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キコ族の少女

作者:SANO
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第14話「互角×会場の熱気=ひゃっはーっ!」

 先の戦闘で獲得した賞金をジュースに換え、チビチビとテトと一緒に中身を減らしながらエレベーターに乗り80階を目指す。
 だが派手な勝利の仕方をしたのを含めて、やっぱり子供がいるのが珍しいのだろうか、半分以上の同乗者が俺に視線を向けていた。
 別に人前に立つと云々的な性格ではないものの、エレベーターという狭い箱の中で注がれる視線は全くの別物であり、恥ずかしく非常に居心地が悪い。

 例えれば、登校中に高齢者の人が困っているので何となく助けたら近隣の住民が見ていて、学校に連絡がいきクラスメイトの前で先生に褒められる小学生みたいな?
 ……分からない?まあ、いいさ。

 兎にも角にも、恥ずかしいという事は確かなのでフードを深く被りコートで体を隠して、気持ち視線から体を守るような姿勢を取る。
 そんな俺を思ってなのだろう。服の中でジッとしていたテトが急に外へ飛び出すと、俺の肩に乗り視線を向けてくる人に対して威嚇を始めてしまった。
 当然、テトの行動によって無関心だった人までこちらへ視線を向けてしまい、テト的には追い散らす行動が逆に注目を集めてしまう。


「テ、テト!」


 増えた視線に、慌ててテトをコートの中へと引き戻すも、時既に遅し……
 結局、80階に着くまでの数分間を俺は体を小さくすることで、他者の視線から耐え忍ぶことになった。
 そして目的の階に到着し、扉が半分程度開いたと同時に脱兎のごとくエレベーターから逃げ出したのは、言うまでもないことである。


「ぁ~ぅ~」


 80階に行くだけで、なんでこんなに疲れなきゃならないんだよ。

 エレベーターから結構離れた場所にある選手が待機する待合室の隅で、俺は項垂れながらも精神的疲労の回復に努めていた。
 先ほどよりは少ないとはいえ、周囲からは依然として視線を感じてはいるが疲労がピークなので、どうでもよくなっていた。幸か不幸かは別として……

 それに、今考えることは次の試合のことである。
 確か原作では無傷で勝利したゴン達は、その日のうちにもう一試合あったはずだから、同じく無傷で勝利した私も後一戦あると思った方がいい。
 次で勝てば、普通の宿に一泊する賞金は手に入る。
 手持ちがあるとはいえ、今後のことを考えると贅沢は極力しないほうがいい。それに100階まで行けば衣食住のうち二つを確保できるから、消費も減るだろうしね。

 いつの間にか戦闘以外のことを考えつつ数分くらい待っていると、俺の名前が呼ばれて指定された会場へ向かう。
 周囲のざわめきや回復に努めていたせいで、相手の名前を聞き逃したが……
 まあ、この階にいるレベルの人間なら大丈夫だろうと、ちょっと生意気なことを思いつつも、スタッフの指示に従って専用の入場口から会場へ入る。

 すると、1階で感じた熱気を軽く上回る歓声と熱気が俺を包み込んだ。
 だがそれも束の間、対戦相手を見た瞬間には俺の意識からシャットアウトされてしまった。


「ヒソカ!?」
「やあ」


 唖然としている俺に、笑いかける変態ピエロ。
 だが、笑っていても放ってくるオーラは初対面の時以上に容赦なく、思わず後ずさりしてしまう。
 テトは、野生の本能からか服の中から飛び出し、リングの外へと逃げ出してしまった。


「キミがここにいるって聞いたから、来ちゃった」
「~~っ」
「くっくっく。療養中だったそうだけど、鍛錬は欠かさなかったみたいだね」
「こっの……変態!」
「ん~っ、いいオーラを放つようになったじゃないか」


 殺意を込めてヒソカを睨みつけるも、全身で受け止めるようにポーズをとると恍惚した表情で俺に視線を送る。
 舐めるような、そして全部を見られているようなヒソカの視線と戦闘モードになった奴のマグナムが視界に入り、強烈な悪寒が全身を駆け巡り、自分の体を無意識に守るように抱きしめてしまう。
 

「……でも、まだ食べごろじゃない」


 そういうと、突然構えを取る。
 ヒソカの行動に一瞬驚くが、審査官が開始の合図を取ろうとしていたのに気付き、慌ててこちらも構えを取る。
 ヒソカが現れただけで周りの声が聞こえなくなるほど動揺した自分を叱咤しながら……


「始め!!」


 審査官の声を合図に、ヒソカに接近するため地面を蹴り飛ばす。
 対格差から来るリーチの差を少しでも埋めてしまわないと、一方的な展開になってしまうからだ。

 あと、これは自分勝手な覚悟だが念による身体強化のみで戦う。
 ヒソカは、まだハクタクとヒスイしか俺の能力を見たことないし知らない。
 それにここはルールなし殺し合いの場ではなく、審判もいて観客もいるルールありの闘技場なのだ。この状態で”三個目の念獣”を使い、対応される前に連続攻撃でポイントを奪えれば勝てる可能性がある。
 だが、能力に頼りきった戦闘で勝つのは今後のことを考えてあまりしたくない。

 ルール有の試合なら、純粋な戦闘を……そんな風に、ヒソカ的には強化系の思考で行動することにした。
 幸いと言うか、テトが離れてくれたお陰で、彼を気にせず全力で戦える。
 そんな俺の考えを感じ取ったのか、ヒソカは口を裂けんばかりに大きく歪めると、俺と同じように地面を蹴った。


 観客的には一瞬、俺達的には数瞬で詰まる攻撃範囲へ入る直前、俺は少し強めに地面を蹴って体を少し浮かせると、その勢いのままヒソカの顔を狙った右足の回し蹴りを放つ。
 当然その程の攻撃では顔の横に左腕を立てたガードをされるが、ガードされた右足を支点に体を回転させると、今度は左足の踵落としで脳天を狙う。

 しかし、ヒソカはこれをガードした腕を外側に大きく振ることで俺を振り飛ばして回避する。
 無理やり体を捻ることで地面に足をつかせブレーキをかけている俺に接近したヒソカは、右膝蹴りを俺の顎めがけ放ってくる。
 間一髪という感じで顎を持ち上げて、逃がし切れていない後ろへの勢いに乗ってバク転するように回避すると、そのままの勢いで蹴りを繰り出すも、ヒソカは余裕の表情で体を後ろへと傾けて回避する。

 距離を開けようと軽く後退するヒソカに追随すべく、蹴りを含めてバク転で宙に浮いていた足が地面につくと同時に、足に溜めたオーラを一気に吐き出し、ヒソカめがけて突撃。
 ただの突進であるため、体を傾けて回避しようとする彼の前で右足ブレーキをかけつつ体の向きを変え、殺しきれない速度を左足の後ろ回し蹴りへ上乗せした一撃を繰り出す。
 だがブレーキを掛けすぎたのか、その一撃は右手で軽々と受け止められ、そのまま自分の方へと引っ張ってくる。

 下手に足を地面へつけようと抵抗すればバランスを崩すと即断、拘束を解こうと右足で地面を蹴り上げて宙に浮いたまま、左足を掴んでいるヒソカの手を蹴り上げようとする。
 が、蹴る前に手を放されて蹴りが空振りに終わってしまい、無防備な状態で宙に浮くことになってしまった。

 もちろん、そんな状態を見逃してくれるはずもなく、即座にやってきた右ストレートを”堅”で強化した両足裏でどうにか受け止めるとともに、吹き飛ばされることを利用して一先ず距離をとった。
 それに対してヒソカは追撃はせず笑みを浮かべたまま見送ったので、危なげなく着地した俺も攻めようとはせずに小休止状態へと移行した。


「―――!!――!!」


 荒くなった息を整えようとする俺の耳に、進行役の人が興奮した声で何か言っているのが聞こえるが、言葉として届いてこない。
 自分の中から溢れ出る歓喜に体が震えて、それどころではないからだ。

 ヒソカは本気を出してないことは分かりきっていることであっても、戦い続ける事が出来たという事実は俺を歓喜で体を震わせるのに充分すぎる理由であった。
 自覚はないが、おそらく口元が大きく緩みきっていることだろう。

 ヒソカの強さは漫画で充分すぎるほど知っているが、相対している今は身をもって実感している。
 そんな奴に(手加減されてはいるものの)互角に渡り合っている。

 それが何よりも嬉しい。
 自分が強くなっていたのだと感じることが出来た。 
 もっと戦ってみたいと思えてくる。

 だが、我を忘れそうなほどの喜びも数秒で自重させる。
 ノブナガに耳にタコが出来るまで聞かされた「冷静じゃない奴から死んでいく」という言葉を思い出したからだ。

 油断すると溢れ出てしまう余計な感情は心の奥底へとしまいむと、深呼吸を数回して興奮している自分を落ち着ける。
 俺が冷静になるのを待っていたかのように、軽く構えを取ったヒソカが挑発するような手招きをする。
 
 その挑発に乗って、俺はヒソカに向かって体を弾丸のように突撃させる
 そして、体をかがめて飛び上がる体制を……フェイントにサイドステップでヒソカの右側へ移動すると、石畳同士の境目に蹴りを入れる。


ボコンッ


 そんな空気の音と共に、石畳が一枚浮かび上がると、蹴られた勢いのままにヒソカへと向かっていく。
 それを隠れ蓑しつつヒソカの近くで石畳を砕こうと後を追ったのだが、それよりも先にヒソカに砕かれてしまい、飛んでいる方向とは逆からの衝撃に砕けた石の破片は四方八方へと散らばった。


 くっ、ゴンの真似事はやっぱり無理があるか。


 心の中で舌打ちをしながら、左手で飛んでくる破片を弾きつつヒソカの姿を探すが、すぐに背筋が凍るような気配を感じ反射的に身をかがめる。
 と、さっきまで自分の頭があった場所にヒソカの足が風を斬りながら通り過ぎると、蹴りの余波が周りの破片を飛び散らした。

 想像以上の威力の蹴りに、受けた際のダメージを想像してしまい背中に冷や汗がドッと湧き出る。
 しかし、蹴り一つだけの攻撃で終わるような訳がなく、再び背筋が凍る感覚を感じると、反射的に体を屈めたときのバネを使って横へ飛び去る。
 直後、さっきまでいたところに踏みつけるように足が下りてきて石畳を轟音と共に踏み砕いた。

 無理な回避をしたため、バランスを崩した俺にその砕かれた石が襲い掛かり、悪手だと分かっていても腕でガードするしかない。
 自分から視界と腕を塞いでしまったものの、直ぐに“円”を発動させて周囲を探ると俺の背後に回ったヒソカが感じ取れた。


トッ……ン


「っ…!!」


 だが、俺が反応するよりも早く動いたヒソカの掌が俺の背中に優しく触れるように接触したかと思うと、その動作に似合わない衝撃が全身に襲い掛かった。
 受身の態勢を取れず、俺は場外……観客席の下にある壁へと激突した。
 幸いにも、とっさにオーラで全身を守ることが出来たので激しい音や衝撃の割には目立った外傷を受けることは無かったが……


「くっ……」


 内部は無事だったとは言えず、打ち所が悪かったのか眩暈がして足腰に力が入らない。
 四つん這いの状態から立ち上がろうと足掻く俺を、リング上からヒソカが見下ろしてくる。


「半年前に比べれば、格段に強くなったね」


 もう終わりだとでも言ううようなヒソカの物言いに、俺はまだ戦えるという意思表示を示すがために、何とか立ち上がる。
 10カウントが取れれる前にリングに戻れれば、まだ戦えると、


「次は、右腕が完治してからやろう」


 だが、そこまでが限界だった。
 プルプルと震えていた両足は自重に耐え切れずに膝から折れると、体は前のめりに倒れていき地面に倒れこむと同時に俺の意識も堕ちた。 
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