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ユキアンのネタ倉庫

作者:ユキアン
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Knight's & Magic & Carrier 2

陛下のお達しの通りカルダトア20機と大量の資材が運び込まれ、これからの銀凰騎士団の開発方針を話し合うことになった。

「さて、陛下からの任は国機研の鼻を明かしてやれです」

「国機研の奴らはエリートだが型にはまったことしか出来ない奴らだ。逆に言えば同じ型で戦うのでは鼻を折れない可能性がある。そこ、ガンタンクで良くないとか言うんじゃない。あれの欠点はまるわかりだろうが」

「継戦能力の低さと格闘戦が行えないというのは致命的です。運用方法や立ち回り方がものすごく重要になってきますからね」

「だからこそ更なる新型機を作らなければならない」

「そこでトールと僕は考えました。今回のテレスターレ強奪事件、おしくも逃げられてしまいましたがその原因は?邪魔が入った、抵抗された、追撃が遅れた?確かにそれらもありますが一番の原因は似たような速度でしか走れないからでしょう。そこで僕達が次に作るのは速さに特化した機体です」

「そうなると今度は軽量機を作るのか?」

「いや、重量機だ。驚け、設計図を引いた段階でなんとフル装備のアールカンバーの倍の重さだ」

「「「「倍!?」」」」

「テレスターレで腕が四本になったんだ。じゃあ、次は足を四本にするしかないだろう」

設計図を黒板に貼り付けて全員に見せる。設計図に描かれているのは半人半馬の機体。全員が食い入るように設計図を見て頭を抱える。

「ウチはゲテモノ専門になるのか?」

「時代の魁と言ってください」

まあここは1つ大人の対応を見せてやろう。

「動物っていうのは基本的に四脚だ。理由はこれが最も安定する姿勢を取ることが出来るからだ。オレ達人類は手に道具を持つことが多いために二脚に進化した猿だな。道具を使い続けることで脳が大きくなり、色々なことが出来るようになったが、その代償に道具なしには動物に勝つことが難しい動物となった。話がそれたな。今回は分かりやすく説明するなら役割分担だ。下半身の馬の部分で速度と走破性を確保し、空いたスペースに板型や魔力転換炉を2基積む。上半身の人の部分は軽くなるように作り、武器をもたせることでガンタンクではできなかった格闘戦を行えるようにする」

「走るための姿と戦うための姿。両方を兼ね備えたのがこれですね。走るためだけに特化した物や戦うためだけに特化した物にそれぞれの得意分野で戦えば負けるかもしれませんが、逆なら負けることはない。追撃にこれほど適した物は無いでしょう」

「ちなみに馬と人を別々に作れば?と言う意見もあるだろうが、そうなると馬に騎乗する形になる。そうなると重量が半人半馬よりも重くなり、更には魔力転換炉を合計で3基必要になる。また、バランスが崩れれば転倒する確率も増す。それでは意味がない」

完全に人馬一体に成れるのなら問題はないのだがな。いや、あの二人は人機一体で刃騎一体の変人コンビだから仕方ないか。

「だが、それだと戦闘特化に作った機体を奪われたら、それに劣る戦闘力しか無いこいつを出すことになるんだろう?最低でも2機出す必要がある。それでも奪還、あるいは破壊出来るか分からない。そこはどうするんだ?」

「まだ頭が固いな。こいつは半人半馬だ。半分は馬なんだぞ」

「つまりですね」

「エル、少しはこいつらにも考えさせるんだ。答えばかりを教えても成長できないぞ」

「そうですが、混乱が酷すぎて答えが出るとは思えないのですが」

団員を顔を見てみれば、変な方向に考えが向いてしまっているのが手に取るように分かる。溜息を付いて分かりやすく例えを出してやることにする。

「エドガー、お前たちが長距離を移動する時はどうしている?」

「むっ、それは幻晶騎士は徒歩でその他の人員は馬車、そうか、馬車か!!」

エドガーの言葉にようやく理解が伝わる。

「そうだ、馬車だ。牽引で速度は落ちようとも通常の幻晶騎士よりも速く遠くまで走れる。見た目も大きく異なり、性能もかけ離れた物になる。これが今回の目玉その1だな」

「その1?」

「その1だ。その2は、オレが今まで練り続けてきた構想に基づいた陸上母艦。それと陸皇級に有効打を与えられる兵器だ。とは言っても、兵器の方は開店休業中に内職で作ってたからな。魔力転換炉の数が揃ってればすぐにテストを行える様になってる」

「最低何基使う気なんですか?」

「6基。最大出力で10基。完全に固定砲台だが威力は折り紙付きだ。機構も単純だから量産性にも優れる。問題は魔力転換炉を大量に必要とする事ぐらいだな。名前はダインスレイブ。世界最強の杭打ち機の化物だ」








「この幻晶甲冑すごいよ、さすがテレスターレのお兄さん」

「オジさんぐらいが正解でしょうけどねって、うわっ!?細かい」

エルがオレが彫っている紋章術式を見て驚いている。

「幻晶甲冑も所詮は機械だ。腕の反応を落とせば精密動作が可能になる。ちなみに、こいつは外部取り付けのマギスラスタジェットの魔力効率を上げる紋章術式だ。2割程度改善すればカルバリン6発分にもなるからな。でかいと組み込むのも大変だからA4サイズにびっしりと刻むしかないんだよ」

「2割は大きいですね。ですが、それを今やる必要は?」

「あるな。やはりどうしても空を飛ばしたい。滑空するだけでもいい。ある程度上方向へのベクトルがないとカタパルト発進が物凄く難しいものになる。MSのランドセルのバーニア程度でもいいから搭載しないとな」

「ああ、その問題がありましたか。ちなみにバーニア無しであのカタパルトを使うとどうなります?」

「よほど上手く着地しないと、ペールゼン・ファイルズでの雪原戦で足を引っ掛けられたATみたいになるな。たぶん、オレでも両足を破損させることになる」

エルの次に操縦が得意なオレでそうなるってことはほとんどの奴らが死ぬことになる。

「うわぁ」

「だから外付けにしてでもマギスラスタジェットは着地用に採用しなければならない。それかカタパルトを外すかだ」

「残しておきたいですが、無理そうなら外すしか無いですね」

「最悪を見越してASの緊急展開ブースターを用意する。早馬代わりにもなるって売り込む」

「今思いついたのですが、ATやKMFやKLFやLFOの様にローラーを用意すれば良いのではないでしょうか?無理に止まろうとするから脚部に負担がかかるのですよね?」

「ふむ、なるほど。盲点だったな。だが整備が大変だな。靴を履くみたいにこれも外付けにした方がいいだろう」

「そうですね。ところで、その、ダインスレイブのテストの被害報告が上がってきましたよ」

物凄く言いづらそうにエルが切り出してきた。

「……どう、だった?」

「不幸中の幸い、死者やけが人は出ていませんでした。ただ、山道を潰してしまったらしく、それに土砂崩れに、その他諸々で人的被害がないのは奇跡だって。陸皇亀が相手でも、跡形もなく消し飛ぶでしょう。陛下からもやりすぎだとお達しが来ています」

よかった、人的被害はなかったか。敵相手ならともかく、守るべき民に被害が出ていたら罪悪感でもっとヤバイものを作るところだったぜ。

「あれは完全に計算外だった。もうちょっと威力は低いと思ってたんだ。まさか最低出力で盾を8枚と山を崩すなんて思ってもみなかったんだ」

「確かにあれは予想外でした。僕らも油断していました。とりあえず、採用を見送る必要があります」

「分かっている。そこで既に代案の設計図を引いてある。本当はCIWSのつもりだったんだが、たぶん、副砲と主砲の中間ぐらいの火力になる気がする」

「20mmの椎の実型の弾丸をダインスレイブと同じくローレンツ力で弾く。本来ならCIWSでしょうけど」

「ダインスレイブの経験から言わせればそんな生温いことにはならんな。まさか此処まで電磁力での反発がデカイ金属だったとはな」

ダインスレイブの弾丸として選んだ破城槌の金属、こいつが曲者だった。ローレンツ力の影響が曲線を描いていたようでダインスレイブに採用する前の実験での数値で出していた計算と全く異なることが判明したのだ。結果は先程も話したとおりだ。

「これもどうなるか分からんが、ダインスレイブよりはマシだ」

「試してみますが、今度はさらに安全の確保をしないとまずいですね」

「すまんが頼む。オレの謹慎処分は済んでないからな」

ダインスレイブのテスト事故によりオレは自室での謹慎処分を受けているのだ。だからこうやって新しい設計図を引いたり、紋章術式を描いているのだ。本来ならこの世界初の陸上母艦スレイプニールの建造に勤しんでいるところなんだけどな。

「スレイプニールの方ですが、魔力転換炉の連結がようやく終了しましたので、機関室の建造が始まりました。要望通り、装甲は厚めにとってあります」

「ああ、頼む。それが終わったところで問題なく動くかどうかの確認で頼む。上の箱は後でいくらでも作り直せる。下は上の箱を全部崩す必要があるからな」

「ガンタンク程度の大きさならともかく、母艦となるとそういうわけにもいきませんか」

「ドッグがないからな。正式採用されたらドッグの設計と建設だな。ツェンドルグの方はどうなっている」

「これも少し問題が出てきましてね。魔法術式の最適化のために複座型に変更し、上半身と下半身の操作を分けることにしました。最終的には一人でも動かせるようにはしますけど」

「よりにもよって人馬型で操作を分けるって、ああ、双子が居たな」

「はい、キッドとアディに任せることになります」

「嬢ちゃんが無茶する光景が目の前にあるかのように想像できるな」

それに振り回されるキッドに黙祷を捧げる。もう少し大人になったら綺麗でおしとやかな姉ちゃんが一杯いる店を紹介してやるからな。まあ、それが擬態で食われても知らんがな。大人の階段を登っちまえ。童貞ばかりの騎士団だ。エドガーもディーもヘタレて逃げたからな。一段上の男にしてもらっちまえ。まあ、嬢ちゃんに振り回される人生は変わらんだろう。キッドの人生に幸あれ。









計器類の最終確認を行う。周囲で確認している作業員から問題なしのサインが送られる。既に何度もやったことだが、やはり緊張、いや、高揚する。

「トール、そろそろ時間だ!!」

艦内拡声器からダーヴィドの声が聞こえてくる。

「ダーヴィド、スレイプニールの方は任せるぞ。少しぐらい遅れる程度なら構わん。絶対に持ってこいよ」

「決闘級の群れが出てきても、残っている戦力で殲滅できそうなんだが」

「足回りは絶対にやられるなって言ってるんだ。時間だ、上げろ」

メンテナンスベッドごと機体がエレベーターに向かっていく。到着するとメンテナンスベッドを操縦している作業員とは別の作業員がエレベーターを操作し、エレベーターが上がっていく。天井が開かれた先は、船体中央に取り付けられたカタパルト前でそこでようやくメンテナンスベッドの固定が外れる。後ろにある重心に気をつけながらカタパルトに足を乗せ、クラウチングスタイルで目の前のバーを両手で握る。最後に外付けのランドスピナーを展開する。

完全にASの緊急展開カタパルトと一致するが著作権云々は異世界には通用しないからな。使えるものはなんでも使わないとな。だから背中にも緊急展開ブースターを再現して搭載している。お陰で背面武装を取り外さなければならなくなったが、こいつの性能と用途から不要だ。

「トルティオネス・グラエンド、ツールボックス、行くぞ!!」

両手で掴んでいるバーに取り付けられたスイッチを押してカタパルトが勢い良く前へと飛び出し、背中の緊急展開ブースターを思い切り吹かせて空へと舞い上がる。ちなみに緊急展開カタパルトを使いたがるのはオレとエル、それからキッドとアディだけだ。他のメンバーは全員、一度やって見事に墜落して機体を小破から中破させた。最初にディーが大破させ、嫌がる他の奴らを強引に乗せたのだが結果は散々だった。名前も裏では皆、結果にちなんでメテオなんて呼んでやがる。

まあ、ツールボックスもエルが好き勝手に弄り回しているトイボックス(おもちゃ箱)の様に、オレも弄り回して試作品を試しまわって、エルの物よりは実用性の高い物を使っている所為かツールボックス(工具箱)になっているんだがな。

そんなことを考えながらある程度の高さを確保したところでマギスラスタジェットを切って滑空させる。本家の物よりも翼を大きくした事により揚力を得やすくはなっている。その分、重心の調整には苦労するんだがその程度は最適化が済めばどうとでもなるし、ちょっと訓練すればいいだけの話だ。

前世では慣れ親しんだ景色を今はオレだけが独占しているという優越感に浸りながらも計器類の確認だけは怠らない。さすがにこの高さからパラシュート無しでスカイダイビングはやりたくない。

途中で何回かマギスラスタジェットを吹かせば先行していたツェンドルグとそれに接続されている荷車がちょうど門を潜っている所が見えた。それに続くように高度を落としながら外付けのランドスピナーから着地する。門の30m程手前に着地し、そのままランドスピナーで勢いを落とさずに滑る。着地で多少崩れた体勢を立て直してからスピードを落として、トイボックスの隣で駐機体勢を取らせる。

ベルトを外してハッチを開け、騎士の礼を取る。隣でエルも騎士の礼を取っている。

「陛下の御命を受け、銀凰騎士団団長エルネスティ・エチェバルリア、副団長トルティオネス・グラエンド、同1番中隊隊長エドガー・C・ブランシュ、同2番中隊隊長ディートリヒ・クーリッツ、ならびに最新鋭の人馬騎士ツェンドルグ、ここに揃いましてございます」

誰の反応もないが仕方ないだろう。ツェンドルグだけでも理解が難しい所に人形のまま空を駆けてきたツールボックスまで居るのだから。




エドガーとディーに資料と組み立て式の黒板を持たせて貴賓室へと向かう。先頭は団長のエル、その一歩斜め後ろにオレで更にその後ろに二人だ。貴族達の視線がオレとエルに集中する。理由は分かる。エルは女の子にも見える華奢な体をしている。そのままドレスでも着せて深窓の令嬢だとでも紹介された方が納得できるだろう。

そして、オレは騎操士の標準的な騎士服の上に分厚い作業服を着込んでいる上に全身を震わせて髪の毛の一部が凍っているからな。幻晶騎士、というよりは魔力転換炉の機能上の問題だ。魔力転換炉は大気中のマナをすくい取るフィルターだ。つまり熱を生み出さない。そこまでなら都合のいい動力源なのだが、主に使われている環境は温暖な地域なのだ。空の上での活用は想定されていない。

上空の冷たい大気を取り込み、それが全身に流れ込むんだ。ヒーターを搭載しないと死ぬな。作業服を積んでなかったら墜落してたな。テストでは高高度まで上がってなかったから分からなかった欠点だ。

陛下の前で臣下の礼を取り、説明は全てエルに任せる。

「陛下の仰せにより、最新鋭試作機体ツェンドルグ、および試作兵装群、および緊急展開滑走翼を搭載したカルダトアベース・テレスターレ、ここにお持ちしました。また、新構想戦術の母体となるスレイプニールもこちらへ向かっております。緊急展開滑走翼の紹介のために到着が遅れることをお詫びいたします」

「ご苦労であった。それと、トルティオネスは大丈夫なのか?」

「はっ、今回は高高度での運用試験も同時に行い、欠点が見つかった次第であります。既に改善案は思いついておりますので明日にでも克服されます」

「うむ。それにしても、お主らはわしを退屈させぬな。昨年も山一つを吹き飛ばしたかと思えば、人馬騎士に空を飛ぶとはな」

「「お褒めに預かり恐悦至極」」

「褒めとるわけでは、いや、褒めるべき点もあると言えばよいのか、判断に難しいの」

陛下が苦笑している。まあ、色々詰め込みすぎた感はある。だが、この後にスレイプニールも来るし、耐性を付けてもらわないとな。そんな中、一人の男が前に出てくる。

「……お、お前たちのような子供が、若造がアレを作っただと?」

「ディー、ツェンドルグの資料を渡してやれ。あと、メモ用の紙を1枚」

ディーが持っていた資料からツェンドルグの物を前に出てきた男に渡し、メモ用の紙を1枚オレに渡してくる。受け取った紙を手早く折って紙飛行機にする。こっちの世界には折り紙という文化は存在しないからな。

「ツェンドルグは魔力転換炉を2基搭載している。そうしないと自重を支えることが出来ないからだ。緊急展開滑走翼は、原理的にはこいつと同じだ」

出来上がった紙飛行機を貴賓室の外へと向かって軽く投げる。運が良いことに追い風に乗り、200m程飛ぶ。そのことに貴族達も驚いている。物を遠くに投げるには軽い方がいい、だが軽すぎても駄目だと言うことは分かっているが、何故駄目なのかまでは分かっていない。彼らの常識ならば、紙は遠くまで投げれないということになる。だが、目の前で紙を折っただけのものが200mまで飛んだ。

「あとは初速とその後の速度の維持だが、それも形にしたのが緊急展開滑走翼です。まだ問題点もありますが、片道だけとは言え馬車で6日の距離を1時間で飛行可能です」

とは言え、そんなことをすれば着地後に魔力量が戦闘なんて出来る状態じゃないけど黙っておく。これは早馬代わりなんだ。戦闘は考慮していない。いずれはなんとかしたいとは思っている。爆撃が出来るだけで大きく変わるんだけどな。要研究課題だ。

「予算と資材の問題でこの程度の完成度でありますが、今後の調整、開発によって更なる発展が可能だと考えております」

「最終的には何処までやりたいと思っておる」

「現在のところ、専用の設備を要した上で始めて空へと舞い上がることが出来ます。また、方向転換も容易ではなく、少しずつ曲がる程度が限界です。最終的には専用の設備無しで空へと舞い上がり、自由自在に駆け巡りたいと思っております」

「出来ると思うか?」

「壁はいくつもありますが、壊すか、乗り越えるか、はたまた迂回するか、あるいは穴をほって潜るか、幾らでもやりようはあります。最初に宣言しておきましょう。何百年先になるかは分かりませんが、人類はいずれ月にまでも手を伸ばすでしょう。まあ、先に魔獣を全部駆逐する必要があるでしょうが」








カルダトア・ダーシュとオレ達銀凰騎士団の模擬戦を貴賓室で観戦する。ちなみにツールボックスは邪魔なので場所を変えてある。さすがに現物が一つしか無い緊急展開滑走翼を破壊したくないから模擬戦には参加しない。

「陛下、一つよろしいでしょうか」

「どうした、トルティオネス」

周りに聞かれるとまずいと思い声を小さくする。

「団長との約定、自分にも一枚噛ませて欲しいと思いまして」

「ほぅ、何故だ」

「この後お店することになるスレイプニールですが、製造中に色々と問題が発生しまして。その中の一つに魔力転換炉の性能のバラツキが問題となっています。他の問題ならともかく、それだけは今の我々だけではどうすることも出来ないと判断いたしました。安定稼働、改良、量産のためにも是非に」

「エルネスティと交わした約定を知っているか?」

「陛下を納得させるだけの功を立てよと。陸皇亀討伐程度ではない功を」

「そうだ。お前にそれが出来るか?」

「ガンタンク、強襲型ガンタンク、ダインスレイブ、緊急展開滑走翼、これだけでもかなりのものと思っていますが」

「先の2つはそこまでのものではあるまい。ダインスレイブは運用に悩むのう。緊急展開滑走翼、まだまだ調整が不足しておる。まだ足りぬな」

「ダインスレイブに関しては打ち出す杭の材質を変更したことで十分使いやすくなっております。また、威力を大分低くし、連射できるものをスレイプニールに副砲として搭載しております。主砲にはカルバリンの改良型を連結させた物を搭載しております。詳しい資料はまとめてありますが、簡単に説明いたしますと、生産性は少し下がり、整備性は少し上がり、出力を三段階で設定可能、最大出力でカルバリンの3倍の有効射程と2倍の威力となっております。これは艦船に載せることが可能なための性能です。幻晶騎士に搭載するタイプは威力が2割増し、燃費は1割増しです」

「……何をさらっと恐ろしい物を引っ張り出してくるんだ」

「他の物に比べると見劣りしますので。スレイプニールへ搭載するために無駄を整理した副産物です」

「……ふむ、魔力転換炉は幾つ使っている」

「12基と駐機状態のカルダトアベース・テレスターレを6基接続出来るようにしています。幻晶騎士との接続するのは問題ないのですが、12基の方の魔力転換炉の性能のバラツキによって負担が大きいものが出ています。マッチングテストを行い、一番負担がない組み合わせで使用していますが、それでも数年で2基から4基を磨り潰しそうです。製造方法は諦めれても整備、改修のための知識がどうしても欲しいのです」

「それが認められないと言ったら?」

「そうですね、あまりやりたくはないですが生物が住めなくなる毒性を持ったとある物質から無限に近い熱量を取り出して、それを物理エネルギーに転換して艦を動かしますよ」

「だからさらっと恐ろしい物を引っ張り出すんじゃない!!まさかその物質を持ってるんじゃないだろうな?」

「ご安心を。手に入れようとしたら10年単位での準備をしなければなりませんので。ただ、本気でヤバイ物質です。一定の質量を一箇所に固めるだけで王都が吹き飛んで数百年は立ち入るだけで死ぬような環境に変えてしまう劇物です。私でも躊躇します。あの団長ですら躊躇します。使いこなせれば莫大な力を得られるのを知っていますが、使いこなせないと知っていますから」

「そこまで危険か」

「もし、世界が人間の手によって滅びるとしたら、こいつを使った撃ち合いでしょう」

一体何が始まるんだ。第三次(大惨事)大戦だ。

「お前ら、使うんじゃないぞ。フリじゃないからな」

「使いませんよ。それより、あとどれだけ功を立てろと?具体的に示してもらったほうが楽なんですけど」

「とりあえずはお前たちの言うスレイプニールを見てからだな」

「自信作とは言い切れないんですよね。とりあえず形にはしてみた、そんな感じですので」

「ほう、それをよく見せる気になったな」

「まあ、現状できる全てはやってますから。何か技術的にブレイクスルーが起きないとこれ以上はどうしようもないって所まで機能を搭載しましたから」

そこまで言ったところでちょうど模擬戦が始まる。ツェンドルグは3機分と見られたのか対峙するダーシュは6機。どういう戦いを見せてくれるのかしっかりと確認しないとな。

まずは、トイボックスのマギスラスタジェットの突撃か。エドガーとディーで3機を相手に時間稼ぎか。うぅむ、悪くはない選択だが間違いでもあるな。テレスターレが一番やってはいけないのは持久戦だ。特にオレ達は試作兵装を山盛りにしているから余計に燃費が悪い。エドガーの背面武装として盾を2枚持っているが、燃費を考えるなら普通にカルバリンを積んで速攻で敵をやってしまう方が燃費が良いぐらいだからな。ディーの様に短期決戦に持ち込んだほうが良いんだが、性格面で悪い方向に向かっている。

こうして見るとダーシュはかなり手堅いな。やはり外部との技術交流は勉強になる。ダーシュは先行量産機だから正式な量産機が出たらそっちを確保して改良するのが一番早いな。騎操士の腕も良いな。学生とは比べ物にならない練度だ。初見の物が多いから対応に慌てているが、次にやった時はどうなることやら。

陛下の言うとおり、ブラッシュアップは全部回したほうが良いな。その分、こっちは新技術の開発に専念した方が効率が良い。その分、設計図と概要書は作る必要があるが、それはオレとエルの仕事だ。喜んでやらせてもらうさ。

模擬戦が進み、トイボックスとツェンドルグ対ダーシュ2機となった所で陛下が模擬戦を終了させる。政治的な配慮だろうが、ちょうどいいタイミングでもある。

「陛下、間もなくですがスレイプニールが到着します。移動をお願いしたいのですが」

「移動?どういうことだ」

「スレイプニールですが、門を潜るのは不可能ですので全貌をお見せすることが出来ません。それに、実際に中を見て貰った方が理解を得られやすいかと」

「ふむ、外側からは理解しきれんか」

「内部の方が技術の集大成といえます。主砲や副砲、ダインスレイブはほぼ囮の技術です。それ以上に画期的な物の試作品がわんさかと積んであります」

「お前ら、まだそんな物を隠してるのか」

「こっちでも危機意識を持っているのです。二度とあのようなことにならないように」

二度も奪取されてたまるか。

「はぁ、心配に、おい、アレはなんだ」

陛下が指を指しながら門の向こう側を指差す。そちらを見れば遠目にだが特徴的な形が見えていた。

「おや、予想より早いですね。ご紹介しましょう、あれが今の我々に出来る限界までをつぎ込んだ陸上母艦、スレイプニールです」

貴賓室に居る他の貴族の方々も少しずつ気付き始める。スレイプニールはネェル・アーガマを素体に設計・開発を行った陸上艦である。

本来なら第2、第3カタパルトである場所は普通の甲板となっておりダーヴィドの奴が指示を出したのか、テレスターレが駐機状態で並んでいることでその大きさが際立っている。また、底面部分を全てキャタピラにしたためにのっぺり艦が出てしまった。また、後部エンジンブロックだった部分は工房となっているために本家よりも大型化してある。そして、艦首砲であったハイパー・メガ粒子砲の代わりに引き込み式で大型化したダインスレイブを設置してある。主砲のメガ粒子砲も第1カタパルト上部ではなく、第2第3カタパルト上部に連結型カルバリンを1門ずつ装備。主砲の部分には小型のダインスレイブを設置してある。あとは死角を無くすようにスナイドルが取り付けてあるがこれは完全に牽制目的の装備だ。ブライトさんには怒られる程度の弾幕しか張れない。

「……予想していたよりもデカイな。あまり砦のようにも見えん」

「艦をモチーフにしていますから。それでは、ご案内いたします」

門の側で停止したスレイプニールへと移動し、甲板に待機していたテレスターレの1機が外付けのタラップを乗り込み口に装着させてタラップを上がる。まずはブリッジから案内する。陛下に直接会うのを嫌ってブリッジ要因は逃げ出したようなので全てオレが説明する。

「こちらが幻晶騎士で言う所の操縦席となります。複数人での操作が基本となります。とは言っても実際に動かすのは操舵士のみで、他は各部署のトップが集まり指示を出す形です。拠点での作戦指揮所だと思って頂ければ分かりやすいかと」

「最大でどれだけの人数が詰めることになる」

「艦長、操舵士、砲術班長、索敵員、機関長、艦外通信士3名、艦内通信士2名となります」

「うん?索敵員がここに居るのか?班長ではなく?」

「そこが新技術の一つですね。こちらへ」

索敵シートへと案内し、新技術の機械を起動させる。目の前の模様の入ったガラスにオレンジ色の光点が表示される。

「これは?」

「少しお待ち下さい」

艦外通信士の席からインカムを取り、エルへと繋げる。

「エル、スレイプニールから200m離れた地点、2時の方向から12時、10時の方向に移動してくれ。早足程度でだ」

『了解です』

「それは拡声器か?」

「いえ、こちらも新技術の通信機です。そちらの騎士の方、申し訳ありませんがこれをこういう形で装着して乗り込み口にまで移動してもらえますでしょうか」

少しためらった後に陛下が指示を出してブリッジから退出する。その間にエルが到着した所定の位置に着いたので通信を送ってくる。

『位置につきました』

「10秒後に動いてくれ。陛下、こちらの光点と外にご注目ください」

トイボックスを示す光点を指差し、トイボックスの移動に合わせてその光点が移動するのを見せる。

「これは一体!?」

「一定以上の魔力が存在する位置を表示しています。決闘級、幻晶騎士ならば問題なく表示することが可能です。有効距離は半径20kmですが、そこまで来ると精度のほうが落ちます。正確な距離ですと、半径5km圏内と言ったところでしょう」

「その技術の秘匿性は」

「現在の所は団長と自分だけです。書類も存在していません。全部この中に」

頭を指差して答える。

「生産は全て国が抑える。こいつだけが唯一の例外だ。あとで王城の一室に軟禁する。そこで全てを書き上げろ」

「御意。続いて通信機の方ですが、通信機同士でのみ音声をやり取りできるものとお考えください」

「よく分からんな」

「では陛下、先程の騎士の通信機とつなげます。彼と話してみてください」

周波数を操作して騎士の持つ通信機に繋げる。陛下にインカムを装着してもらい、タラップまで移動してもらった騎士と少しの会話をしてもらう。

「確かに会話はできたが、他に会話が聞こえたものは」

他の騎士に確認を取るが陛下の声しか聞こえなかったと答える。

「こちら、機材を大きくすれば有効範囲を伸ばすことは可能ですが、幻晶騎士に搭載する場合2km程度が限界です」

「それでも十分に使えるな。あの事件のような時には特にな。国機研に調整と量産を回す」

「資料と予備の機材を用意します」

「他にこの艦橋で紹介するものは?」

「いえ、ありません。続いて格納庫兼工房のある後部をご案内します」

格納庫に移動して陛下と護衛の騎士が目についたのはメンテナンスベッドだろう。それと、さすがにここからは逃げ出せなかったのかアールカンバーとグゥエールがメンテナンスベッドに固定されて戻ってきている最中で整備が始まるところだった。幻晶甲冑が2機に取り付き、整備が始まる。

「基本的に母艦の移動の振動によって幻晶騎士が転倒しないようにメンテナンスベッドに固定します。また、メンテナンスベッド自体も自走可能で、歩行による事故の防止に役立っております。艦外へ移動するのも可能で、クレーンも装備していますので、行動不能になった幻晶騎士を回収することも可能です。中央のエレベーターは緊急展開滑走翼専用の設備までの移動用です。多少の高さがなければいざという時に幻晶騎士だけでなく騎操士が失われる可能性が高くなりますので」

ある程度の高さがあればランドスピナーに集中して操縦すれば被害を最小限に出来るのは既に銀凰騎士団員が証明している。

「気になったのだが、先程から幻晶騎士に取り付いて整備をしているアレはいったい?」

「アレは元々は幻晶騎士の訓練用に開発した物なのですが、今では整備に便利だと鍛冶師用に調整した物です。魔力自体は搭乗者の物を使用しますが、魔導演算機を搭載することで誰でも肉体強化を使用することが出来、整備の効率化に繋がっています。機構自体も簡易ですので量産性にも優れています。銀凰騎士団で所有していない者はいませんし、中には戦闘用に改造している者もいます」

「その筆頭がお主であろう」

「よくお分かりで。ちょっと興が乗りすぎまして、まあ、原型を留めていないというか、見てみます?」

「怖いが、確認しておかねばならぬだろうな。案内せよ」

「いえ、こちらに運ばせます」

近くに居た強奪事件の際に強襲型に乗っていた後輩を呼び寄せる。

「オルター、グリッドマンをこっちに運べ」

「サンダーパーツを換装してますけど」

「そのまま運べばいい。レックスパーツは置いておけばいいが、ドラゴニックキャノンは持ってきてくれ」

「了解です。ベッドごと運びます」

「頼むよ」

しばらくすると専用のメンテナンスベッドに固定されたオレとエルの悪ノリの結果であるサンダーグリッドマンが運ばれてくる。通常の幻晶甲冑よりも一回り大きく、無駄に思えるようなパーツが多い。実際、ただの飾りの意味合いが多い。再現できていないものが多すぎるのだ。精々、自家製サンダーグリッドビーム位だ。紋章術式として書き起こすことが出来ずにオレが自分で術式を組み立てる必要がある。その代わりに肉体強化と皮膚強固の術式の効率を上げて本家のサンダーグリッドマンのような力強さを再現している。多少は楽になるようにドラゴニックキャノンは急いで作ったけど、ただの虚仮威しだ。

しかも、魔力は全て搭乗者持ち。エルは、オレと体格が異なりすぎてサイズが合わないのだ。まともに動かせるのはオレだけとなった。

「え〜、装飾が多分に私と団長の趣味が入っておりまして欠陥機となっています。まともに動かせるのが私だけとなっております。短時間であれば中隊長二人を相手取る程度なら可能です」

「大きいな。先程サンダーパーツを換装している言っていたがそれは?」

「幻晶甲冑に更に甲冑を着込ませていると考えてもらえれば。一応は追加装備の発展系の一つに数えられます。戦場に合わせた換装パーツを全身に取り付け、戦況によっては別のタイプのパーツに換装して別種の機体にしたり、損傷を受けた際にパーツの交換ですぐに復帰できるメリットがあります。デメリットとしては費用がかかることと、その分資材を積まなければならないこと、操縦系統が死ぬほど複雑になることから趣味の域からは絶対に出ない代物です。その分、遊びに走れて私と団長は楽しんでいますが。幻晶騎士と違ってそこまで資材を使いませんし、汎用性を無視して遊べるので」

「実戦には使えぬのか?」

「これに積めるサイズの魔力転換炉は存在しませんから、全部を搭乗者が補う必要があります。それに武装も2つを除いてハリボテで、自分で術式を編んでいます。普通に素体である幻晶甲冑に通常の騎士の武器をもたせるだけで通常の騎士との戦いなら十分でしょう。幻晶騎士相手には専用の武装と装備をつけたもので何人かで掛かれば倒せなくもないでしょう」

「ふむ、とりあえずコレも色々と試してみる価値はあるな。整備には十分使えるのだろう?」

「そちらは実証済みです。予備が何機かありますのですぐにでもお渡しできます。解説書もありますので、そちらも一緒に」

「うむ」

「オルター、予備と解説書の引き渡しの準備をしておいてくれ」

「了解です。それじゃあ、グリッドマンも戻しますね。あっ、そうだ、グリッドマン用のパーツの設計図を引いてみたので見て貰ってもいいですか」

「後でだ。私は陛下の案内がある。それでは陛下、次はスレイプニールの心臓部をご案内します」

「魔力転換炉を12基も使っている心臓部か。そこで問題点も説明するのであろうな」

「はい。実際に見ながらご説明させていただきます」

スレイプニールの心臓部である機関室は至ってシンプルで複雑だ。12基の魔力転換炉が置かれ、4基毎にパイプで繋がれて塊となっており、更にそこから壁中にパイプが張り巡らされている。そのパイプや魔力転換炉の周りを機関員が幻晶甲冑を着て飛び回っている。

「ご覧の通り、ここから魔力を全体に通しております。4基で1つのグループを作り、全体を支える強化魔法に回すグループと武装に回すグループと移動に回すグループに分かれています。パイプを繋ぎ替えることで配分を変えることも可能です。また、格納庫にもありましたパイプと接続することで幻晶騎士の魔力をこちらに回すことも、その逆も可能です。艦橋の機関長席から魔力残量を確認し、こちらにいる機関員に指示を出してパイプを繋げかえさせます」

「どれ位の時間で繋ぎ変えれる」

「お見せしたほうが早いでしょう。移動用の2基を武装用に回せ!!」

指示を出すと同時に素早く移動用と武装用の8基に取り付き、状態を確認する。

「あれは何をしている」

「魔力残存量と、負荷を調べています。ここで出来るだけ似ている物を選んで接続しなければ逆流が発生します。そうなると魔力転換炉に負荷がかかって、破損します。見極めが終わり次第、あの通り」

機関員が素早くパイプを外して付け替える。指示を出してから5分ほどで切り替わる。

「なるほどな。半分以上が魔力転換炉の測定か。欠点というのはこれか」

「はい。出来るだけ似ている物で繋ぎ変えておりますが、それでも負荷がかかります。それらは性能のバラツキによって発生していますので」

「製法を知りたいか」

「代替品を用意できるだけの知識は得たいと思っております」

「……とりあえず武装の方も確認させてもらおう。事前に通達してある場所に標的も用意してある」

「了解しました。それでは再びブリッジまで、いや、甲板の方がいいかな?どうされます」

「甲板というのは外のことか?」

「そうですね。テレスターレが並んでいた場所になります。今は閉じている壁の向こう側がそうなります」

「一番見えやすい場所は何処になる」

「一番となりますと、各砲塔の砲手席だと思いますが」

「至極当然だな。どれ、わし自ら撃とうか」

「多少、幻晶騎士とは扱いが異なりますので軽くレクチャーを受けて貰いますが、よろしいでしょうか」

「うむ」

「ではこちらへ」

一番近くにあるタラップを登り、副砲の連結型カルバリン、アームストロングの砲手席に案内する。砲手席についていた後輩に陛下へのレクチャーを任せ、ブリッジに戻っているダーヴィドに指示を出して標的が置いてある場所まで移動させる。その間に陛下は完全に扱い方をマスターしていた。

「これは中々良いな。砦の備え付けの砲にこの旋回技術を取り入れるぞ」

「こちらも資料と予備パーツをご用意しておきます」

「それにしても、幻晶騎士よりは遅いとは言え中々の速さだな」

「艦内には居住区もありますので人員を交代させれば何日でも走らせることが可能です。ただ、簡易整備だけでは2ヶ月が限界です。専用の整備施設が必要となってきます。現在は多少ガタが出始めている頃ですが専用の整備施設を作るだけの資材がないので保留状態です。泥臭い力づくな方法で何とかしていますが」

「泥臭いか。比喩ではないのだろうな。言葉通り泥まみれになるのか」

「よくお分かりになりましたね」

「国機研がガンタンクを調べ上げた資料をあげてきておったからな。それを見て、泥臭いと聞けば、足回りの整備を地面に潜ってやっておる位想像がつくわ」

「ご明察のとおりです。足回りの整備に穴を掘ってます。幻晶甲冑のおかげで生身よりは楽ですが、鍛冶師の負担は大きいです。今後の改良、量産のためにも専用の施設は必須です」

「量産の方はこのスレイプニールを雛形とするのだな?」

「そうなります」

「その前に一隻作って国機研に回せ。幻晶騎士と同じだ。設備の資材も合わせて送る」

「ありがとうございます。施設の図面も引いてありますのでそちらもお渡しします」

「うむ。おっ、用意しておった標的が見えたの」

「標準的な盾ですね」

「一番わかり易い基準じゃろう。撃っても大丈夫か」

「少々お待ちを」

内線通信機をとって艦橋に繋げる。

「ダーヴィド、これから右舷副砲を撃つ。問題はあるか」

『特に無いぞ』

「大丈夫だそうです」

「では、やるか」

陛下が照準を合わせてアームストロングを撃ち放つ。カルバリンの倍の大きさの炎が標的に向かって飛び、標的上部を半ばまでを融かす。

「一撃であれか。凄まじいな」

「3秒間隔で連射も可能です」

陛下は連射も試されて、その性能に満足される。

「使えるな」

「こちらもご用意しておきます。続いて主砲ですが、こちらはダインスレイブの小型版です。威力は標準の盾を2枚砕いて3枚目の表面で止まる程度です。次弾装填まで20秒ほどです」

「そちらの方は撃たんでいい。大体の想像はついた。杭の方のサンプルだけ上げろ」

「了解です。それでは我々からは以上となります」

「詳しい評価はまだ先になるだろうが、想像以上の物だった。資材もすぐに遅らせる。ただ、魔力転換炉は時間がかかるだろう」

「こちらも専用の設備の建設からですので問題ありません。魔力転換炉の精製方法さえ分かればこっちでどうとでもしますけど」

「それに関しても後だ。それだけ魔力転換炉の精製方法は秘匿されなければならないからだ」

「分かりました。今日の所は引いておきますが、あまり時間がかかると、どんなヤバイものが飛び出してくるか分からないということを覚えておいてください。私と団長は目的のためなら神だろうが鬼だろうが殺して、素材に出来るなら剥ぎ取りますから」

ロボや機械以外にも特撮なら手を出していたからな。強殖装甲とか超魔生物に手を出さないとは断言できない。さすがにDG細胞なんかは作れないとは思う。作れないと思うが手を出さないとは言い切れない。

「分かっておる。だが、これはわしだけでは決められん。製造元に問い合わせなければならんからな」

「王家が製造元ではない?そんなことで大丈夫なのですか?」

「無論だ。これはどの国でも変わらん」

外部生産で全ての国が同じ条件だと?西側の諸国の盾となっているこの国と安全圏の国が同じ条件。何かを見落としている。何を見落とした。違和感は、あそこに居るのはドワーフ?ドワーフ?ドワーフが居るのにエルフが居ない?そもそもドワーフという名が過去の偉人が名付けたものだ。オレとエルが居る以上、その偉人がオレたちと同類の可能性はある。つまり、ファンタジー系統で考えればドワーフと同じく亜人で特殊な技術を有していると思われる存在。エルフだな。

エルフだけが魔力転換炉を製造できる。そしてエルフにしか製造できない理由がある。知識量というわけでも工業力というわけでもないだろう。それは時間が解決してくれるからな。そうなると魔力そのものに関する何か。麻珠に特化していると考えれば、魔術媒体が存在する魔物よりの存在。そう考えるのが一番か。つまり魔力転換炉のアホなほど硬い金属を魔術でどうにかしているのだろう。

面倒ではあるが存在が秘匿されている以上黙っておくべきだな。予想でしかない以上、頭の片隅に追いやっておくか。

「何となくですが事情は飲み込めました。ですが、オレとエルなら過去の自称天才共を凡百にしてみせます。それだけの成果はお見せできていると思っております」

「分かっておる。期待しておけ」

 
 

 
後書き
早く、ネェル・アーガマを空に飛ばしたい。何処かに船を空に飛ばせる技術ってないかなぁ(チラッ)
大型ダインスレイブの的もあるといいなぁ~(チラッチラッ)

そして、次代を先取りしすぎた名作であるグリッドマンのアニメ化おめでとう。
1993年にコンピューターワールドを舞台にした円谷プロが作成した特撮です。物凄く簡単に説明するとロックマンエクゼが一番近いのかな?ただし、常にフルシンクロ状態。強化パーツは全てポリゴンを作成してステータスを持たせて自作。文字を打ち間違えて出撃できないなんて描写もある子どもどころか大人にもあまり分かって貰えなかったような気がする作品です。
結構大好きです。デザインが今のウルトラマンに混ざっていても違和感がない辺り、次代を先取りしていたのがよくわかります。 
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