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英雄伝説~西風の絶剣~

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第25話 フィーとのデート

side:リィン


「すうぅ……はあぁぁ……」


 帝国内にある森林地帯、俺はそこで上半身を裸にして刀を構えていた。周りには自分の身長以上に大きな大木が五本並んでいる。


 俺は呼吸を整えて目を閉じる。そして居合を放った。


「……斬ッ!!」


 大木に閃光が走り斬られた大木がゆっくりと倒れていく。俺は斬った大木の一本に近づき切り口を見る。


「……一本斬り損ねたか」


 その大木だけ半分しか切れていなかった。自重によって倒れかけた大木を見て俺は自身の未熟さを痛感した。


「心に迷いがあるのか?ユン老師が言っていた俺に足りないものが原因なのか?」


 俺はこの数年で強くなるために様々な事をした。ユン老師の元を訪ねて八葉一刀流の八の型以外の残る七つの型を学んだ。レグラムに行きアルゼイド流の基礎を学び剣士としての経験を積んだ。
 更に姉さんやゼノ達から苦手だった銃や罠の扱いも学び直し克服した。他の高ランクの猟兵団とも戦ってきた。特にシャーリィとは何度も殺し合ってきた。今では若い新人で構成された部隊の分隊長にも選ばれた。でもそれでも俺には決定的に足りてないものがあると老師に言われた。




 ———————— 2か月前、俺はユン老師から初伝の証を受け取った。だがユン老師はこれ以上お前に教えることは無いと言って再び旅立たれた。




(ここからはお前さんが自分で歩んでいくんじゃ、また出会えた時にどんな剣となっているか楽しみにしているよ)


 老師は恐らく俺に足りえないものを自分で見つけろと言いたかったのだろう。俺にとって力の意味か……俺からすれば力とは守るためのもの、エレナを守れなかった無力な自分が嫌で力を求めた。そして今俺が力を求めるのはレンを取り戻すためだ。でも考えても自分に何が足りないのか分からない。


「……ぐっ!?」


 突然胸が痛みだして俺はその場に膝をついた。


(くそ、またか!)


 体から紅いオーラが漏れ出して髪が白く染まっていく。俺は必死で『力』を抑え込もうともがく。


「ぐっ……ふう、何とか収まったか……」


 少し前から自分の中にあるこの『力』が制御できなくなってきている。不規則に力が溢れそうになりその度にこうやって人目を忍んで何とか力を押さえつけていた。


「俺は一体どうしたんだろうか、前まではこんなことはなかったのに……」


 もしこの力が暴走してしまったら俺の大事な人を自らが傷つけてしまうかもしれない。


「こんなことじゃ何も守れない。もっと強くならないと……」


 俺は再び鍛錬を再開した。




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー




 暫く鍛錬を続けていたがそろそろいい時間になったので帰ろうとする。


「リィン」


 帰り支度をしている途中で誰かに声をかけられる、だが振り返っても誰もいない。周りには気配がないが意識を集中させてみる……お、そこに居たのか。俺は近くの大木の後ろに回ると隠れていた人物、フィーを見つけた。


「フィー、気配を周りに溶け込ませて近づいてくるのは止めてくれないか?」
「ごめん、でもリィンを驚かせてみたかったから」


 ペロリと小さく舌を出すフィーに俺は苦笑しながらも頭をなでた。


 フィーもこの数年でかなりの実力を上げてきた。俺と一緒にユン老師の元で修行して、より速さを引き出す技法や気配の消し方など剣士ではないが自身に使える技術をフィーなりに取り込んだようだ。特に気配を周りの景色などに溶け込ませて自然体になるクラフト『エリアルハイド』は俺でも神経を集中させないと見つけられない。


 因みにユン老師はフィーに滅茶苦茶甘い。まるで孫を溺愛する祖父のようでフィーもお爺ちゃんと呼んで慕っている。老師には本当の孫もいるみたいだがもしかしてフィーみたいな感じの子なのか?


「しかしフィーも強くなったものだ。今じゃ俺を補佐する小隊長だもんな、いずれ分隊長にもなれるんじゃないのか?」
「ん、まあ分隊長にはあまり興味はないけどね。わたしはリィンの補佐をしたいし」
「フィー……ありがとうな」
「どういたしまして」


 この子には本当に頭が上がらないな。昔から俺の事を気遣って色々と補佐してくれていたがこうやって傍で支えてくれる人がいるというのは幸せな事なんだろう。俺もいい義妹を持てた事に幸せを感じるよ。


「これからもよろしくな、フィー」
「うん」


 可愛らしく微笑みながらニコッと微笑むフィー、そんな彼女にほっこりしながらそういえば何故ここに来たのかフィーに質問した。


「そういえばフィーはどうしてここに?俺に何か用でもあるのか?」
「ん、リィンにお願いがあって来たの」


 お願い?一体何だろうか。


「明日からヘイムダルでお仕事があるよね」
「団長が暫くはヘイムダルに滞在するって言ってたな」
「五日後の仕事の後わたしとリィンはお休みになってるでしょ?」
「ああ、そうだけど……」
「じゃあわたしとデートしよ?」



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


(デートか……フィーとは何度も一緒に出掛けているがデート何て言い方をしたのは初めてだな)


 フィーからデートのお誘いを受けた俺は、予定通りエレボニア帝国の首都ヘイムダルに着き仕事をこなしていきあっという間に五日目のデート日になった。


 現在ヴァンクール大通りの駅前の広場でフィーを待っている所だ。態々待ち合わせなんかしなくても同じ宿に泊まってるんだから一緒に行けばいいだろう、と俺は言ったがフィーは「その方がデートっぽいから」と言われてそうすることになった。


 しかしデートなんて言い方をするなんてフィーも年頃の女の子になったんだなぁと若干年寄り臭い事を考えてしまった。昔行ったカルバート共和国以来オシャレを意識しだしたりマリアナ姉さんから髪の手入れの仕方を習ったりと最近のフィーは少しづつ大人の女性に近づいていた。


(しかし無防備な姿をさらすのは止めてくれないかな……)


 精神的だけでなく肉体的にもフィーは成長していた。だが成長していると言ってもまだ子供なので薄着で俺の寝ている寝床に潜り込んできたり、風呂上がりにタオル一枚で歩くこともある。正直健全な男からすれば変な気になってしまうので止めてほしい。


(いつかはフィーにも彼氏ができるのかな……)


 あれだけ可愛いのだから言い寄る男もそろそろ出てくるだろう。フィーが俺に彼氏を紹介する光景を考えて無性にイラついてきた。


(まあそうなったら俺も義兄としてちゃんと対応しないとな)


 少なくとも俺以上に強くなければ話にならないな。どうせその後ゼノやレオ、最後には団長も待ってるだろうし……あれ、フィーと交際するのって死地に向かうようなものじゃないか?


「リィン、お待たせ。待たせちゃった?」


 そんなことを考えている内にフィーが来ていた。普段着ている西風の旅団の黒いジャケットではなく私服姿だ。


「いや俺も少し前に来たばかりだから大丈夫だ。それよりも私服似合ってるな」
「ふふっ、リィンが選んでくれた服だからね」


 フィーが来ている服は、前に俺が選んだものだ。姉さんや団の女性たちにアドバイスを貰っておいてよかったよ。


「それで最初は何処に行くんだ?」
「まずは『サ・ルージュ』に行きたい。ストレガー社の最新モデルのスニーカーが出るらしいから見てておきたいの」
「なら俺はブックストアに寄ろうかな。アドル戦記の最新刊が出てるはずだったから丁度いい。じゃあ向かおうか」
「それじゃレッツゴー」


 フィーはそう言うと俺の右手を自分の左手で指を絡めるように繋いできた。ちょっと驚いたが俺も優しくフィーの手を握り返して二人でサ・ル-ジュに向かった。
 そこでストレガー社最新モデルのスニーカー『ストレガーX』を購入した後プラザ・ビフロストに向かいブックストア『オルタナ』で本を買いついでに喫茶コーナー『ミモザ』で少し早めの昼食を食べて外に出た。


「シーフードカレー、美味しかったな」
「ん……満腹」


 フィーは満腹になって少し眠くなってきたのか目をこすっていた。


「フィー、眠いのか?」
「ん、ちょっと眠いかも……」
「でも食べたばかりですぐ寝るのは体に良くないし……そうだ、マーテル公園に行かないか?ちょっと歩いてから昼寝したほうがいいだろう」
「……いいの?折角のデートなんだしリィンがしたいことをしてもいいんだよ?」
「デートっていうのは相手と一緒に楽しめなければ意味がないだろう?俺はフィーと過ごす時間が好きなんだ。さあ行こう」
「リィン……うん」


 フィーの手を取り俺たちはマーテル公園に向かった。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


side:フィー


 リィンと一緒にマーテル公園に来たわたしたちは食後の運動も兼ねて公園内を歩いていた。


「のどかだね……」
「ああ、帝都の中にいるとは思えないくらい穏やかだな」


 小鳥たちの鳴き声と暖かい日差しが眠気を誘ってくる。わたしは眠気を覚ますために目を擦るがリィンに止められる。


「あまり目を擦るのは良くないぞ」
「ん、ごめん」
「ははっ、そろそろ昼寝するか?」
「うん」


 リィンは近くにあったベンチに座りわたしはリィンの膝を枕にして横になる。


「寝づらくないか?」
「大丈夫、とっても心地いい……」
「そうか、なら俺はさっき買った本を読んでるからならゆっくり寝てな」
「ん、お休み……」


 わたしはそう言って目を閉じる。温かい日差しとちょっと固いけど一番安心するリィンの膝枕は極上のセット、今わたしが一番お気に入りのお昼寝場所だ。
 

 リィンはさっき買った本を読みながら時々わたしの頭を撫でてくれる。リィンの撫でテクは反則だと思う、女の子を安心させてしまい心も体も虜にしてしまう。彼の手は魔性の手に違いない、だから他の女の子が犠牲にならないようにわたしが独占しないといけない。


(……何時からこの感情を抱いたんだっけ?)


 初めてリィンと会った時、わたしが最初に感じた事は傷だらけの人、というイメージだった。何だか無理をして自分だけで背負い込んでしまいそうな彼を見て思わず頭を撫でてしまった。そこからリィンと兄妹としての生活が始まった。
 

 最初はお義兄ちゃんとして慕っていた。わたしの事を大事にしてくれるリィンは私が初めてできた家族の中でも一番近い存在だった。
 でもリィンがD∴G教団に攫われてしまった時はわたしは自分の半身が奪われたかと思うほど絶望した。もう一度彼に会いたくて団長の反対を押し切って猟兵になった。そしてようやく会えた時わたしは嬉しかったけど怖くもあった。


(あの時はリィンに恨まれているって思ってたんだよね)


 リィンは誘拐されて地獄のような日々を送っていたと聞いた。だからリィンは攫われる原因にわたしを恨んでいると思っていた。だってわたしがいなければリィンは逃げれたはず、わたしを逃がすために彼は捕まってしまった。
 

 でも彼はわたしを恨んでいなかった、優しく抱きしめてくれて受け入れてくれた。あの頃からリィンに対する意識が変わったんだと思う。
 

 リィンに撫でてもらうと嬉しい気持ちの中にドキドキしたものが出てきた、リィンに抱きしめてもらうと心臓がバクバクして破裂してしまいそうになった、リィンのふとしたときに出る凛々しい顔を見ると顔が赤くなった。どうしてかなと思いわたしはマリアナに相談した。マリアナはちょっと驚いた顔をした後に微笑ましい物を見る優しい目でわたしにこう言った。


「フィー、貴方は恋をしたのよ」


 そう言われてわたしは自分がリィンの事をどう思っているか理解できた。わたしはリィンを兄としてじゃなく一人の男として好意を持っている。でもリィンはわたしを妹としてしか見ていない、それにもしかしたらリィンは彼が今探しているレンっていう女の子が好きなのかもしれない。


(……例えそうだとしてもわたしはリィンを支える)


 例え叶わない恋だとしてもわたしはリィンの傍にいたい、彼を支えたい。それはわたしが自分自身で決めた事だから。


(わたしが守る、この人はわたしが……)


 そんな決意を胸に抱きながらわたしの意識は幸せな微睡の中に沈んでいった……


 
 

 
後書き
 補足としてゼノとレオニダスはこの数年で分隊長から連隊長に昇進しています。後リィンとフィーの私服姿は閃の軌跡ⅡのDLCのものです、次回でデート回は終わります。 
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