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お祖父ちゃんの蒲鉾

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第一章

                お祖父ちゃんの蒲鉾
 柊幹子は事故で両親を亡くした、それで母の父つまり祖父である泉源太郎に引き取られることになった。
 だがその源太郎にだ、幹子は葬式が終わった後で自分が引き取ると申し出てからこう申し訳なさそうに言われた。
「わしは今は一人暮らしだがな」
「お祖母ちゃんが亡くなったからね」
 幹子は中学一年だ、もうそれなりに心がしっかりしている。両親の死には泣いたが今は制服姿でしっかりと祖父と対していた。
「だからね」
「ああ、しかしな」
「お祖父ちゃんがいてくれて」
「一軒家だしわしもまだ働いているしな」
 定年前だがそれでもというのだ。
「蓄えもある、生活のことは気にするな」
「そうなの、だからなのね」
「わしが申し出たんだ」
 幹子を引き取って育てるとだ、黒の所謂昔ながらのおかっぱ頭で大きな黒い目が楚々としている細く長い眉を持っている孫娘の顔を見ながら話した。
「それが一番いいと思ってな」
「学校も転校しなくて済むし」
 幹子が両親と暮らしていたマンションは源太郎の家から近かった、だからそうした心配もいらなかったのだ。
「そのこともあって」
「ああ、しかしな」
「お祖母ちゃんはいなくて」
「二人だけの暮らしだがいいか」
「ええ」
 悲しみはまだあるがしっかりとした声でだ、幹子は祖父に答えた。
「正直これからどうなるかわからなくて」
「わしが育てると言ってか」
「凄く嬉しいわ、じゃあね」
「ああ、これからはな」
「私はお祖父ちゃんのお家に住んで」
「二人で暮らしていこう、あと家事はな」
 祖父は孫にこのことも話した。
「心配するな」
「どういうこと?」
「わしは一人になってからやってきた」
 妻に先立たれてからというのだ。
「だからな」
「私はなの」
「しなくていい」
 こう孫娘に言った。
「別にな」
「それは」
 幾ら何でもとだ、幹子は祖父に申し訳なさそうに返した。
「幾ら何でも」
「御前もするのか」
「ええ、だって二人で暮らすんでしょ」
「これからはな」
「だったらね」
「御前もか」
「家事するから」
 こう祖父に話した。
「安心して」
「そうしてくれるか」
「だからね」
「二人で家事をしてか」
「ええ、一緒にね」
「行きましょう」
 こう話してだ、そしてだった。
 幹子は源太郎の家に移り住んだ、自分の家具や持ちもの、服も全部祖父の家に入れてそうして暮らしはじめた。
 二人で家事をしたがだ、その中で。 
 源太郎は自分が夕食を作る時はいつも蒲鉾を出していた、それは赤と白の二色の蒲鉾で幹子はその蒲鉾を見てこう言った。 
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