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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百二十六話 宮中動乱


グレーザー少佐はロイエンタール指揮下でイゼルローン再奪取時の陸戦隊大佐です。

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第百二十六話 宮中動乱

帝国暦483年8月5日午前9時〜11時

■オーディン ノイエ・サンスーシ

ラムスドルフ近衛総監を殺害した近衛士官達は近衛兵6,000人を指揮してノイエ・サンスーシ内に散っていった。

「第1、第2、第3大隊は宮殿の防御に向かえ、何人たりとも中に入れてはならん」
「第4大隊は、悪女グリューネワルト伯爵夫人を捕縛に向かえ」
「第5から第10大隊各中隊は寵姫の方々の館を護衛せよ」

この様な形で近衛兵がキビキビと動くのは、皇太子殿下の出した命令が、真に皇帝陛下を害し奉ろうとするリヒテンラーデ侯爵とグリューネワルト伯爵夫人の排除を目指しての行為だと思っているからであり、まさか自分達が逆賊と言われる者達の手先と成って居るなど微塵も感じていなかったのである。

各寵姫の館に到着した近衛部隊は、館周辺で守備をしていた宮中警備隊に誰何された。

「卿等何用だ?此処は、ムンスター伯爵夫人邸なるぞ」
「はっ、小官は近衛少佐フォン・アーヘンと申します。皇太子殿下より寵姫の方々の館の守備をせよと、ラムスドルフ閣下へご命令がございまして、其方のお邪魔は致しませんので館の周囲を警戒させて頂きます」

ごく普通の近衛少佐が丁重に挨拶してきたため、呆気に取られる宮中警備隊が彼方此方で見られたのである。

「判りました、一応確認は取らせて頂きます」

宮中警備隊総監を兼任している、グリンメルスハウゼン上級大将に連絡をする隊長達からの話で、殆どの近衛は事件自体を知らないと判り、関係無い館を守備している部隊には、危害さえ加えない以上は、そのまま駐留させておく様にとの命令が下ったのである。

ベーネミュンデ侯爵邸にも近衛兵が到着し、館を守っている、クルムバッハ中佐と話を始めていた。
「卿等、此処を何処だと思っているのか」
この時ばかりはお姉言葉を封印し普通の言葉遣いで話している。

近衛少佐が丁寧に敬礼を行い用件を話し始める。
「はっ、小官は近衛少佐フォン・ボックと申します。皇太子殿下より寵姫の方々の館の守備をせよと、ラムスドルフ閣下へご命令がございまして、其方のお邪魔は致しませんので館の周囲を警戒させて頂きます」

「何故、皇太子殿下からなのか?」
鋭いクルムバッハ中佐は探りを入れてみる。
「はっ君側の奸リヒテンラーデ侯爵と毒婦グリューネワルト伯爵夫人の逮捕が目的であります」

クルムバッハ中佐はこの近衛少佐に内心呆れていた、此ほどの大事をペラペラ喋ってしまっては、相手に情報を与えるだけではないかと、元憲兵としての誘導術も役に立ったのである。直ぐさま、グリンメルスハウゼン上級大将に連絡を行い、内容を報告後、実際に起こっている事件を聞き、テレーゼ皇女が無事な事も確認した後、何食わぬ顔で、近衛少佐に館の周囲の警戒を許可したのである。

館の周囲に散った近衛兵の事をメイドから聞いたシュザンナは、不安に思い、クルムバッハ中佐を呼んで話を聞く事にした。

「クルムバッハ、館の周囲の近衛はいったい如何様な仕儀じゃ?」
「御意、クーデターにございます」
「なんじゃと」

クルムバッハも幼い頃より知っているベーネミュンデ侯爵夫人ならば、取り乱す事がないと確信し、今後の事も考え打ち明けたのである。

「この地の近衛は、完全にクーデターと思ってはおりません。単に寵姫様方が危害を加えられないように、お守りしている状態です」
「なるほど、銃声も聞こえないのはその為じゃな」

「その通りでございます」
「して、真の狙いはどの様なことじゃ」
「はっ、近衛の言うところに拠りますと、『君側の奸リヒテンラーデ侯爵と毒婦グリューネワルト伯爵夫人の逮捕が目的』と言っております」

クルムバッハの言葉を、シュザンナはその愁眉な眉を顰めながら聞いている。
「クルムバッハ、妙じゃな、リヒテンラーデ侯爵は、独善的な所はあるが、陛下に対する忠誠心は本物じゃ、それにグリューネワルト伯爵夫人が毒婦とは、可笑し過ぎるわ。その皇太子の命令とやらも怪しすぎるわ」

「総監部からの命令で、極力知らぬ振りをして侯爵夫人をお守りするようにとの事でございます」
「なるほど、亀のように甲羅に入っておれと言う訳じゃな」
「仰る通りでございます」

「クーデターとすれば、首謀者は誰なのじゃ?」
「現在の所、よく判っていませんが、近衛はラムスドルフ上級大将の命令で動いていると、更に皇太子殿下とクロプシュトック侯爵が皇帝陛下へ謁見をしており・・・」

歯切れの悪い、クルムバッハの言葉に何か感じたのか、シュザンナがまくし立てる。
「クルムバッハ、正直にお言いなさい。後誰が居るのかしら?」
観念したように、クルムバッハは白状する。

「はっ、リッテンハイム侯爵とヘルクスハイマー伯爵が競馬場に於いてテレーゼ皇女様の暗殺を・・・」
その瞬間、座っていた、シュザンナが立ち上がり、クルムバッハの軍服の喉の所を掴んで振り始める。
「何ですって、テレーゼは無事なのですか!!!!」

振り回されながらもクルムバッハは答える。
「ご無事でございます」
「良かったわー」

シュザンナは、我が子の無事を聞き、ホッとしたのか、クルムバッハの襟首を掴むのを止めて床に座り込んだ。
「ヘルクスハイマー伯爵とシャッハウゼン子爵の決闘の見物に行かれ、ヘルクスハイマー伯爵側の決闘代理人に暗殺されかけた模様ですが、お付きのオフレッサー大将が身を挺して殿下をお救いなさったそうです」

「そうですか。テレーゼは無事ですか、良かった。オフレッサーには何れ礼を述べなければ成りませんね、しかし、あれほど行ってはいけないと言ったのに、テレーゼには、少しお仕置きが必要ですね」
「御意」
クルムバッハも御意しか言いようがない状態で有る。触らぬ神に祟りなし状態のシュザンナママである。

「しかし、ヘルクスハイマー伯爵といえば、リッテンハイム侯爵手の者、そう言う事ですか」
1人で納得して居るシュザンナママである。
「シュザンナ様、お気を確かにお持ちください」

「ええ、テレーゼを狙うと成ると、陛下と皇太子殿下も危ないですわ、連絡は付きませんの?」
「総監部からですと、音信不通で陛下も殿下の安否も判らない状態だそうです」
「そうなりますと、何とかしてお救いしなければ」

「その点でございますが、既に作戦が進行中との事でございます」
シュザンナは、クルムバッハの言葉を聞きながら、暫く考えていた。
「判りましたわ、陛下と殿下のご無事を祈りましょう」




第1、第2、第3大隊は宮殿に到着後、ノビリンク大佐達4名が密かに荷物を持って謁見室へと向かった。大隊自体は宮殿を守るように配置されたのである。




修羅場と成りつつあったのは、第4大隊が向かった、グリューネワルト伯爵邸であった。
近衛としての完全武装で馬に乗り先着した第2大隊司令部は、館を守っている宮中警備隊に対して、直ぐさま門を開るように命令し、グリューネワルト伯爵夫人の身柄を拘束すると宣言した。

「止まれ、卿等何用だ?此処は、グリューネワルト伯爵夫人邸なるぞ」
宮中警備隊少佐の誰何に近衛大佐が命じる。

「小官は近衛大佐フォン・ハイドリッヒだ、皇太子殿下より、君側の奸リヒテンラーデ侯爵と毒婦グリューネワルト伯爵夫人を逮捕せよとのご命令が下ったのだ、手向かいすれば謀反人ぞ」
既にクーデターの連絡を受けていた装甲擲弾兵出身のグレーザー少佐がそれを突っぱねる。

「皇帝陛下のご命令が無い以上は、皇帝陛下以外の男子は皇帝陛下のお許しが無い状態では、この門を通す訳には行かないのです」
「貴様、殿下の命令に楯突く気か!」

「我々は、皇太子殿下の宮中警備隊ではなく、皇帝陛下の宮中警備隊なのです」
「おのれ!」
ハイドリッヒ大佐が銃を抜くが、それに数十倍する銃が向けられる。

「覚えているのだな、直ぐに本隊が来れば、逆賊など一瞬で退治してやる」
まるで三下の言うような台詞を放って逃げていくハイドリッヒ達、それを指さしながら笑う宮中警備隊員達。

グリューネワルト伯爵邸を守っていた宮中警備隊は、直ぐさま、装甲服や重火器を用意し、テキパキと準備を始めた。

「全将兵に告ぐ、敵は1個大隊凡そ600人だ、そして我らは100人だ、さあ単純な計算だ!1人で6人倒せば全て終わるぞ!」
「「「「「おう!」」」」」

グリューネワルト伯爵夫人邸やベーネミュンデ侯爵夫人邸の宮中警備隊は特に装甲擲弾兵出身者が多く成っており、武装も完全武装可能な状態にしてあるのである。此は、囮にしているアンネローゼやテレーゼがいる事の多いベーネミュンデ侯爵邸を特に守るために行われている事であったが、この時も確りと機能したのであった。

アンネローゼの元へ、コルヴィッツが、グレーザー少佐からのメッセージを運んできた。
「何があったのですか?」
「近衛兵が、伯爵夫人の連行を命じてきたそうです」

「私の?」
「はい」
コルヴィッツは、話しにくそうな顔でアンネローゼを見ている。

「いったい何が?」
アンネローゼは、弟とジークの為に時々陛下にお願いをしていた、今回も弟の決闘を止めて貰いたいとお願いをしたが、それが悪かったのだろうかと考えて居た。

コルヴィッツは意を決して答える。
「グリューネワルト伯爵夫人が皇帝陛下を籠絡し自らの御子に帝位を継がせようと企んでいると」

アンネローゼは絶句した。自分はその様な大それた事など考えた事もないし、陛下を籠絡した事もないと。驚いて考えが纏まらずに、弟やジークの顔が頭に浮かぶだけであった。

その頃、第4大隊本隊に、テレーゼ皇女殿下が、先ほどヘルクスハイマーとシャフハウゼンの決闘を御見学中に、ヘルクスハイマーの雇った決闘者に暗殺されたとの連絡が入ったのである。

激高する近衛兵達、続報により、リッテンハイムとヘルクスハイマーとシャフハウゼンとリヒテンラーデとグリューネワルトとシェーンヴェルトが共謀し決闘を起こし誘い込んで、帝位継承に邪魔なテレーゼ皇女殿下を暗殺したと。

此の連絡は全くの嘘であり、テレーゼの生死も確認しない状態で総監部に残っているクーデター派幹部が流したものであった。

近衛第4大隊はテレーゼ殿下の敵、グリューネワルト伯爵夫人を引きずり出せと、激高しながらグリューネワルト伯爵邸へ進撃していった。

アンネローゼの危機は直ぐ其処まで迫っていた。
 
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