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小ネタ箱

作者:羽田京
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ONE PIECE
  旧版1話

 
前書き
プロローグの続きです。
果たして謎の少年の正体とは・・・? 

 
「いやあ、生き返った! 助かったぜ!」
「そうか、死なれては困るからな。……それにしてもよく食うな」

 助けた少年は、なんとか一命を取り留めた。
 3日も目を覚まさなかったものだからハラハラしたものだが、目を覚ました第一声が「腹減った!」だったものだから脱力した。
 弱った体に合うよう消化によいものを、と思い準備しておいたスープを瞬く間に平らげると "肉をくれ" という。


 止めろといったのだが、聞く耳持たず。
 試しに焼いただけの肉をやると、食べるわ食べるわ。
 気持ちのいいほどの食べっぷりである。大層な健啖家だった。

「で、何があったか話を聞かせてもらおうか」
「おう、助けてくれたからな」

 少年の話によると、彼は『海軍』とやらに入隊したての新兵らしい。
 初めての航海で海賊と会敵。あっさり撃破したものの、嵐に呑まれて船は沈没。
 彼も丸太につかまって丸三日も漂流していたそうだ。
 よく生きていたものだ。

「ほう、ボウヤはまだ10歳なのか。小さいのにえらいな」
「そういうあんたも同い年くらいじゃねえか!」
「……まあ、こう見えてボウヤよりは年上なんだよ」

 ボウヤ扱いにむっとしたのか、少年は言い返してきた。
 まさか600歳を超える真祖の吸血鬼なんだ、と言うわけにはいかず、適当にごまかす。
 しつこく歳を尋ねてきたので "女性の歳を聞くな!" と拳骨を落としておく。

「いってええええええええ! なんだこのバカぢから!」
「上下関係は、きっちりせんとな」
「俺よりすげえな。拳骨には自信があったのに」

 なんだそりゃ。
 まあ、話してみると気持ちのいい奴だった。
 私が島の生活について話すと大げさに興味を示すし、私が世界にあまりに無知なのについても、とくに不審の目を向けることなく、常識の基礎から教えてくれた。


 ただ、少年以外に生存者はいないと伝えると、さすがに落ち込んでいたが。
 すぐににかっと笑って彼らの奮闘を家族と本部に伝えるのが俺の役割だ、と言っていた。
 見え見えの強がりだったが、そうだな、と同意しておく。
 男の子だもんね。

「だが、残念ながらこの島は無人島でな。果たして助けが来るかどうか」

 なにせ600年間だれも来なかったのだ。
 この少年が死ぬまで見守ることになるのだろうか。そう思っていたが、彼はあっさりと答えた。

「いや、このあたりの海域は、最近見つかった有望な航路らしいんだ。これから船の行き来はずっと増えてくるだろうし、海軍の捜索隊もくるはず。3か月以内には脱出できるんじゃね?」
「……ほう、それはいいことを聞いた。私もいっしょに出られるかな。無人島に住む戸籍もない不審者なんだが」
「大丈夫さ。海軍は命の恩人を無碍にはしない! それに――――」
「それに?」


「海軍の英雄に俺はなる!」


 だから無茶を言っても平気だぜ。


 そういって、眩しいほどの笑顔を向けてくる少年――――モンキー・D・ガープは嫉妬するほどかっこよかった。




「ま、まいった」

 ぜーぜーと息をしながら仰向けに倒れたガープ少年は降参した。
 私を強者と認めたのか模擬戦をお願いしてきたのである。
 私自身の強さを知るためにも快諾し、いまのところ全戦全勝である。

「弱いな」
「んな!? これでも俺は同期のホープだったんだぜ」

 自信なくすなあ、と珍しくどんよりした空気を出すガープ。
 そうそう、ガープが姓だと思っていたんだが、こっちが名前らしい。
 命名規則が苗字+名前の東洋方式が主流のようだ。ややこしい。


 エヴァンジェリンの力は中将でも相手にできそうだな、と言っている。何それ強いの?
 へー、この世界でも最強クラスなのかー。
 ただ、ガープと比べると強すぎて正確な力はわからないそうだ。
 そんなガープ少年も本部少佐相手に勝ったことがあるそうだが。
 階級=強さ、なのか? ははっ、まさか。

「だから面倒な書類仕事なんかせずに、がんがん悪い海賊をぶっ飛ばしていくんだ! 海軍の英雄になって、いつかは俺が元帥になってやる!」

 ふーん、ひたすら強さが尊ばれる世界なのか。魔法もないそうだし、こりゃネギま!の世界じゃなさそうだな。
 だが、聞き捨てならんことがある。

「貴様が昇進すれば必然的に書類仕事は降りかかってくるぞ? 軍というのは巨大な官僚組織でもある。士官になれば書類仕事は必須だし、それができないやつが出世などできるものか。馬鹿者め」
「え、マジ!?」

 前世の聞きかじりの知識だが、そう間違ってはいないはずだ。
 軍隊を動かすということは、大勢の人と金と物資を動かすということだ。
 当然、書類による伝達が不可欠であり、偉くなればなるほど決済する書類は増加する。
 しかも、パソコンなどない中世レベルの世界のようなので、なおさら書類仕事は大切である。


 腕っぷしだけで中将になれる軍隊なんて、そっちのほうがびっくりである。
 マンガじゃあるまいし。


 聞けばガープ少年は、ひたすら悪・即・斬でいけば昇進できると勘違いしていたようだ。
 それはいけない。
 少し過ごしただけだが、この少年はきっと大成する。
 今は自分が強いと勘違いしている弱っちいボウヤだが、その気っ風のいい性格はある種のカリスマ性があると睨んだ。

「だから、勉強しろ」
「ヤダ!」

 チッ、人が親切で言ってやってるのに。
 だが、この少年を腐らすのは勿体ない。
 さて、どうやって教育してやるべきか。




「どうした! もう終わりか! 海軍の英雄になるんだろッ!?」
「く、当たり前だ!」

 どうみても自分と同い年くらいの少女にしかみえない。
 ただわかるのは、この命の恩人の少女、エヴァンジェリンがとんでもなく強いということだ。
 聞けば、気づいたらこの無人島にいて、ずっと一人で暮らしてきたらしい。
 笑いながら話してくれたが笑いごとではないと思う。


 だが、この強さならサバイバルできて納得かもしれない。
 中将クラスではないか、とエヴァンジェリンにはいったが、ひょっとしたら入隊前にちらりとみた大将相手でも戦えるのではないか。

「うおおおおおお!」
「まだまだだな、ボウヤ」

 破れかぶれのパンチはあっさりとかわされ、気づいたら目の前に拳があった。

「ま、まいった」

 神速の正拳突きを前に、震えが止まらない。
 今朝みせてもらった光景を思い出す。
 "感謝の正拳突き" だといって1万回の正拳突きをするという。
 何かの冗談だと思って見学して、見てしまったのだ。


 ――音を置き去りにした正拳突き


 気が付いたら涙していた。
 己の自慢の拳骨など児戯ですらないと、自らを恥じた。
 土下座して弟子にしてくれと頼み込んだのだが、渋る彼女にある条件を出された。
 
「ほら、勉強の時間だ」
「……へーい」

 勉強は正直嫌いだ。
 けれども、海軍の英雄になるために必要だと、師匠に言われてしまっては断れない。
 それに、弟子入りするための条件なのだから逃げようがない。
 

 聞けば、エヴァンジェリンは難破船に積み込まれていた本で独学したらしい。


 強くて頭もいい。


 それでこそ、海軍の英雄に相応しいそうだ。
 正直強さだけでも昇進できると思っていたのだが、その自信は砕かれたばかりである。
 ならば、素直に従おう、と思えるのはガープの長所といえた。




「ハッ、ハッ、1万回ィ!」
「よし、いいぞ。よくやった」
「ははは、日没までに感謝の正拳突き1万回終えたぞおお!」

 雄たけびを上げてぶっ倒れるガープ少年を見て思う。


 ――こいつは天才だ!


 頼まれて稽古をつけてやったのだが、私がこのレベルになるまでに何年かかったと思ってやがる。
 それが、2か月少しでこのレベルまで追いつきやがった。
 さて、何年あるいは何十年で私のレベルに追いつくか。
 末恐ろしくもあり、頼もしくもある。


 勉強もみているのだが、こいつ頭の回転もよかった。
 てっきり居眠りしたり逃げようとしたりするのかと思っていたが、強くなりたい、海軍の英雄になりたい。との思いは本物のようだった。
 野生の直感だろうか、ひらめきはすでに私を上回るだろう。
 戦術指揮では頼りになるに違いない。


 苦手な勉強も必死に食いついてきて、見る見るうちに消化していく。
 スポンジが水を吸うよう、というのはこいつのためにあるような言葉だ。
 まあ、おおざっぱな性格はそのままだが、これはガープ少年の長所でもあるからいいだろう。


 そんな生活がそろそろ3か月に届こうかというころ。

「ん? あれは、船!? カモメのマークが帆にあるな」
「おぉ!! そりゃ海軍の船だ! おーいこっちだー!!」

 遠くに見えた船がこちらへと近づいてくる。
 あれがこの世界の海軍の船なのだろう。
 木造の帆船だがなかなか立派である。

 荷物をまとめるとするか。
 大喜びするガープ少年のせいで、いまいち喜びの声を上げづらいが、わくわくする気持ちを私も抑えられなかった。 
 

 
後書き
※ガープくんでした!
※ガープ強化フラグが立ちました。頭脳派になれるのか。修正力さんとの勝負です。
※次は明日更新します。 
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