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GS美神他、小ネタ集

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苦離主魔巣

 
前書き
これもクリスマスネタで何かと、お題が出たと記憶しています。 

 
 前日の深夜まで「魔法料理店 魔鈴」にて、貸し切りで行われたお祭り騒ぎから一夜。 クリスマスには縁の無い者達がやって来た。
「奴らに追われた北欧の神々であった我々には、敵側の指導者の誕生日など祝う習慣は無い。 昨日も下らない酒宴が行われたようだが、あいつらにも渇を入れてやらねばなるまい」
「ええ、姉上」
 憮然とした表情で、飾り付けされた町中を歩く、春桐真奈美とその弟。
「あの宗派はいつもこうです、貧しい者に食べ物を与え、子供のうちから贈り物を贈って洗脳して行く。 そして時が満ちれば、その子達に「神の軍隊」を呼び込ませ。 あっと言う間に占領して植民地化する。 本当に結構な神だ、あの白人どもや宣教師は、魔族にスカウトしたいぐらいですよ」
 似非キ**ト教徒のやり方を知り尽くし、「思う所」があるジークも、いつになく饒舌だった……

 そして別の方向からは…
「江戸… いえ東京の人間達も、このような舶来の習慣に惑わされて、自分達が仏教徒である事を忘れているようです。 ここは一つ、仏道とは如何なる物か、説教して差し上げましょう」
「そ、そうなのね~~」
「どうしました? 貴方も仏門に帰依した身、何か異存でも?」
 何やら鼻息の荒い仏道の守護者を前に、かなり引いているヒャクメ。
「そうじゃないけど~、アジアは何でも寛容だから、ヒンドゥーの神様に仏陀様が入れられてたりするのね~。 こうじゃないと私達八百万(やおよろず)の神々も追放されて、今頃は全員魔族なのね~~」
 一神教となった西欧、中東のように、征服すれば偶像も信仰も全て破壊して行く民族と違い。 縄文人であろうが、大陸系であろうが、漂着したポリネシアンでも平気で受け入れ。 戦争もやめて共存し、あまつさえ異民族の神まで信仰する。 玉虫色でアバウトなのが、この国のお家芸であった。
「…確かにそうですが、物事には秩序が必要です。 世界を救ったあの人達がまず身を引き締め、この退廃的な風潮を打開しなければ、ここもいずれ、魔族のアクセスポイントとなるでしょう」
 ヒャクメの指摘に気押されながらも、何とか正論で押し返す小竜姫。 もしかしないでも、呼ばれていても立場上出席できなかったのが、非常に悔しかったのかも知れない……

 その頃、退廃的な祭りが終わっていた「魔鈴」では…
「ふえ~~… 令子ちゃ~~ん、冥子もうお腹いっぱい~~~」
 昨日は横島、タイガーなども、雇い主に連れられて、無事ご馳走やケーキにありつく事ができたが、それはもちろん、上記の出席者が暴走した時に、身を持って雇用者を守り、式神達を押さえるのが勤めだった。
「かんにんや~~、冥子ちゃん… 式神出すのだけは堪忍や~~~」
「ワッシも、もう… もう……」、
 半分黒焦げになって倒れている哀れな二人。 表側だけはショウトラが舐めて回復したらしい。
「ガーー、グオーーーー」
 そして、このいびきを聞かれ、今の寝顔を見られると、もうお嫁に行けそうにない状態の美神令子。 隣にはいつものように、白目を剥いた「お兄ちゃん」西条がテーブルに突っ伏して倒れていた。
「うう~~ん、ピートォ~~、もっと抱いて~~」
「助けてくれ… タイガー、横島君……」
 酔いつぶれてからも、ピートを掴んで離さないエミと、教会への献金で一晩「レンタル」されてしまったピート。

 回想シーン…
『ピート君、君の尊い犠牲で、多くの貧しい人が救われるんだっ、頼むっ』
 教会の床に、膝と手を付いて頭を下げる唐巣神父。 すでに泣いているらしい。
『どうしたんですか? 先生っ』
 神父に見せられた小切手は、0の数が6個ほど有り、頭に5が付いていた。
『こ、これ円ですよねっ、ルピアとかバーツじゃないですよね…』
『それだけあれば、冬の間の炊き出しでも何でも… いや、灯油だってストーブだって好きなだけ買えるっ』
『これは皆さんへのクリスマスプレゼントですわ、有効な使い方は神父様が一番良く知ってるワケ』
『エミさん… あなたは天使のような方だ…』
 感動して、すっかり騙されて付いて来たのが運の尽き。 速攻でプレゼントの呪いの首飾りを巻かれ、他の女が近寄れないようにして、一晩中セクハラ攻撃を受けたピート。 ホテルに拉致されなかったのだけが救いだった……

 その魔窟に、神族の二人が到着した。
「何ですか? この有様は…」
「すごいのね~~」
 二人が現場に踏み込むと、酒臭い異臭が立ち込め、食べ散らかした料理や皿が散乱していた。
「くりすますと言うのは、やはりサバトに近い儀式だったんですね… すぐにこの穢れた気を払いましょう」
「そうなのね~~」
 右門、左門の鬼も手伝い、怪しげな儀式に使用された飾り付けが撤去され、小竜姫が念仏を唱えながら、庭先で燃やして行く。
「あっ、どうしたんですか? 小竜姫様」
「おキヌさん、未成年(315歳)の貴方までこんな怪しげな祭りに参加したんですか? それに飲酒まで」
「すみません… 誰かにジュースを注がれたと思ったんですけど、ワインかシャンパンだったみたいで また飲んだ途端、意識をなくしたんです…」
「もっと自分の身を大切になさいっ、そのまま男達に連れ去られていたら、どうなっていたかっ」
「はい、これからはもっと気を付けます…」
 もちろん美神の目の黒い内は、そんな事は起こらないが、現状は酔いつぶれたまま倒れていた。
(ん… 何か焦げ臭い)
(何か燃えてるワケ)
 最小限の警戒心は残していたのか、令子とエミが起き上がった。
「ニャ~~」
 魔鈴の使い魔の黒猫も、先程から飼い主を懸命に起こそうとしている。
(充電中・ドクターカオスへの危機・想定されません・安眠の継続を推奨)
 マリアは自分の警戒レベルを上げたが、カオスの安眠は妨害しなかった。
「…こうです、分かりましたか、おキヌさん」
「はい」
「縁起物でも、あのような祭りに使われた物は、こうやって呼び寄せた神仏を送り返し、鬼とならないように祈願する物なのです」
「分かりました」
「し、小竜姫様… 何してるんです?」
「ああっ、店の飾りがっ!」
 クリスマスの飾り物は、すでに炭に変わって、店の角や周りに置かれていた。
「それって、正月のしめ飾りと同じなワケ?」
 相手が小竜姫なので、天然なのか、本当に宗教的に意味があるのか、理解できないで固まっている一同。
「おはようございます、と言っても既にお昼ですが。 店の中の気が余りにも不浄だったので、飾りを燃やして、呼び込んだ陰の気を払わせて頂きました。 炭を店の周りに置いたのは、邪気が戻って来ないようにするためです」
「でも、来年も使えたのに…」
「貴方も関係者なら分かるはずです、縁起物で一時的に福を招き入れても、神社仏閣に返納しなければ、鬼となって災いを招きます。 今日は私が念仏を唱えて燃やし昇華させました。 生きているモミの木は、外に出して日光に当てて浄化していますが、こういった物を使い回そうとは考えないことです」
「はあ…」

 一同が呆気にとられていると、思う所がある人達も来てしまった。
「何をしている? 証拠隠滅か?」
「はっ! どうやら手遅れだったようです、陰の気が悪鬼を呼び寄せてしまいました」
「誰が悪鬼だ、誰が」
「そうです、今でこそ北欧は「サンタクロウス」なる化け物の住みかになっていますが、我々はそこの神だったんです」
「あ~、頭に響くから、大きな声出さないでくれる?」
「アタシも、もっとピートの胸で眠りたいワケ」
「あの、折角来て頂いたんですから、もっと穏便に…」
「招待しても、どっちも立場上出られないんでしょ。 あ~、頭痛い、魔鈴さん、迎え酒に何か出して、こっちのお姉さん方にもね」
「ええ」
「待て、我々は神族の指導者の生誕日を祝う事などできん」
「私も仏道の守護者として、表立っては祝えません」
「いーのよ、これも適当に名目付けて、毎日忘年会やってるだけだから。 昨日がGS関係者、あさってがオカルトGメンの納会、30日がうちの納会、大晦日以外は、取引相手とずっと続くのよ」
「「「「へ?」」」」
 日本の商習慣を知らない面々は、疑問符を浮かべて首を捻っていた。
「さあ入った入った、まずは駆け付け三杯、グッと行って貰いましょうか」
「うむ、忘年会か、それなら仕方ないな」
「ええ、姉上」
「さあ、そちらのお二方も」
「こんな日が高いうちからですか? で、でも、忘年会なら仕方ありませんね」
 困った顔をしながら、何やら嬉しそうにしている小竜姫。
「忘年会なのね~~」
 やる気全開のヒャクメ。
「やあ、いらっしゃいませ、来て頂けないとばかり思っていましたが、わざわざお運び頂き恐縮です(キラッ)」
 女の声を聞き、いつの間にか復活して、顔を洗って髭を剃り、歯も磨いてサッパリした西条が現れた。
「西条先輩、相手が神様でも魔族でも関係無いんですね」
「いや、美しい女性には、こうしてご挨拶する義務があるんだ、これも貴族の領分と言った所かな、ははっ」
「所で、床の二人は生きてるのか?」
 横島とタイガーを軽々と持ち上げ、眺めているワルキューレ。
「そいつらは殺しても死なないわよ」
「…ワ、ワルキューレだ… 俺はヴァルハラに来たのか…?」
「いいや、地獄の1丁目だ、気付けに強い酒でも飲むか?」
「アルコールの話はしないでくれ… もう死ぬまで一滴も飲まないぞ……」
「ワッシもジャーー」
 美神に吐くまで飲まされて、その後また飲まされるのを繰り返し、便器とお友達になって、トラウマになったらしい。
「魔鈴君、モスコミュールをお出ししてくれないか、もちろん僕の驕りだ」
「口当たりのいいカクテルで早めに酔わせるつもりですか? もうカクテルは品切れです」
「私は洋酒はちょっと…」
「日本の神族はやっぱり日本酒なのね~~」
「わかりました、そちらのお二方は何にしましょう?」
「そうだな、蒸留酒は趣味じゃない、ワインでも貰おうか」
「僕は一度、日本酒を飲んでみたいですね」
「あたしも日本酒がいいわ、ワルキューレもそうしなさいよ」
「そうか、原料は何だ?」
「お米よ、アルコール度数もワインと似てるし、いいでしょ」
「では魔鈴君、「僕が持って来た」、辛口の最高級品を出してくれるかい?」
「はいはい」
 日本酒にどのような効能があるかも知らず、忘年会を始めてしまう一同……
「「「「「「「「乾ぱ~~い!」」」」」」」」

 数十分後…
「あのね、前から聞きたかったんだけどね、竜神様って普通神社で奉られてるでしょ、でも小竜姫って仏道じゃない、どっちなの?」
 普段は聞けない事も、酔いが回って無礼講になればオッケーである。 ヒャクメは小竜姫の逆鱗に触れるような質問を平然としていた。
「そりはね~~… 細かい事は気にしないでいいのね~、どっちも似たようなもんだしね~~、あははははっ」
 米の中には7人の神様がいると言われる、お神酒の力は神をも酔わせてしまい、ヒャクメ語を使わせていた。 これが民族と言語の垣根を越えさせる、日本酒の威力だった。
「よお戦友、まあ飲め」
「頂きます」
「これも白ワインみたいで、中々いけるじゃないか、こっちにも良い酒があったんだな」
「ええ、市販のは駄目ですが、本物は美味しいですね」
 ワルキューレも、相手が神族である事などすっかり忘れ、危険な戦場で命を共にした戦友だと思っていた。
「うむ、愉快だ、歌うぞジーク」
「はい(ニヤリ)」
 すっかり調子に乗り、魔界では禁止されている美しい歌を歌い上げ、牙が落ちて翼が白くなって行く二人… 要は堕落し切っていた。
「楽しいのね~~、今日は私のおごりなのね~~」
「いいんですか? ヒャクメさん」
「いいのよ~~ ジーク君~~ 諜報員には使途不明金が付き物なのね~~、だからここはお姉さんにまかせるのね~~」
「はい、それではご馳走になります」
「じゃあ、ご褒美のチュ~して~~」
「は、はい……」
 ヒャクメとジークも壊れていた。
「それでは僭越ながら、次は私が… 酒~は~飲~め~飲~め~、飲む~~な~ら~ば~」
 小竜姫の黒田節が披露された。
「戦友、お前も中々芸達者だなあ、はははっ」
「いいえ、貴方程ではありませんよ、うふふっ」
「はははっ! 今日は愉快だっ! メリークリスマス」
「私もですっ! めりーくりすます」
 余程楽しかったのか、ついクリスマスを祝ってしまう魔族と仏様。

 数時間後…
「何だぁ? 人間共はもう駄目なのかぁ? お~い起きろぉ!」
 ちなみにこのセリフは、ワルキューレでは無く、言葉の壁を越えた小竜姫の物だった。
「仕方ありません、良い場所を知っていますので、そこに行きましょう」
 これが現在のワルキューレ。
「はい、姉上」
 これがヒャクメ
「貴方は弟と結婚して下さるのですか?」
「はいっ、姉上」
「僕も行くのね~~、今日はとことん飲むのね~~っ」
 これが現在のジーク、多分人格交換でも起こったらしい。
「じゃあ行くぞっ、貴様らっ、しっかり掴まってろよっ!」
「「「イエッサー!」」」
 その日、東京には竜が出現し、二人の天使と神様を乗せて、虚空に消えて行った……

 後日、店には「魔法料理 魔鈴賛江」と書かれたサイン色紙が4枚並び、アホ面をポラロイドで撮られ、肩を組んでピースサインまでした小竜姫とワルキューレ。 ジークの膝の上に乗って、結構良い感じのヒャクメの写真が壁に飾られていた……
 今回の処分… 小竜姫 訓告及び謹慎10日。 ヒャクメ 使途不明金の返却及び、減給30日。 ワルキューレ 厳重注意及び、減給15日。 ジーク 厳重注意、交換留学の終了、思想教育のため原隊に復帰。

 その後は、神族と魔族の難しい会議が行われる時、必ず米の酒が用意されるようになり、何故か言葉が通じない相手でも、翌日にはお友達になっていて、デタントが長く続いたと言われるている……
 
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