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うぬぼれ竜士 ~地球防衛軍英雄譚~

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第4話 ペイルウイングの危機

 ロンドン近郊の庭園に群がる、無数の黒い影。蟻を象ったその暴威の嵐は、濁流のように人々を飲み込んで行く。

「巨大生物だぁあぁああっ!」
「きゃああぁああっ! お母さぁぁあんっ!」
「酸だあぁあッ!」
「し、死にたくない! 助けて、助け――!」

 その嵐――巨大甲殻虫の群れが、躓いて逃げ遅れた市民の女性に、容赦無く覆いかぶさる――

「失せろッ!」

 ――瞬間。
 赤い電光が迸り、巨大甲殻虫達の巨躯を紙切れのように切り裂いて行く。

「あ、あ……」
「もう大丈夫です。さぁ、早く!」
「は、はい! ありがとうございます、エイリング様!」

 その身が体液を撒き散らして吹き飛んだ先には――ペイルウイング専用兵器「レイピア」を手にした、フィリダ・エイリングの姿があった。
 憧れの英雄に救われ、女性は歓喜の涙を浮かべる。

「フィリダ! よかったぁ、来てくれて!」
「コリーン、ここは私に任せて。あなたは市民の避難をお願い!」
「うん! ――フィリダ、気をつけてね!」
「えぇ!」

 そこに、現地で戦い続けていた同僚が駆け寄ってくる。彼女に素早く指示を送るフィリダは、瞬く間にレイピアを唸らせ、近づいていた数体の巨大生物を一瞬で切り裂いてしまった。

 そんな彼女の凛々しく、勇ましい姿に女性は心を奪われかけたが、彼女の言葉を思い出して我に返ると……コリーンに誘導され、駆け出して行った。

(私には……何もできなかった。お母様を守ることも、アーマンド達を止めることも。……アスカ隊員を、庇うことさえも)

 そんな市民達の背を見送るフィリダは、血が滲むほどに桜色の唇を噛み締めると――目の鋭さを研ぎ澄まし、未だに勢いを失わず迫り来る巨大甲殻虫達を睨みつける。
 どこか哀しみを帯びたその眼差しには、アーマンドやリュウジへの罪悪感が秘められていた。

(なら……せめて。貴様達を、1匹でも多くッ……!)

 迫り来る黒い影の口元には、陸戦兵やペイルウイングの装備が引っ掛かっていた。――おそらく、先行していた部隊は……すでに餌食となっていたのだろう。

「久しぶりね……侵略者共ッ!」

 後の人類史に「空挺結集」と名付けられる、インベーダーのUFO部隊との死闘。それ以来となる、ロンドンを舞台にしたインベーダーとの激戦が――幕を開けた。

「く……!」

 フィリダは飛行ユニットの機動性を頼りに、巨大甲殻虫が放つ強酸を回避する。黄色い不気味な液体が幾度となく宙を飛び交い、由緒あるロンドンの建物を次々と溶かしていった。

「やめろッ……!」

 その暴挙を止めるべく、フィリダは飛行ユニットのバーニアを加速させ、巨大甲殻虫達に肉迫する。レイピアの威力を十二分に引きすには、攻撃対象に接近するしかないのだ。

 無論、やすやすと接近を許す相手ではない。激しく酸の弾幕を張り、上空から襲来する敵を排除するべく巨大甲殻虫達も応戦する。

「これが、私達の――お母様の痛みよッ!」

 だが、屈するわけにはいかない。フィリダはその想いのまま、腰に忍ばせていた「プラズマグレネード」を巨大甲殻虫達の頭上に落としていく。

 刹那――青白い電光が迸り、巨大甲殻虫の群れを纏めて吹き飛ばして行った。直撃した個体はバラバラに砕け散り、そうでない個体も、余波を受けて空中に舞い上げられて行く。

「切り裂けぇえぇッ!」

 さらに、フィリダは生きたまま上空に向かって飛んできた巨大甲殻虫を――レイピアで八つ裂きにしていく。1匹たりとも絶対に逃がさないという彼女の執念が、巨大生物を次々と屠っていた。

 ――しかし。

「あっ……!?」

 若さゆえの高ぶりが、冷静さを奪っていたのか。いつしか彼女は全てのエネルギーを使い果たし――緊急チャージ状態に陥っていた。

「しまった……!」

 上空に長時間滞空しながら、プラズマグレネードとレイピアを矢継ぎ早に放てば、エネルギーの消耗が加速するのは火を見るよりも明らか。本来ならばプラズマグレネードの一撃が決まった瞬間、離れた場所に着地してエネルギーの回復を待ち、生き延びた個体を各個撃破していくべきだった。

 緊急チャージ状態になっては、飛ぶこともエネルギー兵器を使うこともできない。力無く真下に着地したフィリダは、巨大甲殻虫の群れに囲まれる格好となってしまった。

(くっ……迂闊だった! でも、今の攻撃でかなり奴らの数は削れたし、包囲されてると言っても、まだ次の奴らとはかなりの距離がある。酸を吐き出すタイプが少なければ、この状態でもある程度はかわして――)

 そして、そんな彼女の希望的観測を打ち破るように。雨あられと、酸が頭上から迫ってくる。

(――そ、そんなっ!)
 
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