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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  世界を超える、鉄刃の翼


今までのあらすじ


自らの存在をかけた戦い。
綺堂唯子とブレイカーの戦いに決着がついた。

自らを諦めなかった者と、自らを諦めた者とでは、勝敗など決まっていたのだ。

唯子は赤銅の力の一片を受け、ついにそれを撃破する。
そして、その足は真っ直ぐに翼刀の元へ。




それよりも、少し前のこと




------------------------------------------------------------



唯子が、ブレイカーへの反撃を始めた頃。



鉄翼刀は、拳を合わせながら正面の六人を睨み付けていた。



嘗めたように嗤う蒔風。

不敵そうにニヤつくクラウド。

終わりしか見えていない理樹。

破滅を創る一刀。

敵意を剥きだす観鈴。

ニッタリと、一番嫌な笑みを浮かべる「奴」。


それに対し、我らが鉄翼刀は




「揃いも揃って・・・・腐った顔してんなぁ、オイ」

ダンッッ!!!

「来いよ――――性根叩き直してやる」

深い震脚と共に、宣言する。
ヴァルクヴェインを肩に担ぎ、右手でチョイチョイと誘う。


数秒の空白。


そして

「フッ!!」

「破ッッ!!」

直後、最初に向かってきたのは理樹と蒔風だ。

二人が同時に放ってきた獄炎砲とバリア片機関銃の一斉発射に、翼刀がヴァルクヴェインを軽く振るってそれに応えた。


刃が十二本、彼の正面に弧を描いて縦に浮遊する。
するとそれぞれが独特の力場を発し、二人の攻撃は逸らされ、誰もいない地面を抉り取っただけの結果となって終了してしまった。



「む・・・・」

「え・・・・」

それに対し、二人がそれぞれ訝しげな顔をした。
そして、翼刀は再度告げる。


「二度とは言わねぇ。俺は――――来い、と言ったんだぜ?」

消えた。
翼刀の姿が、一瞬にして。


直後

「ゴォッッ!?」

事もあろうに、あの蒔風が背後から襲われた。
理樹の足を掴んでぶん回した翼刀によって、二人の頭が激突したのだ。

理樹は身を守ろうとバリアを展開させるが、それこそ危険だ。
ただの鈍器と化した理樹は、翼刀に扱われるハンマーとなる。


だが、彼等がそれを許すはずもなく。

「ラ―――――――」

背後から観鈴が襲い掛かる。
衝撃波を高周波と織り交ぜて放とうとし、その口を大きく開き

「―――――グッ!?」


その顔面を、翼刀の手の平が覆って掴みかかっていた。

「やかましいぜ!!ォォおおおらああああああ!!!」


片手に理樹を、片手に観鈴を
それぞれ脚と頭を掴んで振り回す翼刀。

そして二人を蒔風に放り投げると、振り返りざまにヴァルクヴェインを斜めに切り上げた。


散る火花。
そこに襲い掛かってきていたクラウドの大剣を弾きあげ、無防備になった腹部に拳を添える翼刀。


「ふd・・・・チッッ!!!」

不動拳。
しかし、ゾゥッッッ!!という、空間を抉るような音がして、翼刀のいた場所を無数の剣が飛来して襲い掛かって行った。

跳ねるようにその場から移動し、その剣を回避する翼刀。
蛇のように走りながらヴァルクヴェインを振るい、刃幕でその剣に対抗する。


向かう先は、その発生源である翼刀。
だが、そうはさせまいと立ち塞がる障害物は―――――


「斬演武!!」

十五天帝・風林火山の斬演武。
つまりは――――蒔風だ。


「ォォおおおおおおおお!!」

飛来してくる斬撃波は、覆いかぶさるように翼刀へと飛来してきている。

右に躱せば脚を失う。
左に躱せば腕を失う。
後退すれば頭が落ちる。
受け止めてはキリがない。

ともなれば、最善策はただ一つ。


「一気にぃ―――――!!!!」

駆け抜ける!!!


ヴァルクヴェインを地面に突き刺し、柄を蒔風に向けて傾ける。
そしてそこに足を掛け、斬撃波・花吹雪が到達するそのコンマ数秒前に


「射ァッッ!!!」

ドッッッ!!!

放たれた一本の刃。
地面に打ち込まれたそれの反動で、一気に飛び出していく翼刀。

切演武・花吹雪は対象にたどり着けば超圧縮の斬撃の嵐で相手を囲んで切り刻むもの。
だが、到達する前――――隙間がまだある時にこちらから突っ込めば、突破は可能。



その速度に目を見開いて驚愕する蒔風。
だがそれに対応してこその「EARTH」局長。


「畳返し!!」

跳ね上がる地面。
蒔風の姿を隠す程度の大きさの地面の板は、しかしそれだけでは到底翼刀を止められるはずはない。


「フンッッ!!!」

だから、砕いた。
蒔風は畳返しを蹴り砕き、その大小の岩石で翼刀を攻撃したのだ。


足元にあるヴァルクヴェインを、まるで抜刀の様に抜く翼刀。
その振り抜いた勢いで一回転、更には真っ直ぐに真下へと振り下ろした。

この程度に刃幕も必要ない。
その二撃の剣筋に、岩石は容易くはじけ飛ぶ。


そして二撃目の振り下ろしから、さらに縦に一回転して剣を振り落とす。

それを受け止めようと、蒔風が獅子天麟を取り出して攻撃に備えた。
この大剣なら確かに受け止められる。真正面から、ならだが。


「ゼッッ!!」

翼刀の剣は、蒔風の直前で外れた。
というか、外した。

ヴァルクヴェインは地面に突き刺さり、翼刀はそれでも柄を離さない。
蒔風の左側に、本来ならあり得ない猛烈な勢いで回り込む翼刀。


そのままの勢いで、翼刀が蒔風の後頭部に蹴りを放つ。
そして頭を踏み台にし、ヴァルクヴェインを手放して一気に一刀の元へ。


「渡航力!!!」

ダンッッ!!と、その勢いを一気に殺し、一刀の目の前へと到達する翼刀。
その掌に渡航力を込め、歪みの力を加えて一刀へと向け――――


「幻想殺」

「不動掌!!!」

バウンッッッ!!!


渡航力の危険を察し、とっさに幻想殺しを手に宿して、同じように掌を向ける一刀。
だがその腕はひしゃげ、一刀の全身全面部が強かに打ち付けられた。


「渡航力だけ消したって、不動掌だって十分な威力あんだよ!!」

血を流しながら吹き飛ぶ彼の姿を見て、翼刀が叫んだ。


と、同時にしゃがみ込んでクラウドの横薙ぎの剣を回避。
逆立ち状態になって剣を蹴りあげ、顎を打ち、全身のバネを使った首跳ね起きで、その胸中に両足で蹴りをブチかました。

そのまま立ちあがった翼刀が、突き刺さったヴァルクヴェインに手を向け、それが磁石の様に吸い寄せられてバチン!と手の中に納まる。


瞬間

ごッッッ!!!

「ガぅッッ!?」

漆黒の波動砲が、翼刀の体を覆った。

ヴァルクヴェインの刃壁で何度かそれを防いだ翼刀だが、肩に掠ったのかブスブスと煙を上げていた。


ドォン!という音が遠くから聞こえ、地下から凄まじい衝撃が襲ってきたがそんなことを気にする「奴」ではない。
ただ目の前の敵を破壊し、喰らう。そのことしか、今はこの化け物の頭にはないのだ。


「ガぁああああああ!!」

「イッッ!?」



すると突然、「奴」が咆哮を上げて翼刀へと突っ込んできた。

魔導八天を振るい、投げ、斬りかかる。
ただ力任せなその攻撃に、翼刀は冷静に対処する。


(回避だ・・・・!!)

ただ投げられた剣を弾き、接近する「奴」から目を離さない。
そして、まっすぐに振り下ろしてきた剣を回避し


「非ィガぁアア!!」

「オォッっ!?」

その剣の一撃を、回避するべきではなかったと後悔した。

翼刀を外した剣は、地面へと直撃。
剣の根元まで埋まるほどのその振りおろしは、しかし地面には刺さらない。

それはそうだ。
地面に当たった瞬間に、その地面がゴッソリ吹き飛んでなくなってしまったのだから。


「ガ・・・ォッッ!!!!」

翼刀にしてみれば、真横を爆撃されたようなものだ。
左からのとんでもないそれを喰らい、重機にでも突っ込まれたのかと錯覚する。

頭がグワングワン、と揺れておさまらない。
視界まで二重三重に揺れ動き、辛うじてぼんやりと理樹の姿が――――


「ダっ!!!」

「ガッッ!?」

その敵に、容赦なく不動拳をブチかます。
ぼんやりとでもいい。見えているなら、問題はない。

「攻撃より早く、こっちのをぶち込むだけだ!!!」

「さて、そう言っていられるのはいつまでか」


襲い掛かる一刀。
様々な剣を取り出しては手放し、連続で剣撃を放ってくる。

この攻撃の恐ろしいところは、手の多さもさることながら武器の多種性だ。
武器によって、どう受けるべきかというのはおのずと決まってくる。

本来は一つの武器しか持たないものだが、しかしこの一刀にはそれが通用しない。


だがそれでも翼刀は食らいつく。
受けて、受けて、流し、捌き、躱し、跳び退き―――――


「手の多さなら、こっちだって負けてねェンだよ!!!」

刃幕を放つ。
一誠に放たれたそれは、しかし一刀も剣を多数放って迎撃する。

どちらも無尽にして無限。
しかし、一刀の方には更に襲い掛かる翼人がいる。

彼に負けはない。しかし

無数に飛び交う刃と剣。
延々と打ち合い砕きあうであろうそれは、変化を起こした。


バチッっ!!と電火を起こす刃。
するとスィッ、と滑らかにその軌道を蛇のように変化させ、その刃全てが一刀の元へと襲い掛かって行ったではないか―――――!!!


「バカな―――――ァ!!!?」

襲い掛かる刃を、手にする剣で弾く一刀。


だが、一方で翼刀も剣が飛来しているはず。
そうなればあちらも防戦は必至。そこに他の翼人が襲い掛かれば――――



「ちょろちょろと・・・・・」

「な」

「ウゼェッッ!!」

だが

後ろから襲い掛かってきた理樹を、翼刀は振り向きもせずに掴み取った。
腕を捻り上げられ、痛みに顔をしかめる理樹。

それに対して理樹も反撃し、翼刀の腹に向かってあのバリア片を連続射出していった。


だが


「きぃかぁねぇってぇ・・・・・・」

「そんな」

「言ぃってんだろォがァッ!!!」

腹を連続で撃たれ、妙に振動しながらも翼刀の怒声が理樹の頭を揺らす。

そしてそのまま理樹を剣の雨に晒し、彼を以ってガードする翼刀。



理樹は訳が分からなかった。
この男に、なぜ攻撃が通じない。

渡航力か。不動拳か。それとも、ヴァルクヴェインの持つ力?


―――――違う。

そんなものは一切感じられない。
避けた服から見えるのは、ただの彼の腹筋だ。

で、あるのなら

この男、ただそれだけでこの攻撃に耐えていると言うことか―――――!?



「バカな」

渡航力での強化や、ヴァルクヴェインの治癒力があっても、この攻撃を受けて大丈夫なんてことはありえない。
だがこれが目の前の現実だ。

ならば、答えはただ一つ。

効いていないと言うよりは、気合で耐えていると言うこと。
ただの空元気と言えばそれまでだが、それだけでこの男は―――――


「喰らえ!!」

刃に一刀が襲われ、剣の雨が止んだところで高周波。
だが上空の観鈴からのそれが届くよりも早く、理樹の身体が宙を舞う。


制御しようにも、それよりも早く観鈴と理樹は衝突してしまう。
しかも、理樹が咄嗟に出していたバリアで観鈴は想像以上のダメージを負う。

対し、理樹の方も掴まれてから翼刀の不動拳を流し込まれ続けたせいでボロボロだ。

二人の身体が墜ち、地面に激突する。
が、その直前で「奴」がその身体を受け止める。


直立不動で二人の身体を掴み、抱える「奴」。
それに気づいた理樹が、驚いた顔をして礼を言う。


「た、たすか・・・・」



「え」

そこまで言って、言葉が止まる。
見上げる「奴」の顔が――――笑っていた。



「ちょ」

ガブリ

ほんの少しの声を出しただけで、理樹は喰われた。
同様に、観鈴も。

本当にそんなつまらない擬音しか出ないほど、あっさりと。
翼刀は思わず目を逸らすが、すぐに真っ直ぐ「奴」を見た。


その「奴」はというと、腹をさすりながら首を回し


「ふぁ―――――ったく、バーサーカーってのも辛いねェ」

言葉を、介した。


「奴」を知るものならば、そう驚きはしないだろう。
「奴」は世界すら喰らう怪物だ。

ならば翼人如き、喰らえぬはずがない。
そして、それをエネルギーとして取り込むことも・・・・


「さて、ようやっとくだらねぇ枠から飛び出したわけだが」

「二人喰うなよ」

「うるせぇ。テメェと組むだけで反吐が出んだよ。自殺しろ、自殺。いや、殺してやるから死ね」

「奴」の隣に、蒔風が来る。
続いて、クラウドに一刀も駆け寄り



「さぁて?俺に抑圧ってのは効かねぇぜ?モヤシ翼人共と一緒ってのは気に入らねェが、テメェこれで死んだァな!!!」

イカれた口調。
しかし、「奴」の叫ぶことはもっともだ。


こうなっては、翼刀に勝ち目はないかもしれない。
数は減ったが、余計に不利になった。


だが、翼刀には微塵の不安もなかった。



「なんだぁ?その目、気に入らねぇ」

「そりゃそうさ。こいつはきっと、あんたたちが目を逸らしてきたはずの物だからな」


それは、何か。

簡単なことだ。
無論、翼人である他三名は解っていた。

だが、それでも目を背けたくなる輝きが、その目には灯っていた。


それは―――――――



「所詮お前らは、一人ずつ」

どんなに徒党を組もうとも、同時に攻撃して来ようとも


「お前らは一人だ。一人ずつで、四人に過ぎない」

そういうと、更に心が軽くなる。


そうだ。
彼等は一人が故に堕ちた者たちだ。

ならば、仲間がいる自分が負ける道理はない。

仲間に救ってもらえた、自分が彼等に伏すわけにはいかないだろう。


「一人じゃどんなに抗っても、最期には破滅しかない。俺はそれを知った。教えてもらった!!だからアンタたちには負けない。俺の知るあの人たちの強さを証明するために、お前らには負けられない!!」


それは――――――

立ち向かうための、勇気で

離れていようとも誰かと繋がる絆で

胸に抱き、突き進むための希望



彼ら翼人が、直視したくないと思うのは当然である。

彼等はその感情における闇の側面から出でた者たち。
相反する、表側のそれら感情に、嫌悪を浮かべぬはずがない。





『そうだ』

すると、翼刀の隣から声が聞こえてきた。
知らない声だ。

だが、妙に魂が揺さぶられる。


『僕もそうだった。一人でできると思っていた』

かつて、彼女を救おうと駆け抜けた彼は、結局彼女を救えなかった。

『それは結局、仲間がいたって意味がない、ってことだ。一人で彼女を救おうとした僕は、結局彼女に殺されてしまった』


青年は語る。
だからこそ、たとえ一人でも戦いながらも仲間とともにいる彼のことを応援するのだと。

『見よ、反転せしめし翼人よ。彼こそが鉄翼刀だ。この観測者たる飛鳥が、未来へと抱く希望の男だ』


翼刀の背後に、飛鳥の姿がボンヤリと、灯るように現れる。
そして翼刀と目を合わせると、うれしそうに微笑んだ。

『君に、僕の・・・僕たちの力を貸すことにする』



「翼刀!!!」

飛鳥の言葉に続き、唯子が到着する。

ブレイカーとの戦いを終え、全身から気力を放つ唯子が、翼刀の隣へと降り立ってきた。
その身体に漲る力に何かを感じながら、翼刀は唯子に向かって言葉を投げる。


「よう。なんかすっきりした顔してんな?」

「とーぜん。今の私は、数十倍は強いわよ!!」


グッ!!と拳を握る唯子。
そして、その手を開いて翼刀に手を伸ばす。


「一緒に?」

「ああ。一緒に、だ」

そして、その手を掴み返す。


瞬間、二人の背後に赤銅と飛鳥の姿が現れる。
その二人を見守る様に、彼等もまた、肩を寄せて。



『さあ行くがよい吾が友よ!!』

『僕らのようになるなよ?絶対にその手、離すなよ?』

「言われるまでも、ないっての!!」

「まっかせてよ!!」


叫ぶ。
それは未来への宣言。

新たな光の、道標―――――



『古よりの怒りの翼、赤銅!!』

『観測者最強、飛鳥!!』


『そして吾が友たるは』

「鉄流不動拳門下、綺堂唯子!!」


『新たな世界の希望たるは』

「鉄流不動拳、18代目当主。鉄翼刀!!」


「さあ――――トバしてぜェ!!」

「止めれるもんなら止めて見なさい!!」

「「今こそあんたたちを、完膚なきまで叩き潰すぜ!!」」






長い長い、名乗り口上。
それを、翼人三人は黙って眺めていた。

「名乗り中は攻撃してはならない」などという、某特撮番組のお約束を守っているなどという、くだらない理由では当然ない。


隣の男。
全身を陰に包まれた、「奴」というこの男がそれを止めていた。


「アァ・・・・・?」

忌々しいものを見る目。

それは例えば

ごちゃごちゃに汚されたキッチンを見て、「掃除しろよ」と言われるような怒り。
トイレに入ろうとして、もう限界なのにそれがすべて埋まっていた時の憤り。
電車に乗ろうとして、自分の方が先に並んでいたのに横に立っていた男が身体を滑り込ませてきた時のムカつき。

そんな、誰もが経験しそうな怒り。
そんな些細そうな怒り。

その程度で怒るのはくだらないが、実際には何よりも腹の立つ行為。


この男は、そんな感情をこめて、目の前の青年たちを睨み付けていた。
そのはちきれんばかりの感情は、もし隣の三人が動けば即座に潰され、喰われるのを察する程に強烈だった。

だから彼等は動かない。
動くなら、この男が動いてから。



「アぁああああ・・・・そうだ。そ~うだァ・・・・いいぞぅ、お前どっかの主人公だったんぁ?」

怒りのせいか、呂律もまともに回らなくなっている「奴」。
弱々しく震える指で、翼刀を指さした。


「俺ァな。そういう最主要人物が大っ嫌いなんだ。自分の価値観が正しいとか、そうするのが正しいからお前らもそうあれ、強くあれと叫ぶテメェらみたいなのがよぉ」

誰もがそうできるわけじゃない。
そんなことは当然だ。

だが、彼等が叫んでいるのはそうではない。


かつて。
そう叫んで世界をめぐってきた男は、そう言っていた。

だから、みんな強くあろう。


しかし、この男は違う。
この鉄翼刀は、そのことをよく知っている。


「わかってるさ。そんなこと」

誰もがそんな生き方を、出来るはずがないなんて知っているさ。

だって、俺だってそうだった。
罪の重さに耐えられず、考えることをやめてその身を任せた。

その道を行くには、罪を贖わねばならない。
だがその罪のあまりの重さに、贖わずとも良い悪の道を行ったことがある。


故に
誰もがそんな、強い生き方ができるなんてことは翼刀は思っていない。


でも


「でも、俺は憧れた」

「なに?」

「誰もがそんな生き方をできるわけじゃない。誰もがそんなに強くなれるわけじゃない。でもな――――誰だって、その強さに憧れて、目指して走り出すことはできるはずだろう!!!」


到達できないかもしれない。
達成できないかもしれない。

だけれども、そこを目指すことに、なんの意味もないなんてことは

そんなことは、絶対にありなどしないのだ――――――!!!



「だから俺は走り続ける。たとえあの人たちに届かなくても、あの人たちのようになれなくても―――――鉄翼刀は、あの人たちみたいになってみせると走り続けて見せてやる!!!」


俺の言葉を聞きやがれ―――――
そう言わんばかりに、翼刀が胸を叩いて吐き出した。

その叫びに、翼人たちは軽く笑った。
嘲笑の笑みではない。むしろ、敵ながら天晴と言った称賛の意味で。

だが、この男には
「奴」という存在に、そんなものは皆無だった。



「ウザってェぞ、最主要ォッッ!!!」

翼刀を指していたその指の先端から、漆黒の波動砲がブッ放された。



『翼刀!!』

『唯子!!』

「「オウ!!!」」


握っていた手を放し、二人が左右に分かれてそれを回避する。


翼刀は左、唯子は右に。
「奴」の波動砲は、二人を隔てる壁に見える程デカい。


そして、翼刀の方へと向かってきたのは三人。
銀白と蒼青の翼の煌めきが、ドス黒い煙を噴出させている「奴」の後を追って疾走してきていた。


「ッッ!!こっちに三人!!!」

思わず叫び、「奴」の剣を受ける翼刀。
その一撃に地面が窪み、バチンと弾かれる翼刀。

そして第二撃目に、蒔風の獅子天麟が襲い掛かった。
ガギン!!と、獅子天麟の結合をあえてゆるく振り落してきたそこに、ヴァルクヴェインが挟まれて止まる。


と、そこで三撃目であるはずの一刀が、弾けたように横に飛び出し、波動砲の中へと飛び込んでいった。

「ナニ!?」


そして、反対側。
クラウドが向かってきた唯子の真横から、そいつは突然飛び出してきた。

「え、キャぁッッ!?」

突如として飛び出してきた一刀の青龍偃月刀を、しかし唯子は驚きながらも左の手刀振り上げで止めていた。
直後、振り落とされてくるクラウドのバスターソードを、身の返しだけで回避。柄を握るクラウドの手を掴み取り、捻り上げて後ろへと投げる。


「破ッッ!!」

そして、左の一刀に右後廻し蹴り。
それを召喚した盾で受け止めて着地する一刀。


自らの右に一刀、左にクラウド。
そこで波動砲がフッと終わり、しかし唯子は隔たれていた向こう側を見ない。

そこに翼刀はいない。
それどころか、「奴」も蒔風もいなかった。


左右から襲い掛かるクラウドと一刀。
その攻撃が唯子へと達し、彼女が対応した。


瞬間

バグォッッッ!!!という凄まじい音がして、波動砲のあった向こう側の地面が爆発した。
というよりは、地面の下から何かが飛び出してきた。


正体は土惺竜。
その背には蒔風が乗って操作しており、その竜の牙を防ぐように、翼刀がヴァルクヴェインを振るっている。


弾き、弾き、弾く。

それによって翼刀がだんだんと上空へと押し上げられていき、そのさらに先で「奴」が魔導八天を構えて真っ直ぐに剣を上に向けていた。


もうすぐ雲に達するか。
そんな高度まで達したところで、蒔風の土惺竜が形を変え、柱状になって一直線に突っ込んできた。

真下からのその一撃に、翼刀は不動脚を合わせて放つ。


土惺砲は翼刀の一撃によって砕け散って地上へと落下して行き、そしてその対価として翼刀は空中で完全に無防備になってしまい

「だァ―――――ラァッッッ!!!」

「奴」が轟撃となる一撃を手に、翼刀に向かって落ちていった。


対する翼刀の対策は――――




いくら人物が変わろうと、剣の魔導八天は変わらない。
その組み上げている連結部がわかっている以上、そこを狙って刃を飛ばす。

ズンッッ!!という音と衝撃を全身に感じながら、翼刀はヴァルクヴェインでその剣を受けていた。

だが、間に合った。


叩き込まれた魔導八天の一撃は、当然強烈だ。
だが、まともな一撃であったら翼刀の腕ごと吹き飛んでいただろう。

しかし翼刀の正確な刃の七撃は、魔導八天の連結部に命中してたのだ。
魔導八天はヴァルクヴェインに受けられた瞬間、バラバラに分解されて宙に散る。


「な――――お・・・前ぇええええええええ!!!」

だが、そうであっても強烈な一撃ではあった。
翼刀の身体は強烈な衝撃を体に受けながら、地上に向かって猛スピードで落下して行く。

だが翼刀の反撃に憤怒し、闇を炎の様に身に纏った「奴」がその後を追って突っ込む。



それと入れ違いになって―――――――



唯子とクラウド、一刀の三人も、空へと上昇していた。
クラウドの破洸撃を蹴り上げて後方に弾き、一刀の放つ砲撃魔法を不動拳で打ち消した。


そして全身に漲る気力を充填し、それを拳に乗せて一気に

「不動拳――――オールパニッシャー!!」

打ち出した。
唯子を中心に、円を描いて不動拳が打ち放たれていく。

それは、シューティングゲームの弾幕のよう。

打ち出されるそれは気力に包まれ、七色に輝き周囲を覆う。
もしもこれがその通りゲームであれば、きっと扇状に拡散しながら迫ってくる弾幕であっただろう。


「クッッ!!」

その弾丸を円周で回避していくクラウド。
ここは現実だ。こんな弾幕、彼女の上下に逃げれば弾など来ない。

だが、ここは現実。
そんな敵にだって唯子は対応する。


「パニッシャァ――――ブラストォ!!!」


一気に開花する。今度は球状。
全方位に向かって放たれていく気力不動弾が、不意を突かれたクラウドの翼を掠めて弾いた。

「ガッ!?」


掠めただけ。
だが、クラウドの直進スピードを考えるとその程度の横ダメージでも相当な揺さぶりを受けることになる。

そこに勝機と、唯子が一刀を無視して一気にクラウドへと気力不動弾をブチ込み続ける。


「おぉ――――ォォォオオオおおおおおお!!!」

だが、クラウドは当たらない。
大きく左右に揺れ動き、よろめいた身体を立て直しながら唯子の方へと一気に進んでいく。


それを狙っていく唯子だが、彼女とて落下しながら打ち続けている。
狙ってはいるものの、相手は自由に空駆ける翼人だ。


「不動―――――」

これ以上は無理だ。
察した唯子が、拳を引いてただクラウドの接近を待つ。

「魔洸―――――」

対し、クラウドが大剣を振る。
頭上で回したそれを肩に担ぎ、全身から蒼の光を放ち始めた。

そしてその力が大剣に宿り、それをさらに漆黒の翼より出でる漆黒のエネルギーが覆いかぶさった。


「超 究」

ドゴン!!と、鈍い音がした。
唯子の腕が、クラウドの大剣を受け止めたのだ。

唯子の身体を覆う気力のことを考えると、それで腕が斬れないと言うのはまだ理解できる。
だがクラウドの狙いはそこではなく

「武――――神」


ブォッ!!と、唯子の身体を漆黒が包む。

同時、その漆黒から枝分かれし、唯子を囲んで五つの刃が具現化した。

前後左右と、下方。
そして残る上方には、バスターソードを握るクラウドが佇んでいて

「覇斬ッッ!!」

一気に落ちていく。
クラウドが唯子に向かっていくのと同時に、まったく同じ間隔で残りの刃全てが唯子へと迫っていく。

全く知られぬ超究武人覇斬。
これが、この可能性でつかみ取った奥義なのか。

この攻撃であれば、敵の動きは封じられている。
反撃すら許されずに、ただ敵は六の刃に斬られ裂かれ貫かれる―――――


だが

「メディテーション!!!」

「何ッッ!?」

漆黒の中から吹き出す気力。
それは闇を侵食し、そしてついにその漆黒の束縛を打ち破る。

ボロボロの布の様になったそれを剥ぎ取り、唯子がクラウドを睨み付けた。


クラウドは気づく。
唯子の背。そこに再び宿る赤銅の翼―――――

「破ッッ!!」

翼を広げ、回転。
伸びたリーチで、左右前後から迫る刃をその翼で粉砕する唯子。


そして真下から襲い掛かってきた刃を両足で挟み、一瞬でクラウドに向けて振り上げる。

「グッ!!」

思わずそれ受けるクラウド。
すると、向けられた剣から力が抜け、唯子の両足が胸に添えられる

「ありがと。足場欲しかったのよ」

「な・・・ンッッ!?」

ズゴッッ!!と、クラウドの身体が蹴り押され、上空に飛ばされる。
それに相反して、唯子の身体が一気に地上へと向かって行った。


その速度は、先に落下していた翼刀たちを追い抜くほど。

大地まで、あと数十メートル。
全身に気力を滾らせ、攻撃に備えて前進を固め


――――着地と

ダンッ――――

同時に

――――ドゥッッ!!!!

真正面から翼刀へと襲い掛かっていた蒔風と「奴」。
翼刀が「奴」を蹴り飛ばし、そして着地してきた唯子がその真左で蒔風を蹴り飛ばしていた。


「な・・・・二ぃ!?」

「お前・・・どこから!!!」

突如として現れた唯子に、蒔風と「奴」が驚愕する。

並び立つ二人。
だが翼刀が右から来た何かを察知し、ヴァルクヴェインを構えて唯子を突き飛ばす。


理由は、直後にやってきた。
流星剣を構えて突っ込んできた一刀が、翼刀と激突してその身体を押しのけて行ったのだ。


ガリゴリガリリッッ!!と大地を抉りながら、翼刀を押しつぶしていく一刀。
その勢いは、踏ん張っている翼刀の足によって刻まれるはずの足跡が、即座にかき消されて一本の図太い抉れ跡になってしまうほど。


だが500メートルほど進んだか。
だんだんどスピードが落ちて行き、そしてついに翼刀が一刀を止めた。



「な―――――バカな、この剣は」

この剣は、彼が流星と共に異世界へと降り立ったがゆえに名づけられた剣だ。
だから、銘は「流星剣」

その剣の一撃は、文字通り流星の一撃に匹敵する。


「この剣の一撃は滅びの一撃――――過去幾つもの生命を根絶やしにした破滅の剣だぞ!?」

天変地異然り、恐竜絶滅然り。
確かに、この剣の力は破滅に匹敵する。


だが、この一刀は知らない。
現在の一刀ですら、今の翼刀のこれは知らない。

翼刀はすでに、この星に匹敵するだけの力を得ているのだ―――――!!!


「テメェが流星なら、俺は惑星だ」

ズンッッ!!
翼刀の足の下から、重厚たる地響きのような音がしてきた。

その音を不吉に感じながら、一刀は翼刀から離れられない。
まるで翼刀のそのものが、一つの惑星のような。そんな重力でも得ているかのよう――――


「だがよ、その力は破滅じゃねぇ」

ゾ――――ゥッッッ!!!


「その力はなぁ・・・・絆を守る、星の光の一撃だ!!!」

「待っ」

星の(ゴッド)―――――息吹(ブレス)!!!」

ダ――――――――バゴンッッッ!!!!

凄まじいほどの轟音。
その衝撃だけで、一体何人の敵を屠れるのだろうかと言うほどの。

だが、実際に耳にできる音は翼刀の踏み込み。その音のみ。


威力は絶大。
流星は確かに、惑星を滅ぼす。

だが激突した瞬間に、流星は砕け散るのがさだめだったのだ。




その時、頭上から禍々しい気配を感じて翼刀がそれを見上げた。


漆黒の惑星が、堕ちてきていた。

「な・・・」




それを食い止めようと、宙に立つのは翼を広げた唯子。
それを操っているかのように、その斜め上空に立つのはクラウドと「奴」だ。


「クックック・・・黒マテリア・・・・」

「この世界を滅ぼすメテオの一撃!!黒マテリアの力ってば最高だぜェええええ!!!」


クラウドと「奴」の、共謀の一撃。
それを前に立つ唯子の、なんと小さな身体だろうか。


あれを砕くには自分もいかねばならない。
だが、翼刀が飛び立っていこうとした瞬間に目の前に現れたのは


「ッ――――アサシン!!!」

「おぉ~っとぉ、奇襲は効かねぇかな?」

横から地面を術つように襲い掛かってきた蒔風が、翼刀の行く手を阻む。

今の翼刀に、もはや奇襲は効くまい。
だがそれでも、蒔風の存在は彼を押し留めるだけには十分だった。


「唯子ォッッ!!」

上空を見上げ、翼刀が叫ぶ。
唯子もまた翼刀の状況を軽く察し、そして


「行くわよ――――」

翼に気力を織り交ぜて、七色の輝きと共に天空へと上り詰める。
目下標的は、メテオよりも目の前の二人――――!!


「させねぇっての!!」

「ファイラ・・・・・!!」

その唯子を打ち落とそうと、「奴」の波動砲とクラウドのファイラが放たれてくる。
その両者とも威力は重きに置いていないのか、スピード重視の弾幕だ。

波動砲はレーザーの様に
ファイラは火炎弾というべき大きさの弾丸で

それを唯子は、左右に身体を油たしながら回避して、一気に多く旋回してから二人を真横から射抜こうと突進していく。


「ォオオ!!真ンッッッ!!!」

「リフレク!!」

ゴンッッ!!

「パニッシャァ・・・・」

「このバカ、受けずに流せ!!」

「パンチッッ!!!」


ドゴンッ!!と、二人の身体を一撃が貫いた。

真横から放たれた唯子の真・パニッシャ―パンチを、クラウドはリフレクの防御魔法で受けてしまったのだ。
当然、唯子は止められるだろう。だがこの動不動拳たる真・パニッシャ―パンチが、その程度の防壁で受け切れるはずもない。

クラウドと「奴」の脇腹を、七色の一撃が貫いた。
気力によって威力が爆破的に上がっている真・パニッシャ―パンチは、貫通力と破壊力を併せ持つ砲撃術として昇華されていたのだ。



がフッっ!!と血を吐き、地上へと落下して行く「奴」。
だがクラウドはまだ宙に留まり、先を行こうとする唯子の足をっ掴んで引っ張り降ろした。


唯子を落す為ではない。
それはむしろ自分が唯子よりも上に行こうとするためのもの

結果として、クラウドは状態こそボロボロだが、唯子よりも上に陣取ることに成功した。


「邪魔はさせない――――俺はこの世界を―――終わらせる―――――」

たどたどしい言葉。
だが、それを聞いて唯子の双眸がきつく締められた。


「終わらせる――――ですって?」

拳を握る。

右拳を開き手刀の形に
左拳は握って拳に

そして左を前に、右を前にしてその暗黒魔法に向かって叫びあげた。


「じゃあダメね。私は今―――終わらせないためにここにいるのよ!!!」



飛び出していく唯子。
そのタイミングで、地上の翼刀がそれを解放した。


『いまだ翼刀!!僕が導く―――渡航力を持つ君なら、きっと接続できるはずだ!!』

「ああ・・・待ってろ唯子。今助ける!!これが」

『ああ、それが君の』

「俺たちの――――力だ!!!」




【HOPE~Wing of Stelle Blade~】-WORLD LINK- ~WEAPON~





翼刀が、ヴァルクヴェインを上空の唯子に向けて突き出した。
そこに蒔風と「奴」が襲い掛かるが―――――


ヒュォ―――――ドンッッ!!!


「ゴッッ!?」

「がゥッ!!!!」

撃ちだされた光の衝撃に、全身を強打されて弾き飛ばされる。


一方、それを向けられた唯子はというと

「いくよ――――これが私の―――翼刀とのつながりだ!!!」


唯子の気力が刃を成していく。
だが、これは単純に「気力を刃として組み上げた物」ではない。



世界四剣には、それぞれに対を成す剣が存在する。

十五天帝と魔導八天。
エクスカリバーには光と闇が。
Χブレードは、その存在そのものが表裏反転一体だ。

だが、表裏を決定づけているのは剣の属性ではない。

「裏」とされる剣がそう呼ばれるのは、ただ単に「表」とされる剣の所有者が決定すると“それに対応する人物に所有権がいくから”である。

その所有者は、対となる剣の所有者の近くの人間に限られるのだ。
どちらかが主軸となっているのであれば、それは「表」「裏」と分けられても仕方がない。


では


いまだ姿を現さぬ、神剣・ヴァルクヴェインの裏神剣とは何か。
仮にそれを所有する者がいるとして、鉄翼刀と対となる、相応しい人間は誰なのか!!!


「ォォおおおおおおオオオオ!!!」

飛び出していく唯子。
既に右手刀部の刃は腕にまで達しており、更にその身その物を刃とさせている。


裏神剣たるこれは、剣としての実態を持たない。
所有者の肉体に宿り、その身体を剣と化すのだ。


「バカな・・・これは・・・メテォ」

目の前の異常な気力の膨らみに、クラウドがメテオの落下を加速させようと叫んだ。

だが、それはかなわず


ドッ!!

「ガゥ・・・・!?」

「無駄よ・・・このまま、行くわ!!」

クラウドの喉に指先をそろえて突き刺し、そのまま身体押し込んでメテオへと突っ込んでいく。

そして十分なほどの不動拳と気力とを流し込む。

だが、クラウドの身体は壊れない。
体内には凄まじいほどの衝撃と斬撃が溜めこまれているにも関わらず、その身体は破壊されない。


「ハァァアアああああ!!!パ、ニィッ――――シャァアアアアアアアア!!!!」

ドゴンッッッ!!!

クラウドを蹴り上げる。
ズボリと腕がクラウドから抜け、その身体が上空へと吹き飛ばされる。


そしてクラウドの身体がメテオと衝突し、その瞬間

「ブレイ――――カァッッッ!!!」

背を向け、拳を握って腕を払う。


同時、唯子の背後でメテオが大爆発を起こした。
天空を紅蓮に染めるそれを背負う唯子の姿は、間違いなく美しい者であった。






「バカな・・・・あの小娘に、メテオが砕けただと・・・・・」

「ヒュー、やるねぇ」

「奴」が驚愕し、対して蒔風が軽口を叩く。
その蒔風に掴みかかろうとする「奴」だが、蒔風はそれを軽く突き放した。


「どうしたよ?こういう時でも最高にイカしたハイなのがおめーじゃなかったっけ?」

「テメェがいちいち指摘すんじゃねぇよ!!!」

今にも喧嘩を始めようとする二人。
だが、今はこの二人しかいないのだ。

そんなことをしていれば当然


「ほら、あいつが来たぞ?」

「チッ!!テメェあとで殺す!!!」

向かってきた翼刀を迎え撃ち、「奴」がその殺意を翼刀へと向ける。


その戦いに唯子も加わり、しかしそれでも「奴」は押していく。

「奴」の後ろでをそれを静かに眺める蒔風は、溜息を吐いて剣を抜く。
そして、軽くぼやいた。

「無理だよ。俺たちじゃァ、あーんなすげぇのに勝てるわけないだろ?」

誰にも聞こえない声でつぶやいた。
尤も、例え大声で叫ぼうとも誰にも聞こえないだろうが。




「神剣だか裏神剣だか知らねェガァ・・・こっちだって天剣なんだよァ!!」

翼刀のヴァルクヴェインを手で受け止め、更に溢れ出す刃を握り潰す。
それもかかわらず一切の傷もなく、その鉄片を唯子に向かってばら撒く「奴」。


腕をクロスして顔を守る唯子。
その唯子に、蒔風の十五天帝が唸りを上げて叩き下ろされた。

それを横に転がって回避する唯子。
地面に食い込んだ十五天帝を抜くと、その地面はまるで耕したかのようにめくれ上がってしまっていた。


「あれか・・・・」

唯子としては、久々に見る。
十五剣一対である、十五天帝の真の姿。

全てを組み上げたのその形の、なんと禍々しいことか。


獅子天麟を元に、切っ先に風林火山を横に並べて結合。
取っ手の部分はトンファー型の天地陰陽が組みあてがい、様々な持ち方ができる。
そして獅子天麟部の刃から、結合された青龍、白虎、玄武、朱雀のそれぞれの刃が突き出していた。



対して、翼刀が相手をしている魔導八天にごてごてした装飾は何もない。

只々美しい、まっすぐな刀身の西洋剣。
それが八本。組み上がって、形はそのままに大きくなった西洋剣へと変わる。


魔導八天の剣の振りおろし―――否、すでに打ち落としと言える一撃を、翼刀がヴァルクヴェインで受けるも弾かれて地面を転がる。

蒔風が十五天帝で唯子に切りかかり、それを受けるも刃を首元に引っ掛けられて、一気に振り抜かれる。
気力を、それによる刃で全身をカバーしているとはいえ凄まじい衝撃に、くらくらとしながら翼刀の元へと飛ばされる唯子。


「ガ・・・・はぁ、はぁ・・・・」

「グゥ・・・ッ、はっはっ・・・・」

息が荒い。
肩を上下させる二人が、互いに腕を取り合って立ち上がる。


すると、その眼前に立つのは



「天剣・十五天帝」

「裏天剣・魔導八天」

己が剣の名を唱え、その全てを吐き出そうとする二人の姿が。


「我が天剣は統べせし物。七の獣を従えて、天地統治す刃とならん」

「我が裏なる天剣、十五の帝に相反し、また逆たる素質ありける刃」


「見よ!!これこそが統治の光。万物を支配する、善悪を超える十五の刃!!!」

「聞け!!この轟きが天の雄叫び。一切の容赦、慈悲を赦さぬ、断滅の雷!!!」




地を覆わんとする光の輝きと
天を砕かんとする雷の一閃が


二人の目の前で、今にも爆発しようと充填されていた。


対して


「神剣・ヴァルクヴェイン」

「裏神剣――――レヴィン」

翼刀たちに、そんな大仰な詠唱はない。
そんなものはない。彼等には、そんなにまでして唱えるだけの物はまだない。

だたその名を唱える。
自らの力を、この剣を信じて、ただ叫ぶしかないのだ。



十五天帝(ソラウス・キング・フィフテーン)

魔導八天(エイト・ライジング・ラッシュロード)


放たれる。
一筋の雷とそれを囲むように飛来する十五の刃。


二人に直撃すれば、まず間違い無く命を奪うその剣撃。

だが、天剣の二人には聞こえていなかった。
ここで唱えられた、もう一つの言葉を


『赤銅、ここらで決めよう』

『そうでござるな。ではご両人!!』


【Over World~Wing of Stelle Blade~】-WORLD LINK- ~FINAL ATTACK~



叫ばれるWORLD LINK。
それが二人を、史上最強の域にまで押し上げていく――――



「レヴィンッッッッ!!!」

唯子が叫ぶ。
レヴィンは形を持たぬ、所有者の身体に宿り、その意思に応じて刃を展開させる剣だ。

故に、唯子が思い描いたその形に変化する、ということだ


「モード・グングニルッッ!!!」

そう叫んで、唯子が十五の刃に向かって掌底を次々に突き出していく。
距離はまたある。だが、唯子の腕から伸びた気力の刃が三又の槍へと姿を変え、その十五をひとつ残らず粉々に打ち砕く。


そして、同時にステップでタンッ、と前へ。
身体を一回転させ、その内に今度は別の形へ――――


「モード・パイルバンカー!!」

ドゴンッッ!!!


唯子の拳が、雷と激突する。
本来ならばそんなことはできない。雷に触れるなど、そんなことは唯子にはできない。

だが、この世界の奇跡はただ一度きり。それを可能な域にまで、唯子の力を押し上げている。


バチバチとぶつかり合う雷と拳。
だが、唯子の肘あたりから柱のような形に気力が生成されていき、拳を巨大な杭のような突起が覆っていく。

そして

「ォォおおおおおおオオオオ―――――フゥワイヤァッッ!!!」

ダゴッッ、ドォンッッ!!!


叩き込まれる、レヴィンの一撃。
その一発で、魔導八天の雷は見事に霧散して果てた。

「なに・・・・・!?」

「ほぉら・・・・」


驚愕する「奴」。
冷や汗を流しながら、苦笑する蒔風。

だが驚くべきはそこではない。


驚くべきは


「最主要!!!」

「速い―――――!!!」

既に彼等の眼前に迫っていた翼刀だろう。



簡単な話

唯子が攻撃を打ち払った後に飛び出しては、間に合わない。
ならば、唯子が打ち消すことを前提に飛び出していけばいいだけのこと。


実際、翼刀の鼻先は魔導八天の雷の、数ミリ前に迫る程接近していたのだから。


WORLD LINKがあるから、大丈夫。

唯子はきっと、この攻撃を砕くだろう。
だがそうわかっていても、実際飛び出すのは相当の勇気がいることだ。


しかし、翼刀は来た。
それは「唯子はきっとやる」ではなく


「唯子だったら・・・・絶対にやってくれるって知ってたからな!!」


「必ずやってくれる」と、微塵の疑念もなく信じていたからこそに他ならない。




「見事」

「ォォォオオオオオオ!?」

敗北を悟り、受け入れる蒔風。
後にジャンプして、逃げようとする「奴」。

目の前の蒔風に向かって、翼刀のヴァルクヴェインによる翼刃が振り下ろされる。

そして逃げ出した「奴」には、翼刀の上を飛び越してきた唯子の一撃が叩き込まれる。


翼刀の翼刃には、飛鳥のものであろう「飛翔 火の鳥(ゴッドバード)」が付与されており、その炎を以って蒔風の身体を焼き尽くす。

唯子の放った気力は、幾つもの刃となって「奴」を囲む。
そうしたところで唯子の蹴りと共に、その刃全てが「奴」に叩き込まれて全身を砕いた。



そして最後に、止めとばかりに、翼刀が振り下ろした剣を振り上げて、二人の身体を同時に切り裂き背を向ける。

ブシュゥ―――と煙を上げて消滅する「奴」に
ボシュゥ―――と塵になって霧散する蒔風。



そこでWORLD LINKが切れたのか、翼刀と唯子が膝をついてその場に座り込んでしまう。

チリチリと周囲を焼いていたはずの炎は小さくなって、炎がそこにあったのが嘘だったかのように焦げ跡すら残さなかった。



「終わった・・・・」

「つ~~かれたねぇ・・・・」

ふぅ、と背中を預けて座る二人。
そしてコツン、と拳を軽く当てて、それから軽く笑った。

その様子を、少し上で飛鳥と赤銅が見守っている。


『どうする?』

『どうするも何も、もう本当に我らは必要ないでござろう?』

聞いた飛鳥も、最初から答えがわかっていた。
もうこれ以上自分たちは必要ないだろう。

この二人には、誰よりも強く、互いを離さぬ絆と愛と友情に結ばれ、誰よりも強い希望と勇気で前に進むだけの強さがある。


『あーあ、でもこの二人、近くで見ていたいなぁ』

『ふむ・・・では、こういうのはどうでござる?』



そうして



数分後には、その場から唯子も翼刀もいなくなっていた。

戦いはまだ続いている。
ただ、そこに向かって駆ける彼等の腰に、根付のようなものがぶら下がっている。

剣の形をしたそれと、鈍い赤い羽根の形をしたそれを揺らしながら、二人は未来へと駆けて行った。




to be continued
 
 

 
後書き
【Over World~Wing of Stelle Blade~】
 世界を超える、鉄刃の翼

いかがでしたでしょうか!!!


ちなみに翼刀VS翼人sは、パシフック・リムのメインテーマを
そこからの戦いでは水樹奈々の「Synchrogazer」を垂れ流していました。

よければ聞きながらお読みください。


ここにきてやっと唯子が裏神剣・レヴィンの所有者になれたのは、やはりブレイカーの存在があったんでしょう。
既に死人で、さらに別の存在とはいえ、綺堂唯子が二人いる以上どちらに行っていいかレヴィンもわからなかったんでしょうね。


レヴィンという剣は、所有者によってその力の発揮の仕方を変える剣です。
剣、とは言っても、形のない物であって、いうなれば「レヴィン」という能力と解釈した方がいいかもしれません。

唯子が気力使いなので、レヴィンもそれに応じて「気力による刃」で剣として現れていますね。

無論、そう言った形であれば元が無形の気力が故にどんな武器にもできます。

唯子も劇中で槍とかにしてましたし。しまいにはパイルバンカーまで。
「奴」を仕留めたあの技に至っては、もう完全にアクセルクリムゾンスマッシュじゃないですか本当にありがとうございました。


十五天帝が決まって、魔導八天の所有者が決まる。
十五天帝が来てんだから、そっちが表。

世界四剣の表裏なんてそんなもんです。


ヴァルクヴェインの裏であるレヴィンの所有者が唯子なのは、必然でしたね。




【世界を超える、鉄刃の翼】

主な構成:“No name”20%
     “フォルス”30%
     “LOND”30%
     “ライクル”10%
     “輝志”10%

最主要人物:鉄翼刀

-WORLD LINK- ~WEPON~:裏天剣・レヴィンの所有者決定

-WORLD LINK- ~FINAL ATTACK~:全能力の底上げ。飛鳥の力を借り受けての翼刃。



WORLD LINK、久々に描いて楽しかったです。
やっぱり「奴」を倒すならWORLD LINKしかないよね!!!



翼刀
「じゃあ次回。ちょっと時間は戻るかな?」

唯子
「ショウさん、セルトマンに再び戦いを仕掛ける!?」

ではまた次回 
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