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星雲特警ヘイデリオン

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第1話 滅ぶべき血族

 
前書き
〜主な登場人物〜



火鷹太嚨(ひだかたろう)/ヘイデリオン
 主人公。地球人でただ1人の星雲特警(せいうんとっけい)であり、弱冠14歳でその資格を得た天才。シルディアス星人の襲撃を受けて両親を喪い、星雲特警に拾われ訓練を受けた過去を持つ。シルディアス星人の「帝王」を討ち全宇宙の英雄となるが、その胸中は未だ晴れない。年齢は17歳。

・シンシア
 ヒロイン。凶悪な侵略宇宙人である、シルディアス星人の最後の生き残り。この種族としては非常に珍しい強い理性の持ち主であり、闘争本能を殆ど表に出さない大人しい性格である。太嚨にほのかな想いを寄せるが……。年齢は142歳(地球人換算で14歳前後)。



・ユアルク
 星雲特警のトップエースであり、地球でも英雄として名が知られている。ヘイデリオンの教官であり、彼の才能を引き出した。教え子が戦いに向かない性格であると知りながら、戦争に駆り出さねばならない現状に苦悩する。年齢は200歳(地球人換算で20歳前後)。

・メイセルド
 ユアルクの師匠であり、星雲特警を率いる部隊長を務める。歴戦の勇士であり、孫弟子に当たるヘイデリオンを実の息子のように見守っていた。ユアルクと同様にヘイデリオンの人柄を理解しており、年端も行かない子供に剣を握らせたことに葛藤している。年齢は400歳(地球人換算で40歳前後)。

・政府高官
 本名不詳。地球守備軍の初代長官であり、35年前に地球を救ったユアルクとは旧知の仲。軍を退いた今も人々のために尽力している。年齢は62歳。 

 
 蒼の光刃が激しく閃き、紅の光刃が唸りを上げる。二つの刃は互いの死を望み、主人の意のままに操られていた。

 首を狙う紅い閃光が、守りに入った蒼い光に阻まれ。下から斬り上げる蒼光を、眩い真紅が最上段から迎え撃つ。

 横薙ぎには、刃を縦に構えて防ぎ。反撃の蹴りが来れば、後方に跳んで衝撃を逃す。力任せに弾けば、その反動を利用して――身体ごと刃を翻し、回転しながら斬り込む。

 足を斬ろうと下段を狙えば、それを読んで跳び上がり、顔面に上段から振り下ろす。それが肩を捉えた瞬間、反撃の回し蹴りが胸に直撃した。

 だが、転倒しても蒼い光刃の主は――素早く立ち上がり、紅い光刃を振るう男の巨躯に肉迫していく。圧倒的な体格差さえ、ものともせず。ただ、眼前の敵を屠るために。

 その勇ましさに、紅い光刃の先が歓喜に震える。眼前の仇敵が見せる、かつてないほどの蛮勇が、巨漢を奮い立たせていた。
 互いの剣は、再び衝突し――絶え間なく火花を散らす。この剣戟が生む発光だけが、この薄暗い世界を照らしていた。

 斬り、防ぎ、蹴り、掴み、投げ、倒れ、立つ。互いの技が互いの身体を、命を削って行く。だが、それでも彼らは止まることなく、己の血肉を闘争に捧げていた。

 ――やがて、紅い光刃が勇者の肩を掠めた時。蒼く煌めく破邪の剣が、巨体の胸を貫いた。
 深く沈みゆく電熱の刃が、肉を裂き内臓を焼き、心臓を蒸して行く。命の火が最期の輝きを放ち、虚無の果てに消えて行く。

 だが、貫かれた巨躯の男は――仮面の下で、嗤っていた。こうして果てることこそが、己にとって最良の最期であったと。言外に、そう告げるかのように。

 ――そんな彼を見下ろす、蒼き光刃の勇者は。己の貌を隠す、紅い仮面の下で。

 声を殺して――哭いていた。

 ◇

 悲鳴と怒号が天を衝き、渦となり、戦場を席巻する。その動乱の渦中でありながら、帝王の間は静寂に包まれていた。
 天井に広がる血飛沫の痕から、滴り落ちる赤い雫。その音だけが、この空間に反響している。

 そして、その音を聴く者は1人しかいなかった。彼は足元に倒れ伏した骸を一瞥し、窓の向こうに視線を向ける。
 激戦の後を彷彿させる、血と亀裂と瓦礫に彩られた帝王の間。その一室の窓から覗いた先には――阿鼻叫喚の戦場が広がっていた。
 彼らの叫びはここには届いて来ない。が、その表情に現れた慟哭の色が、彼らの痛みを如実に物語っている。

「……」

 鋼鉄の片胸当て(チェストプロテクター)と、メタリックレッドの強化外骨格を纏い。フルフェイスの鉄仮面で素顔を隠した、長身の少年。彼は頭頂部にトサカ状の刃(ブーメラン)を備えた、紅い仮面に哀しげな眼を隠して……戦場に散りゆく命を見届けている。
 自分と同規格の強化外骨格を纏う、戦士達も。紫紺の体と漆黒の爪を持つ、禍々しい異星人達も。10mもの体躯を持つ、機械仕掛けの巨人達も。皆、生き延びる為に戦い、死んで行く。

 少年は、帝王に「死」を齎した蒼い光刃の剣を持ったまま――静かに、この部屋の外へと歩み出して行った。
 一族の長が斃れた今も、異星人達は抵抗を続けている。これ以上の無益な犠牲を回避するには、自分も速やかに合流して彼らを滅ぼすしかない。
 それが星雲連邦警察の決定である以上、拒否権などないのだから。

「……帝王を倒せば、全てが終わるだなんて。やっぱり、嘘っぱちじゃないか」

 だが。そうと知りながら、これが現実と知りながら。帝王を討ち取った真紅の英雄は、重い足取りと共に毒を吐く。その仮面に隠された貌は、死人のようであった。

 ◇

 この宇宙の平和維持を担う、星雲連邦警察(せいうんれんぽうけいさつ)。その組織が総力を挙げて、絶滅させねばならないと躍起になっている一族がいた。

 その名は、シルディアス星人。
 多種多様な異星人達の中において、抜きん出た戦闘力と闘争本能を備えている彼らは――その本能を満たし充足を得る為に、他の星々を侵略し暴虐の限りを尽くしていた。

 生まれながらに凶悪な破壊者としての資質を持つ彼らは、子供の時点で既に強大な力を持っている。強化外骨格を纏う、星雲連邦警察のエリート戦士「星雲特警(せいうんとっけい)」すらも簡単に縊り殺せるのだ。
 彼らとの平和的な交渉に成功した事例は皆無であり、日を追うごとに犠牲となる星が増える一方であった。そして極力、過激な処置は避けるべきとしていた星雲連邦警察にも、限界が来てしまったのである。

 シルディアス星人を1人残らず殲滅し、この宇宙の平和を取り戻す。それが、星雲連邦警察の決断であった。
 組織の精鋭である星雲特警はその急先鋒として、全宇宙に散らばるシルディアス星人を狙い追撃作戦を開始。凶悪な戦闘民族を撃滅すべく、行動を開始した。

 ――それから、数百年を経た今。
 1人の若き星雲特警の手で、シルディアス星人を束ねる「帝王」が討たれ、指導者を失った彼らの軍勢は急速に瓦解。
 彼らの母星に攻め入った星雲特警の強襲隊は、残る残党を駆逐すべく掃討作戦を遂行していた。

 帝王を討った、若き英雄。その少年の胸中に沈む、深い悲しみに背を向けて。

 ◇

「1人も逃すな! 奴らを殲滅せねば、この宇宙に平和は来ない!」

 シルディアス星の深い森の奥にある、難民キャンプ。そこは今、星雲特警の襲来により阿鼻叫喚の戦場と化していた。

 エメラルドに輝く外骨格を纏う、強襲隊隊長メイセルド。彼は紫色に発光する光刃剣(レーザーソード)を天高く掲げ、隊員達を鼓舞する。その後ろには、全長10mもの体格を誇る、機械の巨兵達がひしめいていた。

 連日続いた戦闘により、既に隊員の過半数が疲弊しきっている。だが、この機を逃してシルディアス星人を宇宙まで逃してしまえば、再び犠牲となる人々を増やしてしまうのだ。彼らの生体反応を追える装置も、外宇宙まで逃げられては効力を発揮出来なくなるのだから。

 銀河の運命を預かる星雲特警として、それだけは避けねばならない。メイセルドは指揮官の身でありながら、隊員達の先頭に立ち戦場を駆け抜ける。

 老兵と言えども、剣の腕は未だに衰えず。彼はがむしゃらに挑み掛かるシルディアス星人の残党達を、次々と切り捨てていく。
 彼らという命は物言わぬ肉塊と化し、焦げ臭い骸となって大地に散らばっていた。その様を見せつけられ、圧倒的な不利を感じ始めた残りの星人達は、退却を始めるが――彼らの背に、メイセルドは容赦なく光線銃(レーザーガン)を撃ち放つ。ピストルの銃口から迸る閃光が、次々と逃げ惑う異星人達に死を齎した。

 鬼気迫る彼の戦いぶりに促されるように、やがて他の隊員達も光線銃を構える。その中にはメイセルドの弟子であり、「蒼海将軍(そうかいしょうぐん)」の異名を持つエースでもある――星雲特警ユアルクも含まれていた。
 メタリックブルーの外骨格を纏う、彼の背後から援護射撃を行う巨兵達――すなわち人型機動兵器の部隊は、手にした黒い巨大銃砲を撃ち放ち、自分達より遥かに小さい異星人達を根こそぎ焼き払っていく。その光線砲(レーザーカノン)による掃射が終わった後は、焼け爛れた無残な肉塊だけが散らばっていた。

 そんな阿鼻叫喚の虐殺の渦中。ユアルクは残党達の背中を撃ちながら――やがて、自分の教え子がいないことに気づき、隊長の側に駆け寄る。

「隊長! ヘイデリオンの……タロウの姿が見えません!」
「なに……!」
「確か奴らの何人かは、キャンプ裏の林に逃げ込んだはず。それを追って、1人で動いているのかも知れません。私も林に向かいます!」
「頼んだ!」

 ユアルクはメイセルドから離れ、キャンプ裏にある林へと駆け出していく。地に転がる難民達の骸を踏まぬよう、幾度も跳びながら。
 
 

 
後書き
※「蒼海将軍」という名前は、「小説家になろう」における中島三郎助先生の作品「Soldier's Belief外伝~電車に揺られ~」に由来しています。 
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