高機動ユニット装備型[トゥーオゥ]

トゥーオゥは中国語で土偶の意。
本機はタオツーの下半身に試作の高機動ユニットを増設、全高を下げて機体制御機能を向上させた対艦用強襲MSである。次期主力量産試作機の局地戦闘兵装として考案され、実際に1機が製造された。ガンダムに対する中長期計画の一環として超武特務部隊に配備される予定だったが、ジンクスの配備により運用計画から外れることになった。

http://www.modelers-g.jp
プラモデル作品投稿サイト『モデラーズギャラリー』様にtbKg-yuのユーザ名で本機をアップしています。これをご覧になった方には、土偶っぽさがお分かりいただけるかと思います。また、下半身の増設ブースターの正体も……(笑)

第4話は11月25日に投稿します。 
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