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赤き巨星のタイタノア

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第10話 赤き巨星のタイタノア

 ――全てを焼き払わんとするかの如き、レーザー砲の嵐。その豪雨に晒された大怪獣は、天に轟く絶叫と共に爆炎を吐き出す。
 その炎の防壁をかいくぐるように、地球人と異星人の合同編隊が駆け抜けた。

「そこッ!」
『落ちろッ!』

 そして、コスモビートルと飛行艇による一斉射撃が、大怪獣の顔面に突き刺さる。灼熱の閃光が、巨大な貌を覆い尽くし――

『やった! 全弾命……中……!?』

 ――空戦艇のパイロットが、歓喜の声を上げようとした。
 しかし、その言葉が終わるよりも早く……煙の中から、大怪獣の貌が飛び出してきたのだった。煙幕を突き破り、全貌を露わにしたその姿には――傷ひとつ付いていない。

『な、なんて外皮硬度なの……! レーザー砲でも傷一つ付かないなんて!』
『このままじゃ――きゃあ!』
『ファイター3! もう限界よ、脱出しなさい!』
『は、はいっ!』

 その現実に、動揺する瞬間。空戦艇のうちの一機が、反撃の火炎放射をかわしきれず撃墜されてしまう。翼から火を吹き、墜落していく円盤を目の当たりにして、威流は唇を噛み締めた。

(全弾を直撃させても、かすり傷ひとつ付けられない……! このままじゃ、被害が拡大する一方だ……!)

 一方、火炎放射を回避した円華と竜也も、険しい面持ちで墜落していく円盤を見降ろしていた。……わずか一瞬でも判断が遅れれば、彼らもこのように堕とされるのだ。まるで、羽虫のように。

「竜也、異星人の戦闘機が……!」
「火に掠っただけで翼を持って行きやがった……! やっぱデカいだけあって、火力も今までとは桁違いらしいな!」
「向こうもカバーしてあげないと! あっちの機体の方が装甲が薄いみたいよ!」
「ちっ、世話の焼けるエイリアンだなッ!」

 その威力を見せつけられ、萎縮する空戦艇部隊。彼らの戦意が大きく削がれていることを、機体の挙動から察した円華と竜也は、彼らを庇うように乗機を前方に滑らせる。
 すると、大怪獣の狙いが囮となった彼らに向けられた。仲間達の行動に焦燥を覚えた威流は、タイタノアに向かってさらに声を上げる。

「タイタノア、すぐここから逃げるんだ! 奴の狙いはお前だ、ここを離れれば少なくとも、皆が襲われる確率は下がる!」
『そ、そんなこと言われたって怖いものは怖いのだぁあ! 足が竦んで……動けんのだぁあぁ……』
「くっ……」
「父上っ……ああもう、なんて情け無いッ!」

 だが、タイタノアは恐怖に囚われるあまり、逃げ出すことすら出来ず蹲っている。そんな父の醜態に、ルクレイテは歯を食いしばっていた。

「……!?」

 ――すると。大怪獣の顎がゆっくりと開かれ……火炎放射のための「充填」が始まった。歪で荒々しい歯並びの口に赤い灼熱が滾り、収束していく。
 その狙いは――機体から脱出中の、ファイター3のパイロットに向けられていた。落下傘で森の中に降りようとしていた少女神官が、その貌を絶望に歪めている。

「――いかん! 脱出中のパイロットが!」
「竜也、援護射撃を――きゃあ!」
「円華ッ!」

 それに気づいた円華と竜也は、狙いを変えさせようと牽制射撃に移った。だが、大怪獣は火炎放射の照準を少女に合わせたまま――鋭い眼から、青白い閃光を放ってくる。
 予想だにしなかった「第2の武器」に、円華は一瞬反応が遅れ――右翼に被弾してしまった。

(不味い、生身であの火炎放射を浴びたりしたら……!)

 エースパイロットである竜也と円華ですら、近寄れない。そんな状況の中、火炎放射の瞬間は刻一刻と迫っていた。恐怖に貌を歪める少女神官を見上げ、威流は唇を噛みしめる。

「い、いやぁあぁ! 誰かぁああ! 神様ぁあ!」
『ファイター3ぃぃいっ!』

 そして、仲間達の悲痛な叫びも虚しく――火炎放射の「充填」が、完了してしまった。今にもはち切れそうなほどに唸っている真紅の灼熱が、大怪獣の大顎から溢れ出していく。

『あ、あぁああ……! し、信者……余の、余の信者がぁああ……!』

 タイタノアも、自分の信者に迫る「死」を目の当たりにして……地面を掴む手に、力を込める。それだけで大地が抉れ、木々が根ごと掘り返されていた。

(くそッ! どうすることも――ッ!?)

 怪獣軍団から地球を救った「救世主」だろうと、今はただの無力な人間。眼前の光景にそれを思い知らされ、威流までもが目を伏せた――

『うわぁあぁあぁ! やめろぉおぉおっ!』

 ――その時だった。

 威流でも円華達でも、空戦艇部隊のものでもない「叫び」が、この戦場を席巻する。

 それは……その声の、「正体」は。

「なっ……!?」
「ち……父上!?」

 これまで、怯えて逃げることすら出来ずにいたのが、嘘のように。我が身を呈して、信者の盾になる道を選んだ――この星の守り神。

 ――「主神」タイタノアだった。

『しゅ、主神タイタノアがファイター3の盾に!』
『ああ……! やはり神は、我々を見放してはいなかったんだわ!』

 その光景に、威流をはじめとする全員が驚愕していた。
 タイタノアの信者である飛行艇部隊の神官達が、恍惚の表情で主神の勇姿を崇める中――彼の実態を知る威流とルクレイテは、信じ難いものを見るような眼で、タイタノアの巨大な背中を見上げている。

(タ、タイタノアが……! 仲間を、庇った……!)
(ち、父上が……!)

 誰にも譲れない、最後の矜持。タイタノアにとっての「信者」が、それだったのだろう。自らの臆病さや弱さを知る彼にとって、そんな自分を「神」として受け入れてくれる彼らは最後の拠り所であり、居場所なのだ。

 ――信者達にとってのタイタノアが、そうであるように。

「あんた……!」
『ひ、ひぎぃいい! 熱い熱い熱い! 死んじゃう〜ッ!』
「ち、父上……!」

 ……とはいえ、恐怖を払拭したというわけではなく。少女神官が無事に着陸した途端、彼は再び泣き叫びながらのたうちまわっていた。
 だが威流の目にも、ルクレイテの目にも、その姿はもう……情けなくは映らない。

「タイタノア、あんたって人は……」
『ふぐぅうぅ! ひぐぅう! 熱い、熱いぃいぃ……が……これだけは譲れぬぅ! 余の、余の信者達に手を出すなぁぁあ!』

 そして震える脚で、己の巨体を辛うじて支えながら。赤き巨星のタイタノアは、その鉄拳を構えるのだった。
 
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