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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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IF STORY
  短編

 
前書き
大変お久しぶりです。
時間が出来たので投稿します……と言っても、かなり昔に書いたやつでお茶を濁すだけ←

小噺集4番の IFストーリーの続き?みたいなものです。
コラボ等々もそろそろ始めようかな、と思ってるので気長にお待ちいただければ。 

 
IF 〜水城家を一般家庭にしつつ、いたって健康な紺野家の隣に住まわせてみたⅡ『The teen memory』〜

(ゲスト出演:無邪気な暗殺者より、小日向蓮)

ー西暦2025年春ー

時が過ぎるのは早いものでもう1年もすれば俺も大学生になる。今の所高卒で就職は考えていないので、どこか適当な所に入るのだろう。将来の夢、と言ったものは特に無くなんと無く漠然としたものが漂っているだけだ。なので、後で見つかっても良いように選択肢が広いところを目指す予定だった。

「4年……いや、そろそろ5年経つか……」

何のことかと言うと、隣の家に住む幼馴染み、紺野木綿季と恋人の"ような"関係になってからそろそろ5年になる。
ような、と言うのはあの日あの時、木綿季から告白の"ような"ものを受け、俺はそれを受け入れた。いや、正確には何かの冗談だと受け流した。これだけでは何の事はないものだが、その日以降木綿季は周囲に「彼氏が出来た」と触れ回ったのだ。しかし当時10歳だった木綿季が突然そんなことを言い出したので大騒ぎになるかと思いきや、周囲の反応はイマイチ薄かった。木綿季の両親はポカンと口を開け、藍子は全てを悟った目で優しく木綿季を見つめ、俺の家族は揃って「最近の小学生は進んでるなぁ」とコメントした。当の木綿季はその相手を黙秘した。
そして5年が経ち、大人たちがすっかりそのことを忘れてしまった今でも俺は時折この問題を考える。いっそ木綿季に訊いてしまえば良いのだが、その質問はあまりに間抜けではないだろうか。冗談を間に受けていたのを笑われるか、ひょっとすると彼女を傷つけてしまうかもしれない。
そんなこんなでそろそろ5年が経つのであった。

「それは全くもって時間の無駄使いをしてるね、螢にーちゃん」
「ぐ……」

目の前で馬鹿だなぁ、と哀れむような顔つきをしている歳下の少年のそのうざったい顔に手に持ったタバスコを目玉目掛けて突っ込んでやりたいが、反論出来ない上に歳下なので自重する。
彼は小日向蓮。うちのはす向かい、つまり紺野家の向かいに住んでいる少年だ。今年で確か10歳になる。つまり、この問題の発生当時はたったの5歳だったのだが……何故か妙に達観したものの見方をする人間に成長してしまった。まあ、よくうちに遊びに来る割にあの変人な兄や姉の影響を受けなかったのは幸いと言うべきか。

「お前は何か聞いてないのか?」
「全く。あ、螢にーちゃんお代わり」
「…………」

今朝庭の手入れをしている時にたまたま蓮が家の前を通り、彼が今日1人で留守番をすると聞いた俺は、ちょうど自分も1人だからだと昼飯に誘った。メニューはパスタとピザだが、今日は少し暖かかったのでパスタは少し時期としては早くなるが、冷製パスタにしていた。
食べ盛りの蓮の為に多めに作った冷製パスタはまだ山盛りある。食べやすいように味も濃い目で我ながら中々の出来なのではないだろうか。

「ほらよ」
「ありがと」

こんもりと盛ったパスタを大口開けてむしゃむしゃと食べる蓮を見ていると何だかこちらも嬉しい気持ちになる。俺は腹も膨れたので冷えた水をちびちびと飲んでいると、あっという間に食べきった蓮が口を開く。

「やっぱりさ。螢にーちゃんから訊くしか無いと思うよ」
「……まあそうだよな」
「そうだなー……あ、この間桜ねーちゃんから借りた漫画であったんだけど」
「いや、それはいい。遠慮する」

あの姉が読んでいるものなんて大体想像付く。大半がドロドロしたものか、バッドエンドものだ。

「えー」
「どうせその後血みどろの争いが繰り広げられて全員死ぬんだろ」
「まあそうなんだけどね」

前言撤回。姉の影響はもろに受けている。それも大分手遅れな方向に。出来れば紺野姉妹のように健全に育って欲しかった。

「出来ればあの姉の漫画のネタからは離れて欲しい……」
「むぅ……まあ、お昼のお礼に何とか上手いこと聞き出して来ても良いんだけど……あ、ぶふっ!」
「上手くねぇよ」






昼飯を終えると、蓮が腹ごなしにとテレビゲームに誘って来た。と、言ってもうちにある据え置きのハードは、親父が昔遊んでいたかなり古い世代のものだ。W⚫︎iというその家庭用ゲーム機の売りはワイヤレスコントローラーとそれを利用した直感的操作だ。当時、ワイヤレスコントローラーと言えば画期的なものだったらしいが、今や据え置き機には標準規格でそもそもシェアはVRゲームに取られている。
ソフトはありきたりなレースゲームを選択し、無駄に白熱しているとインターホンが鳴った。

「やった、僕の勝ちー」
「いや、今のず……まあいいか」

一瞬、俺の気が散ったのを蓮は見逃さずラストのコーナーで内側を取られ、そのままストレートで負けてしまった。
居間から廊下に出て扉の前に立った時、直感的に訪問者を悟る。と言うのも、何となくそわそわした空気が扉の向こうから漂って来るのだ。

「はいよ」
「あ、螢。えーと、今、暇?」
「違うでしょユウ。螢さん、私達、今から買い物に行くんだけど、もしよかったら一緒に来てくれない?」

扉を開けた向こうには、予想通りお隣さんの紺野姉妹がいた。色合いが若干異なるものの、長袖Tシャツの上に同型のカーディガン。2人は一卵性双生児の為、黙って自然な表情をしていれば一瞬では見分けられない。昔はそうでもなかったが、何でも双子というものは成長するにつれ類似性が増すらしい。今日のとこは木綿季がショートパンツにニーソックス、藍子がプリーツスカートなので見分けが付き易い。

「……まあ構わないが。今、蓮のやつが来てるんだ。あいつも一緒で良いか?お兄さんたち出かけてるそうなんだ」
「良いわ」
「全然オッケー」

2人から快諾を得たことで蓮に声をかけ、10分後には出かける準備が整った。蓮と木綿季が外でワイワイ騒いでいるのをBGMに家の戸締りを一通りしてくると外へ出る。

「それにしても今日は暖かいな」
「そうね。気温も高めと今朝テレビで言ってたわ」

庭で蓮とはしゃぐ木綿季とは反対に律儀に玄関先で待っていた藍子が微笑んで相槌を打つ。

「それで、何を買いに?」
「高校の制服を」

場所によっては自分の用事も済ませられるだろうと、藍子に尋ねる。すると、あまり予想していなかった答えが返って来た。

「ちょっと遅くないか……?」
「ええ。家族皆でうっかりしてて」

それにしてはいくらかのんびりし過ぎなのではと思ったが、考えてみれば昔から紺野家はこんな感じだったと思い出す。
俺を連れて行くのは、まあ同じ学校になる訳であるし、昼間とはいえ2人で買い物へ行かせるのは少し不安なのかもしれない。

「分かった。じゃあすぐ行こう」

目的地にはバスと徒歩で向かう。この時間からだと帰りのバスが混んでしまうかもしれないので、俺は3人を少し急かして出発した。




制服を販売している提携店は駅前のデパートに入っている。休日の昼過ぎのせいもあって少し混んでいた。

「僕ゲーセン行ってくる」
「待てコラ」

着いた途端颯爽と駆け出そうとした蓮の首根っこを掴んで引き止める。ただでさえ混んでいるのにはぐれたら大変だ。

「終わったら連れて行ってやるから少し待ってろ」
「えー。大丈夫だよ何回も来てるし、いざとなったら1人でも帰れるし」
「そういうことじゃなくて、何かあったら俺が大変なんだ。勘弁してくれ」
「……はーい」

そんなこともあり、帰りのバスはどのみち混むことが決定した訳だが、買った制服は郵送だし大して問題も無いかと妥協する。

「なんだか2人を見ていると本当に兄弟みたいよね」
「うん」
「えー、螢にーちゃんがにーちゃん?……微妙」
「てめぇ」

確かに相馬さんと比べれば俺は凡人も良いとこだが、そもそも根本のスペックが違う上に人間としてのベクトルも大分ズレてる。比較対象にするのがおかしい。
そんなやり取りをしている間に目的地に到着。木綿季と藍子を店員さんに任せると店の手前にある休憩スペースで先程俺を微妙だとか抜かした蓮にジュースを奢ってやる。

「面倒見が良いとこだけが取り柄だよね螢にーちゃんって」
「お前さてはゲーセン行くの引き止めたの根に持ってるだろ⁉︎」
「まあね」

ボテくりまわしたろかこいつ。
ご所望のファ◯タオレンジを一気飲みしてる蓮を半眼で睨みつつ報復手段を検討するが、後が面倒なので我慢する。

「うん。やっぱり大丈夫だと思うよ」
「何が」
「木綿季ねーちゃんはそこそこ頭良くて運動神経も良い優等生だけど、それ以外は基本ポンコツだから」
「何の話だよ……」
「だからぁ面倒見が良い螢にーちゃんになら、木綿季ねーちゃん頭は良いからホイホイ着いて来るって。ポンコツの自分でも大丈夫だって感じに」
「んな馬鹿な……」

確かに蓮の言う通り木綿季は外身良物中身ポンコツだが、間違いなく馬鹿ではない。ことはそう単純になっていない。普段聡い蓮から、そんな言葉が出て来て少し意外に思った俺はどう言ってやったものかと思案する為に目を瞑る。

「何で?」

しばらくすると、心底分からないというような語調で蓮が言った。またもらしからぬ発言に俺はますます混乱しつつも言葉を返す。

「何でってお前な……まず木綿季が打算で物事決めるか?」
「決めないだろうね」
「中身がアレだとしても要領は良い。俺に頼らずとも大丈夫だろ?今までそうだったし、これからもその筈だ」
「うーん、それはどうかな……まあ、他には?」

やけに突っ込んで聞いてくるなと思いつつ、俺は半ば無意識に言葉を紡いだ。

「第一、俺のことを想ってくれているという証拠は無い。面倒見の良い奴なんてどこにでもいる」

自分で言っていてハッと気がつく。自分の気持ちを自覚し、相手の気持ちを気にしながら、それを今まで確かめようとしなかった。それには、木綿季との関係が壊れてしまう恐怖もあったが、そればかりでは無い。俺があいつにしてやれることで、特別なことは何も無いのだ。俺でなくとも誰でも出来る、ごく当たり前のことしかない。それを俺は無意識に分かっていた。分かった上で俺は"諦めていた"。と、その時。

「このーーー」
「鈍感男‼︎」
「ん?……っでぇ⁉︎」

ふわりと顔の前の大気が動いた気配がしたので目を開けるとお揃いの制服を着た紺野姉妹ーーーーの一瞬後に脳天への衝撃とクリーム色の床が目に入った。

「木綿季⁉︎……と藍子?」

怒髪天を突く……とまでは行かないが、かなり怒り心頭な様子の木綿季とムッスリした藍子が目の前に仁王立ちしていた。ムッスリしつつも手をさすってるとこから推察するに、俺の脳天へ打撃をかましてくれたのは藍子らしい。

「……早かったな?」
「話逸らさない」
「……はい」

木綿季にビシッと効果音が付きそうな勢いで指を指され、柄にでもなく敬語で萎縮してしまう。

「鈍感で、遅いし、見当違い!もぉ頭来た!ちょっと来る!」
「え、ちょ……⁉︎」

ガシッと力強く腕を掴まれ、無理矢理立たせられる。反動でよろけた俺が姿勢を正す前に引っ張られれば抵抗する間も無く引きづられて行くのは仕方ないことだろう。
登りエスカレーターまで引っ張られ、半ば釣り上げられるようにそれに乗せられた俺は何処かへ連行されて行った。






やって来たのはデパートの屋上にある庭園だった。手入れが行き届いていて清潔感のある場所だが、人気がない。何故なら屋上とは言っても周りはデパートよりも高い建物が数多く建ち、景観は愚か陽当たりも風通しもあまり良くない。積極的に来たい場所では無かったが、木綿季に引っ張られるまま屋上に続くガラス戸を潜る。

「木綿季?」

色々混乱していたが、雰囲気から木綿季が怒ってるような、そんな感じが伝わって来る。

「……まあ、ボクもあの時はっきり言わなかったけどさ」
「……ああ」

曖昧な感じなのは、木綿季も自分の中で怒りを向ける矛先を定めかねているからか。何もしようとせずに諦めていた俺にか、はっきり言わなかった自分にか。

「木綿季に、嫌われたくなかったんだ」

先程、どうやら話を半分くらいから聞いていたようなので率直に切り出す。木綿季は俺に背を向けたまま肩をピクッと動かすと、はー、とため息を吐いた。

「確かにあの事を訊くのはどうかと思うけど……」
「それに、あんまり自信無かったしな」
「はぁ……」

木綿季ははっきりと呆れていた。そして背を向けたまま暫くうー、とかあー、などと唸ると、くるっと振り返る。ロングヘアの黒髪がふわっと宙を舞い、滑らかに流れて落ち着いた。振り向いたその顔はごく自然な笑みで、吹っ切れたような清々しい様子だった。

「全く……螢は何時でも螢だね」
「何だそれ。それを言うなら木綿季もだろ」
「当たり前だよ」
「だろうな」

木綿季のような、芯のしっかりした人間になりたいと思った。それと、もう少し自分に自信を持とう、と。きっと、そうすれば胸を張って木綿季の隣に立てるだろう。

「螢」
「ああ」

近づくと木綿季は嬉しそうに腕を絡めて来る。突然の事で驚いてしまい反射的に腕を引こうとするが、意外に強い力で捕まえられ、動かす事が出来なかった。
ビルの隙間から太陽が覗き細い光の筋が照らした道筋を、俺たちは再びガラス戸に向かって歩いて行った。






「ユウー!準備出来たー?」
「ちょっと待って姉ちゃん!リボン無い!」
「えー……。机の上は?」
「ええと……あ!あった!今行くよ!」

時刻は午前8時頃。朝っぱらから隣の家が騒々しい。

「……ああ、今日入学式か」

木綿季には、あれ程よく準備しておけと言っておいたにも関わらずやはり直前でバタバタとしているらしい。
寝起きで重い体を起こし、窓を開けて表を見る。丁度、隣の家から藍子が出て来てパタパタと駆け足で家の前を通って行くところだった。後に続く木綿季は後ろ髪の寝癖が直しきれていない。どうせ興奮して眠れなくて寝坊したとかそんな所だろう。

「ユウ、早く!バス来ちゃう!」
「わぁ待って!」

時計を見れば後5分でバスの時間だった。だが、遠くは無いので走れば余裕だろう。
俺は今日の午後から登校なので、もうひと寝入りしようとすると、木綿季がピタッと立ち止まってコッチを向いて手を振り始めた。
俺が頭の後ろを指して寝癖を教えてやると、恥ずかしそうにそれを押さえている。そんな木綿季を藍子が遠くから呼び、木綿季は慌ててそれに応え走り出した。

「忙しい奴らだ……」

春も深まり暖かくなって来た空気を取り込む為に、俺は窓を開けたままにすると欠伸をしながら起きる支度をし始めた。 
 

 
後書き
さて、今年も残りわずかということで皆さんお忙しいとは思いますが、どうか体調にはお気をつけて。
来年もSAOは原作新章、新作ゲーム、アニメ三期と色々あるようですね。楽しみに待ちましょう。


それでは、良いお年を。 
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