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ウルトラマンカイナ

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第2話 恐竜戦車と光の巨人

 ウルトラ記念博物館の近くに、宇宙怪獣が接近している。その情報がBURKを通じて報じられた途端、館内は騒然となった。
 他の隊員達が避難誘導を行う中、琴乃は梨々子の手を引く弓弦の後を追い続ける。こうなった以上、速やかに梨々子を安全な場所まで護衛しなくてはならない。
 司令官の娘に万一のことがあれば、BURKは面目丸潰れだ。

「……!?」

 すると。今までとは別人のような、鋭い顔付きに変わっていた弓弦の横顔が目に入り、琴乃は思わず目を見張る。
 ――その時だった。

 宇宙怪獣がついに墜落したのか、激しい地震が館内を襲い、人々の悲鳴が轟いた。その直後、BURKとの交戦が始まったらしく――けたたましい衝撃音が、外から響いてくる。
 一瞬にして戦場に巻き込まれてしまった恐怖に煽られ、博物館に来ていた一般客や付属高校の生徒達は、我先にと外へと群がっていった。

「壁が崩れるぞ! ――あっ、子供が!」
「危ないっ!」

 その時。戦いの余波なのか、突如壁に亀裂が走り――その下にいた子供の上に、瓦礫が降り注いだ。
 それを目の当たりにした琴乃が、瓦礫を破壊しようと、とっさに懐から光線銃「BURKガン」を引き抜いた――次の瞬間。

「風祭君ッ!?」

 鋭い眼差しに変わった弓弦が、目にも留まらぬ速さで弾かれたように飛び出し――少女を抱え、間一髪瓦礫を回避してしまった。

「よっ、と。もう大丈夫だよ」
「お兄ちゃん……わ、わぁあん! 怖かったよぉ!」
美華(みか)ちゃあぁん!」
「ママぁあ!」
「あぁ、良かった……! ありがとうございます! ありがとうございました!」
「ここは危ない、さぁ、早く!」

 弓弦は少女を優しく下ろすと、駆け寄って来た母親に避難を促し――やがて何事もなかったかのように、惚けていた梨々子の手を引き、その場を離れていった。
 あまりにも鮮やかに少女を救って見せた、その俊敏な動きに、ただならぬものを感じた琴乃は――通信で、隊長に真実を問う。

「弘原海隊長、彼は一体……!?」
『……あぁ、お前は今日が初めての監視任務だから、知らないのか。彼の名は風祭弓弦。BURK最優秀隊員・風祭勇武(かざまつりいさむ)の息子で、弱冠14歳で入隊試験をパスしたこともある天才君だよ』
「風祭勇武って……! 異星人をBURKガン一丁で撃退したこともある、あの伝説の……!?」
『あぁ。だが、2年前に異星人との銃撃戦で戦死しただろ? あれ以来、息子の方もすっかり意気消沈しちまってなぁ。入隊も辞退して、今じゃ普通の高校生だ。……尤も、体はまだ覚えてるみたいだがな』
「そんなことが……」
『だから司令官も、娘の恋路を半ば黙認してんのさ。それでも心配でソワソワしてるらしいが――おっと、無駄口は終わりだ。例の怪獣、そっちを狙い始めてやがる。奴は俺達がなんとか抑えるから、お前は速やかにお嬢様を安全なところへ送り届けてやれ!』
「りょ、了解!」
 
 琴乃は弓弦の正体に息を呑むと――梨々子の手を引いて外へ飛び出す彼に続き、博物館を後にする。すでに外には、付属高校の生徒を乗せた避難用バスが待っていた。

 ――刹那。

「きゃあぁああ!?」

 凄まじい爆発が辺りを襲い、梨々子の悲鳴をかき消した。弓弦はとっさに彼女の上に覆い被さり、彼女を火の手から庇う。
 その鋭い視線は――爆発の原因である、遠方の怪獣に向けられていた。

 恐竜の上半身と、戦車の下半身を持つ、異形のサイボーグ怪獣――「恐竜戦車」。それが、ウルトラ記念博物館を襲った宇宙怪獣の正体だったのである。
 すでに駆け付けたBURK隊員が戦闘を始めているらしく、恐竜戦車の周囲にはBURKガンの光線が飛び交っていた。

「怪獣の攻撃がここまで及んでいるなんて……私も応戦しないと!」

 琴乃は弓弦と梨々子を庇うように前に立ち――民間人の服を脱ぎ捨て、その下にあるBURKの制服を露わにする。
 ミニスカートから覗く白い太ももが、バスに乗っている男子生徒達の注目を集めていた。――智花をはじめとする女子生徒達の顰蹙を買ったのも、その直後である。

 琴乃は腰のホルスターからBURKガンを引き抜き、恐竜戦車の方へと向かっていく。――次の瞬間、怪獣の凶眼が彼女の方へと向けられた。

「危ないッ!」

 その視線から危険を察知した弓弦は、咄嗟に琴乃を突き飛ばす。彼の足元で爆発が起き、彼の身が吹き飛ばされたのは、その直後だった。

「かっ……風祭君ッ! いやぁあぁあ!」
「梨々子、乗って! あの怪獣、こっちを狙ってきてる! もう、もうダメだよ!」

 その光景を目の当たりにしてしまった梨々子は、絶叫を上げてへたり込んでしまった。だが、恐竜戦車の狙いはこちらに向かい始めていた。急がねば、生徒全員が危ない。
 智花は懸命にバスから呼びかけ、梨々子を乗せようとする。だが、彼女は地面にへたり込んだまま動けなくなってしまっていた。

(私のせいだ……! 地球を守るBURKの隊員が、なんたるッ……くそォッ!)

 この事態に責任を感じた琴乃は、唇を噛み締め――暫し逡巡した後、意を決したように顔を上げる。
 そして、へたり込んだままの梨々子に肩を貸して強引に立たせ、バスに乗せるのだった。

「梨々子お嬢様、私は彼の救出に向かいます。あなたは何としても、一刻も早くここから逃げてください! ――運転手、早くバスを出せ!」

 梨々子に自らの決意を告げた琴乃は、BURKガンを手に走り出す。目指すは、弓弦が吹き飛ばされた方向だ。

「待っていろ、風祭君! 借りは必ず――!?」

 すると、その時。
 恐竜戦車の眼前に、赤く発光する巨大な玉が墜落してきた。激しい爆音と共に、恐竜戦車は後ろへと退き――鋭い凶眼で、その玉を睨む。

 やがて、赤い玉は激しい光と共に消え去り――その中から、体長40mにも及ぶ巨人が現れたのだった。

 ――そう。
 この星に住む誰もが知っている、あのシルエットを持つ巨人が。

「あれは……!」

 その出現に、琴乃が息を飲むと同時に。バスに乗せられた梨々子が、感嘆の息を漏らすのだった。

「……ウルトラマン!」
 
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